筆者は、自分自身でもWeb 2.0に関わる事業を行っていく立場にあります。また、さまざまなブログや著作を通して自らの見解を発表させていただく機会にも恵まれているわけですが、本連載ではWeb 2.0におけるビジネスモデル情報・分析を適宜お届けしていきたいと考えています。
特にケーススタディを重要視し、原則として、Web 2.0という領域に関わる企業や組織のキーマンをお招きして、Web 2.0をキーワードにインタビューしていきます。実際に事業に携わる最前線の人たちの生の言葉をお伝えすることで、Web 2.0のリアルな部分に焦点を合わせていけることでしょう。
今回はその導入部として、まず筆者が「Web 2.0とは何か」を整理してみたいと思います。
■ Web 2.0とは、進行中の環境変化
改めて、「Web 2.0」という言葉を目にしたり耳にしたことがある方は、少なからずいると思います。
この数年間にWebの世界で起きたさまざまなイベントによって、Webの環境が激変してきており、その状態を分析した多くの識者が、現在から近未来にかけての方向性をまとめて定義づけようとしていますが、それらを端的に表現したもの、それがWeb 2.0です。
その意味で、Web2.0はいまだ進行形であり、現時点での静的なポイントを示すものというより、数年間のスパンでの“環境変化”として認識されるべきと筆者は考えています。そして、このキーワードに今多くの注目が集まっています。さまざまなベンチャー企業がWeb 2.0企業という冠を得ようと競って新しいサービスを開発しており、それに呼応するように多くの投資家がこの領域に資金を投じる意思を表明しています。
Web 2.0の技術的な解明を試みたり、その恩恵を考えてみたとき、Web 2.0とはTim Berners-Lee氏が提唱する「セマンティックWeb(Web文書の内容に関する情報(メタデータ)をWebページに持たせることで、情報を自動的に処理させることができるWebを作るというプロジェクト)に非常に近いものであることが分かります。ともに高度に構造化されたWebが情報のプラットフォーム、あるいはデータベースとして機能する状態を指しているからです。
両者の違いは、セマンティックWebが特定の団体が計画的に実現を目指している“理想的なWeb”であるのに対して、Web 2.0は冒頭でも述べたように、既にある程度兆候を見せ始めている“実存するWeb環境”を表現しているという点であるといえるでしょう。
■ Web 2.0とこれまでとの違い
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Web 1.0からWeb 2.0にかけての主要な技術・サービスなど(Copyright:FBS)
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もともとWebとは、URLを埋め込んだHTML文書が互いにハイパーリンクによってつながれたデータベース的なネットワークのことです。しかし、HTMLは人間にとっての読みやすさや視覚的効果を優先しており、プログラム的には曖昧さを多分に残しています。リンク切れやプログラム上の文法間違いなどに対して寛容であるがゆえに、結果としてネットワークとしてすべてがつながっているわけではないのです。従って、データベースとしては十分な機能を発揮し得ない状態になっています。 この状態のWebをWeb 2.0に対する比較対象としてWeb 1.0と称しています。
これに対してWeb 2.0は、XMLが占める割合(XML濃度)がはるかに高いのが特徴です。Webが2.0と称されるような環境に変化した大きな理由の一つとして、ブログの普及があります。ブログはXML準拠であるXHTMLで書かれています。また、エントリーごとに生成されるRSS/Atom FeedはXMLそのものです。結果としてWeb上のXML濃度がどんどん高まっているわけです。
XMLは、そもそもサイト同士のデータの相互利用(つまりWebサービス)に活用されます。XML濃度が高まってきたという状況は、Webサイト同士の連携がしやすい状態になってきたということです。
また、 現在のWeb上では、ハイパーリンクがより広範囲につながり始めています。正確にいうと、非常に小さなサイト達が密接にリンクし始めており、ネットワーク化しています。これまでのようなハイパーリンク切れによる連携の切断が目立たなくなり、接続されたリンク範囲が大きく広がり始めているのです。つまり、データベースとしての信頼性が向上しはじめているということです。
■ Web 2.0という環境が生まれた背景
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XMLと、これに沿って記述されたFeedにより、さまざまな情報資源がリンクする
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これは、ブログにおけるPermalinkという、記事単位のURI(Uniform Resource Identifier)が存在していることが大きな要因です。Permalinkによってデータの出所が明確になり、記事単位でハイパーリンクが可能になったのです。その上、一件一件の記事にFeedというメタデータが生成されるため検索性が向上し、コメント、トラックバック、タグなどでユーザー同士による付加情報がどんどんWeb上に貯められているわけです。
