Enterprise Watch
最新ニュース

HP研究所を改革したバネルジー新所長、「Everything as a Serviceをめざす」


 日本ヒューレット・パッカード株式会社(以下、日本HP)は6月13日、米HPがワールドワイドに展開する研究所「HP Labs」に関する記者説明会を開催した。同研究所には2007年8月に、シカゴのイリノイ大学で工学部長を務めていたプリス・バネルジー氏が所長として就任。よりインパクトの高い研究を目指して、方針を大きく変える研究所の再編成を行い、その内容を3月に発表している。今回の説明会では同氏が、再編成の意図、新たな研究テーマや施策などについて、テレカンファレンスシステム「Halo」を用いて米国から説明を行った。


研究結果が製品に反映されるよう再編成

プリス・バネルジー新所長
 HP Labsは、世界7カ国に23の研究組織を持つ、HPにおけるR&Dの最前線である。所長就任後、バネルジー氏が最初に行ったのは研究所の再編成。まず、研究プロジェクトを整理するところから始めた。「以前は150もの小規模プロジェクトが散在していた。結果、細かすぎてリソースの収拾がつかなくなると同時に、インパクトの高い研究ができなくなっていた。そこで最終的に製品化につながる研究を優先的に、という意図で、20~30のプロジェクトにまとめ上げた」(同氏)という。

 併せて、研究テーマの検討・承認プロセスの改善も行った。以前は、リサーチャーが何かアイデアを思いつくと、それを関連する担当マネージャにプレゼンして2人で詳細を詰めるという方法が採られていた。この方法では、迅速な意思決定が可能だったが、全体での情報共有が取れないため当然リスクも高かった。そこで同氏は、テーマを検討するための委員会を設置することで、リサーチャーとマネージャによる閉じた検証をオープン化。さらにそのメンバーを、リサーチャー・技術者・ビジネスユニットの担当者から構成することで、常にビジネスの視点を盛り込んだ形で検証できるようにした。

 これにより研究の指向性は高まり、より研究が製品につながる体制が整ったという。また、HP Labs日本研究所長の小田弘美氏によると、「以前のHP Labsでは多くのリソースが応用研究に費やされていた。バネルジー氏が望んだのは、これを基本研究・応用研究・製品移管の3つに平均化することだった」。バネルジー氏は「基礎研究をもっと重要視しなければならないとの思いからであったが、再編後にふたを開けると、うまくバランスの取れた体制ができあがっていた。まずはこの成果に満足している」と述べている。


5つの研究テーマで目指す「Everything as a Service」

HP Labs日本研究所長の小田弘美氏
 HP Labsでは今後、「情報爆発」「インターネット上でのダイナミックなサービス提供(Dynamic Cloud Services)」「データの変換」「高度なインフラ」「持続可能性」の5つの研究テーマに取り組む方針。「HP Labsでは現在のロードマップを超えた研究を行っていく」というバネルジー氏の言葉通り、調査を主体とした先進的なテーマが多い。特筆すべきは、それらがWeb 2.0を強く意識したもので、HPの事業の柱であるハードウェアよりも、比較的ソフトウェアの領域に寄っていることだ。

 特にDynamic Cloud Servicesについては先進的な構想を掲げている。これはすなわち「クラウドコンピューティング」のことにほかならないが、新しい雲の世界をつくるには、ネットワーク・デバイス・ソフトなどあらゆる点でこれまでとちがった考え方が必要になる。そうしたインフラの整備とともに、同氏は、今後のサービスのあり方についてもこう言及しているのだ。

 「サービスはエンドユーザーのためにある。今後はより高いエクスペリエンスが求められるだろう。例えば、ユーザーがショッピングサイトを訪れれば、必要なものが1カ所ですべて手に入るサービスや、あるいはユーザーが検索キーワードを考えるのではなく、必要なキーワードを検索エンジン側が提案してくれるサービス。それには、利用者の位置、好み、環境などに応じて、動的にサービスをパーソナライズする仕組みが必要だ。すべてのサービスがユーザーに応じてダイナミックに形を変える。当社ではそれを“Everything as a Service(EaaS)”と呼び、必要性を提唱している」。

 この実現には、新しいWebの仕組みが必要であろう。Dynamic Cloud Servicesでは、必要なプラットフォームや加工されたサービス群を開発するのが目的という。そしてHP Labs全体としても、このEaaSの流れに対応できるように研究を進めていく方針としている。簡単なことではないが、ヒントはもしかしたら日本にあるかもしれない。小田氏は、「日本のコネクティビティは世界有数。コミュニティの文化も群を抜いて発達している」と語る。日本研究所がテーマとするのが、まさにこのコミュニティに関するものなのだ。「中でもケータイコミュニティでの価値観は、PCの世界とは全く異なっており、ここから新しいコミュニティやそのライフサイクルを管理する方法が見つかるかもしれない。これらは日本でしかできない研究だ」。


製品化を加速する3つの施策も

 組織改革のほかに、3月の発表では、3つの取り組みがアナウンスされている。

 1つ目が、教育機関や政府、企業との戦略的な共同研究を推進するための「Open Innovation Office(以下、OIO)」だ。これまでどこかと共同研究を行う場合、HP Labsと外部組織の1対1での交渉により契約が取り決められていた。OIOでは、HP Labsが研究内容をオープンにし、共同研究を行ってくれるところを広く公募する形式を採る。そのための窓口となる「Entrepreneur in Tesidence Program」も設立し、活動を始めている。

 2つ目が、研究開発結果を迅速に製品・サービス化する「Technology Transfer Office(以下、TTO)」だ。研究成果を各事業部に提供して製品化を目指すほか、商業化しないものに関しては第三者へのライセンス権提供やベンチャーキャピタルコミュニティを介して、製品への技術移転を加速していく。

 3つ目が、一部の研究を初期段階で公開するWebサイト「HP IdeaLab」の開設だ。ここでは利用者や開発者のコミュニティからフィードバックを受けられるような仕組みや、外部の人が研究開発にかかわることのできるWebフォーラムも公開していく。

 HP Labsの人員は現在約600人。人員拡大も検討しつつ、今後も継続的に研究を行っていく。



URL
  日本ヒューレット・パッカード株式会社
  http://www.hp.com/jp/


( 川島 弘之 )
2008/06/16 09:05

Enterprise Watch ホームページ
Copyright (c) 2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.