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サービスプロバイダは“ただ乗り”されないネットワークを目指せ-米Juniper

J-Tech Forum 2008 講演

戦略およびプランニング担当副社長 ジュディ・ベニンソン氏

3つのビジネスモデル
 米Juniper Networks(以下、Juniper)は5月28日(現地時間)と29日の両日、タイのバンコクでイベント「J-Tech Forum 2008」を開催している。初日には、戦略およびプランニング担当副社長 ジュディ・ベニンソン氏と、アジア太平洋地域担当CTO マット・コロン氏が登壇し、サービスプロバイダにおけるビジネスモデル変革の必要性を訴えた。

 かつてのサービスプロバイダのビジネスモデルといえば、高速で品質の良いネットワークを安く提供することであり、その各項目について、他社としのぎを削っていた。しかし、現在ではビジネスモデルが大きく変革しているという。それは、そのままでは各サービスプロバイダが収益を確保しにくくなっている状況があるため、また、GoogleやSalesforceをはじめとした、新しいインターネットアプリケーションを提供するベンダーが増えてきているためだ。

 そうした状況に対応するため、ベニンソン氏が挙げたのビジネスモデルは、大きく3つある。まず1つ目は、「水道会社や電気会社と同じような『ユーティリティモデル』」(ベニンソン氏)。これは一番シンプルな形態だが、ネットワークの価値を最大限に提供するための設備投資が必要になる。それでも、既存資産として持っているネットワークの価値を最大化・効率化して提供することにより、このビジネスモデルでも戦っていける余地はある。

 2つ目のモデルは、「クリエイターモデル」。例えば、動画配信のプロバイダがこれにあたるとのことで、今では、ディズニー、テレビ局、スポーツ団体など、さまざまなコンテンツプロバイダが、さまざまなコンテンツを作っている。GoogleやSalesforceといった、ネットワークアプリケーションのベンダーもここに入るし、Microsoftが提供しているOffice Onlineなどもこの範ちゅうに入る。さらにベニンソン氏は、「消費者もクリエイターになっている」と指摘する。米国ではティーンエイジャーの6割がコンテンツを自分で作ってインターネット上に掲載しているそうで、それらを含めた、一般消費者が作ったコンテンツが、YouTubeなどで盛んに視聴されているのはご存じの通りだ。これも、クリエイターモデルなのだという。

 そして最後の3つ目は、「ディストリビューションモデル」と呼ばれる新しい形態になる。これは、クリエイターとユーザーを結ぶ「土管」の部分を提供するビジネスモデルで、自らはコンテンツを提供しないが、クリエイターとユーザーに「土管」としてそのサービスプロバイダを選んでもらうことで、収益を上げられるようにする形だ。ただし、このビジネスモデルを成功させるためには、両者に、そのネットワークが価値のあるものだと認識してもらわなくてはいけない。従って、さまざまな付加価値が必要となってくる。


アジア太平洋地域担当CTO マット・コロン氏
 コロン氏によれば、26日に日本で発表された、セールスフォースとNTT Comの共同ソリューションはこのいい例だという。VPN経由でSaaSを利用できるこのソリューションでは、NTT ComがユーザーとSalesforceアプリケーションの間を「土管」としてつないでいるが、コロン氏はこれを、「コンテンツプロバイダであるセールスフォースが、NTT Comの力を信じて、ユーザー体験を良いものにしようという好例だ」と評する。

 またコンシューマについては、コンテンツクリエイターとサービス(回線)プロバイダが取引をして、特別なアプリケーションについては、品質のいい回線を提供するビジネスモデルが考えられるという。考えられる例としては、HD品質のビデオ配信を挙げ、「こういったものでは特に質が求められるので、サービスプロバイダの協力が求められるだろう」(コロン氏)とした。日本でも、サービスプロバイダから一部のコンテンツ配信元に対して、「ネットワークただ乗り」論が主張されるようになっているが、逆にコンテンツクリエイターとタッグを組むことで、ただ乗りではなく、収益源にできるかもしれないというわけだ。

 しかし前述したように、このモデルではネットワークが魅力的だと感じてもらえなければ、コンテンツクリエイターと組むことはできない。コロン氏は、ディストリビューションモデルのネットワークにはどういった要件が求められるのかという点について、「例えば、プレミアムサービスと呼ばれているような、Webサービスを介して動的なプロビジョニングを行う、といった追加的な機能が必要になる」と説明。NTTのNGNが持つような、認証やQoSの機能も重要な要素になるか、といった質問に対しても、「そういった傾向になってくると思う」と回答した。


 なおベニンソン氏も、自らが挙げた3つのビジネスモデルを提供するために、ネットワーク側で必要とされる機能について説明した。まずユーティリティモデルでは、「ネットワークのコストをどんどん下げる必要がある。そのために当社では、一例として、ルータの中に多くのオプティカルの要素を統合して、コスト削減につなげようという試みをしているし、消費電力の削減にも貢献している」としたほか、同社の基幹技術といえるOS「JUNOS」の価値についても言及。「より多くのプラットフォームへJUNOSを対応させることで、トレーニングコストの削減や、利用する管理ツールの最小化などを実現し、管理コストを下げていける」と述べた。

 2つ目のクリエイターモデルについては、大きなコンテンツクリエイターの顧客から学んだノウハウを生かし、「データセンター側での課題を解決するさまざまなお手伝いができる。今までになかったEXシリーズなどのスイッチやルータ、キャリアグレードの高可用性製品などを提供できる」とする。

 最後のユーティリティモデルでは、2つのことを挙げた。1つはセキュリティで、「ネット上の攻撃がより組織的な犯罪になっている」ことから、サービスプロバイダのセキュリティサービスが欠かせなくなってきていると説明。「当社ではセキュリティ技術をよりスケーラブルに、かつコスト効率よく使えるようにする」としたほか、もう1つの要素技術として「ポリシーとIDの管理」を挙げ、Session and Resource Control(SRC)などの製品をアピールしている。

 「当社では、ネットワークもサービスデリバリ環境へ移行しないといけないと考えている。ケーブルテレビ(CATV)は、サービス提供者(や、『土管』を提供するCATV事業者など)など、すべての参加者が収益をシェアしている、素晴らしいビジネスモデル。インターネットでは、接続に関する収入は得られるが、そこを通るデータに対しては収入を得ることができない。アプリケーションのクリエイターに流れてしまう。インターネットでも、このチェーンに参加する人がすべてにおいて分け合えるようにしないくてはいけない。それによって、ユーザー体験もさらに改善されるだろう」(ベニンソン氏)。



URL
  ジュニパーネットワークス株式会社
  http://juniper.co.jp/


( 石井 一志 )
2008/05/29 08:45

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