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経産省が語るグリーンIT推進への取り組み-「革新的技術開発に投資する」

ファインテック・ジャパン 基調講演

 フラットパネルディスプレイ研究開発・製造技術関連の展示会「ファインテック・ジャパン」が4月16日から4月18日までの3日間開催されている。初日の基調講演で登壇した経済産業省商務情報政策局・岡田秀一局長が、「日本の情報政策とFPD産業の国際競争力強化に向けた取り組む」と題した講演を行い、そのなかで、日本における情報政策への取り組み、グリーンITへの取り組みなどについても言及した。


日本の情報政策
 現在、政府では、内閣総理大臣を本部長とするIT戦略本部を設置し、2006年1月に打ち出したIT新改革戦略を推進中である。これは、2001年1月からITの基盤整備を目的にスタートしたe-Japan戦略、2003年7月からITの利活用を目的としたe-Japan戦略IIの流れを継続する形で推進しているもので、ITによる構造改革力の追求を目的としている。

 「ITが経済競争力を強化する最大の鍵になるという考え方のもと、自律的IT社会の実現、世界のIT革命を先導するフロントランナーを目指す」(岡田室長)という。

 とくに、重点2分野として、医療と電子行政を掲げ、医療分野では、レセプトの完全オンライン化、生涯を通じた自らの健康管理の実現を目指したITによる医療の構造改革を打ち出す一方、電子行政では、オンライン申請率50%の達成、小さくて効率的な政府を実現による世界一便利で効率的な電子行政を目指すとしている。

 また、準重点2分野では、高度IT人材の育成基盤づくりによる「教育・人材」、IT経営の確立による企業競争力強化を目指す「IT経営・テレワーク」をあげ、「世界トップクラスのIT経営の実現、テレワークの推進に取り組む」とした。

 その他分野では、「環境」への取り組みとして、IT機器の省エネとITによる社会の省エネを両輪とするグリーンITの推進、「安全・安心」として、インターネット上の違法有害情報対策をあげている。


経産省が掲げる情報戦略
 一方、生産性向上、国際競争力の強化という観点から、経済産業省では、「ITによる競争力強化」、「国際競争をリードするIT産業・技術の創出」、「IT利活用環境の整備」という3つの柱を掲げ、さまざまな政策を打ち出している。

 「ITによる競争力強化」としては、IT投資の拡大に向けて、情報基盤強化税制、中小企業投資促進税制を2年間の延長を決定。新たに中小企業向けの情報セキュリティ強化ソフトウェアや、高度なIT利活用を実現するための連携ソフトウェアの追加などを行い、減税対象範囲を拡充している。「これにより、2300億円規模の減税規模がある」という。

 さらにIT経営力の強化として、優れたIT経営を実践するCIOとIT投資の専門家を一堂に会したCIO戦略フォーラムを開催し、経営現場が一体となったITによる生産性向上に向けた議論を行ったほか、今年5月には経営者によるIT経営協議会を開催し、IT経営憲章(仮称)を取りまとめる予定である。

 中小企業のIT化については、中堅・中小企業が、ITを利活用した経営革新および生産性向上を図るために、IT経営の実践を自主的に推進することをうながす施策を展開。官民連携のネットワークとなる「IT経営応援隊」を通じて、研修事業、ベストプラクティスの収集および普及事業、地域連携支援事業を実施するという。

 加えて、電子タグの活用や、地域特産品を販売するショッピングモールサイトの立ち上げなどによって、ITを活用して地域特産品の生産および流通を効率的に図る先進的なシステム開発などに対して支援を行う、「IT活用による地域の活性化」にも乗り出している。


情報流通量と消費電力量の推計
 「国際競争をリードするIT産業・技術の創出」では、ドリームチップ、Jaspar、情報大航海、次世代FDPの省エネ技術開発、グリーンITを掲げる。

 ドリームチップは、「小さく、賢く、壊れない」を目標に、現在の半導体では実現不可能な立体半導体を産学官が連携して開発。2008年度の新規予算として12億円を計画。2012年度まで事業を実施し、「将来のさまざまな社会生活のニーズに応えられる半導体の開発を推進する」という。

 また、Jasparは、ソフトウェアの信頼性および生産効率を向上させるエンジニアリング手法について、調査・研究を行い、その成果として自動車に搭載する高信頼性の制御系組み込みソフトウェアなどの開発、実証を行うというもの。2007年度から2009年度までを事業実施期間としており、「現在、自動車の開発費の6割がソフトに投入されており、Jasparによって自動車開発における共通開発基盤を構築することでの効率化を図るのが狙い」という。

 情報大航海では、大量の情報のなかから必要な情報を、的確に検索・解析するための次世代技術の開発に取り組んでいる。2008年度の予算は41億円。2009年度を最終年度として、最適な情報やサービスを提供できる未来型ビジネスの基盤を構築するとしている。

