今回お招きしたのは、最近話題になっているネット広告のニューウェーブ「RSS広告」において、日本のパイオニア企業としてご活躍されている株式会社RSS広告社 代表取締役社長の田中弦氏です。
■ 新しいコンテンツマッチング型広告「RAWS」に注目
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株式会社RSS広告社 代表取締役社長 田中弦氏
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─本題に入る前に、簡単に自己紹介をお願いします。
田中氏
いろいろな会社を経験しているので説明が難しいのですが、まずソフトバンクに入社して「ブロードキャスト・コム(編集部注:音声や動画などのオンデマンド配信とホスティングサービスを展開。2000年にヤフーが吸収合併)」を立ち上げました。その後、ネットイヤーグループの立ち上げに参画し、3年ほど経営戦略に従事しました。
そして2004年5月に現在所属しているネットエイジに入りました。まず、ケータイのアドネットワーク販売事業を立ち上げ、その後に新しいプロジェクトとして、2005年4月にRSS広告社を立ち上げることになりました。
RSS広告社の企画は、GoogleやOvertureがRSS広告をやろうとしているらしい、との噂を聞き、我々も先んじてやってみようかと、(ブログ検索サービスの)BLOGNAVIなどで実験をしていたのです。そこで「どうやらこれはいけそうだ」と考え、現COOである倉森と二人でサービスを詰めていきました。
ーRSS広告社はネットエイジグループの会社になるわけですね。
田中氏
そうです。現在もネットエイジが大株主ですが、リクルートとサイバーコミュニケーションから10.5%ずつ出資いただいています。
─事業内容としては、どのようなことをされてますか?
田中氏
まず最初に始めたのが、RSSフィードにコンテンツマッチ広告を差し込むというモデルです。これはRSSフィードを配信しているメディア向けの事業になります。
次に始めたのが、ブログの横(サイドバー)などにコンテンツマッチ広告を掲載するというモデルです。これは、一般の個人ブロガー向けの事業になります。
それと、最近立ち上げた「RAWS(RSS Ad Web Services)」というサービスの3つになります。
最初のモデルはロングテールのヘッド(マスメディア)向け、 そして2番目と3番目はロングテールのミドルからテールに向けてのサービスといえますから、後の2つはある意味Web 2.0的といえるかもしれませんね。
─最初のRSSフィードへの広告配信が、よく知られるRSS広告ですね。
田中氏
そうですね。メディア側で生成するRSSフィードに、コンテンツ内容に即した広告を入れて配信し、ユーザーはRSSリーダーで記事とともに広告を見るということになります。
─2番目のブロガー向けコンテンツマッチ広告は、AdSenseとほぼ同じですね。
田中氏
そうですね。我々は同時に一般ブロガーのブログが生成するRSSにもコンテンツマッチ広告を出す仕組みの提供を始めているので、RSSフィードに広告を出す、ブログに広告を出す、ありとあらゆるWebサイトやアプリケーションにも広告を出す、という3つのモデルがあるといえます。
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RAWSのシステムイメージ
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─3番目がRAWSですね。詳しく教えていただけますか。
田中氏
広告を掲載するメディア側にとって従来と違う新しいシステムです。既存のバナーやスクリプトを利用した定型の広告配信と異なり、XMLで広告を配信するAPI形式を採用します。レイアウトも広告を掲載する側で自由に設定していただけます。
このRAWSは非常にWeb 2.0的だと思います。広告データベースや広告主と原稿、配信先を一般に公開して、広告掲載のしきい値を下げるというアプローチです。
─Webサービス、というわけですね。
田中氏
そうです。ですから、広告を表示させるメディアは何でもいいのです。普通のWebサイトでもいいし、ブログでもいい。アプリケーションにさえ広告を配信・表示させることが可能になりました。
■ コンテンツマッチング型広告は2009年に800億円市場に
─RAWSが御社の主力サービスになるのですか?
田中氏
いえ、主力サービスは今後もRSSフィードへの広告配信だろうと思います。なぜなら、弊社の広告はいい場所に掲載することができるのです。RSSフィードにある記事の真下にコンテンツマッチの広告が現れるのですが、記事を読む視線は縦に進むので、常に広告も見やすくクリックレートが高くなります。フィード広告のクリックレートは0.5%、AdWordsなどブログの横に表示される広告は0.1%といわれており、5倍ほどになります。
─なるほど。今後、バナーなどのいわゆるディスプレイ広告に対して、どのくらいのシェアを奪えるかが勝負になりますね。
田中氏
(Windows Vistaに含まれる)IE7が出れば大いに期待できます。IE7はRSSリーダー機能を搭載するので、無意識にユーザーが使うようになるでしょう。ネット初心者がRSSを意識せずに使うようになれば弾みがつきます。RSSリーダーが普及すれば、というよりもIE7が普及すれば、すごい数のRSSフィードが世の中に出回ることになります。
─市場規模をどう見ていますか?GMOアフィリエイトやトランスコスモスなどが参入すると聞いてます。
田中氏
RSS広告のプレイヤーとしては、「FeedBurner」のGMOアフィリエイト、「Pheedo」のトランスコスモス、さらにアナウンスされて久しく続報がありませんが、サイバーウィングやニューズウォッチが参入表明してます。
ただし、現時点ではRSS広告社だけが先行してサービスを開始してます。アウンコンサルティングの予測によると、2009年には日本の検索連動型広告の市場規模が1325億円くらいになり、コンテンツマッチング型広告はその3分の2程度の規模になるという予測が出ています。つまり約800億円。弊社はそのうちの10%程度を狙います。
■ 強みは日本語解析システムを自社で持つこと
─それでは、他社と比べてRSS広告社の強みは何ですか?
