Enterprise Watch
最新ニュース

富士通黒川社長、「富士通は業務を顧客に任せ、ITに偏りすぎた反省があった」

富士通フォーラム2008 基調講演

黒川博昭社長

富士通が考えるフィールド・イノベーション
 富士通フォーラムの開催初日、富士通の黒川博昭社長が「フィールド・イノベーションを加速する~もっとお客様のビジネスへ」と題した講演を行った。

 今年6月に社長退任が決定している黒川社長にとって、富士通ユーザーを前にした講演が最後になると見られるだけに、国内外から多くの聴講者が訪れた。

 冒頭、黒川社長は、「富士通の基本認識は、ITだけではビジネスがよくならないということ。ITだけでなく、人やプロセスも継続的に改善していく必要がある。そして、人の知恵を生かすには、まず『見える化』することが必要。フィールド(現場)の課題を探り、それを見える化する。それにより、人の意識と行動を変え、プロセスを変え、ITを駆使することができる。結果として人とプロセスとITを一体化した全体最適化が可能になる」とした。

 富士通の携帯電話の開発現場において、フィールド・イノベーションを実践している事例をあげ、品質や開発スピードがあがらない、アイデアが具体策に結びつかないといった問題解決に対して、ITを活用したシミュレーションによるモノづくりへの取り組みとともに、プロセスの問題点にも踏み込んだことを示し、「会議でいいアイデアが出ても、部門に持ち帰ると上司の判断で削られることが多いのが原因だとわかった。課題の持ち帰り方式そのものに、アイデアが具体策に結びつかない元凶があった。プロセスを変更し、課題が解決するまで大部屋のなかで徹底討議することで、チームの一体感の向上、認識違いや持ち帰りの無駄を排除するを実現。開発期間短縮、品質向上につなげることができた」とした。


営業現場における問題点は、ITよりもプロセスの問題が多い
 また、反省例として、顧客と富士通の思惑の違いがシステム構築に失敗につながっている例をあげてみせた。

 「富士通は、最新の技術を活用し、ネット時代に対応したITシステムへの刷新を提案した。だが、お客さまが本来狙っているのは、営業店の現場を強く革新したいということであり、ITシステムが中心ではない。もう一度、お客様にチャンスをいただき、営業店のレイアウト調査、事務量の量的分析、一つの立ち振る舞いや人間関係などにも着目した質的分析を行った。抽出された課題を見ると、業務中の離席や立ち歩きが多いこと、紙が多いこと、属人的な事務処理など、人やプロセスに関わる課題が多く、端末の操作性や情報共有などのITにおける課題はむしろ少なかった。システム対象外の事務処理や運用の問題解決なしには、新システムの導入の効果は十分に得られない。だから、新たなITを導入しても、よくならないじゃないかと言われる。この営業店の事例は、ITだけでは、現場の課題は解決しないことを証明したもの」とした。

 黒川社長は、富士通はこれまで歴史のなかで、業務改革は、顧客にすべて任せ、富士通はITソリューションを提供する役割にとどまっていたことを反省する。

 「私が入社した時には、IT部門と利用部門が一体になって、システムを基礎から考え、コンピュータに対して、謙虚に立ち向かっていた。高価なコンピュータを生かすには、現場を知っていなくてはならないということが根底にあった。だが、ITの高度化や効率化が進展するのに従い、現場を知るという考え方が軽視されてきた。それを反省し、いまこそ、原点に返るというのがフィールド・イノベーションの骨子である」とした。

 富士通では、フィールド・イノベーションを実現するために、「どう作るか」から「何を作るか」へと意識改革をしたビジネス・アーキテクト、人とプロセスを改革する役割を担うフィールド・イノベータを育成し、顧客のビジネスをもっと理解した形で、イノベーションを起こしていく仕組みを構築。「お客さまと、富士通のフィールド・イノベータ、ビシネス・アーキテクト、コンサルタント、営業、SEが一体となったフィールド・イノベーション・チームを編成し、ビジネスの視点から、一緒になって課題解決を行う関係を作ることが大切だ。お客さまのビジネスを理解する、時にはビジネスを代わってやらなくてはならないというところまで踏み込む必要がある」と語った。