 さらに、次世代FDPの省エネ技術開発では、液晶パネルの消費電力量を半減し、プラズマパネルの消費電力量を3分の2に削減する「次世代大型低消費電力ディスプレイ基盤技術開発」に取り組んでおり、2011年を最終事業実施年度として、61億8000億円の予算規模で取り組んでいる。


IT機器の省エネとITによる社会の省エネ

グリーンITプロジェクト
 なかでもグリーンITへの取り組みは、政府にとっても重要な課題のひとつとなっている。

 「試算によると、国内のIT分野における消費電力量は、2006年には日本全体の5%弱にあたる470億kWhに達している。それが、2025年には、情報トラフィックが現在の190倍となる121テラbpsに拡大し、それに伴い消費電力量も5倍となる2400億kWhに、2050年には12倍となる5500億kWhになるものと予想されている。IT機器の省エネ、ITによる社会の省エネという観点から、グリーンITに積極的に関与していく必要がある」と語る。

 IT機器の省エネへの取り組みとして岡田室長は、「直流/交流変換のロスを無くすだけで消費電力が70%削減できる。また、半導体のマルチコア技術を採用することで80%以上の削減が可能になる。ネットワーク機器に光データ転送技術を採用すれば100分の1にまで削減でき、さらにデータセンターにおけるネットワーク全体の最適化を図るだけでも50%のエネルギー効率の改善がもたらされる」とし、この領域における省エネ化を推進している姿勢を見せる一方、「日本が得意とするセンサー、無線などを活用し、工場、ビル、住宅の熱・照明、暖房などのエネルギー消費を最適に自動制御することで社会全体の省エネ化をもたらすことができる。こうしたITによる省エネ化によって、高層ビルの空調用ポンプの消費電力を最大で90%削減した実績がすでに出ているほか、空調全体の消費エネルギーは約5%削減できている」とした。

 政府では、グリーンITイニシアティブを展開。今年2月に設立したグリーンIT推進協議会を中核とした「産学官の連携強化」、グリーンITプロジェクトの推進や半導体およびディスプレイなどの最先端省エネ技術開発、ITによる社会全体への環境貢献度の可視化などを盛り込んだ「政府のイニシアティブ」による各種施策の展開、今年5月に開催するグリーンIT国際シンポジウムの開催や、海外の各種フォーラムとの連動を推進する「国際的リーダーシップ」の観点から、グリーンITを推進していく体制を構築している。

 なかでも、2008年度予算案として30億円の投資が見込まれているグリーンITプロジェクトでは、IT機器の省エネに加えて、データセンターなどのネットワークシステム全体で抜本的な省エネを実現するための革新的技術開発に取り組んでおり、データセンターの消費電力および、社会のネットワーク部分の消費電力を、それぞれ30%以上削減すること目標にするほか、政府機関や大手企業、中小企業オフィスや家庭向けに、省エネ型の有機ELパネルディスプレイを開発することによって、消費電力を半減することを目指すという。


 一方、「IT利活用環境の整備」においては、情報セキュリティ対策の推進、電子政府の構築、高度IT人材の育成の3点を掲げる。

 「国民生活および社会経済活動において、ITへの依存度が高まるなか、ITの利活用において安心・安全を確保するため、包括的に情報セキュリティ対策を実施している」として、技術的対策の推進、企業などにおけるマネジメント面からのセキュリティ対策の推進、早期警鐘体制整備、継続的な普及広報活動などに取り組む姿勢を示した。

 また、電子政府の構築では、「世界一便利で効率的な電子行政の実現を目標」に、さまざまな行政手続きを基本的にワンストップで簡便に行える第2世代の電子行政サービス基盤の標準モデルを構築する計画で、SaaSモデルを活用した電子申請の推進などにも着手している。

 「電子申請は、5000円の税額控除措置を取ったこともあり、利用が増加しているが、さらに広げていく必要がある」と述べた。

 高度IT人材の育成では、ITの経営への浸透、IT開発サービスの構造変化、グローバル化に対応したIT人材育成を目的に、人材スキル標準の整備および更新、情報処理技術者試験のアジアにおける相互認証の拡充などを実施するという。


 このように政府が取り組む情報政策は、ITによる経済競争力の向上を目的に多岐にわたっている。また、環境に対する取り組みも、世界的に見て先進的なものが多く、他国のお手本的役割を担うことにもなりそうだ。

 だが、中小企業のIT利活用が先進諸国のなかでも遅れるなど、IT利活用を取り巻く課題も山積している。日本が、世界のIT革命を先導するフロントランナーとしての役割を果たす、という目標を達成するには、情報政策のさらなる推進も不可欠となろう。



URL
  ファインテック・ジャパン
  http://www.ftj.jp/jp/


( 大河原 克行 )
2008/04/18 13:44

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