ウイルス対策製品を評価する基準はいくつかあるが、その中の1つとして、ウイルスの検知性能がよく取り上げられている。ロシアKaspersky Lab(以下、Kaspersky)は、サードパーティやメディアなどで行われる検知テストでは上位に入ることが多く、関係者の間では性能が高いことで知られるセキュリティの専業ベンダーだ。コンシューマ向けでも、2006年にジャストシステムと国内における独占販売契約を結び、同社が積極的に展開することで、着実に知名度を高めている。今回は、来日した同社のCEO、ユージン・カスペルスキー氏と、日本法人の代表取締役社長を務める川合林太郎氏にインタビューする機会を得たので、同社の特徴と国内戦略などを聞いた。
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ロシアKaspersky CEOのユージン・カスペルスキー氏
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─まず、ロシア、米国などでの販売の状況を教えていただけますか?
カスペルスキー氏
ロシアでは、コンシューマとエンタープライズを含めて半分くらい。北米は3年前からスタートしたのですが、地理的な問題と、欧州に先行して取り組んでいた関係で、コンシューマは5%~ひとけた台、エンタープライズではそれを下回っている状況です。
欧州では、特にドイツ語圏で強く、コンシューマではシェア1位を獲得しました。ほかは、フランスが2位、スペインで1位になっており、エンタープライズでも、ドイツ語圏のシェアが一番高いですね。
─続いて、国内販売についてうかがいたいのですが、まだ、欧州ほどはシェアを獲得できていませんね。その中で、コンシューマの総代理店をジャストシステムに切り替えられていますけれども、そのことでどういった変化がありましたか?
川合氏
まず、(以前の代理店と)体力的な違いがありますね。コンシューマパッケージの扱いに慣れている、ということも大きく、一気に当社を広めていただきました。また、サポートの質が高いというユーザーの声が寄せられています。弊社としては、いいパートナーです。
─一方で、法人への取り組み状況はいかがでしょうか。
川合氏
エンタープライズは2004年から代理店契約を結んでやっていまして、その当時のスタッフは技術者4名だけ。技術力はあるけれど、マーケティングやプロモーションが下手だったんですね。ですから、もともとご存じだった方が興味を持って使っていただくということで、UNIXが中心だったんです。Windowsでの導入は進んでいませんでした。
その後、コンシューマだけでなくエンタープライズ向けでの方向修正もあって、2007年6月にOpen Space Securityという新しいライセンス形態と製品をリリースしました。これは、導入先のお客様やパートナーの評判もよく、本腰を入れて動き出したところです。またこの分野では、エンタープライズビジネスとOEMを2本の柱としてビジネスを展開しており、コンシューマで確立したプレミアム感と品質の高さを反映していきたいと思っています。現在、人員も拡張して、20名になりました。ほとんどが技術サポート要員ですが、日本ではそこが重要なので、充実させています。
─法人向け製品では、SOS(Second Opinion Solution)という製品がありますが、このコンセプトは面白いと思いました。どういった意図で製品化されたのですか?
川合氏
SOSはオンデマンドスキャンだけの製品で、実はマーケティングツールとして、こういったものがあったほうがいいということで、製品の機能(リアルタイムスキャン)を外す形でリリースしました。サーバーでは標準になった二重三重のエンジンを利用するということが、一般のデスクトップ向けにはありませんでしたのでね。
問い合わせも結構あるのですが、コスト削減の流れが強いということもありまして、実際の導入は、日本ではまだ1けたにとどまっています。実は最初のユーザーも、エンジンの二重化ではなく価格で選ばれた例でした。あくまでもセカンドオピニオンなので、ほかの製品へかぶせる形で使っていただきたいという願いはあるんですが。
実際の例としては、海外出張の多いところで導入されているようです。出張用のノートPCに入れて、社内に戻ってくる前にもう一度ウイルススキャンをかける、という使い方が有効だと考えられていて、商社ですとか貿易関係で評価いただいています。海外では、ドイツなどで導入が進んでいるほか、米国でも評判がいいですね。
カスペルスキー氏
以前、こんなことがありました。当社のスタッフが、ノートPCが故障したために日本で購入し、アンチウイルス製品も他社のものが入っているので、そのままでいいと思って使っていた。そして、帰国後に当社製品であらためてスキャンしたら、他社製品で検知されていないものが見つかって、大問題になったんですよ(笑)。こういったことからも、有効性を感じていただけると思います。
─カスペルスキーさんご自身は、日本市場をどう見ていらっしゃいますか?
