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国際間ブロードバンド通信インフラの立役者“海底ケーブル”に注目

NEC山梨が光海底中継器の生産工程を披露

NEC山梨。紅葉も美しい緑豊かなこの地に宇宙船のたたずまい。NEC山梨の水戸郁夫社長のいう「いまにも宇宙に飛び立ちそうなこの建物で8000mという海底で活躍する機器を生産するのも感慨深い」の言がよくわかる
 いま、海底ケーブルに熱い視線が注がれている。というと、意外に思われるかもしれない。だが、国際間ブロードバンド通信の活発化に伴い、高速・広帯域かつ高品質ニーズを満たすネットワークインフラであることを思えば当然であろう。海底ケーブルシステム市場は、1999~2001年のITバブル期に突出したものの、その後は急降下、しかし2006年ごろから回復のきざしがみえてきた。こんな折り、海底ケーブルシステム業界のいわば御三家の一つ日本電気株式会社(以下、NEC)はこのほど、NEC山梨(山梨県大月市)において、主に光海底中継装置の生産システム工程を披露した。


国際通信では衛星をしのぐ海底ケーブル

海底ケーブルの敷設イメージ。海底ケーブルは約40~100km間隔で光海底中継器が接続される。日米(西海岸)間約8000kmでは、少なくとも80~100台の光海底中継器が必要だそうだ。実際に海洋に敷設される際は、敷設船の積載量から2000~3000km分のケーブルを載せて目標の海まで運搬し敷設する。そして海上にブイで敷設済みの目印を置き、また次の2000~3000km分のケーブルを運んできてそこから先への敷設を繰り返す。期間はおおむね10~18カ月という
 国際通信というと衛星通信がまず思い浮かぶ。だが、地上3万6000kmに位置する衛星と海底ケーブルによる通信を比較した場合、伝搬時間が前者約250msに対し後者約50msと小さい。これは国際電話で経験したことがある、あの相手の声の遅れによる煩わしさが衛星通信の場合伴う、ということでうなずけようというものだ。また伝送容量は、前者が電話換算で4万8000回線(+TV3チャネル分)に対し、後者は実に8000万回線にも及ぶ。しかも、システム寿命も前者10~15年に対し後者25年で、結果1回線あたりの建設費も安価ですむ。

 こうしたことから、1995年当時は海底ケーブル対衛星50対50に対し、2008年現在では97対3にまで推移しており、すでに海底ケーブルが国際通信のインフラとしては主役的な存在であることがわかる。

 また海底ケーブル自体も、1970年代には同軸ケーブルであったものが、現在ほとんどが光ファイバケーブルに代わり、最新光伝送技術によれば、DWDM(Dense Wavelength Division Multiplexing:高密度波長分割多重方式)により、1波長10Gbpsで128波長の送信が可能、かつ1ケーブルあたり片方向8本(上り下り合計16本)で10.24テラビットの伝送までを可能としている。これは、1ケーブルあたり、電話の場合約1億6000万回線、DVD(4.7GB)の場合1秒間に約272枚伝送できる、という勘定だ。


クリーンルームにおける徹底管理に基づいて高品質な光海底中継器を生産

NECブロードバンドネットワーク事業本部長の今井正道氏。NECの海底ケーブル事業の歴史と高信頼性など強みをアピール
 こうしたブロードバンド本格時代に、いいことずくめの海底ケーブルだが、その誕生までには厳しい試練が伴う生産プロセスを経なければならない。NEC ブロードバンドネットワーク事業本部長の今井正道氏は、「海底ケーブルに取り付けられた光海底中継器は、水深約8000mの水圧である800気圧に耐える必要がある。これは陸上でまさに親指1本で自動車を支えるようなもの。そのために海水から身を守る気密封止技術や耐圧技術、1万5000V以上の耐電圧技術、そして幾多の過酷な試験を経て生産が可能となる」と、実にシビアな生産プロセスを経ねばならないことにふれ、同時にNECのそれら技術や試験などが業界でも類なき高信頼性、そしてメンテナンスフリーを実現させるコアコンピタンスであることに胸をはる。

