今回と次回は少し視点を変え、米国でWeb 2.0的と呼ばれる企業の担当者の声をお届けしたいと思います。
今回お話をうかがったのは、Web 2.0というトレンドの中で、Web 1.0的企業との世代交代を目指す米Upstartleでマーケティングやアライアンスを担当しているジェニファー・メイゾン氏です。
Upstartleとは、“Up”“Start”“Turtle(亀)”を組み合わせた造語らしいのですが、この会社名を知っている方は少ないと思います。しかし、彼らが提供しているWebベースのワープロ「Writely」は、カリフォルニアのVC(ベンチャーキャピタル)の注目の的となっているサービスです。
Webベースのサービスであるにもかかわらず、Ajaxによって非常にリッチなインターフェイスを備えたWritelyは、操作感がMicrosoft Wordに近く、非常に完成度が高いサービスです。しかも、Wordで作成したファイルをWritelyにアップしたり、作成した文書をPDFやHTMLに変換することができるので、Webを通じて第三者と文書を共有したり、共同作業を行うこともできます。
■ WebブラウザからWordが使える!?「Writely」
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米Upstartle ジェニファー・メイゾン氏
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─本題に入る前に、簡単な自己紹介をお願いします。
メイゾン氏
Upstartleでマーケティングを担当してます。最近、4人目の社員として入社したばかりで、前職は会計ソフトベンダーのIntuitに12年ほど在籍しました。
─ほかの3人は創業者ということですか。
メイゾン氏
はい、スティーブ、サム、クラウディアの3人です。現在、スティーブがデータベースやセキュリティ関係の責任者で、サムが投資案件などの対外的な交渉を、クラウディアはユーザーインターフェイスやデザインを担当しています。クラウディアはIntuitで(会計ソフトの)Quickenの設計をしていました。
─Upstartleという社名の由来を教えてください。
メイゾン氏
最初は「Upstart」にしようと思っていたらしいのですが、ちょっと勢いがよすぎるかもということになりました。「じゃあ少し落とそうよ」とサムが提案し、結局 「Turtle」を後につけて調整し、Upstartleにしました。
─なるほど。しかし、去年の夏にWritely立ち上げ後のスタートダッシュは、亀どころではないと思いますが(笑)。
メイゾン氏
そうですね。(スタートとしては比較的遅い)2005年8月に公開した割に反響は大きいです。Writelyはオンライン上でWebブラウザだけを使って利用できるワープロですが、Wordで作ったファイルを読み込むことができるし、PDF、HTML、OpenDocumentなどにも変換できます。また、それのファイルをほかの人と共有することもできるので、多くのユーザーに使われるようになりました。
OpenDocumentへの変換は11月に始めたばかりです。誰でも自由に使え、好きな形で文書を作って公開するためには必須のフォーマットと考えています。
■ まずユーザーを集めることが重要
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Writely
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─現在のユーザー数はどれくらいになりますか。
メイゾン氏
申し訳ないのですが正確な数字は公表してません。まだ10万人に到達してないと思いますが、100万人が利用しても耐えられるような設備とシステムを用意しているので、どんどん増やしていきたいです。
─では、Writelyのビジネスモデルについて教えてください。今のところは無料のようですが、今後はどのような展開を考えていますか?
メイゾン氏
いろいろなアイデアを模索しているところです。今のところ有望なのは、APIを公開して、そのライセンスを販売していく「ライセンス販売モデル」。基本サービスに追加機能を提供することによって月々の使用料をいただく「サブスクリプションモデル」。それから、特定ユーザー向けに広告を表示したり、特別なサービスを提供して課金する「垂直型サービスモデル」などです。
─3つ目の「垂直型サービスモデル」について、もう少し詳しく教えてください。
メイゾン氏
あまり細かく考えているわけではありません。今は、まだユーザーを増やしていくことが重要です。しかし、マーケットセグメントや、特定グループ・コミュニティに対して最適な広告や機能を提供することは、やはり考えておくべきと思っています。
■ VCからの支援を受け、事業を育てていきたい
─Writelyは、Ajaxを使ってWordに非常に似た使い勝手を実現していますが、Microsoftとの競合が気になりませんか?
メイゾン氏
よくいわれます(笑)。今のところビジネスモデルが違いますので、それほど意識してません。
─しかし、Microsoftからすると、心中穏やかじゃないと思います。
メイゾン氏
そうかもしれませんが、私たちは私たちのビジネスを考えることで今は精一杯です。
─Writelyと同じく、Microsoftのドル箱ともいえるOfficeと競合しそうなサービスを作っている企業が最近増えてる気がしています。例えばOutlookに非常に似た「Zimbra」や、Excelに似た「「Num Sum」などがそうですが、彼らと何か情報共有したりすることはありませんか?一緒に組んで、WebベースのOfficeスイートを作るとか(笑)。
メイゾン氏
Zimbraはよく知りませんが、Num Sumとは少し情報交換をしたことがあります。しかし、Num SumとWritelyのビジネスに対するスタンスが少し違っている印象を受けました。私たちは、とにかくこの事業を立ち上げ、育てていきたいのですが、Num Sumはテクノロジーの高さを誇示することに集中している気がします。
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ExcelライクなNum Sum
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─それは、UpstartleはIPO(新規株式公開)を狙っていて、Num Sumは話題を作ってどこかに事業を売りたいと考えているということですか。
メイゾン氏
そこまではっきりと分かりませんが、UpstartleはWritelyをとても大事に考えてると強調させてください。
─最後に、Web 2.0的企業に投資が集まりはじめています。今後、投資家からの支援を得たいと考えてますか。
メイゾン氏
もちろんです。今、サムが中心になってVCといろいろ話をしてるところです。もうすぐ何らかの発表ができるでしょう。
WritelyがWeb 2.0であるかどうかは私には分かりませんが、ユーザーが喜んでくれるサービスを開発し続ければ、それなりの評価を受けられると思います。
─ありがとうございました。
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小川 浩(おがわ ひろし) フィードパス株式会社 COO。1996年、デル、ゲートウェイの代理店としてマレーシアにて日系企業および在住邦人向けのPC通販ベンチャーを創業。1999年9月にアジアと日本をまたがるSNSを開始。その後日立製作所にてコラボレーションウェア「BOXER」を立ち上げたのち、ネットビジネス・プロデューサーとしてサイボウズにジョイン。ブロガーとして「Web2.0 BOOK」「ビジネスブログ」シリーズなどの著作がある。 |
2006/01/25 13:25
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