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ソフト開発ベンダーがメールセキュリティのアライアンスを主導した理由


 株式会社日本システムディベロップメント(以下、NSD)は7月10日、メールセキュリティソリューションを総合的に提案するアライアンスを立ち上げると発表した。当初13社でスタートしたこのアライアンスの目的は、顧客企業がかかえるさまざまなメールに関する問題を、ワンストップで解決できるソリューションを提供すること。そのために、技術協力や共同営業活動などを展開していくという。NSDはこのアライアンスの中で、事務局的な立場となってこのアライアンスを主導しているが、本来はシステム開発を業務の大きな柱としている同社が、なぜ、メールセキュリティ分野のアライアンス作りに乗り出したのか。その理由を、代表取締役社長の冲中一郎氏、執行役員 プロダクトソリューション営業本部長の網野和幸氏、プロダクトソリューション営業本部 1部 チーフの櫻井俊宏氏に聞いた。


代表取締役社長の冲中一郎氏
―まず、なぜこういったアライアンスを作ろうと思われたのか、その理由を教えてください。

冲中社長
 それを話す前に、まず当社のビジネスの現況をお話しした方がいいと思います。ご存じのように当社はシステム開発の受託が主業務で、しかも、顧客は長年お付き合いしている企業がほとんど。その結果として高い営業利益率を上げてきたのですが、固定顧客を主体にしているから、営業をしなくても仕事がもらえる。従って、これからどう顧客を増やしていくかを考えた場合に、受託開発の営業力が弱い、また当社の知名度も低い、という課題がありました。

 一方、システム開発以外でも、米国の商材を国内に持ち込み拡販する、いわゆるプロダクト営業をビジネスとして手掛けていますが、その営業比率は全体の6%にとどまっており、当社の中で存在感を出すためには、もっと大きな売り上げが必要な状況です。またプロダクト営業には、販売によって売り上げを上げるのはもちろん、システム開発の受託につながる顧客を探すという使命があり、現在よりも、広く、面として展開することが求められていました。

 そこで、メールセキュリティの分野に目を付けたのです。


―どうして、メールセキュリティなのでしょう?

冲中社長
 プロダクト営業のビジネスでメール暗号化ソリューション「PGP」を長年扱ってきた、得意分野だということが1つ。また、メールはビジネスに欠かせないツールとして普及したものの、そのセキュリティはまだ完全ではないということも挙げられます。

 ところが、さまざまな課題が存在するがゆえに、当社が取り扱ってきたものだけでは、問題解決にはなりえない。ここで新しい製品を担ぐのも1つの手ですが、それよりも、世の中で主流になってきたものを担いでいる販社とアライアンスを組んで、ソリューションを提供できれば、各社とも、顧客へのコンタクトの幅が広がるのではないかと考えたんです。


―その考え方は、すんなり受け入れられましたか?

冲中社長
 はい。当社の視点とは違うのかもしれませんが、各社とも悩みを抱えていたようで、また、顧客の悩みを解決することが本来のソリューションプロバイダの役目ですから、共感を得られたのだと思います。


プロダクトソリューション営業本部 1部 チーフの櫻井俊宏氏
―アライアンスでは、メールを「ソリューション層」「リスク・マネジメント層」「発信ツール層」の3階層に分けて提案していますね。

冲中社長
 まずはセキュリティを確保するソリューション層でラインアップをそろえることが重要ですが、今では何をするにもリスクが必ずついてきますから、(FISソリューションズの情報漏えい)保険も取り入れました。

櫻井氏
 メール配信層も、企業のニーズはあります。営業ツールとして非常に重要だと考えられていますが、メール送信先を間違える、あて先をCCで送信してしまう、といったセキュリティ上のリスクも抱えています。セキュリティ基準を満たす、設定を自動的にしてくれるツールがあればやりやすいんですね。

 またソリューション層では、(NSDの扱っている)メール暗号化のニーズはまだほかに比べて高くなく、メール暗号化だけを持っていってもまだ先だといわれてしまうのですが、今回のように面展開が可能になると、メールフィルタリングやスパム対策とあわせて、段階的に展開できるメリットもあります。


―それ以外に、このアライアンスの特徴といえばどういった点が挙げられますか?

