今回のゲストは、2005年4月に設立されたベンチャー企業 株式会社メタキャスト代表取締役&CEOの井上大輔氏です。
メタキャストは、2005年7月からネットを活用して、テレビ視聴と録画体験を共有するテレビブログというサービス(β版)を提供しています。『Web2.0 BOOK』でも紹介させていただいている、優良ベンチャーです。
■ ネットエイジの支援を受けて創業
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代表取締役&CEOの井上大輔氏
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―今日はよろしくお願いします。ネットエイジの支援を受けていらっしゃるんですよね。
井上氏
はい。ブログエンジン社とは縁戚みたいなものですね(笑)。
―そうですね(笑)。恒例なんですが、まずは自己紹介をお願いできますか?
井上氏
僕はリクルートで9年間働いていました。リクナビなどの就職情報サイトの開発をしてましたが、1年間MITに留学させてもらって、そのあとは3年間は新規案件を作る部署にいました。
―MITですか。それはすごい。
井上氏
帰ってから、2年くらいメタキャストのビジネスモデルを考えていましたね。でも、あとで詳しく話させていただきますけど、メタキャストはある意味既存の広告ビジネスに変化をもたらしていくモデルなので、リクルートでやるよりも、独立してやったほうがいいだろうと自分もおもったし、周りも勧めてくれたので、退職支援金をもらって、そのお金をアテにして事業を始めることにしたんです。
―創業はデータセクションの橋本大也さんと一緒なんですよね?
井上氏
はい。取締役兼COOです。もともと橋本さんは新規事業のコンサルタントとしてリクルートに来てもらっていたので、そこで知り合いました。メタキャストはネットエイジに創業支援してもらっていますが、橋本さんと(ネットエイジ代表の)西川さんが交流があったのが最初ですね。
―社員は何人ですか?
井上氏
実はプロパーはわれわれ二人だけです(笑)。ネットエイジからスタッフ3人を借りている状態で、あとは大学院生のプログラマーなどに手伝ってもらっています。今リクルーティングに励んでいまして、年内に10名くらいにしたいですね。
―現在の資本金は?
井上氏
増資をしたので1億500万円になりました。
■ CGM(コンシューマー・ジェネレイテッド・メタデータ)
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テレビブログ
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―事業内容についてお伺いしましょうか。
井上氏
テレビブログというコミュニティサイトを運営しています。名前のように、テレビに関するブログの提供ですね。ブログは日常のことを書くことが多いわけで、テレビ番組の内容について書く人も多いです。だから、番組単位に情報をまとめてみれば役に立つだろうと考えたのが初めです。今はユーザーあたり50MBのスペースを提供して、テレビ番組をテーマにしたブログを書けるサービスを行っています。
―その他の特徴は?
井上氏
放映済みの番組のトラックバックセンターを用意しています。番組情報サービスと違うのは、これから放映される番組ではなくて、既に放映された番組に関する情報を掲載するというところです。ユーザーは特定の番組について語りたいんですね。このドラマのどこそこのシーンがいい、とか、誰の演技がよかったなどというように、非常に具体的です。だから、ワンクールを通してではなくて、個別の、当日の放映の内容についてトラックバックをうてるようにしています。トラックバックセンターには「番ログ」という名称で、放映された内容の進行内容を記述した情報を公開しているのですが、これはわれわれのパートナー会社が24時間体制で実際にテレビを視聴しながらメモ取りをするように入力しています。テレビの内容をメタデータにしておけば、ユーザーはいちいちそれをテキスト化する必要がないので楽ができます。番組終了後2時間くらいでアップしています。
―人手でですか?
井上氏
ええ。現在は地上波7つ、BSが3つ、週に2000から3000くらいの番組単位の内容のメタデータを生成しています。番組ではなくて、シーンやニュース自体にトラックバックをうてるようにしてあげたいです。何月何日何曜日の、どこそこの放送の、さらにどこかのシーンに対するトラックバックですから、特定の時間に対するトラックバック、という感じになるかとおもいます。
―著作権については問題ありませんか?
井上氏
文化庁や弁護士にも確認したのですが、画像や静止画などの著作物を再配信しているのではなく、公に放映されたものをわれわれのスタッフが客観的に要約した内容をメタデータとして公開しているわけですから問題はありません。
―結構コストがかかるようにもおもいますが、ビジネスモデルはどういったものなのでしょう?
