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vProはクライアント管理の救世主になれるか?

最終回・クライアント導入がSIerのビジネスチャンスになる


 ここ数年、企業のクライアントPCへの関心は薄くなっていた。PCのコモディティ化が進み、メーカーによる差異も少なくなってきたため、「情報システム部門が必要なスペックだけを決定し、導入は現場に任されている」という企業も多かった。極端なケースとしては、「PCは鉛筆や電卓に代わる文房具の1つという位置づけなので、情報システム部門は導入には関与しない」という企業ユーザーもいたくらいだ。

 その状況が変わらざるを得なくなったのは、「コンプライアンス」の重要性が増したためだろう。個人情報保護法の施行で、情報流出にナーバスになる企業も増えた。個人が利用しているPCを企業のネットワークにつなぎ、そこから情報が流出した実例も多いことから、「クライアントPCの管理」は重要な課題となっている。

 だが、情報システム部門は予算が削減され、人員も減らされている。手間がかかるクライアントPC管理をどうこなすのか、頭を痛める企業が多いのが実情だろう。

 そこでインテルでは、vProを発売するとともに、「システムインテグレータ(SIer)が企業のクライアントPC導入に関与し、情報システム部門の悩みをカバーするのが望ましい」という見解を打ち出している。

 システムインテグレータの中には、「確かにクライアントPC導入は、我々にとって新たなビジネスチャンスとなり得る」というところも出てきた。

 ダイヤモンドコンピューターサービス(以下、DCS)もその1社だ。金融系の企業ユーザーを多数持つ同社では、「複雑さが増すクライアント環境を整備するため、我々のようなシステムインテグレータにとってビジネスチャンスは大きく広がった」と考えている。


vProが新たなビジネスを生む可能性も

総合企画部の瀬端和男部長
 DCSでは、2006年10月、「システムインテグレータから見たインテルvProテクノロジーのビジネスメリット」というタイトルのセミナーを実施した。

 同社は、その社名からもわかる通り三菱系列のシステムインテグレータで、三菱総合研究所が株式の60%を、三菱UFJフィナンシャル・グループが株式の40%を保有する。2007年4月からは社名も三菱総研DCS株式会社となる。

 顧客には金融系のユーザーも多く、これまではクライアントPCに使われているテクノロジーを紹介するセミナーを開いたことなど一度もなかった。にもかかわらず、vProをテーマとするセミナーを開催したのは、「vProは、システムインテグレータのビジネスを変える可能性をもつテクノロジーだと感じた」からだという。

 DCSとインテルとは2004年から提携関係をもち、「次世代データセンター構想」の検討、ビジネスグリッドの実証実験などをおこなってきた。だが、これはクライアントPCではなく、サーバー分野における協力関係。クライアントPCにおける提携に至ったのはやはりvProの登場によるところが大きい。

 「インテルとさまざまな協議を行い、2006年の4月にはIntelが米国で開催したvProの発表会に参加し、同社が推進しているプラットフォーム指向に関する説明を聞いて、これなら十分にコラボレーションを組めると判断した」(総合企画部の瀬端和男部長)

 しかし、現段階ではvProの優位性を理解するユーザーはまだまだ少ない。DCSでも実際にユーザーにvProの説明をすると、「導入した場合にどんなメリットがあるのか?」という声があがるという。その疑問に対し、vPro導入のメリットを説明すると、ユーザーの反応が変わってくるという。

 DCS自身も千葉県にある情報センターでヘルプデスクのアウトソーシングサービスを行っているが、「ヘルプデスクのように大量のクライアントPCを利用している場合、導入メリットがあることは明らか」だと瀬端部長は強調する。

 リモートで端末を集中管理することで、1)予防保守とリモート復旧が可能、2)遠隔地にあるハードウェア、ソフトウェアの資産管理が可能、3)業務時間外にセキュリティパッチを適用し、強度のセキュリティレベルを保つことが可能、となる。

 リモート管理が実現すれば、端末をメンテナンスする際にかかる人、時間の効率化が可能になり、端末のダウンタイム短縮による業務効率のアップも可能となる。いわば、「二重のコスト削減が可能になる」わけだ。

 同社ではこうしたメリットを生かし、管理をアウトソーシングして請け負うマネージメントサービスプロバイダ(MSP)としてサービスを提供することも計画している。vProというテクノロジーが新たなビジネスチャンスを生むことになる。


技術がカバーできない部分をカバーするのがシステムインテグレータ

SI技術部長の石井佳彦氏
 実際に提供するソリューションに関しては、vProを導入した場合にどんなことができるのか、逆にできないのかを、実証実験を行いながら確認を進めている。

 実証実験を行うのは、「企業ユーザーの実態を考えると、保険会社のように一斉にクライアント変更を行う業種もあるが、それはむしろレアケース。少しずつクライアントPCの入れ替えを行う企業が多いだろう。そういった混在環境となると、管理ツールを利用したとしても、おそらくカバーできる部分、カバーできない部分が出てくる。実証実験を行うことでそれを明確にする」(SI技術部長の石井佳彦氏)という狙いがあるからだ。

