Enterprise Watch
最新ニュース

日本IBM、世界で5番目となるクラウドコンピューティング施設を国内に開設


テープカットの様子。左が日本IBM、ソフトウェア開発研究所 執行役員の岩野和生氏。右が米IBM、IBMソフトウェア・グループ ハイ・パフォーマンス・オンデマンド・ソリューションズ担当 バイスプレジデントのウィリー・チゥ氏
 日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は8月1日、クラウドコンピューティング環境を提供する施設「IBM クラウド・コンピューティング・センター@Japan」を、晴海事業所内に開設した。

 同施設では、IBM Tivoli/System x/Power Systems/BladeCenterなど、日本IBMのソフト・ハード技術を結集し、クラウドコンピューティング技術の検証の場を提供する。顧客やビジネスパートナーはこれを利用して、クラウドコンピューティング適用分野の検討やソリューションの設計、技術検証が行える。

 具体的なサービス内容は、ブリーフィング・デモンストレーション、技術ワークショップ、インフラやアプリケーションのアーキテクチャ設計セッションの提供、仮想化技術やプロビジョニングなどの技術検証、ならびに新しいアイデアを新規実装する際のサポートなどとしている。

 特に技術ワークショップでは、半日のセッションを無償で提供。クラウドコンピューティングの技術とその価値を理解するため、世界の適用分野の紹介やデモによるイメージの検討などを行う。さらにワークショップ後のフォローとして、実際に同施設に構築されたクラウドコンピューティング環境を使っての実証実験や今後のプラン作成などを行う。

 米IBMが開設したクラウドコンピューティング施設としては、これで5番目。日本以外では、米国のサンノゼ、アイルランドのダブリン、南アフリカのヨハネスブルク、中国の北京ですでに稼働しており、今後も南米、中東、インド、ベトナム、韓国などに順次設置していく予定。

 なお日本IBMでは、2008年2月にクラウドコンピューティングを活用したビジョン「New Enterprise Data Center(NEDC)」を発表している。その中で、サーバー数千台規模のクラウドコンピューティング環境を構想しているが、今回は、30台ほどの規模からのスモールスタート。これを順次拡張していくとともに、世界各地のセンターと連携して、より大規模な環境を実現していく方針だ。


日本の施設は、世界で5番目となる IBM クラウド・コンピューティング・センター@Japanの概要 イノベーション・ワークショップの概要

日本IBMが描く「エンタープライズ・クラウド」とは?

クラウドコンピューティングのメリットを語る岩野氏
 さて、では日本IBMが描くクラウドコンピューティングとはどんなものなのか。一般的にクラウドコンピューティングとは、「インターネット上に分散したリソースを使って、ユーザーに情報サービスやアプリケーションサービスを提供するコンセプト。ネットワークに接続できれば、ユーザーがサービスを利用できるという点ではSaaSに近いが、クラウドコンピューティングでは、リソースの所在をユーザーに意識させないという意味合いがある」(日本IBM)という。

 分かりやすく考えてしまえば、現状のデータセンターをインターネット上に移し替える構想だ。「これまでWeb上でミッションクリティカルな処理を行えるとは考えられなかったが、ハードウェアにおける計算量の著しい増加やブロードバンドの整備、モバイルの発達により、ハードルはどんどん下がっている。それに伴い、インフラやソフトも複雑になり、これらをいかに使っていくか、サービスのあり方が重要視される時代に差し掛かっているのだ。こうした状況が、クラウドコンピューティングへのパラダイムシフトを後押ししている」(ソフトウェア開発研究所 執行役員の岩野和生氏)。

 雲の中に配置された数千・数万というコンピュータリソースを、必要なときに必要なだけ利用する。例えば、GUI上からCPUパワーやPCの台数を指定すると、リソースプールの中から必要な分だけがユーザーに届く。それらを使って、ソフト開発やリサーチを行ったり、並列処理を行うことで大規模な分散環境が実現できたりする。それが日本IBMが描く「エンタープライズ・クラウド」という構想である。


クラウドコンピューティングの大まかなアーキテクチャと適用領域

クラウドコンピューティングがもたらすもの
 「これにより高度なインフラ・ツール・プロセスを、中小企業やベンチャー企業であろうと誰でも利用することが可能になる。それもインストール作業といった手間もなしで。研究者であれば、必要な研究設備を迅速に構築することで研究スピードが加速するし、学生は若いうちから大規模データ処理などの次世代プログラミングモデルを体験できる。新しいテクノロジースキルを早い段階から育成することが可能になるのだ」(同氏)。

 ビジネスにおいても、「インフラやサービスが標準化・均一化され、ユーザーは一貫したサポートを受けることが可能になる。産業をまたがったソリューションを推進できるし、コミュニティを迅速・容易に立ち上げることで、イノベーションを加速することも可能だ。さらに推し進めて考えれば、国レベルのイノベーションのきっかけにもなる。“サービス”という概念を根本から変えて、産業構造そのものを変える可能性も秘めているのだ」(同氏)。

 現状は、単独でクラウドコンピューティングを推進している段階だが、「やがて、各社のデータセンターリソースがWeb上でプール化される可能性がある」と岩野氏は語る。「完全にクラウドコンピューティングが実現すれば、ユーザーはこれまでのようにデータがどこにあるのか意識をしなくてよいことになる」。

 そのためには、今以上にセキュリティが重要になっていくだろう。また、各社のクラウドをどう統合するのか。統合されたときに各社のサービスレベルに差があっては、ユーザーに均一のサービスを提供できなくなるが、それをどう解決するか。まだまだ課題は多いようだ。

 だがそもそも、クラウドコンピューティングという概念が生まれたばかり。熟成の余地はあるし、技術的には不可能な話ではなくなってきている。問題は技術ではなく、どう推進していくか、その方法論にある。「現状は、まだバズワード(業界用語、もったいぶった言葉)という感が強いが、バズワードに終わらないよう、しばらくは各社がそれぞれに、インターネット上にクラウドコンピューティング環境を整えていくことになるのだろう」(同氏)。



URL
  日本アイ・ビー・エム株式会社
  http://www.ibm.com/jp/
  ニュースリリース
  http://www-06.ibm.com/jp/press/2008/08/0101.html


( 川島 弘之 )
2008/08/01 16:36

Enterprise Watch ホームページ
Copyright (c) 2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.