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楽天バンク@TTBのコンタクトセンター風景
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2007年7月に開設された楽天バンク@TTBは、東京都民銀行が楽天と業務提携して運営するインターネット支店だ。Web上に展開するにあたり、同行のシステムが24時間態勢でのサービス提供を前提としていないことが課題となった。そこで、このシステムの運営を担当する楽天フィナンシャルソリューションが、同行とともに支店独自のシステムを開発する形となった。その中で、コンタクトセンター部分のアプリケーションに採用されたのが、米Interactive Intelligenceの「Customer Interaction Center(CIC)」である。
■ 柔軟な構成変更に対応、ソフトウェアベースであるがゆえの強み
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楽天フィナンシャルソリューション 業務推進部門 Webサービス部の堀内哲部長
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システム構成図
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コンタクトセンター向けの製品は、数多く提供されているが、なぜ楽天フィナンシャルソリューションは、ソフトウェアベースの製品であるCICを採用したのか。その理由について、楽天フィナンシャルソリューション 業務推進部門 Webサービス部の堀内哲部長は、スモールスタートが可能で、かつスケーラビリティが確保されていることを挙げる。
「口座数ゼロからのスタートになりますから、何十席必要になるか、という規模が見えているわけではありません。そのためには、コールボリューム増加に備えて、スケーラビリティを確保しなくてはならないのですが、CICはWindowsベースであり、サーバーを増強すればシステムアーキテクチャを変更せずに増やしていけます」(堀内氏)。今回のシステム規模としては、まず35席分を導入。システムの変更なしで100席までの増設が可能な構造とし、すでに一度増設を行うなど、楽天バンク@TTBでは、製品の持つ柔軟性を、実際に活用している。
またそれ以外では、CICが持つ「標準のインターフェイスで他システムとの連携を容易にとれ、保守もしやすいこと」がポイントだったという。CICはさまざまな機能を持つが、楽天バンク@TTBが導入したのは、PBXとACDといった基本部分と、録音機能、レポート(コールログ)機能。それらに加えて、Web系や勘定系とSOAPでつなぎ、認証連携やIVRを用いたポップアップなどの機能をオペレーターへ提供している。
楽天フィナンシャルソリューション自体が開発能力を持ち、CICも連携のモジュールを豊富に用意していることから、システム構築自体は自社でほとんどの部分を行った。しかし、勘定系アプリケーションとの連携部分は作り込みが必要だったため、そこはCTCが補完して開発する体制となった。楽天フィナンシャルソリューション側で構築を担当したのは、堀内氏と、開発を委託したインドのスタッフの2名のみであるものの、導入期間はほぼ3カ月と非常に短い。これは、要件が随時変化するということも関係している。
楽天バンク@TTBのサービスメニューは、スタート当初はそれほど多くはなかったものの、楽天競馬や楽天証券との連携など、サービスが段階的に増えていった。従って、音声メニューやスキルの細分化など、ビジネスの状況にあわせてコンタクトセンターのシステムを変更することが要求されていたのだ。これについて堀内氏は、「要件が変更されることも、サービスが追加されることもありましたから、3カ月でいったんフィックスし、その後、都度変更を加えていくという手法を採りました。したがって開発して終わり、ではなく、簡単な操作で拡張できる、しかもSIerではなく、ユーザー自身でできるかどうかも大きなポイントでした」と説明する。
「作っては変え、作っては変えという形では、SIerを抱えていくのは高コストであり、そこを内製できるのは大きい。インドのスタッフには、Web系の開発作業や、CICのIVRデザインなどもやってもらっていまして、コストを抑えられたのではないかと思います。CICは日本語も使えますが、もともと英語ベースですから、リソースは世界中の安くて優秀なところから引っ張ってこられるのもいいですね」(堀内氏)。
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CTC ソリューション推進部の品川浩章部長
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一方、導入を支援した伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)も、同じ点からCICを評価している。CTCでは、これまでも多くのコンタクトセンター向けシステムを取り扱っているが、なぜCICを取り扱うに至ったのか。その理由を、CTC ソリューション推進部の品川浩章部長は、「コンタクトセンター専用のPBXシステムを望むお客さまもいらっしゃいますが、一方で、ソフトウェアでPBX、ACD、CTI、音声応答(IVR)、通話録音など何でもできる製品が市場に出てきました。これは、オールインワンのアーキテクチャで、基本的にソフトウェアの拡張で手間をかけずに機能拡張することもできて、コストメリットが見込めます。そうしたことから、CICの取り扱いを始めました」と説明する。
また、ソリューション推進部 CRM営業推進課の土屋貴之氏も、「お客さまのニーズとして、自分たちでコントロールや、設定、メンテナンスができるものが欲しい、ということがありまして、ソフトウェアベースのアプローチはこれにマッチします。また、複数の機能を使いたいとなると、総額がそれなりになってしまう場合が多いのですが、CICではそう高価になりません。競争力のある提案ができるのです」と述べているが、今回のケースはまさにその例ではないだろうか。
■ 現場の評価も上々、フレキシブルな機能設定に高い評価
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CICのクライアントコンソール「インタラクション・クライアント」のイメージ
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構築にあたっては、止められないシステムである以上、可用性にも最大限の配慮を行った。電力系とキャリア系、2系統の光ファイバーを引き込み、広域網の二重化を実施。CTCによれば、こういうところにも、IPベースの製品であるメリットが出せたという。また、CIC自身の安定性も高く、テスト期間から現在までシステム障害も起きていないほか、音質も十分に確保されているとのこと。
一方で、稼働し始めてからの現場の評価も上々だという。一般的なコンタクトセンター製品では、オペレーター、スーパーバイザーなどいくつかのロールを用意し、選択して使うことが多い。「しかし、CICではロールがなく、スーパーバイザーがある程度コントロールできますので、『これが見たい』というときに、チェックボックス1つ入れるだけで見えてくる。最初は、フレキシブルすぎてさまざまな機能がユーザーに見えてしまうので、現場からは抵抗があるのかと思っていましたが、これが使いやすいそうです」(堀内氏)。
コールセンターの業務は比較的定型的なものだといっても、誰が何の情報を見るか、といったことは、各人のスキルや人数構成、センターの規模によっても異なってくる。しかし、「センターにあわせて、人にあわせてフレキシブルに機能を解放していけるのは、想像と違って、とてもいいことでした」と、当時を振り返る。
■ 欠点も一歩一歩改善中、残った弱みは?
