パナソニックが、ヘルスケア向けタブレットPC「TOUGHBOOK CF-H1」を発表した。同社がLet'snoteやTOUGHBOOKによるノートPC事業で培ってきた堅牢性、長時間連続駆動、軽量化技術を活用。さらに、インテルが提唱するヘルスケア向けプラットフォームである「インテル・モバイル・クリニカル・アシスタント(MCA)」を基盤に開発したもので、医療現場やソリューションベンダーとの協業を通じて、医療現場向けに提案していくことになる。パナソニックのAVCネットワークス社・伊藤好生副社長に、パナソニックのヘルスケア向け事業への取り組みについて聞いた。
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パナソニック AVCネットワークス社・伊藤好生副社長
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―これまで、パナソニックと医療分野のつながりという印象があまりないのですが。むしろ、東芝などは、ITを主軸にしたメディカルの専門会社がありますし、富士通やNECも医療分野で実績がある。なぜ、パナソニックが、これらメーカーを差し置いて、この分野に参入することになったのですか。
伊藤氏
確かに、パナソニックのPCが、医療分野と強いつながりがあるという印象はないかもしれません。ただ、医療分野においては、基幹システムを中心とした医事システムは進化しているが、医療現場で活用し、現場の生産性を向上させるPCというものは、これまでまったく存在していなかった。一般のPCを導入して、使いにくさや、改善点を抱えているというのが医療現場の状況でした。
医療分野には、医療分野特有の要件があり、その要求に応えることができる技術がなかなか存在していなかった。重たいPCを運ばなければならなかったり、PCを落として壊してしまうという危険性があったり、操作性が悪いというような課題が出ていました。
そうしたなか、インテルのマーケティングチームとの話し合いのなかで、インテルのヘルスケア向けプラットフォームであるMCAを知り、その実現において、当社が持つ堅牢性、軽量化といった差別化技術やビジネスモデルが、医療分野が求める要件に合致するということがわかってきた。むしろ、TOUGHBOOKのブラックボックス技術が生かせるのが、医療分野であるという自信を深めることができました。
そこで開発をしたのがTOUGHBOOK CF-H1なのです。もちろん、そのなかには、医療現場で必要とされる要件に対応した新たな技術革新も必要でした。消毒薬を使ってふき取りをするために耐薬品性能を持った表面材質の開発や、消毒液でふけないところやふき残しが起こらない凸凹がない表面形状を実現したのも、医療分野ならではの要件に対応するための工夫です。医療現場に必要な数多くのサムシングニューが盛り込まれています。
―販売目標は、2008年で1万台。2012年には10万台。かなり慎重な数字のように見えますが。
伊藤氏
ご指摘のように、慎重な数字に見えるかもしれません。しかし、ヘルスケア市場はニッチな市場であり、これまでに皆無だった医療現場向けPC市場を育てていくことが必要です。当社は、むやみに数字を追うのではなく、医療分野を得意とするシステムインテグレータとの協業関係を築きながら、着実に市場を広げていきたい。
また、この市場においては、通常のPCのビジネスモデルとは異なる考え方が必要です。10万台売れる標準的なPCを、12万台売るためにはどうするかという考え方ではなく、2万台売るための専用設計のPCを作れるかどうかということなのです。多くのPCメーカーが追求する大量生産の考え方では参入できない分野だともいえます。
パナソニックは、Let'snoteやTOUGHBOOKで、1台からの受注生産に対応できる体制が確立できている。ひとつの病院で何百台という単位での受注対応することも可能ですし、個人病院のようなところに向けての1台単位でのカスタマイズ受注も可能です。その体制を整えている優位性を活用しながら、システムインテグレータとのパートナーシップで展開していきたい。私は、ヘルスケア向けPCを、Let'snoteやTOUGHBOOKに続く、第3の柱に育てたいと考えています。
―第3の柱というのは、大きな目標ですね(笑)。
伊藤氏
社長の大坪(パナソニック株式会社の大坪文雄社長)からも、「これは新規事業創造に値する商品である」と言われています。パナソニックでは、新たな事業領域に打って出る商品に力を注いでいく姿勢を明らかにしています。TOUGHBOOK CF-H1は、医療の現場という新事業領域を創造する商品として、事業を成長させていきたい。
