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「小さく導入し育てる」ことで超短期導入とコスト削減を実現-ファーストコンタクト

Microsoft Dynamics CRM 4.0導入事例

 商社やメーカーなどにヘルプデスクを提供しているファーストコンタクトは4月、「Microsoft Dynamics CRM 4.0」をベースとした伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)のCRMソリューション、「Powerful CRM」の利用を開始した。

 ファーストコンタクトは、大手システムインテグレーターのCTCが100%出資するコンタクトセンター運営企業で、これまではクライアント/サーバー型のCRMシステムを活用してきたが、新たに一部プロジェクトでPowerful CRMを採用したのだ。

 新システム導入の最大の狙いは、「現場で変更できるシステム」。顧客によって必要な情報が異なるコンタクトセンターで利用するシステムは、現場の声に合わせて成長できるものが望ましいと考え、最初はシステムを大きく改変せず、利用しながら変更させていくことを想定して導入した。

 日本企業は導入するシステムに対し、最初に大規模なカスタマイズを行い、多少不具合があっても使い続けるケースが多い。しかし、ファーストコンタクトでは、現場の声を反映していくことでシステム利用の効率があがると判断したのだという。


検討から2カ月の超短期導入を実現

ファーストコンタクトのカスタマーサービス第3本部 セールス第1グループ グループリーダー、田中宏昌氏
 「本格的に新しいCRM導入の検討を始めたのは、2008年2月。それ以前から新CRMシステム導入に向けた準備は進めていたが、それでも同じ年の4月に利用がスタートするのはこれまでにないスピードだと思う」―ファーストコンタクトのカスタマーサービス第3本部 セールス第1グループ グループリーダー、田中宏昌氏は、検討から2カ月、実際の導入作業は1カ月という超短期導入が実現したDynamics CRM 4.0について、こう振り返る。

 「確かに2008年2月時点で、いくつかの製品をピックアップしていた。それでも候補にあがっていた比較検討を行い、4月稼働というのは自分たちでも驚く速さだ」。

 導入検討から2カ月で稼働という超短期導入が実現した背景としては、ファーストコンタクトがCTCの子会社であることも大きいだろう。今回導入したシステムは、Dynamics CRM 4.0をベースに、親会社のCTCの独自ノウハウを盛り込んだPowerful CRM。そうした他社にはない好条件も、もちろん無視はできない。

 しかし、超短期導入を実現した最大の要因は、「大きな作り込みをせずに導入する」ことを決断したからである。

 日本企業の場合、業務に使うシステムは自社に適したスタイルにカスタマイズを行うことが常識となっている。ファーストコンタクトでも、「既存のCRMシステムは、作り込みを行った上で導入している」という。

 だが、新システムについては、大きなカスタマイズをせずに導入に踏み切った理由を、「基本的な要望に対応しているシステムであれば、利用しながら、時間をかけて完成させていければいいと考えたから。最初から完成された、ガチガチに作り込んだシステムは自由度がなくなり、当社の業務には向いていないと考えた」と、田中氏は説明する。

 同社の業務はコールセンターのアウトソーシング。同社が運営するコールセンターには、商社の社内向けコールセンターという企業ユーザーが対象となるものもあれば、ソフトメーカーのコンシューマユーザーサポートのように、コンシューマユーザーが対象のものもある。また同じコンシューマユーザー向けサポートでも、鉄道会社の問い合わせ業務のように、メーカーの顧客サポートとは異なる性質のものもある。

 こうした顧客ごとに異なる要件を満たそうと考えると、「ガチガチに作り込んだシステムよりも、使いながらシステムを進化させられる、柔軟性の高いものが望ましい」というのが、ファーストコンタクトの意向であった。

 そこで大きなカスタマイズなくPowerful CRMを使い始めたというが、大きなカスタマイズがない分、導入までの期間は短くて済んだ。また、システム改変に伴うSEにかかる人件費、といったコストを削減することに成功している。

