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WCGの概要
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WCGのの利用イメージ
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日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は3月17日、ワールド・コミュニティ・グリッド(WCG)の新プロジェクトとして、「ファイト!小児がんプロジェクト(Help Fight Childhood Cancer Project)を本日より開始したと発表した。
この研究プロジェクトは、米IBMと千葉県がんセンターおよび千葉大学、そして日本IBMがプロジェクトメンバーとなり、小児がんの一種である神経芽腫の新しい治療薬を開発することを目的に行われるもので、WCGが処理能力を提供する研究プロジェクトとしては、アジア太平洋地域では初めてとなる。
WCGは、個人や企業のボランティアが所有するPCの、使われていない時の演算処理能力を活用して「仮想スーパーコンピュータ」を構築し、医療や社会、環境分野における全世界的な課題解決を目指す研究プロジェクトを、ITの側面から支援する、世界規模の人道的な活動。現在、200か国以上から43万人以上が参加し、120万台以上のコンピュータが接続されており、その中でIBMは、WCGを構築するためのハードウェア、ソフトウェア、技術サポート、およびホスティングサービス、メンテナンスを無償で提供している。
2004年11月の発足以来、3つのプロジェクトが終了し、2つのプロジェクトが計算結果の解析フェーズに入っており、現在は6つのプロジェクトの計算を実行中。今回の「ファイト!小児がんプロジェクト」は、これらに続く12番目のプロジェクトとなり、長く神経芽腫の遺伝子研究を進めてきた千葉県がんセンター研究局長の中川原章氏が率いる研究チームが、WCGの膨大なコンピュータ処理能力を活用し、神経芽腫の新しい治療薬の開発を目指す。
具体的には、がん細胞の増殖を助けるたんぱく質分子であるTrkB受容体、ALK受容体とその下流シグナル分子SCxxの3つに対し、約300万個の低分子化合物との組み合わせをシミュレーションすることによって、がん細胞増殖を助ける機能を阻害できる正しい構造と化学的な性質をもつ新しい候補薬剤を見つけ出す。WCG上ですでに実行されているプロジェクトで実績のあるシミュレーションソフトウェア「AutoDock」を活用することで、何千もの候補化合物の解析を平行して行うことができるため、高速なスクリーニングを実現。これにより、薬剤の候補となる化合物を見つけ出す実験シミュレーションにかかる年月を大幅に短縮し、約2年間でプロジェクトを完了する予定。
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千葉県がんセンター研究局長の中川原章氏
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中川氏は、「小児がんの中でも、神経芽腫の治療は非常に難しく、患者の生存率は40%未満と低いのが現状。そのため、先進国では、この治癒率を上げることが重要な課題となっている。しかし、新たな治療薬を見つけるためには、がん細胞の増殖を助ける3つのたんぱく質分子それぞれに、300万個の低分子化合物をスクリーニングする必要があり、これにかかる時間は通常のコンピュータで1個あたり6時間といわれている。そこで、WCGを活用することで、スクリーニングの高速化を図り、900万回の計算処理を約3カ月間で終了すると見込んでいる。そして、このスクリーニング結果を解析し、2年後には新治療薬の候補となる化合物を選び出したい」と抱負を語った。
さらに、「このプロジェクトが世界的な活動として広がっていくことで、世界規模での小児がん治療への関心度向上とともに、治療が思うようにできずに亡くなっている発展途上国の子どもを救うための運動につながっていくことに期待している」と述べた。
なお、プロジェクトの参加希望者はWCGのWebサイトから自分のPCを登録し、ソフトウェアをインストールするだけで、無料で参加することができる。インストール後は、PCが一定時間使われていない状態になると、WCGのサーバーにデータ要求を送り、サーバーから送られてきたデータの演算処理を行う。演算処理中は、各プロジェクトのスクリーンセーバーが立ち上がり、そのパソコンが担当している演算処理の進行状況を確認できる。演算処理が終了すると、処理結果をサーバーに送り返す。WCGでは、これまでに2億5000万個を超える演算処理を行っているという。
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ファイト!小児がんプロジェクトの参加方法
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ファイト!小児がんプロジェクトのスクリーンセーバー
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■ URL
日本アイ・ビー・エム株式会社
http://www.ibm.com/jp/
千葉県がんセンター
http://www.chiba-cc.jp/
プレスリリース
http://www-06.ibm.com/jp/press/2009/03/1703.html
( 唐沢 正和 )
2009/03/17 18:25
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