インテルが昨年発表したvProに対して、「今ひとつ、全体像がつかみにくい」という声がある。これはvPro対応製品がビジネスPCの一部にとどまっていることと共に、「具体的にどんなことができるのかは、運用管理ソフトの機能による」というスタンスをインテルがとっているためだ。
確かにvProに使われている「インテル アクティブ・マネジメント・テクノロジー(AMT)」の機能は基本的なものだ。例えば、情報漏えいを起こす危険をもつワームの侵入を検知した場合、AMTにはネットワークを遮断する命令機能はある。しかし、単にネットワークを遮断するだけでなく、もっと細かい設定を行って情報漏えいを回避しようとするのであれば、管理ツールの利用が必要になる。
これまでインテルが行ってきたvPro関連の発表会や説明会においても、管理ツールベンダの名前をあげてそのパートナーシップを強調したり、実際に対応ツールを開発しているベンダの製品を紹介している。
昨年10月にインテルが開催した「インテルvProテクノロジー・コンファレンス」の会場には、アルティリス・ジャパン、シマンテック、クオリティ、LANDesk Software(以下、LANDesk)、日立製作所(以下、日立)の5社がそれぞれの管理ソフトを展示していた。
一口に管理ツールといっても、展示されていたソフトはまったく異なるバックグラウンドを持つ。
例えば、現在は米Avocentに買収されたLANDeskは、もともとはデスクトップ管理のベンダ。現在ではサーバーを管理する「LANDesk Server Manager」やセキュリティ管理のための「LANDesk Security Suite」などの製品をラインアップに持っているが、出発点はデスクトップ管理だった。
それに対し、日立のJP1は、もともとはサーバーのジョブ管理からスタートし、バージョンを重ねていくことで管理対象を拡大。それに伴い機能も増えていった。
こうした管理ツールの進化は、企業の情報システムが拡大し、成長していったことに重なる。vProがクライアントPCを取り巻く環境変化に合わせて登場したのと同様に、管理ツールも近年はクライアントPC管理が重要な機能になってきている。
■ 管理をより楽に、強固にするのが管理ツールの役割
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LANDeskの浅海次郎SEマネージャ
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LANDesk Softwareは、1991年から2002年まではインテルに吸収合併されていた。その後、2002年には独立し、昨年Avocentに買収されたが、依然インテルとの関係は深く、AMTが1.0だった時代から対応ソリューションを提供している。
もともとデスクトップ管理ベンダとして出発しており、「当社の管理ツールというと、資産管理ツールというイメージしかない人もいまだにいるだろう」とLANDeskの浅海次郎SEマネージャは話す。
しかし、現在はサーバー管理ツールや統合型の管理ツールも提供しており、浅海氏は「セキュリティ、システム、クライアントを区分けして管理をすることが難しくなっている。この時代にすべてを管理するのが当社のソリューションである、というのが現在のメッセージ。ただ、デスクトップ管理からスタートしただけに、きちんと企業ニーズにフィットした製品となっていることがほかの管理ツールとの違い」と強調する。
デスクトップがスタートというと、導入する企業の規模は比較的規模の小さなところが多いのかと思いきや、実際には中堅から大手企業、クライアントPCの台数でいえば1000台以上のユーザーが中心だという。
これは、「例えばvProに対応したクライアントPCを利用しているのであれば、あえて管理ツールを入れなくても、クライアントPCにどんなことが起こっているのかを把握することは理論的には可能だ。しかし、数千台のクライアントPCを一気に管理していくとなると、1台ずつ管理していくのは物理的に不可能。やはり、管理ツールを利用して効率的に管理する方がいい。つまり、大量のクライアントPCを管理するためには、管理を容易にする管理ツール導入が必要になる」(浅海SEマネージャ)ためだ。
インテルがvProを導入する要因として説明したように、「10年前と違って、情報システム部門の予算は限られている」のが現状である。予算が限られているということはスタッフの人数も削減気味。たとえ、運用はアウトソースしているといっても、予算を低く抑えなければならないことにかわりはない。
そこで必要性が増したのが管理ツールだ。アラートが発生した際のハンドリングといった緊急性が必要となる場面でも、管理ツールを使った方がより簡単に操作ができる。
ただし、ユーザーはvPro自身に興味をもって、LANDesk製品と共に導入を検討するわけではないとLANDesk側では考えている。
「ユーザーの反応を見ると、vProそのものに興味を持ってということではなく、より管理を楽に、強固にするためのクライアント+管理ツールが欲しい、というところが出発点となっているようだ。現実的には企業が利用するクライアントとしては、PCだけでなく、スマートフォンなどハンドヘルドデバイスも含まれる。そういったvPro以外のものが含まれるクライアント管理にあたっても大きな力を発揮するのが、管理ツールの役割ということにもなってくる」(浅海SEマネージャ)
