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知られざる“生体認証”を探る

最終回・大塚商会-バイオメトリクスはどのくらい浸透しているか


 新しい技術や製品の浸透度合いを測るには、中小企業ユーザーがどれだけ利用しているのかを調査してみるといい。人的リソース、予算の面で大企業よりも悪条件を強いられる中小企業が採用した製品や技術は、価格、扱いやすさといった点で普及期を迎えていると見て間違いない。特に製品や技術を開発したベンダではなく、システムを販売するインテグレータからユーザーの生の反応を聞くことには価値がある。

 「バイオメトリクスソリューションは、中小企業ユーザーにどの程度、受け入れられているのだろうか」、「活用方法やニーズは、大企業と違いがあるのだろうか」。最終回となる今回は、多くの中小企業ユーザーをもつ大塚商会に、そうした、中小企業ユーザーのバイオメトリクスソリューションに対する需要について取材してみた。


そもそも「認証ソリューション」の需要が少ないのが現状

マーケティング本部 テクニカルプロモーション部 OSMグループ1課、大久保真課長
 多くの中小企業ユーザーを抱える大塚商会は、セキュリティ分野の中の認証ソリューションとしてバイオメトリクスを取り扱っている。

 「ベンダ側からの売り込みも多く、バイオメトリクスを活用した認証ソリューションの製品ラインナップもそろい、販売実績もあがっている」とマーケティング本部 テクニカルプロモーション部 OSMグループ1課、大久保真課長は説明する。

 にもかかわらず、「バイオメトリクスは注力商材とはなっていない」という。これはなぜなのか。

 「中小企業ユーザーは、バイオメトリクスというよりも、(その前段の)認証ソリューションの導入が本格化していない。必要性を感じている企業も一部あるが、あくまでも一部にとどまっているというのが現状だ」(大久保課長)

 認証ソリューションの必要性は、昨年4月に本格施行された個人情報保護法の影響で高まったといわれている。個人情報の漏えいが、社外からのサイバー攻撃によるものばかりでなく、社内から持ち出されたケースもあるのだということが明らかになったため、その必要性が認められてきたのだ。

 実は大塚商会でも、中小企業ユーザーの認証ソリューション導入要求はもう少しあるのではないかと見込んでいた。しかも、Windowsログオンのようにパスワードを利用したものは、第三者にパスワードを無断利用されるといった可能性も高いことから、バイオメトリクスが活躍する可能性は十分にあると考えていたそうである。

 しかし、「それは大企業の話。中小企業においては、認証ソリューションよりも先に導入すべきセキュリティソリューションがあり、まだ認証ソリューションにまで行き着いていない企業が多いというのが実情」、だと大久保課長は説明する。

 認証機能は、例えばWindows自身にログインする場合、パスワード認証機能が標準で備わっている。「有料のものを使わなくとも、既存の認証を利用すればよいのではないか」と考える中小企業もまだまだ多いという。

 あえて有償の認証ソリューションの必要性を感じている中小企業が少ない以上、バイオメトリクス導入の必要性を感じるユーザーもまだそれほど多くないという。


専任担当者がいなければ難しい運用管理

 それでは今後、認証ソリューションを必要とする中小企業ユーザーが増加すれば、バイオメトリクスのニーズも増えていくのだろうか。その疑問に対し、マーケティング本部 テクニカルプロモーション部 OSMグループ、原篤シニアスペシャリストは次のように答える。

 「中小企業ユーザーにとっては、導入時にも手間がかかるし、導入後も運用管理が難しいのがバイオメトリクスソリューションではないか」

 これまでも紹介してきたようにバイオメトリクスは、まだまだなじみが薄い。「まったく経験のない登録作業を行うだけでも、中小企業ユーザーは敷居が高いと感じるのではないか」と原シニアスペシャリストは分析する。

 広く普及しているとはいえないバイオメトリクスソリューションは、まだまだ価格も高い。コストという点から見ても、中小企業には敷居が高いのが実情である。

 さらに登録したデータの管理は、専任のセキュリティ担当者がいない中小企業においては容易ではない。

 「現行ではバイオメトリクスデータが悪用されるという心配はないかもしれないが、データの中身は究極の個人情報。きちんと管理していくことが必要となる。IT担当者やセキュリティ担当者などがいなければ、管理を徹底していくことは難しい」(大久保課長)

 管理の容易さから考えれば、バイオメトリクスよりもICカードなどを利用した認証ソリューションの方が中小企業には適しているのではないか、と大塚商会では見ている。

 バイオメトリクスというと、技術が確立してからの歴史が浅いだけに、技術面の成熟が足りないことが問題点と見られるものの、中小企業が利用していくためにはむしろ運用面の方での問題が大きいようだ。

 ただし、携帯電話、パソコンなど機器に搭載された場合には、管理は利用する個人に依存できるので、中小企業でも利用は難しくない。

 「中小企業におけるバイオメトリクス利用は、デバイス搭載型のものからスタートするのではないか」(大久保課長)

 また、金融機関が導入しているバイオメトリクスを利用したキャッシュカードが普及していくことによって、「バイオメトリクスというものになじみを持つようになれば、自分の会社にも導入しようと考えてくる人は増えてくる可能性はある」という。


運用面の確立こそ重要な課題

 今回、バイオメトリクスソリューションについて取材をしてみて、注目度が高い割に、運用管理を徹底しなければならないといった点は、まだまだきちんと理解されていないことを痛感した。新しいものだけに、技術面ばかり注目してしまうが、今後広く普及していくためには、運用面の確立こそ重要な課題となってくるだろう。

 これは技術が誕生してからの歴史が浅いことも理由の1つだろう。今後導入事例を増やしていくことで、「どうやって運用していったらよいのか」といった問題も解決されていくことになるのではないか。

  株式会社大塚商会
  http://www.otsuka-shokai.co.jp/
  ・ 第一回・日立-指静脈認証で1000億円ビジネスへ(2006/05/10)
  ・ 第二回・富士通 バイオメトリクスこそ究極のユビキタスソリューション(2006/05/17)
  ・ 第三回・NTTコムウェア-バイオメトリクスは現場で使えるのか?(2006/05/24)


( 石井 一志 )

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