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知られざる“生体認証”を探る
第三回・NTTコムウェア-バイオメトリクスは現場で使えるのか?
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NTTコムウェアでは、システムインテグレータとして指紋認証ソリューション「e-UBF」を提供している。周波解析法というアルゴリズムを利用したことで、指紋認証における弱点といわれる部分がカバーできると判断したためだ。
NTTグループがかなり早い段階からバイオメトリクスソリューションの導入を開始していたため、システムインテグレータとしてバイオメトリクスの提供を開始した実績はあった。しかし、本格的に指紋認証ソリューションの提供を開始したのは、e-UBFから。現在は評価版の提供を開始、およそ500システムの評価版が利用されているという。今回は、インテグレータとしての立場から見たバイオメトリクス製品について、同社に話を聞いた。
■ 周波解析法を利用したシステムを提供
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ビジネスインテグレーション部 パートナー営業部長 松谷光男氏
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NTTコムウェアでは、NTTグループ内での個人認証導入の必要性から、バイオメトリクスを使ったITソリューションに早い段階から取り組んでいた。
「通信会社であるNTTは、社内で扱うデータは機密性を要するものが多い。社内のシステムにアクセスに必要な認証システムの導入も、一般企業よりも早かった」(NTTコムウェア ビジネスインテグレーション部 パートナー営業部長 松谷光男氏)
2005年4月に個人情報保護法が本格施行されたことから、2004年あたりからはNTTグループ以外の企業からも生体認証ソリューションの要望が高まった。しかし、当初はシステムインテグレータとして生体認証ソリューションを導入するには難しい場面も多かったという。
「生体認証導入ニーズが高まったのは、IDやパスワードを利用した個人認証システムは、実際に運用すると机にパスワードを貼り付けたり、パスワードが覚えられなかったり、といった問題が起こりがち。実際の運用場面でトラブルが起こるケースが多かった。そこで、生体認証を利用したソリューションの導入が検討されるものの、一番コストが低い指紋認証製品は、登録したはずなのに認証されないといったトラブルが起こるケースがあった」(松谷部長)
こうしたトラブルは、企業ソリューションばかりでなく、パソコンや携帯電話に導入された指紋認証システムを利用する人からも、「体験した」という声があがる。冬など乾燥しているシーズンには、正確に登録したはずの指紋認証が認識されず、パソコンが使えなくなったといったことも起こりがちだ。
そこで当初NTTコムウェアでは、一部、指紋を使ったソリューションの導入は一部分におさえるといった措置をとっていた。
その状況を変えたのが、現在販売している、「指紋認証 e-UBF」である。この製品は、株式会社ディー・ディー・エス(以下、DDS)が開発した指紋認証システムを活用したソリューションだ。
指紋認証に使われているアルゴリズムには、一般的には次のようなものがある。
1)隆線と呼ばれる指紋の盛り上がった部分の端や分岐点の属性と、それらの相対的な位置関係を特徴情報として利用する「特徴点抽出照合法(マニューシャ法)」
2)登録した指紋の画像情報と、入力した指紋画像を比較、照合する「画像マッチング法(パターンマッチング法)」
これに対し、e-UBFでは「周波解析法」というアルゴリズムを利用している。このアルゴリズムは、名古屋工業大学大学院の梅崎太造教授とDDSが共同開発した新しいもので、指紋の紋様パターンをスライスした断面の波形とみなし、波形のスペクトル系列の最大相関を求めて照合を行う。
■ これまでのマイナスイメージを変えることに注力
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e-UBFの画面イメージ
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e-UBFで利用している指紋認証装置
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社内のセキュリティ保持のためとはいえ、「指紋を採取する」という事実に抵抗をもつ人も少なくない。罪を犯した際に指紋が採取されるという事実から、「自分が登録した指紋が警察に登録されてしまうのではないか」と考えてしまう人がいるためだ。
この印象を変えていくのはなかなか難しいが、携帯電話やパソコンなどのデバイスに指紋登録システムがバンドルされたものが登場するなど、「指紋の登録」がいろいろな場面で使われるようになってきたことで、指紋認証に関する意識が変わってきた。
