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APC内藤社長に聞く、データセンターの段階拡張を可能にする「InfraStruXure」

“4ラック1セット”の効果に迫る

 スペース不足、熱問題、エネルギー問題など、データセンターには課題が山積みである。そこで進められているのが、グリーンITや仮想化などによる革新だ。米APCは、データセンターに拡張性をもたらす「InfraStruXure」という製品群でこの課題に取り組んでいる。太陽電池やUPSの開発で幕を開けたAPCも今では「電源」「空調」「ラック&PDU」「マネジメント」「プロフェッショナルサービス」といった包括的なデータセンター効率化ソリューションを提供している。今回は株式会社エーピーシー・ジャパン(APCジャパン) 代表取締役社長の内藤眞氏に、同社のソリューションがどのような効果を生み出すのか、また事業の方向性などについて話を聞いた。


4台1セットで高い拡張性を実現するInfraStruXure

4台1セット。左からUPS、分電盤、ラック、冷却装置
 InfraStruXureは、ひと言でいえば、「物理インフラをラックに統合したアーキテクチャ」(内藤氏)である。IT機器をマウントするためのラックをはじめ、UPS、分電盤、冷却装置をいずれも「ラック型」に統一し、4台を1セットにして必要なファシリティをそろえる。

 これにより、「従来のデータセンターが抱えるさまざまな課題を解決する」(同氏)という。

 従来のデータセンターは、将来のユーザー数を見込み、当初よりある程度大きなキャパシティを持って設計されてきた。サーバー室には未使用分も含め、膨大な数のラックがずらりと並び、大型の電源室から一括して電力を供給される。冷却には、とにかく部屋全体を冷やすための大型システム「CRAC(Computer Room Air Conditioner)」が設置され、長時間在室していると風邪をひくのではと心配になるような環境だった。

 こうしたアプローチの弱点は、人間に対する環境劣化を招くほか、初期投資が多額なったり、無駄な電力コストが発生したり、スペースが足りなくなったりする点。あるデータセンター事業者では、電源容量が限界に近づきつつあるので、電源室にCVCF(交流安定化電源装置)を増設しようとしたところ、スペースが足りなかったという話もある。

 4台1セットのInfraStruXureは、こうした状況を改善してくれる。UPSや分電盤、空調まで「ラック型」となるので、従来のように集中電源室やCRACが不要となる。いずれもモジュール型となっているので必要な時に必要な分だけ増設して、初期導入コストや無駄な電力コストを削減できるのだ。


効率的な冷却を実現する仕掛け

ラック列単位の冷却

HACSイメージ図

ホットアイルを覆い囲むことで、暖気と冷気の混合を防ぐ
 InfraStruXureの具体的な主要構成要素は、冷却効率に優れる「Net Shelter SXラック」、データセンター内配電の自由度を高める「ラック型分電盤」、負荷容量とバックアップ時間に応じて内部構成を変更できる「Symmetra PX UPS」、ラック列単位で冷却する「InRowシリーズ」となる。

 このうち、Net Shelter SXラックでは、サーバーの吸気口に十分な空気を供給するため、広いフロントドア開口率(66%)を実現するとともに、排気が前に回り込まない構造を採用したり、排気を妨げないケーブルスペースを確保したりするなどの工夫が凝らしてある。

 これにより、前面から十分に冷気を取り込み、サーバーの熱はスムーズに背面へ排出することが可能になる。すると、ラック列の背後には暖かい空気がたまったホットアイルが形成される。従来なら部屋全体を冷やすことでホットアイルの温度を下げていたのだが、その場合、あまり温度の高くない個所まで余分に冷やしてしまうため、効率が悪い。

 また従来、データセンターの空調はラックあたり0.5~2kWの発熱を想定して設計されているというが、ブレードサーバーなどで高密度化された昨今の環境では、ラックあたり5~30kWに及ぶこともあるという。そのような高密度環境を、従来のパッケージエアコンとフリーアクセスフロアの組み合わせで冷やそうとしても、そもそも必要十分な冷却風量が確保できないケースがあるのだ。

 「効率的なのは、できるだけラックの近傍で熱を処理することだ」と内藤氏は語る。それを可能にしたのが、「ラック列単位の冷却」を行うInRowシリーズである。ラックの隣にラック型の冷却装置を並べて設置する。空冷式、水冷式の両方をラインアップしているが、どちらも考え方は「ラックから排出された熱を、温度が高いまま冷却ユニットに吸い上げてしまう」というもの。これにより、ラックごとの発熱密度に応じた効率的な冷却を実現している。

 冷却関連ではもう1つ、ホットアイルを覆い囲んで冷却された空気との混合を防ぐ「Hot Aisle Containment System(HACS)」という製品もある。

 データセンターでは、ホットアイルとコールドアイルを分離させる手法が一般化している。この手法では、ラックの前面同士、背面同士が向き合うように列を作っていく。すると排熱側の背面の間がホットアイルとなり、冷やすべき個所がスポット化され、余分な冷却をストップすることが可能になる。

 しかしせっかく暖気と冷気を分離しても、混合してしまっては意味がない。そこでHACSではホットアイルを箱で覆い囲んで、暖かい空気を密封してしまう。その状態のまま、InRowシリーズで暖気を冷やして外へ送り出すというわけだ。これも、「ラック列単位の冷却」だからこそ実現したアプローチである。


