今日のゲストは、株式会社ゆめみの片岡俊行会長です。筆者は常々、Web 2.0の技術や構成要素がブラックボックス化し、一般のユーザーがそのメリットを肌で感じるようになるにはケータイを媒体としたWeb 2.0的サービスが行きわたる必要があると主張しています。この主張に沿うかどうかは別として、ケータイサービス市場を主戦場として成長を続けている企業の一つが、ゆめみです。
■ ゆめみはモバイルに特化
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取締役会長 片岡俊行氏
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―2月20日に、サイボウズと資本提携を行い、縁戚になってしまいましたが(笑)、今日はよろしくお願いいたします。
片岡氏
よろしくお願いします。
―まず簡単に自己紹介をお願いします。
片岡氏
ゆめみの取締役会長をしております、片岡と申します。もともと学生時代からネットには非常に興味がありまして、98年にはコミュニティサイトを既に作ったりしていました。ただ、コンバージョン(事業アイデアをお金にすること)ができなかったですね、そのころは。そこで、99年からはモバイルに集中することを考えまして、2000年に在学中の同級生3人で、ゆめみを設立することになりました。すぐに社員6、7名になりました。
―ゆめみは、モバイルに特化しているんですね。
片岡氏
ええ。特に昨年あたりから新しいモバイルの流れが来ていると感じてますね。そこで新規事業担当取締役として新しいプロジェクトを考えていこうということになりまして。11月に株式会社Sweetという会社を立ち上げたりしました。Web 2.0のケータイ版サービスみたいな、そんな次世代のモバイル事業の開発をSweetに集約していこうと考えています。
―ゆめみの事業を簡単に説明してくださいますか。
片岡氏
大きくはB2BとB2Cの2つに分かれますね。B2Bは法人向けに、携帯用一般サイトの構築、携帯用ECサイトの構築、その他ケータイを使った業務効率化、という3つのニーズに応えるのがうちの事業です。ですから、SIもやるし、コンサルも受けます。もちろんプロダクトの提供も行っていきます。
B2Cは、正確にはパートナーと共同して、B2B2C(B2C企業に対するシステム提供)みたいなことをやります。パートナーとのレベニューシェアや、開発費をウチが持って、パートナーが物販や広告などの事業をやる、という感じです。ガールズウォーカードットコムというサービスの立ち上げが成功例ですね。
■ モバイル版Web 2.0会社 Sweetを設立
―Sweetという新会社を設立した理由を教えてください。
片岡氏
2005年まではケータイのメルマガサイトやブログやECを作っていたんですが、それが実は単にPC上でのビジネスモデルをケータイのマーケットにうまく当てはめていただけだ、と気がつきました。これはいかん、ケータイならではのサービスをやらなければ、とおもい始めたんです。で、新会社を作った。
その新会社は、基本的にはB2Cです。いわゆるWeb 2.0の技術を利用したりしていくことを考えますが、とにかくケータイならではのマーケットに経営資源を投入していくつもりです。コンセプトとビジョンは、ニッチタイムバリューの最大化を考えている、ということです。ニッチタイムとは、すき間時間のことです。例えば通勤列車の中でやれることは限られていて、多くの人はケータイを使うかiPodなどを使って時間をつぶしています。このすき間時間の価値をあげるのに、ケータイ+Web 2.0の技術の組み合わせは役立つとおもうんです。
―その通りですね。
片岡氏
その第一弾がケータイ版RSSリーダーのリリースです。とはいえ、コモディティにしていきたいのでRSSリーダーとは呼ばず、Sweetアプリ、と名付けていますけど。今まではただ、ぼーっとしていた時間、消費もされていなかった時間をケータイによって有効利用することができればいいなと考えています。ケータイが支持されているのはそういう理由だとおもうんですよ。
―そのSweetアプリの特長は?
片岡氏
ケータイではあまり自分でRSSフィードを保存したい人はいないので、RSSフィードの登録機能がないところですね(笑)。あとはカレンダー表示を持っています。RSSフィードの発行のタイムスタンプを未来にすれば、未来日付のカレンダーに表示することができます。スケジュール入力しようとしたときに、そのニュースを見られるようにしたいとおもっています。
―扱えるケータイの種類は限定されていますか?
片岡氏
いまのところ、ドコモの506シリーズと、FOMA 90x以降です。ボーダフォンとau対応はこれからですね。
■ ドコモのトルカ連動のブログを提供
―Web 2.0に対する毀誉褒貶(きよほうへん)は、事業やアプリの仕組みに対するマネタイズ(収益を出すこと)が示されていない場合が多いことにあるとおもいますが、Sweetでの収益モデルはいかがですか?
