今回のゲストはヤフー株式会社リスティング事業部 検索企画室 室長の井上俊一氏です。
Yahoo! JAPANがWeb 1.0であるかWeb 2.0であるか、という論議がブロガーの間では非常にホットに語られることも多いのですが、実態はどうなのでしょうか。井上氏の見解を伺いました。タグ検索という新しい検索メソッドに活路を見出すベンチャーも多いのですが(Feedpathもその一つ)、今回井上氏が非常に本質的な指摘をしてくれています。
■ Yahoo! JAPANはGoogleに負けていない
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リスティング事業部 検索企画室 室長の井上俊一氏
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―自己紹介をお願いできますか。
井上氏
Yahoo! JAPANのリスティング事業部 検索企画室 室長の井上です。検索企画室というのは、検索がらみの企画をぜんぶやるんですけど、エディトリアル作業はサーファー部が行っています。検索を用いたプロダクトおよびビジネスの企画をするのが検索企画室です。
当然ですが、ここに絡む広告、ビジネスも管理します。スポンサーサイトへの広告やキーワード連動型の広告など、とにかくお客様の目に触れるところはすべて管理しています。ですから、企画+技術、をまかなう部隊です。
―予算を持っていると?
井上氏
もちろんです。予算を持つし、P/Lを管理しています。
―企画と技術とおっしゃいましたが、YST(Yahoo! Search Technology。Yahoo!独自の検索エンジン)にはどのように関わっていますか?
井上氏
YST自体の開発は米国でやっています。各国で作っていると効率悪いですから、基本的にはすべて米国側で開発しているわけです。日本語がわかるエンジニアを米国で雇って日本語へのローカライズも米国でやっています。しかし、すべてを彼らがまかなえるかというとそうではないわけで、日本側でもローカライズに多くのエンジニアが携わっています。日本側に日本語処理技術部もあります。
―なるほど。YSTですが、全面的に切り替えてから少し時間が経ちましたが、性能面等、Googleにキャッチアップしているとみていいですか? 米国はともかく日本ではYahoo! JAPANはまだまだGoogleに差を付けていますが。
井上氏
まだまだどころか、圧倒的にわれわれがトップですよ(笑)。それに検索エンジンの性能自体にYSTとGoogleとで差があるとはおもいません。というよりも、どの検索エンジンの間でも、精度に差がなくなってきているという印象を持っています。Googleが出てきて、テクノロジーのギャップを起こしたわけですが、そのショックを乗り越えて、みんなが追いついてきたという感じです。Googleが生まれて8年ですが、今ではほぼどこも似たような機能、サービスになってきたとおもっています。
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Yahoo!ブログ検索
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―そうなると、どのように差別化をしていこうと考えていますか?
井上氏
Web検索の開発には、どこまでやったら終わりというものはないですね。実際こうして話している間でもWebページは増えているわけで、いつまで経っても、どんな検索エンジンでもすべてのWebサイトを検索できるわけではないです。膨張するWebの中の一部分が切り出されたスナップショットを探してくるということに過ぎないんですね。またWebサーチだけではなく、生活シーンに合ったさまざまな検索の提供が課題です。
例えばブログ検索のベータ版を13日にリリースしましたが、これは通常のWebサーチと違って更新の新鮮度がモノをいう検索です。目的によって必要とされる技術も違うということです。
―ブログ検索について少し質問をします。他にいくつも同様のサービスがありますが、何が特徴でしょうか。
井上氏
検索結果の右側に「検索ワードの注目度」というグラフがあり一目でトレンドが分かります。またポッドキャスト対応の記事だけを検索するといった絞込みも非常に便利です。
―検索対象インデックスの更新頻度は?
井上氏
早いものは1分で更新します。クローラーの収集能力は他社と比較してもかなり高いとおもいます。ちなみに、ブログ検索はすべて日本で独自に開発したものです。
■ Webサイトを持つ人の知恵が生かされてきたのがこれまでの検索エンジン
―最近、米Yahoo!がソーシャルブックマークのdel.icio.usと、ソーシャルタギングのFlickrを買収しましたね。彼らのタグ検索を生かしてGoogleとの差別化を考えることはしないんですか?