 「当社はシステムインテグレーターの子会社だが、SEを利用すれば対価はきちんと支払わなければならない。SEコストが最小限で済むということは、製品の価格以上にコスト削減に寄与したのではないか」(田中氏)。


必要だったのは現場責任者自身が画面表示内容を変更すること

Powerful CRMの画面イメージ
 しかし、使いながら進化させるということは、予算取りという点ではどうなのだろう。日本企業の場合、あらかじめ年間予算を決めておくのが普通で、使いながらシステムを直すとなると予算を取りにくくなるのではないだろうか。

 「指摘通り、予算という側面で考えると、最初にシステムをカスタマイズするやり方の方がやりやすいことは事実」(田中氏)だという。

 それにも関わらず使用しながらシステムの中身を直す方法を選択したのは、「現場の実情にあったシステムが必要だと考えた」ためだ。

 「当社の業務は、コールセンターのアウトソーシングで、顧客によって業務内容が大きく異なってくる。現場責任者であるスーパーバイザー(SV)自身が業務内容に合わせてカスタマイズできるシステムにできないか、そんな狙いから導入したのがPowerful CRMだった」(田中氏)。

 この場合のカスタマイズとは、システムそのものを大きく改変するのではなく、業務がこなしやすいように画面レイアウトを変えるといった作業を指す。

 同社のように複数企業のコンタクトセンターをアウトソースで請け負う場合、それぞれのプロジェクトによって必要な情報は異なってくる。例えば、顧客情報を画面に表示させる場合でも、A社のヘルプデスクでは顧客の氏名、住所、電話番号、応答履歴をすべて表示させた方が現場担当者は作業がしやすい。が、B社のヘルプデスクでは氏名と応答履歴のみ表示させた方が作業しやすい、といった違いがある。

 システムそのものを大きく変更するのではなく、現場責任者で、作業内容を最もよく把握しているSV自身が画面に表示する情報を選択できれば、コールセンター業務の効率化が図れる。本格的なカスタマイズは現場の声を反映した上で、変更個所を決定していけばいい―ファーストコンタクトが必要としていたのは、それが実現できるシステムであった。


Powerful CRM導入後のシステム概要図
 ただし、SV自身がシステム改変を行うことは初めての試みであったため、最初から全社的な導入は行わなかった。まず、1プロジェクトに試験的に導入し、導入成果がどの程度あるのか試すことにした。

 導入成果は明確にあらわれた。ファーストコンタクトでは、CRMを利用している多くの企業同様、先に電話問い合わせを受けるシステムを作り、利用してきた。その後メールやWebサイト経由での問い合わせ受付システムを開設したため、メール問い合わせ、電話問い合わせの情報を一元管理することが可能となった。

 すぐに回答できない問い合わせがあった場合にも、期日内に回答することが要求されるが、これまでは回答期限を過ぎた場合にアラートが発生する仕組みとなっていた。新システムでは期日を過ぎる前にアラートが発生する仕組みとしたことで、回答期限前の問題解決を徹底できるようになった。さらにこの作業を自動化することができたために、SVにかかっていた負担が大幅に軽減されたのだ。

 そしてSVから最も好評なのが、レポート作成の時間短縮の実現である。SVは作業内容についてExcelを使ってレポートを作成している。これまでは手作業でレポートを作成していたが、新システムは同じマイクロソフト製品ということで、動的ピボットテーブルが自動生成される。これを利用することで、レポート作成にかかる時間が大幅に短縮したのである。


アウトソーシング事業者に適している小さく導入し育てる方式

 現在、ファーストコンタクトでは旧システムを残しながら新システムを利用していくべきなのか、すべて新システムに切り替えるべきなのか、検討を行っている。

 「その際、ポイントとなってくるのはSVの声だと思う」と田中氏は指摘する。

 ただし、これまではSVが展示会に出向いてさまざまなベンダーから製品の紹介を受ける場合、「展示会では良さそうというシステムが本当に自分たちに適したものなのか、見極めが難しかった」という。

