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Windows vs Linux -マイクロソフトのキャンペーンは成功するか?-

最終回・米Red Hat -今回のキャンペーンは真の戦いの前哨戦だ


 Linuxディストリビュータの中で、現在、最もエンタープライズ向け施策が充実しているのは、間違いなくRed Hatだろう。そのRed Hatの米本社Vice Presidentであるジョン・ヤング氏は、「数年先には、LinuxとWindowsの2つのOSだけが、出荷を伸張していくだろうという予測がある。今回のマイクロソフトのキャンペーンはその前哨戦だ」と指摘する。


いよいよLinux対Windowsの競合は激化

米Red Hatのマーケティング担当Vice President ジョン・ヤング氏
 「マイクロソフトのキャンペーンは、Red Hatをエンタープライズソリューションのライバルだと認めてくれた証拠だ。大変、光栄なことだと思うよ」

 米Red Hatのマーケティング担当Vice Presidentであるジョン・ヤング氏は笑顔でこう話す。そして、「ただ、キャンペーンにどれだけ効果があるのかは疑問だ。マイクロソフトが事実としてアピールしている調査会社の資料は、マイクロソフト自身がスポンサーになって調査会社に調べてもらったデータではないかと、ユーザーはいぶかしがっているだろう」とマイクロソフトに痛烈な皮肉を浴びせる。

 明るくジョーク気味にマイクロソフトをやゆするヤング氏だが、マイクロソフトがLinuxとWindowsを比較するキャンペーンを開始した理由については、「米IDCが出しているOSの出荷予測によれば、2007年時点では、ほかのOSの出荷は下落傾向となるのに対し、LinuxとWindowsという2つのOSだけが伸張していくとされている。つまり、数年後にはLinuxとWindowsという2つのOSの一騎打ちとなる公算が高く、マイクロソフトではその時点を視野に入れて、今回のキャンペーンをはじめたのではないか」とずばり指摘する。

 つまり、今回、マイクロソフトが行っているキャンペーンは、現時点でのユーザーへの訴求という狙いと共に、将来を見据えたマイクロソフトのアピールだというわけだ。

 と、いうのも前回、日本IBMの回で紹介した通り、「現行のUNIXユーザーは、Windowsを選択肢のひとつとは考えていない」のが現状である。しかし、現段階からUNIXユーザーにもWindowsへ目を向けてもらわなければ、2007年時点でのLinux対Windowsの戦いにも影響を及ぼすこと必至である。「おそらく、マイクロソフトでは、その時点のことまで想定し、キャンペーンを展開しているはずだ」とヤング氏は推測する。


エンタープライズ用仕掛けがそろいユーザーから支持

 だが、UNIXユーザーはLinuxを選択する傾向にあるといっても、Linuxをエンタープライズ領域で利用してもらうためには、それなりの仕掛け作りが必要である。

 「Red Hatでは、この2年間をかけて、そのための仕掛け作りを進めてきた」という。

 具体的には、「かつて、Red Hatは半年ごとに新しい製品へのアップデートを行っていた。そのため、ユーザー側ではそのスピードについていくことができず、クリティカルなシステムで利用するのが難しいという問題を抱えていた。そこでエンタープライズ製品に対しては、発売後5年間のサポート継続を保証し、ユーザーに安心してひとつの製品を使い続けてもらう環境作りを進めた。その成果といえるのが、2年前にはゼロだったEnterprise Linux上で稼働するアプリケーションの数が、現在では600に達している」と、エンタープライズユーザーが長期間安心してRed Hat Linuxを使い続けることができるようにしている。

 また、システム管理プラットフォーム「Red Hat Network」を提供し、システム管理者のネットワーク上のシステム管理を効率化し、シンプルなユーザーインターフェイスから、パッチ管理、アップデートなどの作業が行えるようにするなどエンタープライズユースのための環境を作りあげた。

 こうした施策を行った結果、「ガートナーグループの調査では、『昨年よりも、もっと予算を使いたいと考えているのはどのベンダーのソリューションか?』という調査に対し、当社がトップとなった。これは、2年前であれば、Linuxを選択する理由はコストという答えが上位だったのに対し、信頼性、性能、セキュリティといった点が評価対象となり、エンタープライズソリューションのためのOSとして、UNIXと比較対照する存在となった」と、エンタープライズ向けの環境作りが、着実に評価されてきているという。

 こうした評価が、「無料だからLinuxを選択するのではなく、対価を支払うソリューションとして当社のソリューションが適切なものであるという認知を得るに至った」とヤング氏は自信を見せる。

 その結果、Red Hatのビジネスも、従来のディストリビューションビジネスから、メンテナンス、サポートと共に、コンサルティングサービスなどほかのエンタープライズソリューションを提供しているベンダーと同様のビジネスへとシフトした。

 Linuxのディストリビュータは複数社存在するが、「当社がほかのLinuxベンダーよりも圧倒的に優位な立場にあるのは、主に3つの理由からだ。1つはアプリケーションベンダーおよび、日本でいえばNEC、富士通、日立といった大手ハードベンダーとのパートナーシップをもつことができたこと。2つ目は、Linuxコミュニティとの関係をうまく調整していくことができたこと。そして3つ目はエンタープライズにフォーカスしたことだろう」と分析する。

 エンタープライズソリューションにフォーカスしたことが、Red Hatの現在の成功の源泉となっているのだ。


将来の競合ポイントはセキュリティ

 ところで、今後Windowsとの戦いが本格化していくにあたり、Red Hatでは、どのような点を強化していこうとしているのだろうか。

 「UNIXからの移行を検討するユーザーに対しては、お話しした通り、WindowsよりもLinuxが圧倒的に有利だ。UNIXユーザーが、Windowsを比較対象としないという傾向は今後も続いていくだろう。ただし、新たにシステムを構築するユーザーに対しては、当然、2つのOSのどちらを選択するのかということになる。その時点での争点となるのは、管理も含めたシステム全体のコスト、そしてセキュリティの2点となってくるだろう。セキュリティについては、現在FedoraプロジェクトでセキュアなLinuxの開発が進んでおり、当社もそこに関わり、次バージョンのエンタープライズ製品についてはこの成果を反映する予定だ。また、レッドハットでは、ストレージのバーチャル化ソリューションを開発している米Sistina社を買収したように、管理ソリューションのさらなる強化も実現していく」

 また、WindowsにはないLinuxならではの強みとして、「Windowsは1社のベンダーが提供しているものだが、Linuxは複数のディストリビュータが提供しているものの中から、最適だと思うものを選択することができる選択の自由がある。もちろん、当社としては競合を増やすということにもつながってしまうものの、選択の自由こそ、オープンソースがもつ最大のメリットであり、このメリットを変更することはできない」点をあげている。

 Red Hatがあげるセキュリティについては、本連載の第1回でマイクロソフト自身もアピールしたいポイントとしてあげていたものだ。重要と認識するポイントが共通しているのは、まさにLinux陣営、Windows陣営ともに同じ市場に照準が当たっているからだろう。

 現在の状況は、まさにLinuxとWindowsの戦いの前哨戦である。果たして、2つのOSが一騎打ちをする状況になった時に、ユーザーに「正しい事実」をアピールし、信頼を勝ち得るのはどちらの陣営なのか。将来を見据えた長い戦いの幕が上がろうとしている。



URL
  レッドハット株式会社
  http://www.jp.redhat.com/


( 三浦 優子 )
2004/03/31 00:00

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