井上氏
いいフリをくれますねえ(笑)。そうなんです、フォークソノミーとアルゴリズムの組み合わせは、われわれの大きな財産になっていくとおもっています。今までの検索だと、探してこられるのはリンクが貼られたWebサイトだけです。つまり、リンクを貼った人の知恵が検索に生かされてる。でも、そのルールの参加者はWebサイトの持ち主だけなんですね。
―なるほど。
井上氏
Webサイトを持っていないけど検索する人の知恵はまだ生かされていないのが現実です。Web検索では、検索した人が検索結果をいくつかクリックすることによって、Webサイトの持ち主の考えを頭の中で組み合わせていかないとならない。いろいろなページの中身をちょっとずつ見て、自分の正解を導きだすという試行錯誤が必要なんです。
ところがわれわれの考えるソーシャル・サーチであれば、Webサイトを持っていない人でも記事や写真に対してタグをつけられます。そして、そのタグが関連性を持って、タグ検索へとつながります。だからWebサイトを持っていない人の知恵も、検索に生かされていくんです。これがGoogleとの差別化につながるとおもいます。
―同感です。実はFeedpathでもタグ検索と通常検索のハイブリッド検索を研究しています。
井上氏
そうですか。でも、一つだけ指摘しておきたいんですけど、タグ検索のようなソーシャル・サーチには大きなハードルがあります。それは、IDをとらないとダメ、登録して会員になった人の知識のみがたまるということです。
―うーん、痛いところを突かれました(苦笑)。その通りですね。
井上氏
ソーシャル・サーチを一般のWeb検索並みに普及させようとおもえば、まずはそのサイトに登録してくれるユーザーを増やさないとならないんですね。では、現在の日本で最も登録ユーザーを抱えている企業といえば…。
―Yahoo! JAPANですね(笑)。
井上氏
そうです(笑)。Yahoo! JAPANは既に約80のサービス中、約60がログインサービスです。どんなユーザーでもYahoo! JAPAN IDをどっかで使っています。今われわれは月間1500万人のログインユーザーを抱えていますが、この数は圧倒的にYahoo! JAPANが一番なわけです。サーチも一番、ログインユーザー数も一番であれば、ソーシャル・サーチを最も早く実用化できるのはわれわれじゃないかな、とおもっています。
―確かに(苦笑)。
井上氏
インターネットにおけるYahoo! JAPANのメディア力は高まっています。検索連動型と同じくらいブランディングメディアとしても伸びている。ポータルと検索が両方ともYahoo! JAPANがトップなわけです。
―この状況では、Web 1.0か2.0かということは気にもならないですね?
井上氏
いや、そんなことはないですよ。ネットの動きに企業の体制を合わせていくことは大事ですし、その意味ですごく焦っていますよ。
―例えばどのような面ですか?