片岡氏
ドコモが提供しているおサイフケータイベースの電子クーポンサービスでトルカというのがあるんですけど、このトルカに対応したブログシステムを作りました。Sweetブログというんですけど、利用料金は無料で、広告収入を期待して作ったサービスです。店舗が顧客に情報発信するためのプロモーションツール、ですね。店舗はブログ投稿管理画面からワンクリックでトルカの情報を作成できますし、閲覧したユーザーはブログからそのトルカ情報をダウンロードできるようになっています。
―使い方というか、仕組みを教えてください。
片岡氏
店舗側は、Sweetブログに空メールを送ってもらって登録します。登録すると店舗はブログを作成できます。PCとケータイの管理画面から書けます。店舗に来てもらった人は、店舗に設置されたトルカ用のリーダー/ライターに、FeliCa対応のケータイをかざすと、トルカ情報をダウンロードすることができます。
店舗からすると、トルカというクーポン券を簡単に作れるうえに、ケータイで見るブログを使って自分の店の紹介をすることができます。Sweetブログは通常のRSSリーダーでも読めるので、いろいろな人に見てもらうことが可能です。
さらに、ケータイのユーザーには、トルカを簡単に取得して食事などの割引をしてもらえるなどの特典があります。トルカはメールやIrDA(赤外線通信)を使ってユーザー同士でも交換できるので、近い将来はトルカを友達に配ってそれが使われた場合にキャッシュバックするような、一種のアフィリエイトをやりたいとおもっています。ケータイですから、電子マネーでキャッシュバックすることもできますし。
―なるほど。
片岡氏
さらに、ケータイの場合は本人特定をしなくてもいいというメリットがあります。一般的にケータイのヘビーユーザーである高校生などもトルカには参加できます。もらった電子マネーをコンビニで使うという、使える場所もたくさんあるわけです。
―伺っていると、トルカの普及次第、というモデルの基盤の弱さがあるようにおもいますが、どのくらいの利用者を目指していますか?
片岡氏
Sweetブログについては今後1年で100店舗の参加を見込んでいます。Sweetアプリは150万ダウンロードを目指しています。
■ ケータイならではのWeb 2.0サービスはすき間時間の有効利用にあり
―SweetはWeb 2.0的ケータイサービスに集中すると伺いましたが、Web 2.0をどのようなものととらえていますか?
片岡氏
そうですね。一つは、あらゆるものがオープン化の波にさらされていくということですね。これまでは情報には提供側と利用側に非対称性があったわけですが、これが解消されていくとおもいますし、それによって競争原理の加速が起きるとおもっています。オープン化には技術、アプリ、データベースのそれぞれのオープン化があって、結果としてWeb全体がデータベースになってきています。だから、オープンになることによって起業する障壁が低くなって、新しい企業がどんどん増えるでしょうね。
PC上での戦いは、われわれが見るところ非常に激化していて、大変そうだなあと(笑)。ケータイの分野では、PCより少し遅れていて、PC上で起きていることを後追いでいけばいいという、多少の猶予があるとおもっています。PC上のWebでは、今はキーワード検索がキラーサービスになっていますけど、仮説としてはケータイの分野ではキーワード検索よりリコメンドサービスの方が当分ユーザーに受け入れられると考えています。PCとは違うモデルで行きたいですね、ケータイならではのサービスを生んでこそ、競争に勝てるとおもいます。
―ライバルと目する企業は?
片岡氏
注目しているのは、やっぱりGoogleなんです。モバイル検索も始めていますし。デバイスフリーみたいなところを狙っているんでしょうね、どうしても注目せざるを得ない状況になっているとおもいます。サイボウズさんがFeedpathを始めているように、ベンチャーが独自サービスに乗り出していかないと大手に飲み込まれてしまいます。
―モバイルだとドコモやauがライバルにはなりませんか?
片岡氏
いやあ、なりますよ。キャリア自身がいまやコンテンツプロバイダになってきていますから。ドコモが本格的にRSSリーダーを搭載してきたら、Sweetアプリはピンチかもしれないですね(笑)。まあでも、アイデアや技術自体は半歩位の差でしかないわけで、だったらわれわれはできる限りその半歩先を歩いていきたいと考えています。
―具体的な方策はありますか?
片岡氏
そうですね。今までのケータイのプレーヤー、大手とベンチャー、Jigブラウザ、公式サイトと勝手サイト。この争いにキャリアが加わり、Googleのようなネット企業も入ってきたわけで、群雄割拠に向かっていく流れは変わらないですから、実に大変です。とはいえ、Googleは日本市場の特殊事情もあってタイムラグがありますから、われわれにもチャンスはあるわけです。
キャリアにはあまりWeb 2.0的発想は今のところはないとはおもうんですよ。例えばブログ、SNSは公式サイトでは禁じられているので、勝手サイトでしか普及しないんです。そういうところにチャンスがあるんじゃないですかね。サービスをPCから移植しただけではまだ無理があって、ケータイにマッチするとは限らないんですが、そこに注意を払っている企業がどれくらいあるか。
われわれは、さっきも言いましたが、すき間時間を生かすという発想でしか生き残れないとおもっているんです。PC上のWebの使い方をケータイにも求める人は、結局PCを中心に考える人なんです。われわれは、ケータイを中心に考える人に、ケータイならではのサービスを提供していくことで勝負しようとおもっています。そして、ケータイでしかできない領域こそが、すき間時間を生かす領域なんだとおもいます。
―ワンセグなどの動きとはどうおもいますか?
片岡氏
ワンセグはケータイでしか使わないサービスではなくて、テレビをケータイに持ち込んだサービスですよね。だからわれわれのいうケータイを中心に置くサービスとは違います。だから、Sweetで参入しようとおもっていません。
―なるほど。よく分かりました。ぜひ、ケータイ版Web 2.0のパイオニアとしてよいサービスをわれわれに示してください。それと僕はボーダフォンユーザーなので、その対応も忘れずにお願いします(笑)。
片岡氏
もちろんです(笑)。
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小川 浩(おがわ ひろし) フィードパス株式会社 COO。1996年、デル、ゲートウェイの代理店としてマレーシアにて日系企業および在住邦人向けのPC通販ベンチャーを創業。1999年9月にアジアと日本をまたがるSNSを開始。その後日立製作所にてコラボレーションウェア「BOXER」を立ち上げたのち、ネットビジネス・プロデューサーとしてサイボウズにジョイン。ブロガーとして「Web2.0 BOOK」「ビジネスブログ」シリーズなどの著作がある。 |
2006/03/01 08:50
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