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Windows vs Linux -マイクロソフトのキャンペーンは成功するか?-

第二回・日本IBM -UNIXユーザーはWindowsを比較対象としていない


 WindowsとLinuxを正しく比較して欲しいとマイクロソフトはアピールしているが、実際にLinuxソリューションを提供しているベンダーは両ソリューションをどう見ているのか。現在、最もLinuxソリューション販売で成果をあげているベンダーの1社である日本IBMでは、「実はLinuxとWindowsを比較検討し、導入するユーザーはほとんどいない」と指摘する。それはどういう理由からなのだろうか。


UNIXソリューションからIAサーバー+Linuxで大幅コスト減

Linux事業部Linux事業企画・担当・上条利彦氏
 日本IBMのLinux関連ビジネスは好調に伸張している。昨年、ハイエンドサーバーzSeriesにLinuxを搭載したソリューションを発表したが、「トータル出荷の2割がLinuxソリューションとなった」(同社・橋本孝之・常務執行役員)など、Linuxソリューションは着実に定着している。

 しかし日本IBMでは、「すべてのソリューションをLinuxにしてしまおうと考えているわけではない。適材適所で使い分けてもらえればよいのではないか」(同社Linux事業部Linux事業企画・担当・上条利彦氏)と指摘する。

 「調査会社の発表を見てもらえばわかる通り、Windowsは企業ユーザーに圧倒的なシェアを獲得している。これはWindowsソリューションを必要とするユーザーが存在するからで、当社でもWindowsソリューションを販売している。Linuxによって、Windowsを駆逐してしまうということはまったく考えていない」(上条氏)

 だが、実際にLinuxソリューションを導入しようとするユーザーが選択の際に比較するのは、「UNIXとの比較」である。マイクロソフトがキャンペーン展開している、「WindowsとLinuxを検討比較するユーザーはほとんどいない」のが実態である。

 理由は明確だ。LinuxはそもそもUNIXの延長として作られたOSであり、互換性ももっている。それまでUNIXでソリューションを構築してきたユーザーにとってLinuxは、Windowsよりも近い存在なのである。

 「Linuxを導入しようとするユーザーは、すでにUNIXソリューションを導入している場合がほとんど。それまで利用してきたUNIXソリューションを新しくしようとする場合、ハードウェアをUNIX機からIAサーバーに切り替えると、それだけでコストを大幅に押さえることができる。最近では、UNIXをIAサーバーで動かすことも可能だが、周辺機器用ドライバの対応状況などを考えると、UNIXよりもLinuxに一日の長がある。その結果、UNIX機+UNIX OSから、IAサーバー+Linuxへと切り替えるユーザーが増加している」(上条氏)


いまだ多い「オープンソースだから」の誤解

 ただし、日本IBMでも、マイクロソフトが「Get the Facts」キャンペーンを展開しているのと同じ意味で、「Linuxの真実をきちんと把握して欲しい」と考えているという。

 これは、「今でも、Linuxには色々な誤解がつきまとっている」ためだ。マイクロソフトのキャンペーンとは狙いは異なるものの、Linuxソリューションを提供するベンダー自身も、「いまだにLinuxに対する誤った認識が少なくない」と指摘する。

 誤解されているポイントの一つ目が、「Linux=無料」というアピールが起こした弊害である。

 「TCOでLinuxとWindowsを比較するとなると、エンドユーザーの中には、サーバーではなくクライアントをごっちゃにして比較を行う人もいる。これはLinux=オープンソース=無料というイメージが先行しすぎた弊害だろう。単純に無料のものは低コストで、対価を支払うものは割高と考えられてしまいがち。実際には商用で利用するLinuxは有償パッケージで販売され、有償サポートなどによってビジネスでも利用できるソリューションになる。無料というイメージが、実はLinuxビジネスを行うベンダーにとって、大きな足かせとなり、ビジネスに弊害を及ぼしている」

 誤解を生んでいるもうひとつのポイントは、「オープンソース」にまつわるものだ。

 「UNIX技術者の中には、Linuxはオープンソースという特別なもので、特別なスキルが必要なのではないかと考えてしまっている人がいまだにいる。しかし、実際にはAIXやSolarisといったUNIXを理解している技術者であれば、2、3日勉強してもらえればそれなりの技術レベルに成り得る。この事実を正しく認識して欲しい」

 日本IBMでは、昨年あたりからパートナー企業と連動し、Linuxソリューションをエンドユーザーに提供していくための仕掛け作りを進めているが、その際に、「(オープンソースのLinuxソリューションを構築するためには)特別なスキルをもったエンジニアを養成しなければならないのではないか」という質問を寄せられた。

 「オープンソースということばが浸透しすぎたために、誤った印象を与えてしまっていることを痛感した」と上条氏は指摘する。

 オープンソースであるがゆえに、「出来上がったソリューションもすべて公開しなければいけないのではないかと考えている人もいまだに多い。そこで、セミナーなどの際には、理解している人には当たり前であるオープンソースとは特別な存在ではないことまで、あえてアピールしなければならなかった」という。

 だが、昨年あたりから、こうしたオープンソースに対する誤った常識についてセミナーなどで説明すると、「今日の話は役に立たなかったというアンケートの答えが返ってくるようになった。これはLinuxソリューションが正しく理解され始めた証拠。そろそろ、正しくLinuxを理解している人向けのセミナーと、いまだにLinuxを食わず嫌いの人のためのセミナーと、2つに分けて話をしていく必要があるだろう」と、ようやくLinuxを正しく理解する技術者も増加していることを示す傾向もあらわれている。


本格的な普及期を迎えつつあるLinux

 日本IBMの話を聞くと、Linuxに対する誤った認識が完全に払しょくしているわけではないが、以前に比べれば大幅にLinuxソリューションは技術者にとっても、エンドユーザーにとっても身近なものとなってきている。

 特にUNIXユーザーのLinuxへの移行は今後急速に進んでいくことが予測される。それだけに、マイクロソフトのキャンペーンは、「UNIXからLinuxへの移行の際に、Windowsも検討するひとつとして欲しい」という狙いがあるのだろう。

 だが、実際にソリューションを提供する側としては、ユーザーサイドでLinuxとWindowsを比較検討するというニーズがないこともあって、Linuxソリューションをいかに正しくアピールしていくかが、注力ポイントとなっている。

 「Linuxの場合、新しい機能が加わったことで、こんなビジネスにも使えるようになる--といった具合に、技術とビジネスソリューションがリンクしているため、テクニカルトリブンで話をする必要がある。そのため、一部の技術者以外の人にとっては、わかりにくいものというイメージになってしまうのだろう。欧米では、技術とビジネスの両方を理解し、技術の専門家ではない経営層にもアピールできる人材が出てきている。日本でもそういう人材が必要だろう。自社内でそういう人材を育成すると共に、パートナー企業の内部でもそういう人材を育成することが今年の新しい課題だ」


SCO問題は影響なし

 ところで、ユーザーがLinuxソリューションを選択する際に、影を落とす可能性があるのが、SCO問題である。

 この点について日本IBMでは、「この問題については、IBMは訴えを受けている当事者でもあり、コメントをすることが難しい部分もあるが、問題はないと思っているので、お客様に心配してもらう必要はないと思う」とビジネスへの影響は少ないとの見方を示している。



URL
  日本アイ・ビー・エム株式会社
  http://www.ibm.com/jp/


( 三浦 優子 )
2004/03/24 00:00

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