逆に、問題はないのだろうか。堀内氏に忌憚(きたん)のないところを聞いてみたが、機能面では、あまり否定的な意見は返ってこなかった。実は、堀内氏は以前にもCICの旧バージョンに触れたことがあるそうで、そのときは、1カ月に1回止まっていたくらい安定性に欠け、「障害時にスイッチオーバーもしないしアラートも上がらないので、とても困惑しました」(堀内氏)という状態だった。しかし今では安定性も解決し、信頼性の面でも不安はないとしたほか、「こんなことをしたい、ということになると、必ずやり方がある感じ。ベンダーが、技術的な部分を楽しんで作っている印象があって、いろんなテクノロジーが進化していく中で、どんどん取り込んで進化させています。期待に応えている部分がありますね」とも話す。
このように、現状のCICを評価している堀内氏だが、機能面において考慮の余地があると指摘したのは、レポートについてだった。日本のレポート形式とは若干合わないところがあるとのことで、今回のプロジェクトは新設だったため問題にはならなかったものの、既存のコンタクトセンターをCICに変える際には、レポートをどうするかを、考えなくてはいけないという。
また機能面以外では、サービス形態を考慮してほしいとも要望した。「1サーバーでかなりの席数を収容できますから、自分たちだけで使うのはもったいない。マルチサイトを同時に収容できるようにならないでしょうか。違う会社が使いますので、お互いが見えてはいけないのはもちろんなのですが、ここがまだ完全ではないようです。当社のようなグループ会社では、コストを下げて共有し、保守の手間も一元化するといったメリットが期待できるので、ぜひ検討してほしいところです」(堀内氏)。
もっともInteractive Intelligenceによれば、これらの点は、6月にリリースされた最新版の「CIC 3.0 日本語版」で改善されているという。顧客の課題を着実に取り入れていることも、CICの強みなのだろう。
一方では、CIC自身の問題ではないが、「メンテナンス時には、Windows Serverがベースなので、定期的なリブートが必要でした。24時間ノンストップで運営していますから、夜間に眠い目をこすりながらやっています(笑)。コール数が少ないうちはよくても、増えてくると大変になるのではないでしょうか」と、堀内氏はメンテナンスについて、若干の懸念を示している。
もちろん、容易な導入が可能な点をはじめ、Windowsベースである強みも多いし、パッチが月例での提供になり、リブートが必要な割合も減っているなど、影響は徐々に小さくなっている。それでもまだ、Windowsベースであるがゆえのメンテナンスの問題が、どうしても解決できない課題として残っているのは確かではないか。
いずれにしても、「世の中のシステムが単純化されて、エンドユーザー側でさまざまなことができるようになりつつありますが、開発体制にはあまり変化がありません。せっかく便利になっているのに、多額のコストをかけてシステムを作ってしまいます。当社では、なるべく内製化して、コストを抑えていきたかったのです」と堀内氏が述べるように、柔軟な拡張が可能で開発のしやすいソフトウェアベースの製品は、力のあるユーザー企業にとっては、多いに価値のあることだろう。
堀内氏は、CICのようなソフトウェアベースの製品導入を検討する際の心得として、「もちろん、簡単だとはいっても誰でもできるわけではありません。知識をつけて、やりたいことを短期間で、コストを抑えて実現したい、という思いが必要になってくるでしょう」と話している。
■ URL
楽天バンク@TTB
http://rakuten.tominbank.co.jp/
米Interactive Intelligence 日本支社
http://www.inin-japan.com/
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
http://www.ctc-g.co.jp/
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