管理ツールを活用することでvProの利便性が向上するのは確かであるが、企業が現実的に直面しているクライアント管理の問題点を解決していくために、vProと管理ツールの併用が望ましいというのも、また事実のようだ。
■ 即シンクライアントに移行が難しいユーザーにはvProが有効
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日立 ソフトウェア事業部 システム管理ソフトウェア本部 システム管理ソフト設計部、村上貴史主任技師
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日立 ソフトウェア事業部 システム管理ソフトウェア本部 ネットワーク管理ソフト設計部、佐藤俊夫主任技師
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インテルが開催した「vProテクノロジー・コンファレンス」の席上、日本でのシェアがトップの管理ツールとして紹介されたのが日立の「JP1」だ。同日、AMTに対応したソリューションとして、「JP1/NETM/DM」が発表された。
企業のシステム管理者が、リモートから管理対象PCの電源を入れることができるだけでなく、スタンバイ状態や休止状態を解除したり、管理情報を収集したり、セキュリティパッチなどのソフトウェアを配布したりすることも可能となった。
クライアントPCのセキュリティ管理についても、セキュリティポリシーに従って管理する既存製品「JP1/NETM/Client Security Control」との組み合わせにより、検疫ネットワーク用の専用機器や管理ソフトウェアを使用せず、セキュリティポリシーに反するPCを社内ネットワークから自動的に遮断することができる。
JP1自体には、「システム全体の稼働状況を見る:モニタリング機能」、「計画的に業務を動かす:オートメーション機能」、「大切な資産を守る:ITコンプライアンス機能」、「システムを支える:ファウンデーション機能」という大きく4つの機能がある。すべての機能を一度に導入するだけでなく、必要な機能を少しずつ導入していくことも可能で、「現実的には、必要な部分から徐々に導入していくユーザーが多い」(日立 ソフトウェア事業部 システム管理ソフトウェア本部 システム管理ソフト設計部、村上貴史主任技師)という。
vProに対応しているのは資産管理とソフトウェアの配布管理、セキュリティ管理という部分。やはり、vProというテクノロジーへの興味からの導入ではなく、「個人情報保護法で注目が高まり、日本版SOX法のような法律ができたことなど、導入の追い風になる部分と重なるので、vProはちょうどいいタイミングで登場したのではないか」(日立 ソフトウェア事業部 システム管理ソフトウェア本部 ネットワーク管理ソフト設計部、佐藤俊夫主任技師)と、情報の管理という側面から導入機運が高まると見ている。
特に個人情報保護法や日本版SOX法という観点では、「情報流出の防止」というところが着目点となる。そのためにシンクライアントの導入を検討する企業も多いものの、「シンクライアントを導入するとなると、既存資産の変更が必要になる。そうなると、即シンクライアントに乗り換えることは現実的には難しいという企業も多いのではないか。その場合には、vProは有用な手段となるはず」(佐藤主任技師)と、vProは現実的な問題解決の手段だと指摘する。
日立は他社に先駆けてシンクライアントソリューションの開発、導入を進めているが、「やはりすべての部署をシンクライアントに切り替えるわけにはいかない。例えば、CADなどを利用する設計や開発部門では、シンクライアントは使えない。そういった現実的な状況を考えると、先進的な企業においてもすべてシンクライアントに切り替えるのではなく、シンクライアントとPCの混在が現実的な姿ではないか」と話す。
そうやって現実的な対応となった場合、PCをきちんと管理していくために管理ツールの出番が増えるのではないかという。
■ 現実的な問題をクリアするのに有効な管理ツール
管理ツールベンダーの話を聞くと、目の前にある問題をクリアするのに管理ツールは大きな力を果たすものとなっていることがわかる。
例えば、少ない人数でクライアント管理をするためには、vProのように管理機能に長けたPC側のプラットフォームに加えて管理ツールを利用することで、利便性は高まる。
また、シンクライアントやハンドヘルドデバイスなど企業が利用しているvPro以外のテクノロジーを使ったクライアントの混在環境では、管理ツールを利用している方が安全性も高まる。
「vPro+管理ツール」という組み合わせは、1つの方法だけでは対策が不十分となりやすい、複雑なITを現実的に解決していくための現実的な手段になっているようだ。
■ URL
LANDesk Software株式会社
http://www.landesk.co.jp/
株式会社日立製作所
http://www.hitachi.co.jp/
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