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グロービス・キャピタル・パートナーズ小林氏に聞く「投資したいWeb 2.0企業」
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最初のゲストとしてお招きしたのは、最近SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を運営する株式会社グリーに投資を行ったことで話題になり、かつご自身でもブロガーとして活躍される、グロービス・キャピタル・パートナーズのパートナーである小林雅氏です。
■ ベンチャーキャピタリストが見るWeb 2.0
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株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー 小林雅氏
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─本題に入る前に、簡単に自己紹介をお願いします。
小林氏
私は2001年に現在のベンチャーキャピタル(以下、VC)に入りまして、主にネット系のベンチャーへの投資判断をしています。目立ったところではグリーに投資しました。2~3年前からWebサービスに関するカンファレンスなどにも出席するようになりましたが、当時は日本でそうした起業の話は聞かないなと思ってました。しかし、今年になってから日本でも、Google Mapsなどをうまく利用してWebサービスを行うような事例がどんどん出てきて、個人的には嬉しいところです。
バブル期には20億、30億というような大型投資が多かったように思いますけど、2003年くらいから草の根的というか、本来のインターネット的というか、とにかくローコストでいいサービスを作るベンチャーが多くなってきたという気がしてます。バブルがはじけてお金が集まらなくなったという悪影響をローコスト開発という良い方向に転嫁して、さらにオープンソースやブロードバンドの普及で小さなベンチャーがアタマを使うようになったということです。環境にマッチしたベンチャーがどんどん生まれてきた、その一つがグリーだった、という感じです。
─それでは早速ですが、Web 2.0というキーワードを耳にすることが最近急激に増えてきたと思いますが、ベンチャーキャピタリストとして、この状況をどう見ていらっしゃいますか。
小林氏
私は基本的に、個別のサービスを機能的に概念化したものでしかないと思ってます。つまり個別具体例でしかない。概念をまとめても意味が無いし、ビジネスとして、あるいはサービスとして具体的に何をするか、というのが大事になっていると思います。
■ まずトラフィックを集めるサービスを選ぶ
小林氏
Web 2.0的な企業という目で投資候補を見るときは、その企業の開発コストが安いか、ビジネスモデルとして成り立つか、というところを重視します。少数精鋭でユーザーのロイヤルティを集めやすいサービスを作っている、外部のAPIを利用してコストをかけない、ユーザーがアクティブなサイトになっていても結果として何がそういう状況を生んでいるのかを理解するのが大事だと思います。
─それらの基準はどういうところに置きますか?
小林氏
今はP/L(財務諸表)をベンチマークにしてます。少ない人数でスケーラビリティが達成しているかを判断するわけですが、グリーの場合P/Lもアタマに入っているから、それと比べて高いか安いか、という判断をします。
─グリーに投資をしたのはいつですか?
小林氏
意思決定は4月、実際に投資したのは7月でした。そのときはWeb 2.0という言葉は意識してませんでしたが。
─SNSへの特別な思い入れはありますか?
小林氏
あるかもしれませんね。Web 2.0においては、Web=プラットフォームということを理解してないといけないと思うからです。最近のWebは、CGM(Consumer Generated Media:消費者が自ら情報を発信するメディア)と検索からのトラフィックが増えてます。SNSはブログと同じくCGMの一種です。トラフィックの源泉が重要です。
─ビジネスモデルより、トラフィックが大事ということですか?
小林氏
もちろん、トラフィックをお金に換える技術は大事です。具体的にはRSS広告、アフィリエイトなどがいいですね。Googleは検索エンジンのOEMもしていて、そこでアフィリエイトをやっています。しかし、その前にトラフィック自体を集める事業としてCGMはいいと思います。
─強烈にトラフィックを集めているけどビジネスモデルが確定されていない企業はどうですか?
小林氏
「黒字でもたいして儲かってない企業はどうする?」というところが大事であって、Googleのように一定の確率で化ける企業は存在します。最初から費用対効果が実証されたモデルは少ないし、後から分かることが多いです。だからまずはトラフィックを集めることができて、大きく伸びるモデルを選びます。トラフィックをお金に換えることができるかどうかは、投資家としても一種の賭けです(笑)。
─VCも賭けてくれないと困りますね(笑)。
小林氏
トラフィックの質、メディアの質を見なくてはいけません。トラフィックをお金の変えるやり方は、VC側も一緒になって考えていけばいいと思います。
─それは広告モデル以外にもありますか?
