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インフラに“ただ乗り”させないための付加価値ネットワークを目指すIPsphere


Juniperのエンジニア、リチャード・ベイリス氏
 米Juniper Networks(以下、Juniper)はかつて、主にサービスプロバイダ向けの概念として「Infranet」を提唱していた。これは、「インターネットの利点を受け継ぎながら、プライベートネットワークの安全性とパフォーマンスを有したネットワーク」のことで、最終的には、そうしたネットワークを構築することで、サービスプロバイダの収益を好転させるとしていた。しかし今ではそれが「IPsphere」という名称に代わり、CiscoやAlcatel-Lucentのような機器ベンダー、VerizonやBTのようなサービスプロバイダ、SIベンダーなどが参加。日本からも、NTT、NEC、ネットワンシステムズといった企業がメンバーに名を連ね、さまざな企業が共同で取り組むようになったという。そのIPsphereとはどういうものなのか、Juniperのエンジニア、リチャード・ベイリス氏に話を聞いた。

 今、サービスプロバイダにとって、既存のビジネスだけではなかなか収益を得にくくなっているのは周知の通りだが、ベイリス氏はそれを打開するため、「新しいサービスの開発と、運用コストの削減が急務になっている」と話す。しかし、「新しいサービスの展開には平均18カ月ほどかかってしまい、自社外のサービスがその間に展開されてしまうと、自社サービスの提供価値がなくなってしまう」といった課題があり、サービス提供までの期間をいかに短縮していくかが求められるようになったというのだ。また、新しいサービスを開発したとしても、各サービスで異なるデリバリプラットフォームを利用していては、結果的に運用コストが増大し、利益にはつながらなくなる。そこで、いかにプラットフォームを共通化していくか、という点も、サービスプロバイダにとって大きな課題になっているとする。

 IPsphereが解決しようとしているのは、まさにその2つの部分だ。エンタープライズでは利用が広まってきたSOA(サービス指向アーキテクチャ)の概念をサービスプロバイダにも導入することで、再利用性を高め、迅速な新サービス提供を支援する。ベイリス氏は、この手法におけるIPsphereの役割について「IPsphereでは何種類かのホワイトペーパーをフォーラムで公開し、新サービスがビジネスに与えるインパクトと、優先順位付けをしていくための指針を示している」と述べた。


複数のサービスプロバイダをIPsphereの仕組みで連結させ、ユーザーとコンテンツプロバイダの間を結ぶことで、質の高いサービスが提供できるという
 また自らを変えるだけでなく、複数のサービスプロバイダを、APIを介して密に結ぶことで、アプリケーションが最適・最短な経路で通過できるようになる。さらに、コンテンツプロバイダとの関係を変えていくことも重要だという。現在の多くのケースでは、エンドユーザーがコンテンツを利用する際に料金を支払うのはコンテンツプロバイダであって、アクセス回線を提供するサービスプロバイダではない。つまり、サービスプロバイダは、インフラの“ただ乗り”をさせている状況で、いくらトラフィックが増えても、それが収益に結びつかないのだ。この状況を改善するには、コンテンツプロバイダを巻き込み、Win-Winの関係をいかに築けるかが重要になってくる。

 IPsphereではそのため、コンテンツプロバイダとユーザーを結びつける、サービスプロバイダのネットワークへ付加価値を持たせようとしている。IPsphereに基づいたマルチプルサービスを構築すると、IPsphereと連携するさまざまなサービスの、最短・最適なルートでの提供が実現する。また品質面でも、SLAを監視するため、問題が発生した場合の迅速な検知が可能になるとのことで、こうした仕組みを活用することで、コンテンツプロバイダがエンドユーザーに対して、品質の良いサービスを供給できるようになり、結果として、各ステークホルダーは多くの収入が見込めるようになるという。

 ベイリス氏はまた、「多くのコンテンツプロバイダでは、課金の経験など(収益を上げていく仕組み)がないので、それをどう構築するのかをアドバイスするか、といった、コンテンツプロバイダがIPsphereへ入ってくるような仕組み作りを進めている」と説明。こうしたメリットを訴求することで、コンテンツプロバイダに対してもリクルーティング活動を進めていると述べた。

 なお、IPsphereが主張しているような効果を業界に示すには、実践してみて、良い結果を出すことが一番効果的であるのは、言うまでもない。これはIPsphereでも理解しており、まず、映像配信にフォーカスを当てたフィールドトライアル「CONTENTsphere」を2008年中に実施して、業界の関心を高めていくという。これは、HD画質のビデオストリームを、グローバルで展開したときの効果を実証するトライアルで、北米、欧州、アジアなどから6~8社が参加し、サービスプロバイダ間での検証を行う予定である。



URL
  ジュニパーネットワークス株式会社
  http://juniper.co.jp/

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( 石井 一志 )
2008/05/30 09:00

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