井上氏
人材面でいえば、検索企画という分野はビジネスを作る部署ではあるけど、非常にテクノロジーオリエンテッドなので、ビジネスが分かる技術者か、技術が分かるビジネスマンが必要なんですけど、なかなか集まってこないというジレンマはあります。検索業界ってビジネスとしては大きいが、人材市場は小さい。経験者がいないんです。だから育てるしかない。募集していますが、結局は内部で育てる必要があります。エンジニアはたくさんいますけど、Webの進化に即して新しい事業や戦略を生むという体制をもっと強化したいとおもいます。
■ Web 2.0化したときに最も喜ばれるサービスがYahoo! JAPAN
―率直に言ってYahoo! JAPANはWeb 2.0ではないという人がいますが、それについてはどうおもっていますか。
井上氏
いままではそうみられてもしかたがないかもしれませんね。Yahoo! JAPANはビジネスとして大成功していて、今のところ圧倒的にNo.1ですから、何かをすぐに変えなくてはならないということにならないのは仕方ないとおもいます。ただ、個人的にはWebはマイメディアであって、これまでのようにただポータルにトラフィックを集めてお金にすればいいということでもないだろうとはおもっていますけど。
その意味で、ロングテールという言葉ができてよかった、とおもっています。言葉があると楽ですよ、いちいち説明しなくてもすみますから。Yahoo! JAPANはいまロングテールのヘッドそのものなわけですけど、今後はテールをどうビジネスにするかが大事になってくるし、それをYahoo! JAPANはできるとおもっています。
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Yahoo! Developer Network
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Yahoo! Publisher Network(YPN)という、現在米Yahoo!がベータ版として提供しているコンテンツ連動型広告システムがあります。YPNは広告だけではなくYahoo!のコンテンツを配信することもできます。
また、簡単に広告やコンテンツを貼れるということ以外に、Yahoo! Developer Network(YDN)という開発者向けのAPIの公開も行っています。外部APIを公開するメリットは何ですか?と聞く人もいますけど、なにが起るか分からないからやってみるというアプローチで今はいいとおもいます。そもそもAPIを公開できるほど資産を持っている会社って少ないじゃないですか(笑)。APIを出すか出さないかというよりも、出したときに開発者が喜ぶかどうかが大事なんですね。
今のYahoo! JAPANが必ずしもWeb 2.0的でないとしても、多くの資産を持っているという意味でWeb 2.0的なことをやったときに最も喜ばれるのもYahoo! JAPANであるとおもいます。
―個人的な意見でかまわないですが、井上さんが考えるWeb 2.0とはなんでしょう。
井上氏
うまくまとめるのが上手だな、という感じ。Webのトレンドをきれいにまとめてもらったので、僕たちも動きやすくはなったとおもいますよ。ただ、検索をずっとやっている人間にとっては、当たり前という感じがして、今更感がありますけどね。
いずれにしてもネットって、既存メディアと違って、前面に出ていなくてもテクノロジーが大事じゃないですか。Web 2.0の発想ができて当たり前のエンジニアはYahoo! JAPANにはいっぱいいます。それを今度はもっとビジネスにしていかないとならないですね。Webで大事なことは、知識を共有するということじゃないですか。でも、まだまだ誰もちゃんとできてないとおもうんです。Flickrやdel.icio.usは限られた人しか使っていないサービスです。Yahoo! JAPANというポジションだからこそ、Webをもっと一般的なものにして、誰もが情報を共有できる世界を提供できるとおもっています。Yahoo! JAPANにこなくてもWebは十分たのしいけれど、Yahoo! JAPANの力を使って、Webを有機的に結びつけてもっともっとたのしいものにしたい、と個人的に考えています。
―分かりました。今日は長い時間ありがとうございました。
実は筆者が取り組んでいるプロジェクトのFeedpathでもタグ検索とFeed全文検索のハイブリッド検索の実験を続けていますが、この分野はまだまだ開拓されるべき新しい“戦いの場”になっています。井上氏の指摘通り、タグ検索普及の最大の難点はアカウント登録という心理的バリアーをユーザーが超えてくれるかどうか、ということです。この点においても、後発のネットサービスが、収益モデルの確立に優先してユーザー数やトラフィックの確保に必死にならなくてはならない構図が存在しているとおもいます。
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小川 浩(おがわ ひろし) フィードパス株式会社 COO。1996年、デル、ゲートウェイの代理店としてマレーシアにて日系企業および在住邦人向けのPC通販ベンチャーを創業。1999年9月にアジアと日本をまたがるSNSを開始。その後日立製作所にてコラボレーションウェア「BOXER」を立ち上げたのち、ネットビジネス・プロデューサーとしてサイボウズにジョイン。ブロガーとして「Web2.0 BOOK」「ビジネスブログ」シリーズなどの著作がある。 |
2006/03/16 08:54
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