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将来も減らない内部統制コスト、削減する唯一の決め手とは?

After J-SOX研究会が「内部統制成熟度モデル」を発表

After J-SOX研究会 運営委員を務める、日本オラクル 製品戦略統括本部 担当ディレクター ITコーディネータ/公認システム監査人の桜本利幸氏

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 After J-SOX研究会は5月20日、企業における内部統制対応に関する説明会を開催。現状と今後の課題を説明するとともに、現状を踏まえて策定した「内部統制成熟度モデル」を発表した。

 同研究会は、2007年11月に設立され、計36社106名の規模で活動が行われている非営利団体。目的は内部統制に対する意識改革を行うこと。「日本版SOX法対応を躍起になって進めている現在は、コスト的な観点ばかりが着目されている。しかし、これに対応することは連結経営やERM(Enterprise Risk Management)実現への起点として、グローバル企業の利益を生み出す基盤を作り出すことだと考えている。そうした意識の改革・改善運動の潮流を作ることが目的」(同研究会)としている。

 では、日本版SOX法対応作業の進ちょく状況はどうか。同研究会の発表によれば、現段階で文書化を終了していない企業が半数以上と、その歩みは遅い。

 監査法人トーマツが報告したデータによると、2007年初めの段階では“準備中・未対応”の企業が79%、“文書化中”が10%だった。その後、文書化ソリューションなども多数発表された2007年を経たにもかかわらず、2008年初めの段階では、“ほぼ完了”とする企業はわずか6%。文書化が終わって“評価中”の企業を含めても50%に満たず、残り43%が“文書化中”、15%が“準備中/未対応”だった。

 推定では、2009年初めに71%が“ほぼ完了”していなければならないという。同研究会 運営委員を務める、日本オラクル 製品戦略統括本部 担当ディレクター ITコーディネータ/公認システム監査人の桜本利幸氏は、「そのギャップは大きい」と現状を嘆く。

 また、文書化した内部統制の運用状況を見ると、2008年初めの段階で、“運用不備改善済み/改善中”とする企業は17%。残りの83%が“運用不備の改善未着手または着手段階”で、2008年になってやっと着手され始めた段階という。さらに「2009年までに運用不備の改善は間に合わない、重要な欠陥が残る、と現時点ですでにあきらめてしまっている企業が20%に上ることも分かっている。実運用ではたとえ不備が残っていても、内部統制報告書にうそを書かなければいいわけだが、はなからあきらめてしまっているこの結果は非常に問題といえる」(桜本氏)としている。


日本版SOX法対応の進ちょく状況。2008年初めの段階で、ほぼ完了しているのはわずか6% 運用不備の改善に至っては、未着手または着手段階が83%。2009年までには間に合わないと回答する企業も20%に上る 不備は、業務プロセス統制の分野でもっとも顕著

 こうしたデータからも企業の対応遅れは顕著であることが分かる。だがこれだけではない。企業がこれまでに作成した内部統制文書類にも、潜在的な問題が考えられると桜本氏は指摘する。「内部統制の有効性の判断は最終的に外部監査人に委ねられるが、現段階で、外部監査人が実際にレビューしたケースは半分に満たない。レビューの結果、文書類の大幅な手直しが必要となったケースが少なくないことから、今後多くの企業で手戻りが発生する可能性が大きい」のだ。

 さらに外部監査の対応方針がいまだ確定していないところも多く、今後、ユーザー企業と監査法人の間で方針がつめられた結果、作ったものが無駄になる可能性も高いという。同氏は「日本版SOX法初年度は、さまざまな解釈で運用されてしまい、混乱とまではいわないが、それに近い状況で対応が進んでいくのでは」としている。


潜在的問題その1。文書類のレビューの結果、大幅な手直しが予想される 潜在的問題その2。外部監査の対応方針が決まっていないところが多い。方針によっては、作成した文書が無駄になるケースも考えられる