井上氏
基本的に広告モデルです。でも、今のところ売上はないんです(笑)。
―ああ(笑)。
井上氏
これからはブロードバンドで動画を見るという時代になってきています。僕はわれわれのモデルをCGM(コンシューマー・ジェネレイテッド・メディア)ではなくてCGM(コンシューマー・ジェネレイテッド・メタデータ)と呼んでいるんですけど、一般に流通するコンテンツと、ユーザーが作るメタデータは分離されていくとおもうんですよ。例えばコンテンツ=テレビ番組、メタデータ=ユーザーの感想というわけです。メタデータによってユーザーの視聴行動が変化するとしたら、広告ビジネスももっと面白くなるのではとおもっています。
―そうですね。
井上氏
メタキャストはテレビブログフィードを出していきます。また、ユーザーが事前に登録した自分が関心ある事柄とテレビブログフィードをマッチさせるシステムも今後開発していく予定です。マッチした部分をPCやiPodで簡単にチャプター視聴したり、関連するメタデータを自動的に閲覧することが可能になっていきます。
そのために、メタキャストでは、テレビブログに加えて、動画データにメタデータを付加するメタデータ編集ソフト、メタデータ付き動画視聴ソフトの3つを提供していきます。
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メタデータ編集ソフト。動画を再生しながら手軽にチャプターを設定できる
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動画視聴ソフト。付加されたメタデータに合わせてチャプターが生成されている
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■ テレビコンテンツのメタデータ化はCDDBに近いモデル
―なるほど。
井上氏
テレビでの広告の最大の課題は、HDDレコーダーの大容量化にあるってご存知でしたか?
―CMをスキップしちゃうということですね?
井上氏
そうです。NRIの発表によると、HDDレコーダーからCMをスキップする傾向がますます強まっているんです。広告を見てもらえないのでは広告主としては困るわけで、メタキャストとしては何かソリューションを提供したい、と考えています。
―というと?
井上氏
PCや家電のHDD容量が上がってくる。録ったはいいけど、どうやってみるの?ということになってきます。それには内容をメタデータ化してサーチャブル(検索可能)にするしかないですよね。メタキャストのテレビブログが今、番組内容を一所懸命にメタデータ化しているのもそのためです。
ユーザーがテレビを見るために、番組の放映時間にテレビの前に座っている必要がなくなってきてますよね。最近僕が買ったソニーのHDDレコーダーは「全部録り」で、8チャンネルを同時に3週間くらい録りっぱなしにしておけるほどの優れものなんですよ。こういうスゴいツールが出てくると、タイムシフトの中で広告の在り方が変わってきてしまうわけです。ビューツールでは秒単位のログもとれるし、逆にうまく利用する手段を考えさえすれば、ユーザーのビヘイビアや世代などを見て、適切な広告を出せるようにもなるとおもっています。つまりはパーソナルキャスト。テレビをどんどんインタラクティブにしていく。レコーダーが普及すればするほど、実は次世代の広告のチャンスも増えていくとわれわれはおもっています。レコーダーに記録された情報に対してもわれわれのメタデータは有効になりますから。
―分かりやすい例として、類似サービスをあげてもらえませんか?
井上氏
CDDBなんてどうですかね。グレースノートは世界最大の楽曲情報データベースであるCDDBを提供していますよね。音楽業界がデジタルミュージックの時代に入ってきて、グレースノートは音楽情報の認識技術を使った、ある種のメタデータ提供をしているわけです。メタキャストは、テレビ情報のメタデータを提供することをミッションにしているということです。僕はテレビ2.0と呼んでますけど、テレビのコンテンツとメタデータを分離してあげることがポイントになるとおもいます。コンテンツはどんどん増えますが、ユーザーにとって何が面白いかを簡単に知るためのメタデータを提供すること、それがテレビ2.0。
―広告主にとっていいことは?
井上氏
テレビCMって、時間だけのスライスというか、仮に見たいCMがあってもそれが何時に見られるのかって分かりづらいですよね。メタデータを出していくことで、今後はユーザーの都合と時間でスライスできるとおもいます。マス広告というよりは、ユーザーが欲しい情報を提供する、販促型の広告を作っていけるんではないでしょうか。広告にもメタデータをつけてあげると、例えばGoogleのサーチでテレビ動画もヒットするようになるし、悪くないとおもうんです。
―何の気なしにサービスの説明をされると、テレビ番組について語るためのブログ提供、みたいにとられてしまうとおもうんですが、困ったことはありませんか?
井上氏
ありますよ(笑)。今は説明コストが高いですね。
―モデル自体はシンプルとは言えないとおもいますけど、全貌が分かると、非常にユニークかつ面白いサービスであるとおもえます。
井上氏
ありがとうございます。
―つまり、メタキャストはテレビで放映されている情報を片っ端からメタデータ化していて、テレビから発信された動画データについては、HDDレコーダーに録画されていようと、あるいはネット上で公開されていようと、すべて検索可能でいつどこででも好きなシーンを閲覧できるようなソリューションを提供する、ということですよね。
井上氏
はい。それを実現するのがCGM(コンシューマー・ジェネレイテッド・メタデータ)で、実現される世界がテレビ2.0、です(笑)。
―非常にチャレンジングな試みとおもいますが、成功したら世の中が変わりそうです。期待しています。
井上氏
ありがとうございます。
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小川 浩(おがわ ひろし) フィードパス株式会社 COO。1996年、デル、ゲートウェイの代理店としてマレーシアにて日系企業および在住邦人向けのPC通販ベンチャーを創業。1999年9月にアジアと日本をまたがるSNSを開始。その後日立製作所にてコラボレーションウェア「BOXER」を立ち上げたのち、ネットビジネス・プロデューサーとしてサイボウズにジョイン。ブロガーとして「Web2.0 BOOK」「ビジネスブログ」シリーズなどの著作がある。 |
2006/03/31 00:15
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