 海底ケーブルシステムの主要機器である光海底中継器の生産工程はおおむね次のとおりだ。まず、光信号を増幅するための光海底中継器におけるいわば心臓部ともいえるアンプを組み立てるが、そのためにプリント基板からユニットに組み上げる。その後これを筐体に収納するが、海中に出ている光ファイバケーブルと接続しなければならないなどの作業も伴い、完ぺきな気密性が要求される。そのために、高真空中で電子ビームを使って溶接、組み立てていく。そして、これが目標海上までの輸送や敷設時に伴う振動に耐えうるか否かの振動試験を受けなければならない。加えて、出来上がった中継器が深海の800気圧にも及ぶ高水圧環境で動作するか否か、ヘリウムを利用して高圧気密試験を受けなければならない。さらに、水温などの最終試験を経なければならない。光海底中継器はこのように、クリーンルームにおける厳格な管理下での組み立てや幾多の試験をクリアして初めて出荷されるのである。


クリーンルーム。光海底中継器は8000mの海底で800気圧という環境でも長期間、正常に動作することが絶対条件。したがって製造工程すべてがクリーンルーム内の厳重な管理のもと実行される。この部屋の広さの半分がプリント基板やユニットの組み立てに、もう半分が気密デバイス組み立てなどに使われている 振動試験。組み立てられた光パネルやユニットが、輸送時や敷設時に伴う振動や衝撃にも耐えられるか否かの試験を行う。奥に銀色円筒の試験対象がみえる ユニットを耐圧シリンダに収容し、気密デバイスとの接続作業を行う。電子ビームを使ってより気密性を向上させる作業も伴う

高圧He気密試験。まさに海底8000mの環境で800気圧に耐えるキーとなる重要な試験である。後方、扉の向こうの部屋で試験が行われる 最終試験。実際の海水中における水温に対する試験などが行われる。この後出荷場へ送られる

光海底中継器。長距離通信で減衰する光信号を光のまま増幅し次の中継器へ向けて送出したり、障害監視を行う機能を持つ。10Gbpsで64波や128波ほか高速・大容量に対応する
海底ケーブルに組み込まれた光海底中継器。海底ケーブルシステムとしての設計寿命は25年を保証している

多角的な戦略で臨む海底ケーブルシステムのビジネス

 NECにおける海底ケーブルシステム事業の歴史は38年に及び、この間中継器は一度の故障もないという。これはNECがもっとも誇りとするところだ。

 これまでの海底ケーブルプロジェクトのうち最大級は、2007年4月におけるアルカテルルーセントとの共同受注による東南アジアと米国を直接接続するAAG(Asia America Gateway)であり、これは10Gbpsで96波による総延長2万kmに及ぶ壮大なものとなっている。NECではこのように、そのほか数多くのプロジェクトを含めて、アジア太平洋地域にフォーカスしているのである。その理由の一つに、システムを組み上げ敷設すべき現地までの船舶輸送等を加味すると、アジア太平洋地域では採算上有利にビジネス展開できる点をあげる。こうしたことで、ワールドワイドでは20%のシェアであるものの、アジアパシフィックでは40%シェアを確保している。一方NECは、これまで製造・敷設から保守まで自前供給可能というtycoおよびAlcatel-Lucent両競合陣に対しハンディがあったが、先にOCC社の経営権を取得、これで海底ケーブルの安定供給も可能となり、競合2社とほぼ同等のサービスを供給できるようになった、という。

 NECでは最近、こうした海底ケーブルシステムに加えて、この技術をベースとして構築可能な海底地震観測システムにも強みをもち、設計から敷設工事まで含めて日本国内では唯一の関連システムサプライヤになっている。今後、伝送可能な波長の数を年々増大させることや、2~3年内をメドに1波長あたり10Gbpsから40Gbpsをめざすことも含め、さらに高速・広帯域を目標とした開発に向けて余念がない。

 あらためて、今井氏にいまなぜ海底ケーブルなのか、を聞いてみた。「海底ケーブルのニーズは極めて高い。当社の敷設プロジェクトも精力的に進めている。しかし、その生産能力はワールドワイドでみても年間6~7万kmが限度ではないか。だから今後もビジネスは追い風。海底ケーブルの性能を上げることも大事だが、その生産能力自体をあげる技術革新も不可欠」と指摘する。



URL
  日本電気株式会社
  http://www.nec.co.jp/
  NEC山梨
  http://www.nec-yamanashi.co.jp/


( 真実井 宣崇 )
2008/12/08 11:15

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