―この製品に関しては、直販も行うのですか。
伊藤氏
基本的には直販は考えていません。パナソニックグループのなかにも、パナソニックメディカルといった医療分野を得意とする企業がありますし、富士通フロンテックといった他社系列の企業ともパートナーシップを組んで販売していくことが決まっている。そのほかにも、医療分野に強い企業との連携を図っていきます。こうしたパートナーを通じた販売を基本としていきます。
特定のシステムインテグレータとのパートナー契約を結ぶのではなく、多くのシステムインテグレータに扱っていただける体制とし、さらに、システムインテグレータや顧客の要求にあわせた柔軟なカスタマイズにも対応していく考えです。販売ルートの開拓に関しては、インテルとの協業体制もとっていくことになるでしょう。
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TOUGHBOOK CF-H1
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―製品開発において最もこだわったところはどこですか。
伊藤氏
ひとつあげるとすれば、実際に使っていただく看護師の方々に、精密機械を使っているという認識を捨ててもらえるようなモノづくりをする、という点です。PCを使っているという感覚を持ってしまうと、PCをケアすることに時間や意識をとられてしまう。ケアする対象は患者ですから(笑)、そこに気を遣ってもらいたい。片手で持っても使いやすい、あるいは消毒する際にもふき取りやすい、タッチパネルで操作できるという点も、PCに対する意識を無くしてもらうための工夫です。
それと、社内に対しては、早く商品化することを徹底しました。今回の商品づくりに際しては、日本、欧州、米国の100件以上の病院の医師、看護師にヒアリングしました。要求はさまざまなものがある。100人聞いたら、100人の意見があるといってもいいでしょう。それを紙に取りまとめても、なかなか進展しない。とくかく形があるものを作って、そこからスタートさせようと。例えば、この形状が決まるまでに、50個以上のデザインを作りました。そのなかから、5個に絞り込んで、欧州の大手病院の看護師40人を集めてもらって意見を聞いた。それらの意見を取りまとめて、いいと思われるものを商品化したわけです。
―現場の意見を聞いて商品化するというのは、まさにTOUGHBOOKの開発手法ですね。
伊藤氏
その通りです。TOUGHBOOKは、警察や自動車整備、工事会社などで採用されていますが、それらは現場で利用する方々の意見を聞いて開発し、進化を遂げてきたものです。今回のヘルスケア向けPCも、同様に現場の意見をもとに商品化したものです。
―看護師が利用するには、1.5kgという重量はちょっと重たい感じがしますが。
伊藤氏
その点は、次のステップとして改良する必要があると思っています。バッテリー駆動時間と堅牢性、そして重量のバランスの上では、このスペックが、現段階では最適のものだと思っています。技術進化とともに、これは改善していくことになります。ただ、病室などに持ち運ぶときには、ハンドルをつけていますから、1.5kgでも持ち運びやすいものとしました。また、片手で持つ場合にも、ストラップをつけて補助していますから、それで安心して片手で操作できる。ストラップがないとしっかりと持たなくてはいけないという意識が働き、手に余計な力が入ってしまいますから、それが疲れたり、重いと感じる要因にもなります。そうした細かな工夫も、重量をカバーする要素となっています。
―モデルチェンジのサイクルはどのぐらいを想定していますか。
伊藤氏
Let'snoteやTOUGHBOOKのように、CPUが進化するサイクルにあわせて、新製品を投入するということは考えていません。長く使っていただくということを前提として、必要に応じてマイナーチェンジをしていくことになります。最新のCPUテクノロジーを搭載することが求められる領域の商品ではないと考えています。
―当面の目標は。
伊藤氏
まずは、実績がある欧州市場を中心に展開し、北米、日本の病院にも積極的に導入を図っていきたい。最初の目標は、100億円の事業規模にまで拡大させることです。単純計算で、5万台を販売できれば、100億円を突破する。できれば来年度には、この目標を達成したいという意気込みで取り組んでいきます。
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( 大河原 克行 )
2008/11/07 00:00
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