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Wipseが「発足1年で大きな成果」、OpenXMLの相互運用性を実証

中小ISVの製品連携が短期間で可能に

 Wipseとマイクロソフト株式会社は7月30日、OpenXMLの相互運用性に関して行った実証実験の結果、OpenXMLをベースにすると多製品間でのデータ交換を容易に実現できることが実証されたと発表した。

 Wipseは、次世代ユーザーエクスペリエンスの普及啓発を目標に2007年6月に設立されたコンソーシアム。Windowsプラットフォーム、インターネットをベースとしたサービスなどの新テクノロジーや標準化動向に着目し、調査研究、教育、実証実験などを行っている。「OpenXML」「Silverlight」「Windows Live」「ITベンチャー」「文字セット」「WSSRA(Windows Server System Reference Architecture)」をテーマとした6つの部会が存在し、現在80社が会員として参加している。今回の発表は、その中でもOpenXML部会によるもの。


OpenXMLの相互運用性を実証

実証実験に至る背景

実証実験の構成
 今回行った実証実験では、実際にビジネスに即した相互運用性を明らかにするために、実在する複数の製品を組み合わせ、具体的なシナリオを想定した上でデータ連携を実施。OpenXMLは、そこでやり取りされるデータの文書フォーマットとして利用された。

 シナリオとしては、自動販売機(以下、自販機)を設置するセールスマンが街中で設置場所候補を探しているという状況を想定。見つけた候補地の条件をExcelに入力し、社内へメール送信すると、OpenXMLをベースに複数の製品が連携。最終的に最適な提案書としてセールスマンの下へ返信してくれる、というソリューションを組み上げた。

 さらに内容を詳細に見てみると、まず用意された製品は、主にグレープシティのExcel/XML変換ツール「Spread for Biztalk Server 2006(以下、Spread)」、アプレッソのデータ連係ミドルウェア「DataSpider Servista(以下、DataSpider)」、アドバンスソフトウェアのExcelファイル生成ツール「ExcelCreator 2007(以下、ExcelCreator)」、スカイフィッシュの文書音声化ソフト「JukeDox」の4種類。

 セールスマンがメール送信したExcelファイルを、Spreadが必要な情報を抽出した上でXMLに変換し、DataSpiderが、社内の基幹システムやBIシステムから売り上げ情報・自販機の種類・サイズ・周辺の設置状況・販売予測といったデータを取り出した上で、シンプルなxlsxファイルとして出力。それをExcelCreatorが、音声読み上げ用レポートなどに加工する。それらがセールスマンに返信されると、JukeDoxが音声として読み上げるという流れ。自動車を運転しながら外回りしているセールスマンは、その内容から提案の良しあしを判断し、自信を持って地主と商談することができる。


Excelに設置場所の条件を入力しメール送信 基幹システムなどから詳細情報を引き出し、xlsxファイルを生成 セールスマンに戻ってきたExcelを音声で自動読み上げ

結果、大幅な工数が削減された
 実験の結果として「OpenXMLの相互運用性が確認できた。しかも、公開済みのファイルフォーマット仕様だけに基づいて開発することに成功。さらに定量的にも、相互接続に必要なコード開発工数、および各社製品を統合する工数がいずれも従来比で60%削減できた。これにより、OpenXMLを活用することで、各社はそれぞれのビジネスバリュー構築に注力できる、ということが証明された」と、Wipse Open XML部会長を務める、マイクロソフト、デベロッパー&プラットフォーム統括本部 プラットフォームテクノロジー推進本部 アーキテクトエバンジェリズム推進部 エンベデッドエバンジェリストの太田寛氏は成果を語った。

 さらに製品を提供した各社は、「相互運用性のほかにも、OpenXMLでソリューション構築することにより、細かいメリットも見えてきた」と口をそろえる。従来、こうした製品連携ソリューションを実現しようとした場合、データのスキーマやフォーマットをどうするかという膨大な事前検証を要するという。そこへOpenXMLを持ち込むことにより、事前検証がまったく不要となったのだ。

 実際、同ソリューションの開発は、6月11日から開始したシナリオ検討、役割決めなどの簡単なメールによる打ち合わせを除くと、7月25日~29日のわずか4日間で、あっさり連携できてしまったという。