 そしてこの実証実験で明らかにする、「混在環境で起こってくる問題点とはどんなもので、それをいかに対処するのか」こそ、インテルのようなプラットフォームを提供するメーカー、管理ツールを出しているメーカーでは答えの出せない部分でもある。「システムインテグレータにとっては、最も大きなビジネスチャンスとなる部分」(石井技術部長)なのだ。

 DCSでは技術部門にvProに取り組むための専任エンジニアをアサイン。インテルとの協働で技術検証を進めている。

 「すべてをvPro環境とした場合、vProと非vProの混在環境、非vPro環境の3つを、管理ツールを使いながら、クライアント管理にどういった違いがあるのかといったことを実験していく」(石井技術部長)

 専任の技術担当者を置いて実証実験を行うといったことは、vProが登場してから間もないテクノロジーだから必要な、過渡期だからこそ必要なものにも思えるが、石井技術部長は「そうではない」と否定する。

 「企業が利用する端末は、PCだけに限らない。携帯電話なども含まれ、バックヤードを含めてさらに複雑さを増してくることになるだろう。そういったクライアントの複雑さをカバーしていくためには、我々システムインテグレータがクライアント導入のお手伝いをするというビジネスが今後も必要になる。技術的な問題をカバーするスタッフの存在も欠かせないものとなる」(石井技術部長)

 企業が利用するクライアントは、どんどんシンクライアント化していくのではないかとの見方もあるが、「これまでダム端末を利用していた業務であれば、シンクライアントへ置き換えとなるだろう。が、例えば金融系のユーザーで、複雑なディールをやっている人では、PCでなければ処理が追いつかない。すべてをシンクライアントに置き換えるのは、現実的には難しい」と瀬端部長は指摘する。

 そうした、「業務によってクライアントPCが必要とするスペックに差がある」という点も、システムインテグレータにとってはビジネスチャンスが生まれるポイントとなっているようだ。


ノートPC分野は日本が先導できる可能性も

 しかし、いかにシステムインテグレータが介在しようとも、「ユーザー側にはクライアントは少しでも安価であることが望ましいという考えがあることは変わらない」という。

 実際にDCSでもユーザーの元にインテルとともに商談に出向いた際、ユーザーからは、「vProのような新テクノロジーが登場したからといって、クライアントの価格がこれまでに比べ上昇することにはならないのか?」という質問があがったそうだ。

 「その質問に対しては、インテル側から『そういうことはない!』と説明してもらった。クライアントPCをきちんと管理していかなければならないと企業側も考えるようになったことは間違いない。とにかくクライアントPCは安ければいいと考えてチョイスしてしまうと、逆に、結局は管理コストが割高になることもある。管理まで含めて適正なコストとなるようなチョイスを、システムインテグレータとして呼びかけていかなければならないだろう」(瀬端部長)

 vProが提供する機能と実証実験によって得たノウハウを組み合わせ、「利用する企業の業務革新となるような提案を行っていくことがシステムインテグレータとしての役割であり、今後のビジネスとなる」(石井技術部長)というのがDCSの見方だ。

 さらに、これからvProがノートPCに対応することで、「日本のシステムインテグレータの力を見せるチャンスが生まれる」と瀬端部長は期待する。

 「米国ではvPro発売前から、大手インテグレーターのEDSが実証実験を行い、そこで得たノウハウが製品の中に反映されている。ノートPCは、米国の企業よりも日本企業の利用頻度が高いので、我々日本のシステムインテグレータが得たノウハウや問題点を、インテルを通じて米国側にフィードバックしていきたい」(瀬端部長)


最適なクライアント像を企業が真剣に検討すべき時代になった

 こうしてvProに関して、インテル、管理ツールベンダ、システムインテグレータの話を聞いていくと、クライアントPCの管理はサーバーの管理以上に複雑で、容易ではないものであることがわかる。

 シンクライアントのように管理しやすい端末を導入することは問題解決法の1つではあるが、「すべての業務をシンクライアントでこなすことは難しい」というのが、どこの企業からも返ってくる答えだ。そうなると、vProのようにリッチクライアントを管理するテクノロジーが必要となる。

 ただ、企業の中で使われていく端末は、1種類だけに限らない。スマートフォンのような新しい端末が加わっていく可能性もあるだろうし、シンクライアント、リッチクライアントが混在していくというのが現実だろう。そこに企業が抱える個々の事情が加わって、複雑さはさらに増していく。

 インテル側もそれを理解しているからこそ、管理ツールのベンダ、システムインテグレータとの協業が不可欠としているのではないか。

 しかも、これは一時のことではなく、継続的なビジネスとなっていくものだろう。企業がクライアント管理を行う必要がなくなる日が来るとは思えないからだ。

 シンクライアントが脚光を浴びた時には、解答は1つだけだったが、現在はvProのように、リッチクライアントでも管理を容易にするテクノロジーが出てきた。「自社に最適なクライアントとはどんなものか」を、企業がもっと真剣に検討すべき時代が始まったといえるだろう。



URL
  ダイヤモンドコンピューターサービス株式会社
  http://www.dcs.co.jp/

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  ・ 第一回・インテル-クライアント管理を考え直そう(2007/03/07)
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( 三浦 優子 )
2007/03/22 00:00

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