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「化粧品購買原因をデータベース化する」アイスタイル吉松社長
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本日のゲストは、拙書『Web2.0 BOOK』でもご紹介させていただいたアイスタイル 代表取締役兼CEOの吉松徹郎氏をお迎えしています。同社は@cosme(アットコスメ)という化粧品のレビュー情報サイトの運営会社として知られています。化粧品情報サイトと一言で紹介しただけでは何がWeb 2.0なのか?と思われるとおもいますが、AmazonがWeb 2.0であると同様に、@cosmeの基本的な考え方は非常にWeb 2.0的な要素を持つサービスであることを今回ご紹介していきたいとおもいます。
■ CmRM(Community Relations Management)というコンセプト
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代表取締役兼CEOの吉松徹郎氏
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―今日はよろしくお願いいたします。簡単に自己紹介をお願いできますか?
吉松氏
よろしくお願いします。今年で社会人10年目、ですね。元々は(コンサルティング大手の)アンダーセンで3年働いていました。その後、1999年末にアイスタイルを創業しました。
―アイスタイルを創業した理由は?
吉松氏
93年頃、CRM(Consumer Relationship Management=顧客関係管理)がブームになりまして。本屋に行けばCRMの本があふれるようになっていました。最近に至ってもCRMは何度かブームぽくなって、さまざまなコンセプトが出ています。でも実はちゃんと成功した例ってほとんどなくて、事例でもウォルマートのおむつとビールの話ばかり(おむつとビールを近い場所においておくと、おむつを探しにきたお父さんがついでにビールを購入していく、という一見関係ないように見える購買行動)で(笑)、これはいったい何年前の事例だよっと突っ込みたくなることが多かったんですね。それで、だったら自分で成功するCRMモデルを立ち上げてみたいとおもったのがきっかけです。そこでアイスタイルを創業し、@cosmeを立ち上げたんです。
―なるほど。それで化粧品という市場に絞り込んだ理由はなんでしょう?
吉松氏
これは単純な話ですけど、市場の大きさです。日本の市場で食品市場がざっと7兆円なんですけど、化粧品は市場規模こそ1兆円の市場なんですけど、化粧品業界は実は市場規模の30%以上、具体的には3400億円もの広告費を使っているんです。
ただ、化粧品メーカーは、それだけの巨額のお金を使ってはいても、実は自社製品のユーザーからのフィードバックしか得ることができない、というジレンマを抱えています。つまり、資生堂、カネボウ、花王、などのメーカーは他社の商品を買った人のデータを持ってないんですね。本当のCRMを考えるのであれば、自社製品を購入した理由だけを知っていてもしょうがないわけです。
―確かに。
吉松氏
ユーザーからデータを集めるためにもシステムコストがかかります。集めたデータの維持コストもかかるし、マーケティングコストもかかってきます。例えばメールでも一件あたり20~30円かかってしまいます。
というか、そもそも顧客データベースを一社で抱える意味があるのか?と僕はおもっていました。みんなで共有できる、業界特化のデータベースを作っていけば、みんなが便利になるじゃないか、と。それでアイスタイルを創業したんですが、僕がこだわっているはCRMというよりCmRM(Community Relations Management)というべきものなわけです。
メーカーを横断した使用履歴、時系列でたまるデータは非常に有益です。女性の場合、成長して、結婚して子供ができて、その時系列で必要な化粧品も嗜好(しこう)も変わっていくから、とても有益な情報がとれていきます。評価軸も共通化すれば、集まったデータコストは安くなるし、標準化していけます。
―創業に関わる話をもう少し聞かせてください。
吉松氏
96年にアンダーセンに入社したんですね。ちょうどWindows 95がでたあとです。99年にはiモードがサービスを始めて。それでも、インターネットやITによる新しいビジネスを、クライアントや社内でいろいろ説明しても周りがついてきてくれなかったんですね。そこで自分でやろう、と考えたわけなんですけど、実際にはいろいろな紆余(うよ)曲折がありました。
Web系の大手コンサル会社にも相談したが、業界全体の最適化になることに誰が金を出すかと言われた(笑)。
―無理もないかもしれないですね、当時は(笑)。
吉松氏
そこで自己資金の300万円でまずスタートしたんです。化粧品という商材はさっきも話しましたようにマーケティング費用が大きいうえに単価が高いので、これを扱っていこうと考えました。そこで、アマゾンの仕組みを貸してほしいと西野さん(アマゾンジャパンの初代社長、現富士山マガジンサービス社長)に頼んだところ、ビットバレーの仕掛人の一人であり現在はネットエイジキャピタルパートナーズの代表取締役社長である小池さん(当時はネットイヤー)を紹介してもらって、出資もしてもらうことになりました。
■ コミュニティによる独自データベースの構築
―ここであらためて@cosmeでのビジネスモデルを教えてください。
吉松氏
業界オンリーワンのデータベースを作ることが目標になっています。化粧品の商品開発にはユーザーからのフィードバックが必要ですが、各メーカーは自分たちの製品の顧客からしかデータを採取できないので、情報として十分ではない。そこで特定メーカーに依存せずに広くユーザーから情報を集めることができる@cosmeは、すべての化粧品メーカーに対して重要なデータを提供することができるわけです。つまり、マーケティングデータを販売することが@cosmeのビジネスモデルになります。具体的に収益構造をいうと、サイト上の広告による収益が今のところは8割を占めていて、マーケ/リサーチ事業、販売支援事業がその後に続きます。
―@cosme自体はコミュニティですね?