 これは、「メーカーやシステムインテグレーターでは、製品の機能説明はしてくれるものの、使い方を教えてくれるわけではない。機能を説明されても、自分たちに適した使い方ができるシステムなのかについては、明確な答えがなかった」(田中氏)ためだ。

 Powerful CRMの場合、SVが日常的に利用しているExcelなど、Microsoft Officeとの親和性が高く、操作体系に関して現場担当者からは使いやすいという声があがっていた。

 それに加えて「最小限の導入から始め、使いながら評価できる」ことは現場担当者からの評価も高かった。さらに、この方式であれば顧客の意見を取り入れながらの機能拡張も行えるため、その点も評価が高かったのだという。

 「お客さまからセキュリティ的な不安の声はなかったのか、と思われるかもしれないが、マルチテナントとはいえ、顧客ごとに異なるセキュリティを設けることで、A社がB社の情報を見ることができる、といった事態は起きない。むしろ、『コールセンターでの現状を把握したい』と、お客さま自身が同様のシステムを見られるようにしてほしいという要望があります。こうした意向にも対応できることが強みだろう」(田中氏)。

 今後は業務繁忙期に入るため、2009年4月以降に新システムをどう拡張していくのか決定するという。


「新時代の導入事例」とアピールするマイクロソフト

マイクロソフト Dynamics事業統括本部 パートナービジネス推進部 パートナーアカウントエグゼクティブの齋藤誉氏
 Powerful CRMのベースとなったDynamics CRM 4.0を提供しているマイクロソフトでは、「CRMブームが起こった1990年代後半から2000年代前半にかけて導入されたCRMが、リプレースの時期を迎えている。そのタイミングで、今回のファーストコンタクトのような、現場ニーズを取り入れたシステム事例を公表できることは、当社にとっても大きなプラス」(マイクロソフト Dynamics事業統括本部 パートナービジネス推進部 パートナーアカウントエグゼクティブの齋藤誉氏)だととらえている。

 「コールセンターというのは、現場主義の業務なので、設定された画面を『今日、業務をこなした結果、変更したい』といった要望が日常的に起こり得る。ところが、これまでに導入されたレガシーシステムでは、簡単な画面変更といっても実現するまでに数カ月の時間がかかることもザラだった。それに対しDynamics CRMは、Officeを操作している人であれば、違和感なく現場で画面設定の変更が可能。現場での簡単な変更の要望に対応できるだけでなく、業務内容が変更されるスピードが速くなっている、今の企業の実情にも適したシステムであるといえる」(齋藤氏)。

 また、ファーストコンタクトが検討から2カ月という超短期導入が実現した背景として、「Powerful CRMを開発したCTCが、顧客向けカスタマイズを行うベースとなるテンプレートを持っていたことも大きかったと思う。当社の業務アプリケーションは、それ自身で完結した製品でもあるが、システムインテグレーターのノウハウを入れ込めるプラットフォームとしても利用できる。この製品的な特徴がうまく生きた導入だったといえるのではないか」と説明する。

 こうした発言からもわかるように、マイクロソフトの業務アプリケーションは、これまでの業務アプリケーションの常識を逆手に取った点が特長となっている。システムを短期間に、最小の形で導入し、利用実態に合わせて変更していくことが可能となれば、「導入したものの、現場で利用されないシステム」ができてしまうことを防止できる。

 今後、ファーストコンタクトのような導入企業が、利用範囲を拡大し、全社導入するケースが増えていけば、日本企業のシステム導入のあり方に一石を投じる事例となるのではないだろうか。



URL
  ファーストコンタクト株式会社
  http://www.firstcontact.co.jp/
  マイクロソフト株式会社
  http://www.microsoft.com/japan/

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( 三浦 優子 )
2008/10/30 11:30

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