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NEC、省エネデータセンターの検証サイト「REAL IT COOLプラザ」を開設

ビル内を流れる水による冷却でPUE 1.6を達成

REAL IT COOLプラザ

REAL IT COOL推進センター長の泓宏優氏
 日本電気株式会社(以下、NEC)は11月4日、省エネデータセンターのデモ・検証サイト「REAL IT COOLプラザ」を開設したと発表した。

 同プラザは、同社の省電力プラットフォームへの取り組み「REAL IT COOL PROJECT」に基づいて製品化されたハードウェア、ソフトウェア、およびファシリティサービスを組み合わせ、省エネデータセンター環境を構築したもの。港区芝のNEC本社ビル内に開設された。

 省電力サーバー「ECO CENTER」をはじめ、ブレードシステム「SIGMABLADE」、ラックサーバー「Express5800/iモデル」、SANストレージ「iStorage Dシリーズ」、米APCの局所冷却製品などで基盤を構築し、統合管理ソフト「WebSAM MCOperations」、リソース最適化ソフト「WebSAM SigmaSystemCenter」で省電力技術の自律制御を行っている。

 NECは、同プラザを先進データセンターのデモ環境として活用するほか、SaaS/ASPサービス基盤を提供する次世代プラットフォームサービス「RIACUBE」の検証基盤として利用する予定。また、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)において、NECが産業技術総合研究所、東京大学と連携して検討している次世代データセンターの検証サイトとしても活用するという。

 CRESTにおいてNECは、サーバールーム内のエアフロー制御、空調の効率化、排熱の有効利用、データ・ジョブの動的配置といった省エネ技術の確立を目指す方針。

 こうしたさまざまな省電力技術の検証を行い、最終的には「全国53カ所の当社データセンターに検証結果・ノウハウを展開し、省エネデータセンター化を推進していく」とREAL IT COOL推進センター長の泓宏優氏は語る。


ECO CENTERをはじめとしたハードウェア製品群を導入 省電力制御ソフトウェアで自律運用を実現 CRESTの概要

リアルタイムモニターに表示されたPUE。1.59を示している
 REAL IT COOLプラザは25平方メートルと、内部はそれほど大きくはない。もともとは倉庫として利用していた一般の部屋なのだという。そのため当然ながら、床下設備など一般的なデータセンターのファシリティは備えていない。何の変哲もない床の上にラックを並べ、「設置に1カ月もかからなかった」(NEC)というように、いわば“急ごしらえ”のデータセンターなのだ。にもかかわらず、データセンターの電力使用効率を示す指標「PUE」(1.0に近いほど効率が良い)で約1.6という高水準の値を実現しているのが、同プラザの特徴である。

 もちろん、“急ごしらえ”ながら高い電力使用効率を実現するために、いくつも工夫が凝らされている。

 まずは、APCのデータセンターのホットアイルを囲むことで、熱再循環を防ぐソリューション「HACS(Hot Aisle Containment System)」を利用した。同プラザでは、2列に並べたラックの排気が集まるホットアイルを、HACSで囲むことで空調の最適化を図っている。

 空調機にはAPCの局所冷却ソリューション「InRow RC」を採用。これはラックの列(Row)内に設置するモジュール方式の水冷空調機で、ラック列単位で冷却することで空気が平行に流れるようになり、対流を抑えて効率的に室内を冷却できるのが特徴。これに触媒としてNECビル内をもともと流れていた水を引き込むことで、データセンター専用の設備なしで、効率的な空調を実現しているという。


プラザ内部の様子。経済産業大臣賞を受賞したECO CENTERの前には賞状も HACSの概要 HACSでホットアイルを囲んでいる

天井から伸びる水道管 ビル内を流れる水がInRow RCへ取り込まれている

 もう1つ、仮想化技術による省エネ化も行っている。仮想化技術は利用方法によってさまざまな利点を生み出すが、中でもデータセンターで有効と思われるのが、仮想マシンの移行機能による“サーバー負荷の平準化”である。

 サーバーの業務負荷が高くなると、レスポンス低下でSLAに従った性能を保証できないといった問題が発生しかねない。そこで同プラザでは、WebSAMを使い、例えばバッチサーバーをWebサーバーに用途変更させるような実装がなされている。

 これだけならば、単にリソースの最適化にすぎないのだが、この機能に温度センサーの情報を組み合わせることで、省エネ化をも実現。具体的には、ラックごとに複数の温度センサーが取り付けられており、WebSAMでその情報が管理されている。この状態で例えばラックの上段のマシンで負荷が上がり、温度上昇が認められると、負荷が少なく温度の低いサーバーへ自動的に仮想マシンが移行される。つまり、業務負荷の軽重のみならず、温度の高低も、仮想マシン移行のトリガーとして活用されているのだ。

 泓センター長は、「マシンルームの冷却効率は全体が均質とは限らない。低効率の場所にある高負荷サーバーを十分に冷却すると、それ以外の場所が必要以上に冷やされることになる。そうではなく、常に冷却効率の高い位置に高負荷サーバーを移動すれば、冷却の無駄が減少し、全体の効率を向上させることが可能」と話した。

 なおNECは今後も同プラザの拡張を行い、最終的にはPUE 1.4ほどの電力使用効率を達成する方針。


温度監視と仮想化管理によるホットスポット解消 温度センサー ソフトウェアで温度監視している様子


URL
  日本電気株式会社
  http://www.nec.co.jp/
  プレスリリース
  http://www.nec.co.jp/press/ja/0811/0401.html

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( 川島 弘之 )
2008/11/04 16:24

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