アドビシステムズ株式会社のリッチインターネットアプリケーション(RIA)プラットフォーム「Adobe AIR」がエンタープライズ分野でも注目を集めている。AIRは、HTMLやFlash、PDFを、Webブラウザを使うことなく実行できる製品。リッチなUIを作成できることや、オンライン・オフラインで利用できること、そしてドラッグアンドドロップのファイル操作をサポートしていることなどが注目されている。
このAIRをトリガーに普及を図ろうとしているのが、PDFをベースとしたドキュメント管理・ビジネスプロセスの自動化を実現する統合製品「Adobe LiveCycle Enterprise Suite(ES)」だ。LiveCycle ESとAIRを組み合わせることで、何が実現できるのか。同社マーケティング本部エンタープライズ&デベロッパーマーケティング部 部長の小島英揮氏に話を伺った。
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マーケティング本部エンタープライズ&デベロッパーマーケティング部 部長の小島英揮氏
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―先日、日本におけるLiveCycle ESのビジネス戦略を発表されました。興味深かったのは、Adobe AIRをトリガーにLiveCycleの認知度・理解度を向上させるという点です。AIR人気に便乗しようということでしょうか(笑)。
小島氏
いえいえ(笑)。実は今年になってから、われわれは「エンタープライズRIA」を提唱しています。これは、RIAを見栄えだけの技術ではなく、バックボーンとつなぐことによるメリットを訴えるものです。
エンタープライズRIAを提唱するきっかけは、お客さまの反応があったからなんです。LiveCycleはプロセス管理の自動化に有効な製品ですが、なかなか日本のお客さまに理解していただけなかったのです。自社の複雑な業務が、そう簡単に自動化できるわけがないと。ところが、AIRで作ったアプリケーションをみたお客さまが、自社の業務に生かせるのではないかというのです。AIRアプリケーションの特長である見栄えのよさがきっかけとなって、バックボーンの自動化までイメージがふくらんだようです。
―AIR登場以前にも、FlashやFlexでアプリケーションを構築することはできたとおもうのですが?
小島氏
AIRに注目される方の多くは、Flashを気にされていないのです。Flashはエンターテインメントのイメージが強くて業務に結びついていないようで、結果的にはAIRによりリブランドされたという格好です。
また、AIRはオンラインでもオフラインでも使えるという特長があります。これが多くの方の心をつかんだようです。ファイルをドラッグアンドドロップ操作で扱える点もインパクトが大きいようです。
一番効果があったのは、シャープさまのAIRアプリケーション「経営コクピット」ですね。SAPの情報をAIRを使うことで視覚的にわかりやすいものにできるというのは、非常に強いメッセージになりました。実際、シャープで使っているアレという指名がきています。
―確かにシャープの事例はわかりやすいものでしたね。
小島氏
もともとLiveCycleはエンドポイントの情報を見るのに適したソリューションなんです。それがAIRにより、わかりやすいものになったということでしょう。
エンタープライズRIAですが、実は興味深い話があります。米国本社のLiveCycle担当者は当初、AIRとLiveCycleを組み合わせるメリットが理解できなかったのです。アメリカ人の考え方では、プロセス管理の自動化はすごくシンプルなもので、それだけで理解できるため、わざわざAIRでアプリケーションを作ることに意味を感じなかったのです。
ところが日本は逆で、プロセス管理の自動化をいくら伝えても理解されないのです。結局、AIRのように視覚的に訴えた方が理解が早かったのです。今では、AIRをフロントエンドで使うとドラッグアンドドロップで手軽にPDF化できますよ、とメッセージできるようになっています。そのあとで、せっかくPDFにするのであれば、アクセス権を設定してセキュアにしませんか?とか、他のデータと連携した管理をしませんか?といった提案ができるようになっています。AIRをきっかけに、LiveCycleで実現できることがすんなりと理解していただけるようになったのです。
こうした事例をみて、米国本社も今では理解を示し、エンタープライズRIAを提唱していますよ。
―DRMもLiveCycleビジネスの核に位置づけていますね。
小島氏
DRMは、製造業・設計・サプライチェーンなどマーケットがはっきりしているのが特長です。これらの業種では、3D CADをPDF化できるAcrobat 3Dの利用率が高かったのです。ただ、単体製品でサポートしているだけで、LiveCycleでは未対応だったのです。
今回、最新版のLiveCycleでは、「Adobe LiveCycle PDF Generator 3D ES」を追加しました。これにより、3D CADのPDF化を自動的に行えるようになります。
また、最新版のLiveCycleはPDF以外にOffice文書やCADデータのDRM対応も実現しています。これまでPDFのみDRM対応していたのですが、これでニーズに応えられるようになりました。
―パートナー強化も打ち出していますね。具体的にはどのようなパートナーを強化していくのでしょうか?
小島氏
LiveCycleでFlexをサポートしたころから、Flex系のトレーニングを中心に行ってきました。このトレーニングによって、Flexを理解していただいたデベロッパーが増えてきました。Flexを理解するデベロッパーが増えたことは、エンタープライズRIAを推進する上で非常に効果的です。現在では、プロセス設計を行うツールであるLiveCycle Workbench ESのトレーニングを行っています。
エンタープライズRIAを作る際に重要なのは、単に作っただけではパフォーマンスが上がらないという点です。スケールを持った設計を心がけることが大切です。特にLiveCycleを組み合わせる際、トラフィックをどう高速化させるかが重要になります。そのためのスキルトレーニングは欠かせないと考えています。特に以前からLiveCycleに取り組んでいただいたパートナーの場合、Javaで全部書いてしまいますが、エンタープライズRIAではそんな必要はありません。
―なるほど。パートナーの意識を変えないと、せっかくのエンタープライズRIAも生かされないということですね。
小島氏
なので、Flexを手がけているパートナーをどう取り込むかが課題になるとおもっています。Flexだけではワンウェイでしか取り組めない可能性がありますが、LiveCycleを組み合わせることで幅広いプロセスをカバーできるようになります。
エンタープライズRIAは、お客さまから求められて生まれたものです。このニーズに応えていきたいですね。
■ URL
アドビシステムズ株式会社
http://www.adobe.com/jp/
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( 福浦 一広 )
2008/08/11 11:30
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