同時期にSNSやソーシャルタギング、ソーシャルブックマークなどの情報共有型コミュニティが発生し、かつサービス上でブログとの融和が進んだことによって、Webの構造化はますます進むことになりました。構造化が進めば、データベースとしての価値が高まります。
さらに、その構造化に着目したアルゴリズムを持ったGoogleという強力でSEOスパムに対抗し得る検索エンジンが勢力を伸ばしたことも、あらゆる情報を引き出せるデータベースとしてのWebを進化させることにつながりました。この状態を、Web 2.0と呼んでいるわけです。
GoogleやOvertureなどの成功によって検索性能も急激に向上しましたが、検索される側のWebサイトが、自ら検索性が高い構造に体質変更しはじめたことは本当に注目すべきことです。
このように、Web 2.0は、Googleをはじめとする強力な検索エンジンの登場、そしてその検索エンジンと親和性が高く、(XHTMLで記述されており、自発的にリンクし合う性質を持つゆえに)構造的なブログの普及、副産物としてのFeedの大発生などにより、情報の検索性や更新情報のリアルタイム通知といった特長を備えつつあります。いよいよデータベースとしての本来の性質をあらわにし始めたわけです。
もちろん、Web 2.0という新しい環境を作り出した要因はもっと複合的であり、AmazonのAPI公開やeBayのようなユーザー参加型サービスの出現、NapsterやBitTorrent、Skype、iTMS(iTunes Music Store)のようなファイル共有・交換型のサービスの普及、あるいはオープンソースコミュニティの拡大など、個々を研究するだけでも非常に長い時間を要するほど、さまざまなケーススタディを得ることができます。逆にいうと、Web 2.0の全体像をとらえることは、それだけ難しいといえると思います。
■ O'ReillyによるWeb2.0におけるネット企業の条件
テクノロジー関連の出版社、米O'Reilly&AssociatesのCEOであるTim O'Reilly氏は、2004年にWeb 2.0に関する論文を発表していますが、その中でWeb 2.0に適応する企業の条件を以下のように説明しています。
- サービス提供者であること。パッケージソフトではなくサービス提供している
- データソースをコントロールする。Web 2.0はデータベースであり、そこにデータを提供できること。ユーザー数の拡大に応じてデータの価値が増す。
- ユーザーの無意識な参加を促す。ユーザーを信頼し、フィードバックを開発に反映させている。
- 集合知を利用する。ユーザー全体から得る情報をデータベース化している。
- Long Tailを理解している。ナノメディアやナノデータに収益依存している。
- プラットフォームを選ばない。PC、ケータイなどの複数プラットフォームでサービスを提供している。
- リッチで軽いAjaxやLAMPなど、オープンソースを多用し、Mashupすることによって、再利用されやすい形式でサービスを提供している。
大事なことは7つをすべて網羅しているカバレッジよりも、垂直的にどれか一つでも飛び抜けてコミットしている企業の方がWeb 2.0的と言及していることです。これは注目すべき重要な指摘であると考えます。
■ 環境変化を理解することが重要
Web 2.0というものが、既にに我々が目の当たりにしているWebの状態、環境を示しており、更にその傾向が加速している状態を指している、ということが筆者の主張です。
ですから大事なことは、その環境の性質を理解すること、そしてその環境によって何が起きていくかを推測することでしょう。一般的なネットユーザーであれば、どんなメリットを受けることができるかを知っておくほうがいいと思いますし、逆にリスクがあるとすれば、それは何なのかを知っておいたほうが無難といえます。
また、ビジネスパーソンであるならば、Web 2.0環境下で、どのようなビジネスを行っていけばいいのか、ライバルがどんな手を打ってくるのかを考えておくべきだと考えます。
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小川 浩(おがわ ひろし) フィードパス株式会社 COO。1996年、デル、ゲートウェイの代理店としてマレーシアにて日系企業および在住邦人向けのPC通販ベンチャーを創業。1999年9月にアジアと日本をまたがるSNSを開始。その後日立製作所にてコラボレーションウェア「BOXER」を立ち上げたのち、ネットビジネス・プロデューサーとしてサイボウズにジョイン。ブロガーとして「Web2.0 BOOK」「ビジネスブログ」シリーズなどの著作がある。 |
2005/12/22 00:00
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