Enterprise Watch
最新ニュース

NTT Com宮川氏、「キャリアグレードNAT」の必要性を説明

J-Tech Forum 2008

NTT Com 先端IPアーキテクチャセンタ ネットワークプロジェクト 担当部長、宮川晋氏

IPv4の延命には、キャリアレベルでのNATが必要になるという
 5月28日(現地時間)から、タイのバンコクで開催されている米Juniper Networks主催のイベント「J-Tech Forum 2008」では、エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)の先端IPアーキテクチャセンタ ネットワークプロジェクト 担当部長、宮川晋氏が、顧客の代表として登壇。IPv4の枯渇問題について話した。

 IPv4の枯渇についてはここ数年、さまざまな団体から報告が出されているが、宮川氏もAPNICなどのデータを引用し、「2010年くらいでIPv4のアドレスは尽き、ISPが新しい顧客を増やせなくなる」と警告する。この原因の1つとしては、ブロードバンド化が進んだことが挙げられるとのことで、「ダイヤルアップ時代は、1つのIPアドレスをたくさんのユーザーが使い回していたが、ブロードバンドの常時接続になったことで、リサーチャーは10倍のIPが必要だと言っている。ユーザーが増え、そしてブロードバンドへ移行すればするほど、IPv4アドレスが必要になる」と述べる。

 では、IPv6へ切り替えれば問題が解決するのかといえば、そうではないとする。「顧客の一部はまだWindows 98/2000を使っており、マイクロソフトでは、IPv6へのアップグレードキットをこれらでは提供しないことを発表している。しかし、顧客へWindows Vistaなどへ変更するように強制はできない」というのである。

 IPv6に対応していないデバイスを延命させるためには、どうすればいいのか。これについて宮川氏は、「キャリアでのNAT」が必要だと主張する。一般に、ブロードバンドルータなどで行われているNAT(NAPT/PAT)を、キャリアが行うようにすればよいというわけだ。ただし宮川氏は、これにも問題があるとも指摘した。問題とは、NATの際にルータが扱えるセッション数に上限があることで、宮川氏は、「TCP/UDPのポート数は2バイト(65535)しかない。2000名で1つのグローバルIPアドレスを共有したいという場合もあるが、これは最悪のケースで、1ユーザーあたり30セッションくらいになってしまう」と話す。

 現在のPC環境では、さまざまなアプリケーションが多くのセッションを利用するようになっており、例えば、「Ajaxでリッチコンテンツが一瞬で見られるのは、複数のTCPセッションを同時に立てて迅速に情報をとれるようにしているから」(宮川氏)。Google MAPを例に出して宮川氏が示したところによると、25セッションくらいまでであればさほど問題はないものの、15セッションでは実用に耐えないくらい表示される領域が少なくなり、5セッションでは表示自体がまったくされなくなってしまう。これはあくまで一例にすぎず、ほかにも、セッションをたくさん利用するアプリケーションが数多く存在している。iTunesは230~270、ニコニコ動画では50~80、Amazonで90ほどのセッションが使われているのだ。


 このため、こうした状況にも耐えられる「キャリアグレードNAT」の策定が必須になってくるという。このNATでは、可用性のほか、1万ユーザー以上を収容でき、1ユーザーあたり100セッションにも耐えられるようなスケーラビリティも必要になる。また、「エンタープライズのルータのように、ポートを閉じて管理者が許可するものだけを通すのではなく、なるべく透過的にしたい」とする。これは、NATを介したがためにできないことが出てしまうと、ユーザーに不利益を与えてしまうため。SOHOのルータのように、あってもなくても、ユーザーが意識せずに使えるものが望ましいというわけだ。

 ただ、このキャリアグレードNATはまだ動き出したところで、標準化はまだまだこれからの段階。さまざまなベンダーにお願いしているところだというが、「NTTがこの仕様書だからこれでいこう、といっている状況は嫌。団結して仕様を決めていこう」とした。

 一方、Juniperでも、IPv4枯渇の問題は認識しているという。ジュニパーネットワークス株式会社の河野美也氏は「ホームルータ以外に、キャリアでもNATを使い、グローバルアドレスを配分していかないといけない。当社でも(キャリアグレードNATの)要求仕様をさまざまなキャリアと協議している」と述べた。


河野氏が示した、キャリア側でのNATの例 ジュニパーネットワークスの河野美也氏


URL
  エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社
  http://www.ntt.com/
  ジュニパーネットワークス株式会社
  http://juniper.co.jp/


( 石井 一志 )
2008/05/29 17:00

Enterprise Watch ホームページ
Copyright (c) 2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.