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vProはクライアント管理の救世主になれるか?

第一回・インテル-クライアント管理を考え直そう


 「クライアントPCの管理ですか?個人情報保護法や日本版SOX法など、コンプライアンスの観点から、我々情報システム部門が管理しなければならないと考えています。しかし、スタッフの人数が減る傾向にある中、限られた人数で管理を徹底していくのは決して容易なことではないんです」-ここ1~2年、情報システム部門の担当者にクライアントPCの管理について話を聞くと、管理の困難さが悩みであると訴える人が多い。

 その悩みを解消するテクノロジーとしてインテルが提供しているクライアントPC用プラットフォームが「vPro」である。

 インテル自身は、昨年10月に開催した「インテルvProテクノロジー・コンファレンス」の中で10年前の情報システム部門と現在の情報システム部門の置かれている環境の違いを次のように説明した。

 「10年前、情報システムにかける予算は増える一方だった。セキュリティ事故はちょこちょこ起きてはいたが、深刻な問題にはなっていなかった。セキュリティホールが発見されてからウイルス攻撃が始まるまでには200日の余裕があった。セキュリティパッチは、6週間から8週間以内に当てればOKだった。それが2000年のITバブル崩壊後、IT予算は削減される一方で、セキュリティ事故は驚異的に増えた。セキュリティを破ることは商売になるようになり、セキュリティホールへの攻撃は発見と同時に始まるようになった」

 今回の連載では、「厳しさを増す情報システム部門のクライアントPCの管理体制を、vProというテクノロジーがどのように変えていこうとしているのか」という点について、関係するベンダへの取材を通じて探ってみる。


クライアントPC導入意識を変えて欲しい

インテルのマーケティング本部 デジタル・エンタープライズ・グループ ビジネス・クライアント・プラットフォーム・マーケティング部 プラットフォーム・マーケティング・エンジニア、岡本隆志氏
 「ここ数年にない、手応えを感じている」-インテルのマーケティング本部 デジタル・エンタープライズ・グループ ビジネス・クライアント・プラットフォーム・マーケティング部 プラットフォーム・マーケティング・エンジニア、岡本隆志氏は、vPro発表後の反響をこう説明する。

 vProを搭載したPCを利用することで、ハイパフォーマンスでありながら、省電力を実現。さらに、サードパーティ製の管理ソフトやセキュリティソフトとセットで使えば、ハードウェアフィルタ(NOC フィルタ)でネットワーク経由のパケットを監視、ウイルスと思われる不審な動作や不正なアクセスを検知して、ただちにネットワークからPCを隔離することもできる。

 システム管理者のコンソールから遠隔操作によってクライアントPCに対するウイルス対策ソフトのインストールや設定を代行したり、OFFに設定されたセキュリティ常駐プログラムを強制的にONに戻したりすることも可能だ。クライアントPCの電源がOFFになっていたとしても、自動的に電源を投入して更新作業を行うことができる。

 ここ数年、インテルがクライアントPC用新製品を発表すると関心を持つのはほとんどが個人。企業の情報システム部門からの反響はほとんどなかった。しかし、vProに関しては情報システム部門からの問い合わせが多い。

 「クライアントPCの導入の際、注意すべきは価格だけという意識をぜひ、このタイミングで見直してもらいたい」というのがインテルの狙いだ。

 クライアントPCは、少ない予算で効率的に管理する必要がある上、頻繁に襲ってくる脅威に対抗し、社内のデータが漏えいすることがないよう守りの堅さも求められる。

 その解答としてよく俎上にあがるのはシンクライアントである。ハードディスクを外すといったシンプルなハードウェア構成によって管理を容易に、高セキュリティを実現するのがシンクライアントだ。

 それに対しvProは、現在利用しているPCの延長でありながら、シンクライアントの特性である管理の容易性、高セキュリティを実現する。

 構成要素は、1)Core 2 Duoプロセッサ、2)インテル Q965 Expressチップセット、3)インテル バーチャライゼーションテクノロジー(VT)、4)インテル アクティブ・マネジメント・テクノロジー(AMT)、5)インテル 82566DMギガビット・ネットワーク・コネクションの5つ。


 「コンシューマPCのViivがAVPCを作るためのプラットフォームであるのに対し、vProというプラットフォームは管理コストの削減、ウイルス対策といった企業のクライアントPCに求められる要素を実現するプラットフォームとなっている」(岡本氏)

 アクティブ・マネジメント・テクノロジーなどテクノロジー自身は2006年春から公開されているが、2006年秋からようやく各ハードメーカーがvPro搭載機の発売を開始した。現段階ではノートPC用プラットフォームにはvPro対応の製品がまだ出ていないため、まだ、企業の導入が本格的に進んでいるとは言い難い。対応ソフトも十分にそろっているとは言えない状況だ。

