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SaaSはASP 2.0なのか?

第三回・マイクロソフト-事業者へのミドルウェア提供がビジネスチャンスに


 ASP、SaaSというコンセプトの説明を聞いた場合、エンドユーザーでも、ITシステム構築に関わっている人でも、「それではマイクロソフトは対応するのだろうか?」という疑問がわいてくるだろう。特にSaaSでは、ソフトをサービスとして利用するメリットを、「企業内で利用するアプリケーション管理の難しさを軽減する」と説明するなど、明らかにマイクロソフトを意識した比較をされる場合が多い。

 こうした疑問に対し、マイクロソフトがどう対応していくのか。その動向は、SaaS事業者やユーザーに大きな影響を与えることになる。

 そこでASPおよびSaaSの動向というテーマで、マイクロソフトへの取材を行った。取材に応じてくれたのは通信・メディアソリューション本部。

 「私たちが所属している部署は、マイクロソフトの企業ユーザー向け営業部門の中で、通信事業者やメディアの皆さんをお客様としている部署。我々がターゲットといているお客様は、自らSaaS事業者として事業展開を検討しているところも多い。今日の取材では、マイクロソフトの全社的なSaaSに対する戦略を説明するのではなく、SaaSに興味を持っているお客様の動向ということでお話ししたい」

 取材の冒頭、マイクロソフトの通信・メディアソリューション本部 ホスティングソリューション営業部の野田良平部長から、このような説明があった。

 つまり、今回ご紹介するのは、「マイクロソフト自身がSaaSを提供するにあたってのお話ではなく、お客様がSaaSビジネスを提供する際のイーネブラーとして、マイクロソフトがどう対応していくのか」についてということになる。


自身のオンラインサービスの具体策の発表は将来のこと

通信・メディアソリューション本部 ホスティングソリューション営業部の野田良平部長
 まず、取材の最初に、ASPやSaaSの事業者となる意向をもつ通信事業者やホスティングサービスなどを展開する事業者に接する中で、SaaSとASPの違いはどこだととらえているのかを尋ねてみた。

 「その違いを説明するのは、なかなか難しいところだが、ASPは機能が固定化されてカスタマイズができない時代にトレンドとなったもの。それに対し、SaaSは新しいニーズや技術変化が起こった後に誕生したもので、カスタマイズにも対応できるという点が違いとなるのではないか」と野田部長は答えてくれた。

 そして、「一口にネット経由でアプリケーションを使用するといっても、エンドユーザーの立場、サービス事業者の立場と2つの異なる観点があり、それぞれの観点によって目的などに違いが出てくる」と指摘する。

 まず、エンドユーザーにとってのインターネット経由でのアプリケーション利用というのは、「競争が激しくなる中でITリソースおよびコスト削減の必要に迫られている。事業競争が激しくなっている以上、IT活用による事業の効率化といったことも避けることができないが、コストの見直しも行わなければならないのは事実。そこでインターネット経由のアプリケーション活用という方向性が出てきたのではないか。もっとも同じインターネット経由でのアプリケーション利用といっても、大企業であれば既存資産の有効活用が必須となってくるし、規模の小さい企業では自身でサーバーを持たずに、IT資産をアセットではなく、コストとして活用するという違いがある」というのが野田部長の見方だ。

 それに対し、サービス事業を事業として展開しようとするキャリアやISP、データセンター事業者らは、「ユーザーのサービスに対するニーズを取り込むためにも事業展開は必要と考えているところがある」という。

 相手がどんなユーザーなのかによって、動機やニーズがまったく異なってくるため、「営業を行う際にはきちんと相手の立場を理解して話を進めていくことが重要となってくる」そうだ。

 それでは実際にマイクロソフトとしては、どんなビジネスを展開しているのだろうか。

 「マイクロソフト自身がネット経由でアプリケーションを提供していくのは、まだ先のことになる。現段階で提供しているのは、サービスを実施するための『コネクテッド・サービス・プログラム』。サービスを実現するためのミドルウェアを提供していくというのが、現段階で提供している中身となる」(野田部長)

 自身がサービス事業者となっていく、「Live」という戦略は発表されているものの、「そこで具体的にどんなサービスを提供するのかをお話しできるのはまだ先のことになりそうだ」という。

 「これまでのマイクロソフトの歴史を振り返ると、1995年にWindows95、2000年に.NET、そして2005年にLiveと5年ごとに重要な戦略が発表されている。あくまでも想像でしかないが、2010年にはマイクロソフト自身が提供するオンラインサービスの具体的なものが発表されているのかもしれない」(野田部長)


ソフトメーカーとしての実績や経験が対通信事業者向けビジネスの優位性に

 ミドルウェアを提供していく中で、インターネット経由でサービスを提供することに対して、「ニーズが高まっていることは強く感じている」(野田部長)という。

 まず、ネットワーク経由でアプリケーションを提供していくことができれば、「これまではターゲットとできなかった中小企業ユーザーも獲得することができる。これは日本だけでなく、世界的に顧客獲得のチャンスととらえられている」(通信・メディアソリューション本部 ソリューション営業部の正井三博シニア・ソリューションスペシャリスト)とユーザー層拡大に絶大な効果がある。

 これまで個別に購入しなければならなかったサーバー、アプリケーションといったものがワンストップソリューションとして提供されることになるので、中小企業ユーザーには大きな強みになるとされている。「そこを狙ったビジネスがこれから始まってくるのではないか」(野田部長)

 ASPが盛り上がった2000年当時とは異なり、ブロードバンドやセキュリティ、モバイルのインフラが整備されている。その中で生き残りをかけて事業を展開しなければならない通信事業者の環境は過酷である。

 それでも、この状況変化に応じて、一気にサービス事業をスタートさせようとしているのが通信事業者だという。

 「ネットワークの低価格化が進んだことで、通信事業者はネットワークのバリューとして、ソフトをサービスとして提供していこうとしている。ネットワークの提供だけでは、ほかの通信事業者との競争に勝ち残っていくことはできない。ソフトウェアを提供することで、バリューをつけることを狙った事業者が増加している」(野田部長)

 キャリアの中には、「iモードのようにすでにネットワーク経由でサービスを提供し、成功した例もある。自分たちの得意なビジネスが展開できる環境になったととらえている事業者もある」(通信・メディアソリューション本部 ソリューション営業部の二木隆司シニア・ソリューションスペシャリスト)

 現段階では、具体的な事例を紹介する段階ではないそうだが、「1年後に取材してもらえば、いくつかの事例を紹介できるようなペースで、事業化に向けた準備が進んでいる段階」だそうだ。

 「マイクロソフトと一緒にビジネスを展開していくことのメリットとして、ミドルウェアだけでなく、デベロッパーやパッケージ事業者などと多方面のおつきあいをしている点であると通信事業者に感じてもらうことができるのではないか。ミドルウェアだけでなく、ネットワークの上で提供するアプリケーションに関する相談に乗ることができる点が、ほかの事業者にはない強みと考えている」(野田部長)

 マイクロソフトとしては、通信事業者がサービス提供に前向きなことをネガティブにとらえているのではなく、自分たちのビジネスチャンスになると考えているようだ。



URL
  マイクロソフト株式会社
  http://www.microsoft.com/japan/

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( 三浦 優子 )
2006/09/27 00:00

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