カスペルスキー氏
かなり昔から興味がある国や市場で、個人的にも興味があります。ソビエト時代から、近いけれどもエキゾチックな国という印象がありまして、対日感情もいいですね。昔所属していた会社も、KAMIというんですよ(笑)。
グローバル企業は、米国や日本へ集中していますし、さまざまな国に事業所を構えていますから、ビジネス市場としても大きいですよね。また、ほかの市場とは異なった難しさがあることも認識しています。そこにチャレンジャー精神がわいてきて、根付かせたいという思いを常に持っているくらいです。
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「日本市場も注力市場だ」と話すカスペルスキー氏(右)と、日本法人の川合社長(左)
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─製品の強みとしては、検知率の高さを強調されることが多いですが、それを実現するために注力されていることは何でしょう?
カスペルスキー氏
主に、パターンファイルを利用したマッチング方式での検知率のお話だと思いますが、まず、検体の処理の仕方が挙げられます。処理速度を速くするために、開発や解析の作業も自社内で行っており、以前は検体1つ1つを解析して定義ファイルを更新していました。しかし、今では数が多いので、いかにその作業を自動化するか、という点に力を入れています。その上で、自動化できない部分をエキスパートがチェックしているのが現状ですけれど、それをどんどん少なくできるような開発にも力を入れているのです。
それから、今のインターネットでは次から次へとマルウェアが登場しています。それに対応するために、アナリストは、大学を卒業したてのプログラマをスカウトしたり、場合によっては、在学中に研究所でトレーニングしてもらって、卒業したらすぐに採用できるようにしたりしています。
─新しいマルウェアへの対応ということでは、ビヘイビア検知などの技術も重要になってきていますね。従来のパターンマッチング手法以外では、どういったところへ力を入れているのでしょう。
カスペルスキー氏
アナリストはいくつかのグループに分かれていて、その中にヒューリスティック系の開発をする人間を設けています。また、ヒューリスティック、ビヘイビア(振る舞い)検知のための技術以外にも、さまざまな開発を行っています。すべてのものが、すべての方向性に適応できるわけではないですからね。コンシューマや企業向けのデスクトップ製品でいえば、次のバージョンに搭載を予定しているものとして、HIPS(ホスト侵入防止システム)、ホワイトリスティングといった技術があります。
また検知技術ではないのですが、コンシューマ向けの取り組みとして、コミュニティを充実させていることが挙げられます。そこへ新しいウイルスに感染してしまった、といった情報を送ると、それがすぐに定義ファイルへ反映され、感染を最小限で食い止めるという試みですね。
一方、今のバージョンにすでに採用されているものですが、エンタープライズ向けに、ポリシーを自動で切り替える機能も提供しています。社内はゲートウェイなどもあってセキュアな環境ですから、そこに適したポリシーを適用し、また外部に持ち出したときには別のポリシーを適用する、といったことが可能です。
─さきほど、ホワイトリスティングを盛り込まれる予定だというお話が出ましたが、その有効性については、どう認識されているのでしょう?
カスペルスキー氏
ホワイトリスティングだけでどうこうということではありません。もちろん、この手法は有効だと考えていて、1つの解としては広まっていくでしょう。ただし、既存の技術もありますし、いろいろと組み合わせることによって、何が有効かを判断しています。
─ホワイトリスティングを使う上では、利便性とのトレードオフになる点が問題だと思うのですが、この手法はユーザーに受け入れられるのでしょうか?
カスペルスキー氏
もちろん、ホワイトリスティングだけに頼った場合、利便性は制限されます。ただし弊社が採用する手法では、ホワイトリスティングだけで何かをするのではないのです。すべてのプログラムをゾーンに振り分けるのですが、検知されているマルウェアが入るブラックリスト、そしてその対極にある安全性が確認されたホワイトリストの間に、中間のゾーンを設け、HIPSなどで動きをチェックして振り分けていきます。ですから、利便性は損なわれないでしょう。
これまでのアンチウイルス製品は、黒か白かの判断だけでしたが、今ではさまざまな脅威が出回るようになりました。これまで通り、黒と白はもちろん分けますが、それ以外の中間をいかに振り分けていくかが重要になるのではないでしょうか。
─最後に、国内市場へ対する今後の取り組みを教えてください。
カスペルスキー氏
当社における2つの柱のうち、検知品質の高さは先ほどからずっと話していますが、サービスとサポートの質もアピールしていきたいですね。今後、テストラボを日本国内に設立する予定で、日本市場で使われている、特有のハードウェアやソフトウェアについても、サポートできる体制を整えていきます。今年度中に、実際に機能させたいと思っています。
─本日は、ありがとうございました。
■ URL
株式会社Kaspersky Labs Japan
http://www.kaspersky.co.jp/
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( 石井 一志 )
2008/05/23 14:19
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