 またアプレッソ、代表取締役社長兼CTOの小野和俊氏によると、「ソリューションを構築するにあたって、OpenXMLのヒューマンリーダブル性は非常に大きなメリット。何か問題が起きたとしても、OpenXMLならダブルクリックすればExcelで開ける。誰にでも読めるレベルでデータの検証ができるので、トラブルシューティングが簡単。こうだからこう動くということも事前にはっきりと分かる」というメリットも明らかになった。


Wipse Open XML部会長を務める太田寛氏 アプレッソ、代表取締役社長兼CTOの小野和俊氏

中小ISVが自社製品を前面に押し出していくチャンス

マイクロソフト、業務執行役員 CTOの加治佐俊一氏
 では、OpenXMLの相互運用性が実証できたことで、今後どういった事柄に影響していくのか。Wipse会長を務める東証コンピュータシステムの松倉哲社長は、「中小製品でも組み合わせれば大規模なシステムが作れるということが証明できたことで、今回の結果が、中小企業のビジネスの起爆剤になるのではないか」と発言。

 マイクロソフト、業務執行役員兼CTOの加治佐俊一氏も「複数の中小ISVが集まって大規模なシステムが構築できたということは、大手ISVのソリューションに中小ISVが入り込めることを意味する。これは中小ISVだけでなく、大手ISVにとってもうま味のある話。また中小ISVは従来、下請けに回ることが多かったが、自らの製品を前面に押し出して、ソリューション案件に加わっていくことが可能になる」とした。

 とはいえ「今回の成果は最初のステップに過ぎない」(松倉氏)。OpenXMLを用いたビジネスシナリオに即した形での実証実験は今回が世界初なのだ。「結果、相互運用性が実証され、OpenXMLのパフォーマンス、読みやすさ、壊れにくさなども具体的に分かってきた。今後も会員企業と協力してこうした点の実証実験を継続していく方針」。また、今回のはあくまで架空のシナリオに過ぎないのだが、実証実験を続けてサンプルを増やしていくことで、ビジネスに直結する状況も生まれていくかもしれない。松倉氏は、そうした展開にも意欲をのぞかせている。


成果をビジネスへ、Wipse今後の活動方針

Wipse会長を務める松倉哲氏
 実際、すでに松倉氏の頭の中では、成果をビジネスの世界へ発信していくアイデアが生まれ始めているようだ。来年度以降の活動計画は現在練っている最中だが、「今後、ビジネスモデル部会を作るのもいいかもしれない。現在も、ITベンチャー部会では、Wipseを中小企業の製品アピールの場とし、優れた製品は東証コンピュータシステムで実験的に販売するということもやっている。またWipseの前身、.NETビジネスフォーラムでも会員の製品を紹介していたが、これらはどちらかというと単体紹介がメイン。最近は1社でソリューションすべてを提供するケースも少なくなっているので、今回の成果を好例として、中小企業の製品を組み合わせたソリューションなどをビジネス展開していくことも可能なのでは」という。

 一方でまだ足りないと評価する点もある。Wipse発足当初の目標として、次世代ユーザーエクスペリエンスの普及啓発というものがあった。「この点に関しては、Silverlight 2.1やWindows Liveなどで徐々に成果が出始めているが、まだエンジンがかかり始めてきたといったところ。この1年はマイクロソフトがいろいろなことを1つ1つ決めてきた1年ともいえる。そうしたことを経て、本格的に普及啓発が活発化するのは来年以降になるのでは」(松倉氏)。

 Wipse発足から1年あまり、その間、マイクロソフトによるクラウドコンピューティングへのコミットなど新しい風潮の到来を予感させる出来事も起きている。「Silverlight部会の成果も合わせ、今回の成果がクラウドへの大きな波となるのでは」と話す松倉氏。ひとまず上々の成果を出したといえるWipseだが、今後のさらなる成果に期待を感じさせつつ、発表会は閉幕となった。



URL
  Wipes
  http://wipse.jp/
  マイクロソフト株式会社
  http://www.microsoft.com/japan/
  グレープシティ株式会社
  http://www.grapecity.com/japan/
  株式会社アプレッソ
  http://www.appresso.com/
  アドバンスソフトウェア株式会社
  http://www.adv.co.jp/
  株式会社スカイフィッシュ
  http://www.skyfish.co.jp/
  プレスリリース
  http://www.microsoft.com/japan/presspass/detail.aspx?newsid=3493

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( 川島 弘之 )
2008/07/31 00:00

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