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中小企業市場を開拓せよ!―“ITの原野”に挑むベンダーたち―

第三回・中小企業にも直販モデルで挑む―デル


 大企業向けビジネスでは直販によりソリューションを提供しているベンダーでも、相手が中小企業となると間接販売を採用する。事業所の多い中小企業にソリューションを販売するとなると、自社の営業部員だけでは十分にサポートしきれないというのがその理由だ。

 しかし、デルは「中小企業相手といっても、直販というビジネスモデルは変更しない」と従来通りの直販という姿勢を貫くことを宣言している。そして、「中小企業ユーザーであっても、直販を望むユーザーが増えている」と中小企業イコール間接販売という思いこみを真っ向から否定。独自のビジネスモデルによって、中小企業市場開拓を進めている。


エンドユーザーの顔が見えることが強みに

ビジネスセールス本部の天野総太郎本部長
 「競合ベンダーは、エンドユーザーの顔がちゃんと見えていないのではないか」―デルで中小企業向けビジネスを担当するエンタープライズ事業本部の多田和之ソリューション本部長と、ビジネスセールス本部の天野総太郎本部長は口をそろえてこう話す。

 デルは中小企業向けビジネスでも従来通りの直販スタイルをとっていく。直接エンドユーザーに販売しているので、デル製品を使っている企業の名前、担当者の個人名、メールアドレスなど顧客情報をきっちりと把握していることが大きな強みとなる。

 「この顧客情報と顧客との直接のやり取りによって、相手のIT予算なども大体把握している」という。ユーザーの生の声を吸い上げることができるのは、確かに間接販売にはない直販ならではの強みといえるだろう。

 しかし、もうひとつ疑問が残る。中小企業には間接販売が適しているといわれるのは、ベンダー側の営業リソースの問題ばかりでなく、中小企業側の体制にも要因があるとされている。中小企業にはIT担当者が存在しないことも多い。そのため、販売を行う企業が中小企業のIT部門として機能し、IT導入を影で支えているといわれているのだ。

 つまり、中小企業相手に直販ビジネスを実施しようとしても、IT担当者がいない企業側がどんな製品を購入したらいいのかわからないため、実現が難しいとされてきたのだ。

 だが、デルでは、「日本の中小企業ユーザーでも、ベンダーのプッシュ型の営業を嫌だと感じている層が少なからず存在する」(天野本部長)と反論する。

 中小企業のIT化を支援する役割を担ってきたベンダー製品を販売するディーラーや、システムインテグレーターだが、訪問販売形式で客先に出向く営業スタイルを、「うっとおしいと感じているユーザーも存在する」のだという。

 特に、訪問販売を望まないユーザーにとって、もっとも大きな不信の種が価格だという。

 「訪問販売では、製品の価格が値引きによって大きく変動するなど不明りょうである場合が多い。中小企業ユーザーは、大企業ユーザーのように大量に商品を購入することがないため、これまでは割高な価格で商品を購入してきたのではないかという不信感を抱いている。それに対し、当社の製品の価格はインターネット上に明示され、透明性が高いので、ユーザーごとに製品価格が違うといった不明りょうな部分をなくすことができる」(天野本部長)

 ITリテラシーについても、「当社のユーザープロファイルを競合他社と比較することができないので、想像ということになるが、自分で製品を選択し、購入できるだけのIT知識をもったユーザーは日本の中小企業市場にも確実に増えている」(同本部長)という。

 確かに業務ソフトメーカーに話を聞いても、インターネットでのユーザー登録の比率は年々高まっているそうだ。デルの指摘通り、ITリテラシーの高い中小企業ユーザーも着実に増加しているのは間違いないようだ。


基幹システムでもナンバー1シェア狙う

エンタープライズ事業本部の多田和之ソリューション本部長
 とはいっても、「当社の中小企業向けビジネスは、最近になって新たに始まったものではない」とデルでは説明する。

 「これまで中小企業だけに絞り込んで、どの程度シェアをもっているのかといった発表をしてこなかったために、デルが中小企業に強いという認識をもっている人は少ないかもしれない。しかし、実は調査会社が調べた中小企業向けサーバーではナンバー1シェアとなっている。これまでもシェアは高い方だったと思うが、直近の1年でさらにシェアを伸ばすなど着実にビジネスが伸びている」(天野本部長)

 これも意外に感じる人もいるかもしれないが、10年前から中小企業を担当する部署が存在し、中小企業をターゲットとしてアピールなどを進めてきていたのだという。

 11月にはSAPジャパン(以下、SAP)と提携し、SAPの中小企業向けソリューションSAP Business Oneの販売を始めるという発表を行ったが、「実は発表前から製品販売はスタートしており、すでに導入実績も出ている」という。にもかかわらず、あえて発表を行ったのは、「すでにハードウェアではシェアナンバー1という実績が出ているが、基幹システムでもデルがナンバー1を獲得したいという意欲のあらわれ」だと多田本部長は話す。

 デルでは、自社のオンラインサイトでSAP Business Oneを販売する際に、自社のコンサルティング部隊のパワーも投入し、通常に比べて大幅に割安な導入コストを実現するモデルを構築。基幹システムの販売強化にも意欲を見せる。

 SAPの販売パートナーとの連携も実施していくが、これも他社のリセラーモデルのような関係を構築することを狙ったものではない。パートナーとの関係は、「リセール」ではなく、「リレーション」にとどめていく。

 「それでも当社にパートナーとしての魅力を感じているところも多い」という。デルがハードウェアの販売に徹していることが、都合がよいと感じているパートナー企業も出てきているのだという。


パソコン時代の新しいユーザーとの関係を構築

 ただし、デルが中小企業向けビジネスを進めていくといっても、「全くITリテラシーのない企業をサポートし、教育するというビジネスするつもりはない」(天野本部長)という。

 かつて日本の中小企業が利用するコンピュータとして、オフコンが利用されていた時代は、ベンダーが独自にハードウェア開発を進めていたため、「このボタンを押せばいい」といった具合に、操作に至るまで中小企業を指導していた歴史がある。中小企業にIT担当者が存在しなくても対応してこれたのは、こうした背景があるからである。

 しかし、デルが販売しているのはパソコンとパソコンサーバーだ。「パソコンは、ユーザー自身が選択するもの」という前提のもとにビジネスが行われている。

 それでもデルを選択する中小企業ユーザーが増えているということは、全てベンダーが面倒を見なくても、自分自身で選択権をもった中小企業ユーザーが着実に出てきているということを示している。

 今後、デルが中小企業市場でどこまでビジネスを伸ばしていくのかによって、日本の中小企業のITリテラシーがどこまで進んだのかを、計ることができそうだ。



URL
  デル株式会社
  http://www.dell.com/jp/

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( 三浦 優子 )
2005/01/19 05:29

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