田中氏
他社との違いは、日本語解析システムを自社で持っている点です。我々は日本語のコンテクスト、およびテキストマッチに特化しています。それと、法人向けと個人向けのサービスを両方を持っています。GMO(Feedburner)は個人、Pheedoは法人に焦点を合わせています。
─トランスコスモスは、ロングテールのヘッド、つまり大企業が配信するRSSフィードへの広告出稿を確保することに全力を挙げるといっています。この方向はいかがですか?
田中氏
我々もロングテールのヘッドには興味あります。ニュースサイトからのRSSフィードには大きな価値があります。ブログのような個人メディアは、マスメディアのような一次ソースからの情報を元に、新たな価値を付加してロングテールのテールの部分を長くしていきます。だから、一次ソースはいわば定番フィードみたいなもので、ここに広告を掲載してもらうことは大事です。
我々はタイトルと本文を両方みて広告を出しているのですが、一次ソースとなるメディアに対しては、記事のタイトルに加えて「コンテンツの50~100文字をください」とリクエストしています。そうするとテキストが3行つく。そこにRSS広告の画像を加えるとプラス2行。このくらいならバランスがとれるのではないかと思います。
それと、先述しましたが、我々は日本語解析システムにネガティブワード辞書を持っています。つまり、テキストに対して広告の内容がアンバランスになることがあるのは、多少仕方なくても、人の生き死にに関わるニュースに対してあからさまに明るい広告を出したりしないように気を使っています。
コンテンツマッチの結果については、見る人の感覚によりますが、日本語解析をやっているエンジニアと相談しつつ、自分たちでなるべく“人の目で”フィルタリングして精度をあげようと努力しています。人名回避ロジックなどのように人名と地名などを分けるとか、「氏」や肩書きなどがついていれば人名と判断するなどの工夫も考えています。
しかし、新語や略語も次々とでてくるので、そういう自動的なフィルタリングは結局のところ60~70%くらいしかできないのではないかとは思いますが。
■ 「タグ系が熱い」
─先日、(2005年12月8日に行われたFBSカンファレンスにて)Web 2.0に関する講演をされてましたが、改めてWeb 2.0に対する見方をお聞かせいただけますか。
田中氏
いろいろな定義があると思います。ロングテールなどもそうですし。結局のところ、すべてを網羅している企業はないでしょう。最近のネットビジネスにおける成功パターンの特徴リストといえるのではないでしょうか。
Web 1.0企業なのか、最初からWeb 2.0企業なのかは別として、ビジネスやサービスを作っていく上でのアプローチ手法だとも思えます。Webサービスを使ったらWeb 2.0、というわけでもありませんから。
我々自身、サービスによっては「Web 1.0だな」と思うことがあるし、「Web 2.0を先取りしているな」と自画自賛できるようなサービスも持っています。いろいろですね。
─では、Web 2.0的に注目しているサービスはありませんか?
田中氏
米国の「topix.net」というフィードニュースのアグリゲーション(集約)サイトが面白いです。ここには新聞社が出資していたりして、なかなか興味深いスタンスになってます。
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topix.net
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─日本国内ではどうですか?
田中氏
今のところあまり気にしているところはありませんが、「はてなブックマーク」は好きで毎日見てます。今はやっているものが見えるのがいいです。今はタグ系が熱いですね。
─タグといえば、テクノラティのタグ検索はどうですか?
田中氏
タグは何かのサービスに乗っかっている形がいいですね。例えばグリーでは「ワールドマップ」というサービスがあって、写真にタグをつけて「Google Maps」と組み合わせて使えます。タグという機能をフォトアルバムとくっつけているところが面白いです。タグ検索だけだと、ちょっとつまらないかもしれません。Googleの世界遺産というキーワードにひもづけたタグサービスも面白いですよ。
キーワードとしてはタグです。RSSという言葉は理解するのに難しいので、タグみたいにシンプルなのがいいです。
─最後に、2006年の予測をお聞かせください。
田中氏
IE7の登場いかんではないでしょうか。RSSフィードがビジネスやユーザーの利用シーンに与えるインパクトはまだ少ないので、これを大きくすることが必要です。そうなると、IEがきっかけになるわけです。それからが本当の勝負になると思います。
この場合の戦略は簡単で、IE7の登場までに商品開発を終えてしまい、登場後は営業力で勝負します。その意味でようやくスタートダッシュができる状況になりました。2006年は勝負の年です。
─ありがとうございました。日本発のフィードビジネス系ベンチャーとして期待しています。
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小川 浩(おがわ ひろし) フィードパス株式会社 COO。1996年、デル、ゲートウェイの代理店としてマレーシアにて日系企業および在住邦人向けのPC通販ベンチャーを創業。1999年9月にアジアと日本をまたがるSNSを開始。その後日立製作所にてコラボレーションウェア「BOXER」を立ち上げたのち、ネットビジネス・プロデューサーとしてサイボウズにジョイン。ブロガーとして「Web2.0 BOOK」「ビジネスブログ」シリーズなどの著作がある。 |
2006/01/13 08:52
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