富士通の従来の手法はITソリューションの提案。業務は顧客任せだった 富士通はフィールド・イノベータに変革するという 顧客とともに、業務改革にも取り組むのが今後の富士通の姿勢

 ビジネス・アーテキクトに関しては、2006年から育成を開始。「なかなか育ってはいない」としながらも、3年間で300人の目標に対して、計画が進ちょくしていることを示した。

 また、フィールド・イノベータは、2007年度から富士通社内の調達、営業、経理などの部長クラスの人員を対象に育成。150人体制でスタートし、2008年度までにこれを400人体制とする。

 2007年10月から開始した基礎教育フェーズでは、「20年近く富士通で働いてきて、その結果、どういう価値をお客様に提供できるのかを書き出してみろ、ということも行っている。マインド変革、自己スキル発掘のほか、富士通のおける他の部門などの社内業務理解、各種技法の取得といったことに取り組んでいる」という。今年2月からは社内実践フェーズに取り組んでおり、1チーム5人体制で、30個のテーマをあげて、現場に近いところで実践を行っている。

 「社内実践では、第三者の視点を持ち、現場の声を聞き、プロセスを見える化することに取り組む。『心と現場は一体』ということを徹底する」とした。

 そして、今年10月からは、お客様実践フェーズとして、現場での実践活動を開始する。一方で、第2期のフィールド・イノベータの育成に向けて新たに基礎教育フェーズを開始するという。

 「お客さまのプロセス改革を、お客様の目線で、SEにはできないような提案を行う。これを富士通グループの人材の基本的なスキルとマインドにする」と語った。


ビジネスアーキテクトの育成に取り組む フィールド・イノベータも育成する フィールド・イノベータの育成計画について

 一方で、フィールド・イノベータやビジネスアーキテクトとは別に、富士通グループの6000人の営業、3万7000人のSEに対しても、「すべての営業、SEがお客さまのビジネスをもっと理解することが必要。今年4月から、現場の営業やSEに対して、こんな話をしている。現場にいれば、お客さまの過去を理解しているだろう、そして、現在も理解しているだろう。それをもとに、経営課題や業界動向を踏まえて、今後5年間のプランを作成してみろ、と。こうした中長期提案作成を営業/SE活動に組み込むことで、お客さまのビジネスのことをもっと考えるように意識改革をしていきたい。150件の提案のなかから、私自身も10件程度を見てみたが、さすが富士通の営業やSEであり、コンサルタントに勝る提案が出ている。私はお客さまに提案する時にも、社長に提出するつもりでやれ、と言っている。お客さまには、ぜひ、富士通の営業、SEの提案を聞いてほしい。ディテールまで含めてお話ししたい」と、聴講しているユーザー企業に呼びかけた。

 一方、黒川社長は、富士通のサービス事業が目指す方向を、「ITサービスから、ビジネスサービスへの進化」とし、「システムだけでなく、業務、経営へとサービスを拡大してきたい」とした。また、「お客さまの課題にあわせたサービスを提供することを目指す。ひとつはお客さまの経営や業務運用プロセスの解決、もうひとつは従来からのIT運用プロセスの課題解決。ここでは、オンサイト型、データセンター型という2つの手法で解決を図ることができる」と述べた。

 ワンストップ型でのサービス提供、あるいはSaaS型でのサービス提供、そして、15カ国80カ所以上のデータセンターによるグローバルサービス体制の確立などの強みを示して見せた。

 「富士通は、人材を育てる、プロセスを改革する、お客様の接点を改革する、プラットフォームを改革するという観点からサービス革新を行っており、ここでの経験と知恵をお客様に提供する。フィールドイノベーションの実践によって、サービスを変えていく」などとした。