管理ソフトでグラフィカルにリソース配置計画

Capacity Manager
 こうした製品で効率化を図っても、データセンターの構成は常に変化していく。それに追随していかなければ、またいつスパゲティ化しないとも限らない。そこでInfraStruXureには「InfraStruXure Central」「Capacity Manager」「Change Manager」といった、データセンターの状況を把握し、変更を管理するための可視化ツールも存在する。

 中核となるのが、InfraStruXure Centralである。データセンター全体の物理インフラデバイスを管理し、各種センサーから得た、電力・冷却・環境データなどの一元ビューを提供する。IT機器も含めたフロアレイアウトを表示するマップビューからは、どのラックがどのような状況にあるか、俯瞰(ふかん)することもできる。

 2つ目のCapacity Managerは、InfraStruXure Centralを基に、データセンター内の機器の最適配置を提案してくれる。電源・冷却・スペースに関するデータを組み合わせ、例えば、新たにサーバーを導入する場合に、どのラックに入れるべきか、最適配置案を提案してくれる。内藤氏によると「各社製品のカタログ値もデータベース化されており、A社のBサーバーを導入する場合、ラックCには問題なく入れられるが、ラックDだと熱問題が発生する」といったことが分かるという。配置案が決まれば、ボタン1つで、装置追加のための電力・冷却キャパシティ、空きスペースを予約することも可能になっている。青・緑・黄色・赤の4色で現状を可視化してくれる直感的なインターフェイスも特徴的だ。

 そして実際の変更を管理するのがChange Manager。変更を実施するための項目別タスクをスケジュールし、割り当て、ステータスの管理を行ってくれる。管理用モバイルデバイスなども用意されており、データセンター内を移動しながら、デバイスの追加・移動・撤去を行うことも可能という。


「グリーンIT」は経済を立て直すための新しい産業革命

APCジャパン 代表取締役社長の内藤眞氏
 では、APCジャパンの事業は順調なのだろうか。2008年は洞爺湖サミットなども開かれ、「グリーンIT元年」と称された1年だった。内藤氏によれば「この波が、グリーン化に大きく貢献できるAPCジャパンの認知度を上げてくれた。当社にとっては弾みをつける津波が来たような1年だった」と語る。

 また、仮想化もAPCジャパンにとっては追い風になったという。「仮想化でサーバーの効率化が進むと、実は消費電力や熱の問題が浮き彫りになる。その事実がまだまだ知られておらず、仮想化を行ってから問題にぶつかるケースが多かったが、そこでも当社がうまく活躍できた」(同氏)。

 しかし、2008年後半からは、経済ががけから滑り落ちた。その影響を受けることはなかったのだろうか。内藤氏は「確かに一部影響を受けた。例えば、小型UPSなどはOEM供給先のハードウェアベンダーが不調となったことで引き合いが減った」としつつも、「逆に大型UPSの需要は上がり、その結果、経済環境が悪くても成長することができた」と語る。データセンターなどで予算削減という事態が発生しても、設備の導入を完全に打ち切ることはできない。そうした際に、拡張性に優れ、少しずつ始められるInfraStruXureがウケたという背景があるようだ。同氏は「APCジャパンの製品は不況にこそ興味をひく」と自信をのぞかせている。

 2009年はというと、引き続き「グリーンIT」が戦略的なキーワードになると同氏は語る。「経済に危機がある時こそ、景気刺激のために新しい産業を作らなければならない。過去にもさまざまな産業革命があったが、今回の危機に刺激を与えうるものこそがグリーンIT。2009年も当社はこの波に乗っていく」。


 米APCは、2007年に仏Schneider Electricに買収された。そのSchneider Electricは電源設備などに強みを持っており、IT系に強いAPCのほか、太陽電気、風力発電の会社も買収を推進。総合的にグリーンにかかわることで、「エネルギーマネジメント」というビジョン・産業を確立しようとしているという。

 APCジャパンの目標もこれに近いものがある。ITインフラに関する製品を手掛ける同社だが、いまは積極的に、設備屋、建築屋、コンサルタントなどとパートナーシップを進めており、その心は「全部が一緒になって、データセンター設計などの上流から入っていかないと、グリーンIT化されたデータセンターはなかなかできないから」というのだ。

 「大手ゼネコンであれば、データセンターのそうした事情に詳しい専門部隊がいることもあるが、まだまだデータセンターの現状を承知の上で設計されることは少ない。エンドユーザー側でも、ITはIT部門が管理し、設備に関しては総務部が管理するといった縦割りの状況。打ち合わせをするにもうまく意思の疎通ができないことがある」(同氏)。この状況を改善し、業界同士で横につながろうとする姿勢は、ITだけに収まらない、もっと大きな「エネルギーマネジメント」産業の実現を目指した姿勢といえる。

 これに伴い、2009年も新製品の発表を加速していく方針だ。2008年には大型UPSやHACSなどをリリースし、2009年にもすでに、IT機器を2系統給電化するスイッチや、室内に水を引き込まずに水冷を実現する空調システムなど、さまざまな新製品を発表してきている。2009年はこれ以外にも、グリーン対応の小型UPSやラック新製品などを発表する予定という。

 内藤氏によれば、InfraStruXureにより、「従来のデータセンターのTCOが10年で13億円とすると、53%削減して6億円に抑えることができる」とのことだ。



URL
  株式会社エーピーシー・ジャパン
  http://www.apc.com/jp/

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( 川島 弘之 )
2009/03/13 14:20

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