NTTコムウェアでも、レノボ・ジャパンの「ThinkPad」に、周波数解析法を採用した認証ソフトウェアを搭載した「e-UBF Model」を販売している。
こうした市場の変化にともない、「指紋を登録することに対する意識が変わってきたことを実感している」と松谷部長も指摘する。
ただし、指紋認証を利用しているからこそ起こる、ユーザー側の固定観念もあるようだ。
指紋認証はほかのバイオメトリクスに比べ、歴史が古い。それだけに、「一回、導入したものの、トラブルを体験して指紋認証システムに対して悪い印象を抱いてしまっているユーザーもいる」(松谷部長)という。
指紋認証システムで起こるトラブルとしては、最初に紹介したように登録した指紋が認証されないといったものがひとつのパターン。これは指が乾燥したり、逆に汗をかいていたり、指が水で濡れていたりするために、正確に認証されないといったことが原因になって起こる。
また、そもそも指紋を登録しようとした際に、うまく登録ができないというトラブルも起こり得る。これはマニューシャ法で起こりがちのトラブルで、指紋の特徴が抽出しにくい人は登録ができない場合がある。
こうしたトラブルが起こることを防ぐために、指紋認証システムだけでなく、ICカードを同時に導入するといった回避措置が必要になる。しかし、そうなれば余分にコストがかかる上に、「例外」が生まれるため、セキュリティの必要性があってシステムを導入したにも関わらず、「セキュリティ上の穴」が生まれる原因となってしまう。
NTTコムウェアでは、「e-UBFはこうしたトラブルが少ない新しいアルゴリズムを採用した製品だからこそ、販売を開始した。低価格で、導入しやすく、運用場面においてもトラブルが少ないソリューションであることを認識してほしい」と強調する。
それを理解してもらうために、評価版の製品を提供。実際に利用していく中で、「運用場面においても、トラブルが少ないことを理解してもらう」ことに力を注いでいる。
指紋は他の生体認証に比べ、偽造しやすいという指摘もあるが、「感熱式のセンサーを採用することで、熱伝導率によって採取できる指紋に違いを持たせることができる。人間の指ではないものを利用した際には識別できるようにすることで、偽造された指紋を識別することができる」という。
■ 運用していく中で見えてくる「次のビジネス」
システムインテグレータとしてユーザーに接する中で、「今、最も多いのは、セキュリティシステムの一部として指紋認証システムを導入したいという企業。全社で利用するための指紋認証システムを導入したいという企業は、ごく一部」と松谷部長は説明する。
実際に導入した企業の数もまだまだ少ないことから、導入教育も同社が実施している。本格的な導入指導は、有料で3日間程度時間をかけて実施。そのほか、エンドユーザーが指紋認証ソリューションを理解するためのガイダンスビデオも用意している。
「指紋認証ソリューションを導入する場合、登録作業がきちんと行われているかが重要なポイントのひとつ。不正なデータが登録されないことを確認するために、複数のスタッフが立ち会って登録の必要があるといった部分まで指導でアピールを行う」(同部長)
現在、オフィス内の特定の部屋に入る際に利用する入室管理ソリューションとして利用されているものでは、250人の利用者のデータを登録しているが、利用者がストレスを感じることのないスピードでの認証を実現している。
ほかのバイオメトリクスソリューションに比べ、指紋認証システムは普及が進んでいるたけに低価格で導入できる。そのため、大人数で利用したいというユーザーには適している。
ただし、大人数で利用した場合、登録しておいた指紋をどこに持たせるのかで認証までのスピードなどに違いが出てくる。例えば、銀行のキャッシュカードに使われているバイオメトリクスは、ユーザーが持っているカードにデータを持たせることで、認証にかかる速度を短くしている。
NTTコムウェアでは、「当社の提供するソリューションの特徴は、認証のスピードが速いこと。実際に運用していく中で、利用者にストレスのない速度をもったものでなければ、導入できないということになりがち。実際に運用されていく中で、問題のない認証スピードが出ていることは重要なポイント」(松谷部長)だという。
ユーザーの体感スピードといったものは、実際にソリューションが運用されていく中で出てくる実感である。
「こうして製品を提供していく中で、新たな用途も見えてきた。こうした新たな用途に対応していくことで、指紋認証ソリューションはさらに広がっていくことになるだろう」と松谷部長は説明。実際にユーザーに対して製品を提供し、その声を聞いていく中で、指紋認証ソリューションの可能性を実感しているのである。
■ URL
エヌ・ティ・ティ・コムウェア株式会社
http://www.nttcom.co.jp/
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( 三浦 優子 )
2006/05/24 00:00
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