 また、ITインフラへの取り組みについては、「現状のシステムを進化型に変革することが、富士通の提案」とし、「進化型システムとは、見える、つながる、変化に強いというもの。それを実現するために、型決め提案と呼ぶインフラ最適化のほか、段階的再編成、XML大福帳の3つの提案を富士通は行っていく」とした。

 富士通では、約9000のシステム商談を分析し、サーバー集約やファイルサーバー集約など、25の利用シーンを抽出。そこに6つの最適化レベルを導入し、顧客のシステム全体の現状レベルの見える化および目標レベルの明確化を進めている。これが型決め提案と呼ぶものだ。

 「インフラの最適化において富士通は、これまでは木を見て、森を見ずという状況にあった。IT共通基盤の構築によって、これを解決する一方で、さらに情報政策における取り組みも必要になる。IT共通基盤の構築は、もしかしたらバベルの塔のようなものかもしれない。しかし、富士通は、情報政策とIT共通基盤に関しては、もっと汗と知恵を出さなくて駄目だ」と自己反省した。

 さらに段階的再編成としては、まずはシステム全体の見える化を進めたのち、システム同士をサービスバスで連携、さらに段階的に新システムへと再編するというプロセスを提案する。

 そして、XML大福帳とは、これまでの業務ごとにデータと処理を一体化したシステムのサイロ化状況を、データと処理を分離し、企業で発生するすべてのデータをXML大福帳と呼ばれる領域に集約。そこから、各部門がデータを選択し、処理するという仕組みの提案だ。

 「コンピュータ、ストレージ、ネットワークのすべてが高速化することで、データと処理を分離させた利用が可能になる。もちろん、データ量の飛躍的な増加にどう対応していくかなど課題もある。スピードという点では超高速XML検索技術やオンメモリ処理技術、ブログラムレスによるデータ定義技術など、これを実現するための技術開発に富士通は取り組んでいる。富士通では、20数年前に開発した受発注基盤がずっと稼働していた。これを2年前から再構築を開始している。せっかくやるのならば、お客さまの役に立つようなものをやろうと考え、富士通自らが、SOAによる段階的再編成、独自システムとSAPとの連携、XML大福帳の実装、TRIOLEの適用などに取り組んでいる。社内システムでの実践を、お客様の価値として提供していきたい」と述べた。


 黒川社長は講演のなかで、ITソリューションプロバイダからビジネスソリューションパートナーへの変革を何度も訴えた。

 「富士通は、お客さまの接点をITからビジネスへ転換し、お客さまのビジネスを強くする多様なサービスを提供し、ビジネスを支える最適なインフラを提供するという、3つの革新を行ってきた。ITからビジネスに関してお役に立つような会社になりたい。リアリティのあるサービス、トータルシステムサービス、お客さまが進化するようなインフラを提供していきたい」と語った。

 講演の最後には、6月に社長を退任することについて触れた。

 「2003年に社長に就任したとき、富士通をなんとか元に戻すから、ご支援をお願いしたいと話した。おかげさまで、ご支援をいただくことで、富士通が、みなさまのお供ができる状態となった。後任社長となる野副(=野副州旦経営執行役副社長)には、富士通はお客さまのためにお役に立つこと、そのためにお客さま起点で自分たちの仕事を変えていかなくてはいけないこと、自分たちがそういう精神で仕事をしていかなくてはいけないことを、きちっと引き継いでいく。今後も富士通とともに歩んでいただくことをお願いしたい」と締めくくった。
【お詫びと訂正】初出時、野副氏の役職を誤って記載しておりました。お詫びして訂正します。



URL
  富士通株式会社
  http://jp.fujitsu.com/
  富士通フォーラム2008
  http://forum.fujitsu.com/

関連記事
  ・ 富士通フォーラム2008、15日から開催-展示内容を報道関係者に事前公開(2008/05/14)


( 大河原 克行 )
2008/05/15 14:50

Enterprise Watch ホームページ
Copyright (c) 2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.