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ソフトウェア事業本部 ミドルウェア事業統括部 第一ミドルウェア技術部 プロジェクト課長の山崎啓氏
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富士通株式会社は、SOAへの取り組みとしてミドルウェア製品群「Interstage」シリーズを展開している。その中でも核となるのが、ESB(enterprise service bus)としてサービス連携の橋渡しをする「Interstage Service Integrator(以下、ISI)」だ。発売以来、バージョンアップを重ね、最新版となるV9.1が8月より出荷開始している。
ISIの強みはどこにあるのか。ソフトウェア事業本部 ミドルウェア事業統括部 第一ミドルウェア技術部 プロジェクト課長の山崎啓氏に話を聞いた。
富士通のSOAで大切なことは、「ただ単にサービスをつなぐだけでなく、ビジネス視点でITシステムを全体最適化できる点だ」と山崎氏は語る。ISIでは、そのために、連携性、生産性、信頼性に大別される多くの特長を備えている。
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InterstageのSOA体系
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ISIの概要
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連携性としてはまず、さまざまなシステムと連携が可能という点が挙げられる。SOAでは新規アプリケーション、既存アプリケーション、メインフレームなどつながなくてはならないものが多く存在する。この課題をクリアするためISI V9.1では、SOAP・JMS・RMI・CORBA・FTPなどの各種プロトコルに対応するだけでなく、米iWay Softwareとの協力で、280種類もの豊富なアダプタを用意した。「これにより他社のメインフレームなどとも容易に連携が可能になっている」(同氏)という。
また、サービス連携で問題となるのが、Windows Vistaなどで採用された文字コード「JIS2004」や外字をいかに扱うかだ。「特に外字で問題となるのだが、一般的な変換では対応できない」(同氏)。そこでISI 9.1Vでは、文字管理ミドルウェア「Interstage Charset Manager」との連携を実現。扱いづらい外字などに対しても、橋渡しする際に「他文字に変換する」「エラーにする」など文字種ポリシーが柔軟に設定できるという。
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さまざまなシステムと連携が可能
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ドラッグ&ドロップで容易に連携を実現
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Interstage Charset Managerとの連携で、外字の扱いにも対応
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生産性では、開発の効率化を実現する「テスト支援機能」が特長的だ。SOAを構築するにあたって、連携の検証は欠かせない。しかし、当然のことだが「従来は、連携元・先のシステムが完全に整うまでは検証を行うことができなかった」(同氏)。
ISIのテスト支援機能を使うと、Input/Output間でどうデータが変換されるか、想定される値を設定することで、実際に連携元・先のシステムが存在しなくても、ISI単体で連携ルールの確認作業が行えるという。「開発完了後だけでなく、開発中にも都度確認できるのは大きなメリットとなる」(同氏)。
アプリケーション開発の生産性を向上する仕組みも提供されている。それが共通インターフェイスおよび共通APIだ。SOAアプリケーションで使われる代表的なプロトコルといえばSOAPである。しかし、「SOAPのコーディングは膨大なものとなり、そこには工数を削減したいというニーズが常につきまとうことになる」(同氏)。
共通インターフェイスおよび共通APIを使うと、SOAPアプリケーションをJAVAの知識だけで構築することが可能になるという。共通APIをアプリケーション側に、共通インターフェイスをISI側に適用するだけで、すべてのサービスを同じ作法で呼び出せるようになるのだ。処理の振り分け、仲介、プロトコル変換などの作法も、共通ヘッダを指定するだけ。このため、例えば、SOAP以外を使ってサービス連携したいときも、共通ヘッダを切り替えれば容易にほかのプロトコルでの連携が実現する。SOAPにまつわる工数を大幅に削減できるというわけだ。
しかしこれにも一長一短。共通APIを使うことで、そのアプリケーションはISI越しでなければ、ほかとつながらなくなってしまう。このため山崎氏は「ベタにSOAPを書いた方が柔軟性は高い。実際はユーザーが望む方を選択する形になる」と説明している。
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テスト支援機能により開発を効率化
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SOAPコーディング工数を削減する共通API
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最後が信頼性。特にここが富士通の強みでもあるという。サービス連携を橋渡しするESBには、伝達の確実性が求められる。ISIには確実な運用を行うデータ保証の仕組みが実装されており、例えば、複数のメッセージに順序性がある場合、確実に制御して正しい順番で連携先アプリケーションに届けてくれる。また、メッセージの一部をなくさないよう工夫するとともに、万が一、メッセージの不達が発生した場合には再送もしてくれる。
ここでキーテクノロジーとなるのが、ISI内に搭載されている「メッセージ蓄積データベース」で、メッセージを一度ここに蓄積することで、順序の制御や再送などを保証することが可能になっている。
さらに信頼性を高める「空間制御」という概念も備えている。「SOAを構築していくと、さまざまな業務がサービスレベルでつながっていく。ここでもし、ある業務システムを止めた場合、直接的には関係のない業務にも影響を及ぼす可能性がある」(同氏)という。
そこでISIでは、業務ごとにサービス連携を独立化した「実行空間」を構成する仕組みを採っている。実行空間ごとにサービス連携定義を行うことで、あるサービスからのメッセージ送信を、連携先のサービスの影響を受けずに行うことが可能になる。また、ほかの業務に影響を与えることなく、一部の業務システムを停止することも可能になる。当然、保守性は高まる。
保守性といえばもう1つ。ISI標準のWebベースの運用管理コンソールのほか、「Systemwalker Service Quality Coordinator」という性能管理コンソールとの連携も特筆点。両者を組み合わせて管理を行うことで、シーケンスごとの単一的な実行モニタリングだけでなく、全体状況の見える化が実現する。「例えば、ESBを負荷分散するため複数運用している場合に、それらすべての状況を1カ所に収集して、サービスの利用料や負荷の増減をグラフや表で比較することが可能になる」(同氏)という。
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データ保証の仕組み
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業務ごとの空間制御によりメンテナンスを局所化
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Systemwalker Service Quality Coordinatorとの連携で全体状況を把握
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富士通はSOAの事業を開始するにあたって、まず自社システムのSOA化を行った。当時はまだあやふやだったSOAの概念を実感として身につけるための演習の意味合いもあったそうだ。「1296種類のシステムが連携し、400種類の帳票、100万種類の製品コードマスタが存在する状況を再編成する、非常に大規模なSOA化だった」(同氏)という。
「その過程でSOA推進組織ができた。また技術を俯瞰(ふかん)する中で、差別化技術が何であるかが分かった。社内実践での経験が、SOA製品を提供する上での大きな自信になっている。そこからあがってきた富士通社員の要望をふんだんに採り入れて、いまのISI V9.1がある」と山崎氏はアピールする。
「用途の多様性、オープン化の流れといった中で絶え間なく変更が加えられてきたシステムは、複雑化・肥大化が進み、開発の限界を迎えつつある」。同氏がこう語るように、“IT投資のうち70%が運用コスト”といわれるほど、システムは太りすぎてしまった。「そうした状況を改善するためには、SOAによってシステムを全体最適化へ導いていく必要がある。そのためにはシステムだけでなく、人、プロセス、IT資産すべてを含め、段階的にSOAを進めていくことが大切」。その有効施策として、今後も富士通のInterstage普及に積極的に取り組んでいく意向だ。
ISI V9.1の価格は、250万円(税別)/CPUから。
■ URL
富士通株式会社
http://jp.fujitsu.com/
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