 しかし岡本氏が冒頭話したように、vProに興味を示す企業ユーザーは多いだろう。その一方で、ハード/ソフトの対応が不十分な状況では、導入を決定しにくいというのも本音ではないか。ユーザーからすれば、どのタイミングで導入すべきか判断を迷っているというのが正直なところだろう。

 「確かにPCメーカーが販売している企業向けPCの全てがvPro搭載ではない。だが、インテルとしてはvProはあだ花で終わってしまうものではなく、当社のメインストリームとなる商品だと考えている。対応製品もこれから着実に増えていく。ぜひ、現段階から評価やその動向に注目していて欲しい」と岡本氏は訴える。


vProのキーパートナーはシステムインテグレータ

 vPro販売にあたってこれまでとは大きく異なる点がある。インテルでは、「導入にはシステムインテグレータが大きな役割を担う」と考えているのだという。

 サーバーはともかく、クライアントPCの導入にあたっては、わざわざシステムインテグレータが介入するケースは少なくなっている。メーカー間の機能差がないクライアントPCには、「利用するアプリケーションが動くものなら、できるだけ低コストのものを」というのが企業側の注文。特にここ数年では日本企業においても、欧米並みに保守契約をせずに、「壊れたら新しいものに切り替えればいい」と考えるところが増えてきたといわれる。機器の単純な販売ではなく、システムを導入することで収入を得るシステムインテグレータは、クライアントPC導入で大きな役割を果たしているとはいえない状況にある。システムインテグレータ側も、クライアント導入にまで自分たちが積極的に関わっていこうとはしていない。

 だが、インテルでは、「クライアントPCにおいても、サーバーでは当たり前になっている“システム構築”という発想をもつことが必要」と訴える。

 これは、「まず、最初にvProのユーザーになるであろうラージエンタープライズでは、利用しているソフトやセキュリティポリシーにあわせて、クライアントPCを設定していくことが必要だ。それを情報システム部門のスタッフのみですべてこなすのは、マンパワー的に難しいだろう。技術力、ノウハウを持つシステムインテグレータが主導して導入するのが、最適なスタイルではないか」(岡本氏)というビジョンがあるからだ。

 そしてこのビジョンにあわせて、システムインテグレータが企業のクライアント導入に積極的に関わるという新しいスタイルをインテルは提案する。つまり、インテルではここ数年、簡単に考えられすぎているクライアントPC導入における考え方を、vProをきっかけに変えていきたいと考えているようだ。

 「クライアントPC導入時に、企業が考えるべきは、決してハードウェアコストだけではない。セキュリティ、マネージャビリティ、プロセッサパフォーマンスの3点こそ、クライアントPC選択に必要なポイント。米国のイベントでは、ITというのは仕事をしていく上での下働きに使うだけではなく、意志決定のためのツールとして活用しなければならない。余分な作業やコストを極力少なくして、本来のITの役割である意志決定ツールとしてPCを利用していって欲しい」(岡本氏)


中小企業にとっても機能的には有効

 大量のクライアントPCを抱え、管理に苦慮する大企業が最初のユーザーになるというのがインテルの考えるシナリオである。

 ただし、遠隔地監視といった要素を考えると、中小企業にとってもvProは大きな効果を発揮する可能性が高い。

 「米国では、中小企業向けにマネージド・サービス・プロバイダ(MSP)という職種が躍進している。いわゆる大企業のIT部門が果たす役割を請け負う外部の事業者で、そういった業者が活躍するベースとしてvProが活用されるのではないか」と岡本氏は指摘する。日本においては、MSPが活躍する土壌が整っているとはいえない。が、vProというテクノロジーが、外部のIT管理者という職種を注目するきっかけとなる可能性がある。

 「特にリモートメンテナンスの機能は、外部の管理専門業者にとっては活用しやすいもの。vPro導入と同時に、外部の管理事業者の導入を訴えるといったビジネスは十分に可能ではないか」

 確かに、vProを導入するかどうかというだけでなく、企業はセキュリティ、管理コストの削減といった要素をひとつひとつ検討しなおし、クライアントPCのあり方を見つめ直すべきタイミングに来ている。vProは、社内のクライアントPCのあり方を考える絶好のきっかけといえそうだ。それは大企業、中小企業の区別なく、検討すべき課題だろう。



URL
  インテル株式会社
  http://www.intel.co.jp/

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( 三浦 優子 )
2007/03/07 00:00

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