小林氏
Web 2.0といったとき、今のところどうしても無料サービスにしてトラフィックを広告価値に換算するというモデルにならざるを得ません。あとはアフィリエイトでしょうか。まずユーザーが儲けて、その分け前を企業がいただくという姿勢というか、そんなモデルもいいと思います。
■ キーワードは、ローコスト・フリーダム
小林氏
以前にWeb 2.0カンファレンス(編集部注:2005年11月にサンフランシスコで開催され、GoogleやMicrosoftのほか多くのベンチャー関係者が集まった。Tim O'Reilly氏が主催)に参加したとき、あるベンチャーが「金なんていらない、同じインパクトのサービスを作るコストが、以前の10分の1になった」といってました。つまり1億円の価値が10倍になった。ムーアの法則ではありませんが、安い金額ですごいサービスを作れるようになるということです。ということは、一社にまとめて投資するよりもばらしたほうが、リスクが分散されているし、イノベーションが波及します。
─ポートフォリオを組めるわけですね。
小林氏
そのとおりです。VC側も投資に対して前向きにポートフォリオを考えられるようになりました。いい案件にはオファーが集中するので、VC側もブログを書くとか、選ばれるような努力をしなくてはならなくなりました。
Googleが出てきた影響で、フリーダム的な経営、安い金額でスケールが出るならどんどん自由に経営しろという雰囲気になってきました。今のキーワードは、ローコストとフリーダムです。オープンソースを使って安く開発し、スケールを出すことができれば、経営は優秀な人に任せてどんどん前に進むことができます。
■ 競合よりユーザーを見よ
─少し話題を変えます。SNS業界においてグリーの会員数は27万人、これに対しmixiは140万人(いずれも2005年12月現在)、サイワールドなどの競合も生まれます。この差をどう埋めますか?例えばコンバージョンレート(トラフィックやユーザー数から生まれる売上・利益を最大化するための効率)を上げるなどの戦略はありますか?
小林氏
Web 2.0時代の競争戦略は、世界観的には競合よりユーザーを見ようということです。だからmixiは関係ありません。ユーザーのロイヤルティをどうやって高めていくかをひたすら考えます。グリーのユーザーは月間10%の割合で伸びていますし、一人当たりのページビューも伸びています。
─ビートコミュニケーションズのように、SNSを企業相手にOEMするモデルもありますが、どうでしょう?
小林氏
他社は他社ですが、グリーとしては受託はやりません。私が投資をするかどうかの前提でいいますと、下請けとか受託をするところには投資しません。Web 2.0企業と名乗るのであれば、受託はいい手段とは思えません。目先の利益の前に、考える力やユーザーと向き合う信念を放棄することになります。受託ではいい人材を雇えません。
少数精鋭が大事ですから、優秀な人材を集めなくてはいけません。コンシューマと向き合って、いいサービスを考える力、それを一生懸命やってる企業がいいと思います。Googleがそのいい例であり、王道です。それを目指す会社に投資したいです。
─昔はVCに出資を仰ぐためにサービスを説明すると、必ずといっていいほどいわれた言葉は「マイクロソフトやYahoo!に勝てるのか」という比較論でした。
小林氏
そういうベンチマークも大事ですが、少なくとも私は、今は競合を見るのはやめてます。その昔、一世を風靡(ふうび)したNetscapeやAltaVistaだっていつの間にかいなくなってしまいました。マイクロソフトはデスクトップアプリケーションをやってますが、今はWebアプリケーションもたくさん出てきていて、新しい競争に直面しつつあります。パラダイムシフトはいつでもありえるので、今いる競合を相手にしてビジネスを作るのは無意味です。
それと、オープンソースが大事です。例えば、Firefoxは仕組み的に面白くていいですね。IEに勝てるかどうかばかり考えていたら生まれてない事業ですよ。こういったサービスがどんどんでてくることを期待してます。
─最近は(Sleipnirを開発する)フェンリルやLunascape、Flockなど、IEへの挑戦者がどんどん出てますね。
小林氏
Firefoxがあまりにいいので、私はほかをあまり気にしてませんが(笑)。でも、そういうチャレンジャーが出てくることはいいことだと思います。
─(ケータイ向けフルブラウザの)Jigブラウザはどうですか?
