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インテルと内田洋行、小中学校におけるICT教育の有効性検証へ

柏市の小学校で1人1台ノートPC配布

左から、内田洋行 代表取締役社長の柏原孝氏。インテル 代表取締役共同社長の吉田和正氏。内田洋行、取締役専務執行役員の大久保昇氏
 インテル株式会社と株式会社内田洋行は8月7日、小中学校の授業におけるICT普及に向け、PCを使った学習効果の実証実験を行うと発表した。千葉県柏市の小学校2校で、児童1人につき1台のタブレットPCを配布。主に国語と算数の反復学習に使い、学力向上に対する有効性を検証する。なお「1人1台のPC利用検証は、一般的な公立学校では初めて」(内田洋行、取締役専務執行役員 教育システム事業部長の大久保昇氏)という。

 昨今、日本国内においては、児童の学力低下が問題視されている。OECDのPISA(Programme for International Student Assessment)調査によると2000年以降、日本人学生の学力は下降傾向にあり、2000年に1位だった数学的リテラシーも2006年には6位と大きく後退してしまっている。

 こうしたことから日本の教育の方向性も「学力向上」へとフォーカスしつつあり、2007年の教育基本法の改正を受けた、「新学習指導要領」が2008年に公示されている。ここでは「教育の目的は、児童の学力を向上すること」と初めて明記され、40年ぶりに授業時間の増加も内容に盛り込まれた。またその手段としては、積極的にICTを活用し、個に応じた指導の充実を図ることとされており、「教育におけるICT利活用に注目が集まっている」(大久保氏)という。

 一方で、日本のICT教育には大きな問題点がある。大久保氏によれば「校内LANの整備状況を見ると、米国や韓国などではほぼ100%となっているのに対し日本は50%ほど。2005年に100%をめざして取り組みがなされてきたのに、現状は、諸外国と比べて大きく劣ってしまっている」というのだ。

 その要因には、「予算がつかないからICT導入が進まない。教員が使わないから予算がつかないという悪循環がある」(同氏)。またその根底には、「ICTを利活用する有効性についての認識欠如がある」という。

 こうした認識の向上も今回の目的だ。実証実験により、授業でのPC・コンテンツのあり方を検証するとともに、現場の理解を深めるための最適なICT導入・運用方法なども検証するとしている。


2000年以降、日本人学生の学力は下降傾向 ICT利活用に言及する新学習指導要領 教育現場におけるICT環境の整備が遅れる日本

実証実験の概要

実証実験における協力体制

今後の取り組み
 実証実験の具体的な内容としては、柏市立の小学校2校で、4/5年生73名に富士通製小型タブレットPCを配布。通常授業と連動させ、授業1コマにつき10~15分ほどの集中学習として、小学館の手書き学習ソフト「デジタルドリルシステム」を使った授業を行う。主に漢字と計算の基礎学力向上を狙い、漢字の書き取りや計算などの反復学習を実施する。

 「基礎学力向上には反復学習が有効とされている。デジタルドリルシステムで、生徒に対しては効率的な学習、集中力の持続などの効果を狙い、併せて、教員の時間確保といった副次的な効果も狙う。またデジタルドリルシステムでは、間違えた問題のみを宿題プリントとして起こすことも可能。これによりできる子・できない子に応じた個別学習も可能になる」(小学館、デジタル学習センター プロデューサーの伊藤護氏)。

 こうした継続的な学習の結果、個人ならびにクラス全体の成績推移が実証試験前後でどうなるかを分析し、効果を検証。体制としては、インテル・内田洋行・小学館のほかに、柏市教育委員会が全面バックアップする。この、システム環境からコンテンツ、バックボーンまで含めた協力体制で、児童の学力向上における有効性のほか、教育現場のICT利活用やその際のセキュリティのあり方を模索する方針。

 「昨今、学校裏サイトなどが社会問題化している。柏市は、小中学校全校にPC教室を設置するなどICT環境の整備が特に進んでおり、コンテンツフィルタなどのセキュリティ対策も取られている。しかし、持ち運びが容易なタブレットPCを配布することで、自宅に持ち帰れたりとPCに触れる時間が長くなる。こうした状況でいかにセキュリティを確保するかという点も今回のテーマ」(大久保氏)とのこと。

 実証実験のスケジュールは2008年9月から2009年3月の半年間で、期間中には、公開授業や実証の結果発表などを行う。期間後には、2011年に完全施行となる新学習指導要領を見据えた活動として、IT業界との協力の下、学校・教育委員会への導入働きかけを行っていく方針。

 インテル、代表取締役共同社長の吉田和正氏は、「そもそも学力低下の原因としては、子供たちから夢が失われ、勉強へのモチベーションを持てなくなったことも大きい。PCは学習だけでなく、いろいろなことができるツール。創意工夫のノウハウや想像力を豊かにする可能性を持っている。今回の検証の結果で、生徒の好奇心や夢を育むものとしてのICT活用方法も検証したい」と述べた。


授業で使用するタブレットPCの特徴 デジタルドリルシステム国語編。漢字の書き取りで書き順などが学習できる


URL
  インテル株式会社
  http://www.intel.com/jp/
  株式会社内田洋行
  http://www.uchida.co.jp/
  株式会社小学館
  http://www.shogakukan.co.jp/
  柏市教育委員会
  http://www.city.kashiwa.lg.jp/kashiwa_boe/
  プレスリリース
  http://www.intel.com/jp/intel/pr/press2008/080807.htm


( 川島 弘之 )
2008/08/07 15:25

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