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「全社的浸透に向けた活動が不十分」、アビームが内部統制の現状を報告

今後の取るべきアクションも提示

経営戦略研究センター ディレクターの木村公昭氏
 アビームコンサルティング株式会社(アビーム)は9月2日、日本版SOX法への取り組みに関する調査を基に、現状および今後取るべきアクションを提示したレポートを発表した。

 調査期間は2008年3~5月。上場企業2800社を対象に、「J-SOX」「内部統制」「経理」「財務」の担当役員、部長に対するアンケートを実施し、302社からの有効回答を得ている。

 「日本版SOX法対応には、企業規模および事業の複雑性が深く関連する」(経営戦略研究センター ディレクターの木村公昭氏)との考えから、回答企業を「大規模で単一事業の企業群(G1)」「大規模で複数事業、あるいは海外の統制が発生する企業群(G2)」「小規模な企業群(G3)」の3つのグループに分類。なおかつ全体的な傾向として、「整備・構築面」「評価面」の2つの側面から分析した。


全社的な浸透に向けた社内の取り組みが十分でない

海外での浸透も課題
 整備・構築面を見ると、「取り組みとしては、内部統制責任者の任命、定期的なトレーニング、経営者の積極的関与、専門の推進組織の設置などが挙げられるが、もっとも取り組まれていた責任者の任命を見ても実施されていたのは5割弱。そのほかの取り組みは3割程度に留まっていることが分かった。また7割の企業が、このうち1~2項目しか実施していない」(木村氏)と、全社的な浸透に向けた社内の取り組みが十分でない点を指摘した。

 また、本番初年度になっても整備・構築作業は継続されており、「全社的統制については73%、決算・財務報告プロセス以外の業務プロセス統制については76%の企業が、調査時点で文書の更新作業や統制のための業務改善を終えていない状態だった」(同氏)という。

 整備・構築作業においては、「遅れが顕著なのは企業規模の小さいG3だが、不備が最も多く見られるのはG2の企業。特に、決算・財務報告プロセス以外の業務プロセス統制に着目すると、不備が見つかっていないG2の企業は1割しかない。事業の複雑性が統制へのハードルとなることが明らかになった」とした。

 そのほか、8割の企業が実施基準に忠実に統制を進めつつも、明確な基準がない事項については対応がばらついていることが明らかになったという。木村氏は「実施基準に忠実なのは結構なのだが、もし、そもそもの意味を考えずに、とにかく基準に合わせようとしているだけなら危険。日本版SOX法への取り組みは、いずれ企業価値向上につながっていくべきだが、明確な意識がないと、負荷感ばかりが募ることになる」とリスクを指摘した。


7割の企業が業務運用に着手していない 7割の企業で不備が発生 明確な基準がない項目については、対応がばらついている

評価担当者当たり、およそ100のキーコントロールを担当
 次に評価面を見ると、4割の企業で評価の実施手順が定まっておらず、また過半数の企業が、評価のリソース不足やスキルセット不足を課題に挙げた。リソース不足に関しては特にG2で顕著で、7割のG2企業が海外現地のリソースが不足していると回答したという。木村氏は「多くの企業が評価の段階にシフトしているが、実施手順の策定や評価体制の構築が課題である」とした。

 また、8割を超える企業が独立的評価を実施しているが、独立的評価担当者にかかる負担が大きいことも分かったという。「評価の中心となるのは内部監査部門だが、評価担当者1人当たりの担当キーコントロールはおよそ100に上っている。統制に重要なキーとなる評価を2日に1つ行っている計算で、内部統制への理解が十分でなければ困難。形式的に評価を済ませてしまう危険性がある」(同氏)とした。


プロセス&テクノロジー事業部 FMCセクターの西山清史氏

明らかになった5つの全体的傾向と、グループごとの問題点
 では、明らかになったこれらの傾向に関して、今後取るべきアクションはどういったことか。まず全社的な浸透に向けた取り組み不足については、「内部統制を推進することを組織の機能として持つべき」と、プロセス&テクノロジー事業部 FMCセクターの西山清史氏は提言する。

 「現業部門が内部統制の実施主体になるべきだが、実施主体の意識が十分でないと、本来効くはずの統制が効かなくなってしまう。これを回避するため、内部統制責任者とは別に、内部統制とは何かを繰り返し訴える旗振り役を立てることが重要。両者連携の下、統制要件を具体化することで、企業内への浸透が進んでいく」。

 また、本番初年度になっても整備・構築作業が継続されていることへの危惧(きぐ)として、時間がないため監査をパスするためだけの非現実的な統制になりかねない点を指摘。「整備・構築作業においては、監査対応と業務効率のバランスが重要。焦って作業してしまうと、監査対応に偏ってしまう危険性がある。これを回避するためには、ERPやSOAによる共通基盤を確立することが効果的」(西山氏)とした。

 評価手順や体制が不十分な点については、「評価を正しく実施できなかったり、評価人員によって評価レベルが異なったりする危険性がある。評価支援ツールの導入など、評価業務を分かりやすくする工夫が求められる」(同氏)と発言。

 また、「評価担当者当たりのキーコントロール数が多いことから、評価業務の共通化・標準化に加え、評価人員の拡充が重要」(同氏)とした。

 最後に西山氏は、「これらアクションはすべての企業が実施することが望ましいが、グループごとに置かれた状況が異なるため優先順位には違いがある」と説明。

 「G1の企業は、相対的に評価にかける人数が多いということになっている。さらに人数を減少させる余地があるので、評価業務の共通化・標準化に注力すること。G2の企業は、海外も含めて評価ボリュームに対応するだけの人数が不足している。評価人員の拡充が本格的に求められるだろう。G3の企業は、整備・構築が遅れている。社内への内部統制理解の浸透も含め、推進機能の確立を急ぐこと」とした。



URL
  アビームコンサルティング株式会社
  http://www.abeam.com/jp/
  プレスリリース
  http://www.abeam.com/jp/news/pr2008/20080902.html

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( 川島 弘之 )
2008/09/02 16:01

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