小林氏
私はケータイをほとんど使いませんが、面白いと思います。ケータイの性能アップ速度はPCより早いから、環境がどんどん変わってます。だから「ケータイ2.0」みたいなサービスは次々に生まれると思います。フルブラウザが出て、番号ポータビリティが始まると、キャリアは安定収入が無くなり競争激化する。だから、モバイルの世界でもWeb 2.0的現象は急速に進むでしょう。
─同感です。私が進めている「Feedpath」というプロジェクトも、短期的な最終目標としては、ケータイとPCのWebの融合にあると思っています。
■ 機能に凝るより使いやすい速度を
─ところで、2006年はWeb 2.0の旗手としてどこを注目してますか。
小林氏
まず世界的にいえば、Google対Yahoo!という基軸は変わらないでしょう。MSNは難しいかもしれません。IAC(Inter Active Corp)のようなメディア・コングロマリットもありますが、総合力ではYahoo!が図抜けていると思います。あとは、Firefoxがどこまで伸びるかが結構重要です。Webブラウザが変わると、Webのユーザー体験が劇的に変わりますから。
─タブが使えないIEをよく使ってるなあと私も常々思っています。
小林氏
例えば私は、GmailとFirefoxの組み合わせに慣れると、IEとHotmailが使えなくなってしまうと思います。生産性が全然違いますから。Lotus NotesのメールもGmailに比べると使いにくく感じます。
─GmailはAjaxの使い方のホドホド感がいいと思います。
小林氏
そうですね。ユーザーのリテラシーがどんどん上がってきているので、ああいった操作感が必要です。登場したときは衝撃的でした。
─話が脱線してしまいましたが、日本のベンチャーで注目するところはどこでしょう?
小林氏
CGM的なところで、日本でも特化型というか垂直型のSNSがどんどん出てきてますが、あれらは全部消えて淘汰されると思います。技術面やインフラ面で革新的なことをやらないで、業界特化とかターゲットの絞り込みに動くのは、CGM的なサービスとしては逃げであって、バブル期にもありましたが、やはりほとんど消えてしまいました。
課題を感じるのは、やはりサービスの速度です。広くユーザーの声を聞いてイノベーションに取り組まないといけません。機能的にどうこういうのはあまり関係なく、基本はUI(User Interface)とスピードです。変に機能に凝るではなく、とにかく速くて使いやすいというのが重要です。そういう基本に集中するベンチャーがいいと思います。グリーは、そういうところに信念を感じます。
─昔は8秒ルールなんて言葉もありました。
小林氏
今では瞬時に表示しないと飽きられます。
─楽天やライブドアのようなサービスはどうでしょう?
小林氏
楽天はネット企業ではなく金融企業でしょう。悪い意味ではなく、いわゆるネット企業と比べる対象ではないと思っています。ライブドアも同じです。両社とも一つの王道を行っている企業ですが、ネット企業、例えばAmazonやGoogleと比べるのは、意味が無いと思います。
─最後に、小林さん自身が来年に向けて思うところをおっしゃっていただけますか。
小林氏
いろいろ勉強していきます。私は、将来日本からGoogleを超えるようなベンチャーを出したい、そういう可能性を持った企業に出資したいです。来年なのか、その後なのかは分かりませんが、早く実現したいと思います。
─楽しみにしています、ありがとうございました。
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小川 浩(おがわ ひろし) フィードパス株式会社 COO。1996年、デル、ゲートウェイの代理店としてマレーシアにて日系企業および在住邦人向けのPC通販ベンチャーを創業。1999年9月にアジアと日本をまたがるSNSを開始。その後日立製作所にてコラボレーションウェア「BOXER」を立ち上げたのち、ネットビジネス・プロデューサーとしてサイボウズにジョイン。ブロガーとして「Web2.0 BOOK」「ビジネスブログ」シリーズなどの著作がある。 |
2005/12/26 00:00
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