同研究会 運用委員・事務局を務める、アビームコンサルティング プロセス&テクノロジー事業部 プリンシパルの永井孝一郎氏

四半期報告や日本版SOX法への対応により、監査時間が従来の1.8倍に

米国SOX法をみると、内部統制コストは将来も大きく軽減されないことが予想される
 これが現状だが、では今後は、どういう課題が考えられるのか。同研究会 運用委員・事務局を務める、アビームコンサルティング プロセス&テクノロジー事業部 プリンシパルの永井孝一郎氏によると、「最大の課題は運用コストの増加にある」という。

 運用コストのうち外部監査コストは、四半期報告や日本版SOX法への対応により監査時間が従来の1.8倍に増えることで、膨らんでいく傾向にある。それ以外に内部統制評価コストの増加が予想されるが、米国SOX法対応事例からみると、およそ倍増することが推定されるという。「そのほかにも、文書類のメンテナンスコスト、教育コスト、情報システム改善コストなど、現時点では見えていないコストも多く存在する」と永井氏は語る。

 現在、文書化を進めている企業も多いだろう。新しい規制に対応するためには、どうしても初期コストがかかってしまう。しかし、初期コストさえ投資し終えれば、次年度以降はそれほどコストがかからないと高をくくる企業も多いのではないだろうか。それは“淡い期待”だと、永井氏は指摘しているのだ。

 米国SOX法での企業コストをみると、導入初年度と比べて、2年目はわずか16%減、通常、安定期に入るといわれる3年目でも36%減にしかなっていないという。つまり「内部統制コストは将来も大きく軽減されないのだ」(同氏)。米国SOX法では2007年に大幅な制度改訂が加えられたため、工数削減が見込まれているが、同じように大幅な制度改定がない限り、日本では内部統制運用コストが、企業にとって重い負担となり続けることは避けられそうにない。

 しかし、「米国SOX法対応にかかわる調査で明らかになった1つの光明がある」と同氏は語る。米国SOX法対応において、業務を分散管理している企業の平均コストは400万ドルだが、一方の集中管理している企業の平均コストは170万ドルで済んだというのだ。集中管理している企業の方がコストが安く済み、分散管理の場合の42.5%しかかかっていないことになる。

 これは、企業の運用コスト全体でも同じことがいえ、最近の日本の研究でも、集中化を進めている企業の方が収益力が高まっていることが実証されているという。「つまり、企業グループ全体で業務の共通化と集中化を進め、企業集団を1つの組織と考えた密結合の“連結経営”にシフトすることが、コスト削減と内部統制レベルの向上を実現する決め手となる」と永井氏は語る。


内部統制成熟度モデル
 こうした調査に基づいて同研究会が策定したのが、内部統制の成熟度を5段階のレベルに分けた「内部統制成熟度モデル」だ。現在は、“業務の見える化と会計リスクの共有”を行うレベル2にいる状況。レベル3では“グループ全体での業務標準化・共通化”がされた状態、レベル4では“地域内でのシームレスな業務連携とシェアード化”がされた状態、レベル5ではグローバルでのシームレスな業務連携とシェアード化”がされた状態を定義。レベルが上がるごとに内部統制成熟度が高まるとともに、企業としてのキャッシュ創出能力が上がっていくモデルとして、今後の内部統制の進むべき道筋を指し示している。

 繰り返しになるが、同研究会では日本版SOX法がグローバル企業を大きく成長させる起爆剤になると考えている。その考えの下、同モデルをさらに研磨。企業がステップアップしていけるよう支援ソリューションの開発を目的に、2009年3月末まで活動を続ける方針だ。「企業ごとに差はあるであろうが、期待としては、3~5年のうちにすべての企業がレベル5に達してほしい」(同研究会)と期待を述べた。



URL
  ニュースリリース:「After J-SOX研究会」設立について(2007年11月26日)
  http://www.oracle.co.jp/news_owa/NEWS/news.news_detail?p_news_code=1815


( 川島 弘之 )
2008/05/20 16:46

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