今回のゲストは、価格比較サイトとしてカカクコムと日々しのぎを削りつつ、ソーシャルブックマークサイトなどのWeb 2.0的サービスを展開するなど、積極的な活動を続けている株式会社ECナビ 代表取締役CEOの宇佐美進典氏です。
■ カカクコムがYahoo!ならECナビはGoogle的
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代表取締役CEOの宇佐美進典氏
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―今日はよろしくお願いいたします。まずは自己紹介をお願いできますか?
宇佐美氏
大学を卒業してから某コンサルティング企業で2年ほど仕事をしていました。主に業務改善系のシステムのコンサルをメインにしていました。その後ベンチャー系のソフトウェア会社で営業とマーケティングに従事しました。1999年に独立して、ECナビの前身であるアクシブドットコムを創業し、最近社名をECナビに変更して今に至っています。
もともと、独立資本だったわけですけど、2001年9月にサイバーエージェントのグループ会社になって、昨年から同社の取締役兼務となりました。さらに昨年末、サイボウズ、ECナビ、サイバーエージェントの3社で設立した新しいベンチャー企業であるCybozu.net社の代表取締役も兼務しています。
―聞いているだけで超多忙ですね(笑)。全部でいくつの会社と関わっておられますか?
宇佐美氏
えーと、ウエディングパークの取締役も兼務してますので…。サイバーエージェントではECナビを含めて5つの事業の担当役員、ですね。あとはサイバーエージェントのシステム全体の職務も僕の業務範囲です。
―わかりました。ECナビ自体の説明をしていただけますか?
宇佐美氏
元々はネット上の懸賞情報を集めたサイトとして、アクシブを創業したんですが、それを運営する中で、事業の鈍化が見えてきたんです。それで価格比較サイトへのシフトを図ったわけです。その外的な要因としては、単なるEコマースでは事業ボリュームがあまり上がっていかないという危機感があって、成長を求めていきたい、大きく伸びるマーケットを対象としたいとおもったことです。
内的要因としては、アクシブの成長鈍化の兆しが見えたとき、じゃあわれわれは何をやるか?と考えて、いろいろ模索し、悩んだということがあります。もともとアクシブを作ったときに、ショッピングサーチに興味を持っていたんですけど、たまたま2004年にImpress Watchの記事をみて、アメリカでは価格比較サイトによるネット購買が増えているという情報を得て、じゃあECナビを作ろう、とおもったわけです。それが2004年の7月です。
―カカクコムが先行していたとおもいますが、それは意識しましたか?
宇佐美氏
カカクコムがサービスを開始したのは97年で、かなり早くから先を行っていましたから意識はしましたよ、もちろん。
―カカクコムとの違いは? どう差別化しようと考えたのでしょうか?
宇佐美氏
カカクコムはターゲットを男性、それもどちらかというといわゆるアキバ系にしているとおもいますけど、われわれは元々が懸賞サイトであったことも手伝って、女性ユーザーが多いんですよ。技術面でいうと、カカクコムがショップの方に情報登録をしてもらう形で人の手が入ることが多いんですけれど、ECナビはクローラーでショップから情報を自動収集する形式をとっています。
―Yahoo!とGoogleの違いみたいな感じですかね?
宇佐美氏
そうですね。自動的にクローリングすることによって、情報量は非常に多くなっています。ショップの対象や商品の商品数は6~8倍あるんじゃないですかね。カカクコムの登録ショップは正確には分かりませんが1000とか2000だとおもいますが、ECナビは9700ショップの情報を持っています。また、商品数でいうとカカクコムが15万くらいだとしてわれわれは220万~240万商品をカバーしています。
―なるほど。
宇佐美氏
あとは、ユーザー数でもカカクコムは掲示板利用のような、プロフィールがはっきりしないユーザーが多いとはおもうんですけど、ECナビの場合は参入当時からプロフィールを把握できる80万人くらいの会員を持っていますから、よりきめ細かいサービスを設計していけるとおもいます。
■ ECナビラボの開発はAIDMAからAISASを基準に
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ECナビリスト
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―ECナビラボの話を聞かせてください。Googleラボ以来、サイボウズをはじめ(笑)ラボばやりですが。
宇佐美氏
ECナビラボを立ち上げたのは2005年10月です。サイボウズラボのパクリではないですけど(笑)。最初のサービスがニュースに特化したソーシャルブックマークである、ECナビ人気ニュースのα版でした。次に出したECナビリストは、商品に特化したソーシャルブックマークサイトで、アマゾンの商品や自分の本にブックマークするようなサービスを出しています。他にはECナビアラートといって、書名などを登録しておくと、新刊情報がメールで送られてくるようになっています。
―複数サービスを矢継ぎ早に立ち上げている理由は?
宇佐美氏
ユーザーの購買行動が、いわゆるAIDMA(Attention > Interest > Desire > Memory > Action)からAISAS(Attention > Interest > Search Action > Share)というトレンドに変わってきているとおもったからです。注意を喚起し、興味を生んで、その後にこれまでならその商品を記憶するという行為があったわけですが、ネットでは記憶せずに検索して、そして買う。しかもその後でユーザーは他のユーザーとその情報を共有して、ネット上の口コミを広げていくことになります。つまり、サーチ(検索)とシェア(共有)という機能がネットでは非常に大事になってきたんですね。価格比較というサービスはAISASの中で特に重要な要素となっているとおもっています。だから、ラボからどんどんこのAISASに関わるサービスを発信していって、やがてはすべてのサービスを統合していくイメージを持っています。
―なるほど。
宇佐美氏
サービス自体を増やすし、α版をβ版にあげていくつもりです。機能面や使い勝手を上げて完成度を高めていかないとならないとおもっています。
―ECナビラボを立ち上げた理由を具体的に教えてください。
宇佐美氏
価格比較サイトはニッチな検索、何か買おうとするときのサーチなんですね。われわれはECナビの未来像として、本格的なショッピングサーチを目指しています。サーチを考えるとYahoo!やGoogleに対抗していかないとならないわけで、だからテクノロジーを強化したい。次に備えていくためにもラボを作ったというわけです。
―ラボの体制は? 会社組織としては分割していないんですよね?