冲中社長
 まず、体系的にパンフレットでソリューションを提示できている点がありますね。個別にやっている企業はいっぱいあるけど、ここまで整った形で提供できているのはないでしょう。また、ベンダー横断的であるというのも特徴です。“得意技”を持った人間が集まって問題解決できますから。

櫻井氏
 このいいところは、当社だけで販売をするのではなく、皆でビジネスを作っていけるということなんです。自社の取り扱い製品だけですと、どこかに無理が生じてくる。従って、パートナービジネスが大事になるわけです。(販売を進める上で必要な)モデルケースも、アライアンス前からソリューション展開・連携を共同でやってきたところもありますので、もうパターンはできています。その中で組み合わせて提案しているのが現状です。

 また顧客に対しては、9月中旬から後半に、13社共同での啓発セミナーもやっていくつもりで、理解度を深めていただこうと思っています。メールセキュリティを実現する上で必要とされる製品を選んでいますから、顧客にとってのメリットも大きいのではないでしょうか。


―ただ今回の13社で、メールセキュリティに必要なすべてがカバーできる、というわけではないですよね?

櫻井氏
 はい。一緒にやろうという売り込みがいくつもあるくらい、業界の中からも反応がありました。顧客よりもそちらの反響のほうが大きかったくらいで(笑)。ただ拡大する上では、重なるカテゴリで複数ベンダーの製品をそろえることは考えておらず、違う切り口で増やしたいですね。今後は、メール製品を入れる前のポリシー作りなど、体制を整えて第2弾、第3弾を作り上げていこうと思っています。


執行役員 プロダクトソリューション営業本部長の網野和幸氏
―各社では、どのくらいの人数がどういった活動をしているのでしょうか?

網野氏
 当社では20名くらい、アライアンス全体ではざっくりと200名くらいの人間が動いていまして、基本的に、案件ありきで営業を進めますが、何か困ったときはNSDがすべてカバーする体制を作っています。(案件の中に)PGPが入っていなくても、責任を持って当社が調整をすることはコミットしているんです。企業を飛び越えての会議や勉強会もやっています。

 また、人間の数もさることながら、メーリングリストの数が非常に多いんです。メーカーからの配信もありますし、圧倒的な顧客数を抱えている宅ふぁいる便(を手掛けるオージス総研)も参加していますので、全体では何十万という数になっているんですよ。自社と違う広げ方ができるパートナーがいますから、その効果が現れてくると期待しています。


―顧客の規模は、どの程度を想定しているのでしょう。

冲中社長
 当社のターゲットは中堅以上の企業ですね。最初は普及に向け、あまり限定せずに営業をしますが、狙いは受託開発の獲得につなげていくことですから。

網野氏
 また、アライアンスではゲートウェイの製品を集めていますが、これでメリットを受けるには、ある程度企業の規模がなくてはならない、ということもあります。メールセキュリティで面白いのは、導入までに必ず顧客の中へ深く入る必要がある、ということで、そうすると、当社の技術力がわかっていただけるんですね。受託開発につなげていく上では、技術力を理解してもらうことが必須になりますので、とても効果があるんですよ。

冲中社長
 そうやって直接接点ができれば、プライム(一次請け)で仕事が受注できるのも、大きいですね。開発は、顧客が喜ぶ姿を直接見られるのが、何よりもモチベーションになりますから。これをきっかけに受注して、そこから“大きなお客様”に育てていきたいと考えています。


―ありがとうございました。



URL
  株式会社日本システムディベロップメント
  http://www.nsd.co.jp/
  アライアンス発足のニュースリリース(PDF)
  http://www.nsd.co.jp/news_pdf/NSD_News20080710.pdf


( 石井 一志 )
2008/08/12 11:59

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