吉松氏
そうです。@cosmeはトラックバックとRSSをはいていないブログと同じといっていいとおもいます。店頭のPOSデータや、企業のマーケットリサーチでは「いつ買ったか」「どこで買ったか」「何を買ったか」はわかりますが、これは単なる「結果データ」に過ぎません。@cosmeというコミュニティを通じて、われわれは「どんな人が買ったか」「どんな理由で買ったか」という「原因データ」を、時系列と履歴に合わせて収集し、提供できるとおもっています。
―商品データベース、という指向でみればアマゾンに近いですね。
吉松氏
アマゾンのようなトランザクションをベースにはしていないですが、思想は似ていますね。ただアマゾンではAPIを公開したおかげでトラフィックが分散したとおもうんです。彼らはその結果でモノを売るビジネスですが、@cosme自体は情報の提供を志向するわけですから、いかにトラフィックをアグリゲートしていくかで仕組みを考えています。
―なるほど。では、アマゾンのように商品カテゴリを増やしていく気はありませんか?
吉松氏
ないですね。カテゴリを極めていきます。なぜかというと、現在われわれは1億PVで13億円の年商なんですけど、これはさっきお話しした化粧品広告市場の0.3%でしかないわけです。1億PVあってもそんなものなわけですから、同じモデルで横に広げていっても、市場の中のシェアを考えると薄いままで、それではだめとおもうんですね。やはり、そのカテゴリの中でのシェアを上げて、効率よいビジネスにしなくてはならないわけで、となるとカテゴリを極めていく、という方針になります。
―なるほど。同感です。
吉松氏
消費者は9割はリアルで買うらしいんです、今のところは。つまり、アマゾンのようにネットで買う利ざやで儲けていくよりも、いかにローコストでPVをあげて、金に換えるかを考えていくほうが効率が良いと考えています。
実際いくら@cosmeで人気がでても、弱小メーカーの商品を店舗のバイヤーはなかなか買ってはくれないですよ。利ざやが良くて資本回転率がいいほうをバイヤーは取ってしまう、つまり大企業の良く知られた商品を棚に置く方を選んでしまうんです。結果としてみんなが悪いという商品でも、店頭には並んでしまうことが少なくありません。もっとユーザーの声がはっきりと見えるシステムを作っていかないとならないな、とおもいますね。例えば肌質。30代肌質乾燥肌ランキングなどのセグメントを出して、店ごとに分けて提供していきたい。47都道府県に対して、店頭カウンセラーシステムを作るなどして、ネットとリアルをひも付けていきたいですね。
―他の企業のサービスで近いものはなんでしょう?
吉松氏
TSUTAYAが近いんじゃないですかね。映画会社があって、自社の映画の配給会社で垂れ流しだった時代から、コンテンツの購買の仕組みと配給の仕組みが変わってきています。
■ with @cosmeによるパートナーシップ
―事業運営のうえでもっとも気を使っていることは?
吉松氏
Webサイトを運営しているという気はないです。いかにローコストでデータを集めるかということだけで、データベースを作っているという気持ちをいつも持っています。現時点で130万人が閲覧してくれるサイトになりました。さらに65万人が会員で、20万人が実際に口コミ情報を残していってくれています。
―男性会員っていらっしゃるんでしたっけ(笑)
吉松氏
いますよ(笑)。0.4%が男性。
―コミュニティとしてはさきほどブログの話が出ましたが、ブログやSNSとユーザーの奪い合いになったりはしませんか?
吉松氏
それはありますね。2004年にブログがブレイクして、さらに2005年にはSNSがでてきて、ユーザーがばらけて、結果としてデータの分散化が見えてきたときには、正直危機感を持ちました。そこでシステムをLAMP(オープンソースを活用したシステム構築)に切り替えて、スケールアウト(複数台のサーバーを利用することにより負荷を分散し、耐障害性を向上させること)を考えるようになりました。
―現在の社員は何人くらいですか?
吉松氏
100名くらいになってきました。9割くらいが女性だったんですけど、最近7割くらいになってきました。
―人が増えてくると事業の拡張を考えないとならないともおもいますが、例えば海外展開などはいかがでしょう?
吉松氏
実は、三井物産と組んで中国市場に出てみようとおもっています。化粧品にはお国柄があって、ヨーロッパだとフレグランスがメイン、米国だとメイキャップ、日本だと基礎化粧品がよく売れるなど、さまざまな傾向があります。中国はどうですかね。まあ、とにかくインターネットだけにとどまっていてもあまり儲からない、という気がしています。いろいろな企業と組むことによって、@cosmeを使ってできることを増やして、われわれの価値をより高いものにしていきたいと考えています。
―リアルとネットのマッシュアップ、ですね(笑)。今日はほんとうにありがとうございました。
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小川 浩(おがわ ひろし) フィードパス株式会社 COO。1996年、デル、ゲートウェイの代理店としてマレーシアにて日系企業および在住邦人向けのPC通販ベンチャーを創業。1999年9月にアジアと日本をまたがるSNSを開始。その後日立製作所にてコラボレーションウェア「BOXER」を立ち上げたのち、ネットビジネス・プロデューサーとしてサイボウズにジョイン。ブロガーとして「Web2.0 BOOK」「ビジネスブログ」シリーズなどの著作がある。 |
2006/04/11 00:00
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