宇佐美氏
ええ。社内にあります。立ち上げ時には専任チームだけでしたが、今はラボの専任メンバーに加えて他の部門のエンジニアであっても参加できるようなプロジェクトベースに変えています。ラボのメンバーではなくてもGoogleの20%ルール(エンジニアは業務時間の20%を普段の業務とは違う、好きな研究に充てることが義務づけられている)のように、好きなテーマについてエンジニアが参加できるような自由な組織にしています。
―ラボをそういう自由な組織にしたことによって、メンバーのモチベーションをどう維持していますか?
宇佐美氏
モチベーションは、作りたいとおもうものを作れることでしょうね。企画とディレクションと開発が職種別に分かれると、必然的に部門間での調整がいります。組織間のやり取りから開発を自由にしていることでラボの価値があるのかなと考えています。Web 2.0の流れというか、作る人がデザインに凝らなければ新しいサービスを素早くローンチできるわけで、企画者ドリブンではなくて開発者ドリブンという普通とは逆の発想で開発が進んでいます。
―成果はいかがでしょう?
宇佐美氏
今のところは開発速度が上がっていますね。通常の開発の3~4倍で企画からローンチまでいけるという実感があります。
―はてなのように合宿による開発もやっているんですよね?
宇佐美氏
はい。合宿形式で開発するものを決めてますね。同じようなものを作っても仕方ない、どこか尖ってないとならないので、集中していろいろ考えています。例えばECナビ人気ニュースの場合は、開発者が元々やりたいといっていたソーシャルブックマークをやってみることにしたわけですけど、ブックマークする対象を何にしようと考えたわけです。で、みんなが読むのはニュースだろう、と。後は僕がやることは、開発者が盛り込みすぎたものを、削っていくことですね(笑)。ユーザー本位で、必要なもの、使いやすいものをリリースするようにしていくことです。今のα版は、2人の開発者が企画から1カ月ちょっとくらいで作ってしまいました。合宿の成果はあるとおもっています。
■ Web 2.0ではロングテールを意識
―さきほどWeb 2.0の流れ、という言葉が出てきました。Web 2.0そのものに対してどのような認識をされていますか?
宇佐美氏
あまり意識はしていないですね。意識しているのはさっき話したAISASで、Web 2.0時代における、モノを買うときの一連の流れなわけです。そのAISASに合わせてサーチを強める、結果としてそれがWeb 2.0になるといえるでしょうね。意識するとすればロングテールに関する考え方です。ECナビの商品数を多くしていく。日々新商品が出たら、即データベースに登録して、それに合致した商品の情報を集めて、価格比較をやっていきます。われわれにとっては商品の情報を増やすことが在庫を増やすことです。つまり、商品スペック情報をひたすら増やしていくことがわれわれにとってのロングテールであり、いかに多くの商品数を検索対象にしていくかがロングテールと考えています。
―その中で意識する企業やサービスは?
宇佐美氏
具体的にはないですけど、はてなの機動力を持ったカカクコム、を目指す、みたいな(笑)。
―あくまでECに集中していく?
宇佐美氏
いや、われわれはECそのものをやっているわけではなく、広告ビジネスをやっているんですね。収益は広告が60%、リサーチが40%の状態です。
―価格比較サイトとしてはGoogle Baseがそのような性質を持ち始めているとおもいますが、意識しますか?
宇佐美氏
Google Baseはあまり脅威には感じていないですね。われわれはショッピングに特化していますが、Google Baseは総花的です。
―なるほど。では、最後に今後の目標、特に今年の目標を聞かせてください。
宇佐美氏
改善と革新を続けていくことですね。立ち止まらず、回転よく。ラボの開発はその鍵になるでしょうね。ラボが今後の会社の発展速度のエンジンになると考えています。
2006年の目標という意味では、基本的には価格比較サイトとして、消費者がネットで何か買おうとおもったときに来て、実際に使われるサイトにECナビをしていきたいですね。
―販売自体を行う気はない?
宇佐美氏
販売に行くつもりはないです。今の延長で拡張したいですね。情報を扱っているから在庫などの心配もないわけですし、販売を行った瞬間に既存のショップとの関係も悪化する可能性がありますし。リソースをそっちに使わない、機能向上にリソースをかけていきたいです。モノを扱うことは難しい、触れたくないですね。
―わかりました。今日はありがとうございました。
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小川 浩(おがわ ひろし) フィードパス株式会社 COO。1996年、デル、ゲートウェイの代理店としてマレーシアにて日系企業および在住邦人向けのPC通販ベンチャーを創業。1999年9月にアジアと日本をまたがるSNSを開始。その後日立製作所にてコラボレーションウェア「BOXER」を立ち上げたのち、ネットビジネス・プロデューサーとしてサイボウズにジョイン。ブロガーとして「Web2.0 BOOK」「ビジネスブログ」シリーズなどの著作がある。 |
2006/04/14 00:00
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