Web 2.0という呼称は、徐々に時代のキーワードとして認知されてきたようです。と、同時に、広告2.0、エンタープライズ2.0、筆者が事業ドメインとしているFeed 2.0やイントラネット2.0など、さまざまな便乗(笑)2.0が唱えられるようになりました。便乗、とは書いたものの、実のところWeb 2.0という現象が気候変動と等しく、Web自体の環境変化である以上、Webに関わるありとあらゆるモノに大きな影響をもたらすのは当然のことでもあります。
筆者はイントラネット2.0(=Web 2.0の影響を受けて変質するイントラネット)というコンセプトにおいて、エンタープライズサーチというファンクションが不可欠であると考えています。なぜなら、インターネットにはGoogleがあるのに、イントラネットにおいては社内の情報を的確に検索するための手段がないことが、最も大きな社内外でのデジタルデバイドになっているからです。
今回のゲストであるウチダスペクトラム 紀平克哉氏は、エンタープライズサーチの市場開拓を進めているパイオニアの一人です。
■ ソフトウェアのリセール企業のWeb 2.0とは
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株式会社ウチダスペクトラム 執行役員 マーケティング担当兼ソリューションサービスビジネス担当の紀平克哉氏
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―今日はよろしくお願いいたします。自己紹介を簡単にお願いできますか。
紀平氏
よろしくお願いします。ウチダスペクトラムは、1995年に設立された会社で、創業10年余りになります。世界ナンバーワンのソフトウェアリセラーである、アメリカのソフトウェアスペクトラムと内田洋行のジョイントベンチャーです。私は現在、そのウチダスペクトラムのマーケティング担当の執行役員を務めております。
―ウチダスペクトラム自体もソフトウェアリセラーなのでしょうか。
紀平氏
はい。企業向け、しかもエンタープライズ向けという意味では日本でも珍しい完全なソフトウェアリセラーですね。通常、SIerやメーカー系であれば、ハードウェアとソフトウェアをセットで販売することが多いはずですが、われわれはソフトウェア一本で、ハードは扱いません。いわゆる大企業という場合の定義はいろいろありますが、われわれにとってはクライアントのPCを1000台以上持った企業、という見方になります。その中でも、3000台以上を有する大きな企業がわれわれのメインの顧客です。そういう点では、われわれがこの連載に呼ばれることは意外でしたね(笑)。
―Enterprise Watchの連載ですので(笑)。
紀平氏
メインのビジネスはマイクロソフト、アドビなどのソフトウェア販売ですが、数年前からエンタープライズサーチという分野の開拓に力を注いでいます。このあたりが興味のあるところですね?
―そうです(笑)。僕はイントラネットにもWeb 2.0の影響が及び、今年あたりから大きな変化を見せてくるとおもっています。その中でフィードパスという会社ではFeedとイントラブログ・システムの提供に力を注いでいるわけですが、もう一つ大きなコアとして検索エンジンがイントラに本格的に入り込んでくると考えています。
紀平氏
同感です。
■ エンタープライズサーチソリューション「SMART/InSight」
―御社がエンタープライズサーチに着目した理由はなんでしょう?
紀平氏
われわれはソフトウェア販売を通じて、お客様がソフトを使って「情報」を作ることを支援してきたわけなんですね。検索エンジンの取り扱いを考えた最大の目的は、今度はお客様が社内で蓄積してきた情報をいかに効率よく検索し、有効活用するための方法を提案しようということです。
インターネットにおけるムーブメントと同じで、ネット上にはYahoo!や、Googleがあるのに、社内には同じような機能がなかったわけです。それをなんとかしよう、と。
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SMART/InSight
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―御社の製品について詳しくお聞かせください。
紀平氏
SMART/InSight(スマートインサイト)、というエンタープライズサーチソリューションを用意しています。
―自社開発ですか?
紀平氏
ええ。ただ、コアエンジンはノルウェーのFAST社のFDS(FAST Data Search)を使っています。世界中のサーチエンジンを時間とコストをかけて調査しましたが、その中で最も良かったのがFASTです。FASTの技術はオーバチュアやYahoo!にも採用されているほどです。
―IBMもFASTを扱っていましたね。
紀平氏
ええ。しかし、いくらFDSが優秀でも、それ自体はサーチエンジンで、企業内で使うには作り込みがいるんです。セキュリティモジュール、アクセス権限やフィーダー、あるいはフロントエンドのWebサービスとしてポータルに組み込めるように、APIを作ったりもしなければならないわけです。それでFASTとはOEM契約を取り交わして、企業内での利用、すなわちエンタープライズサーチソリューションとしての機能をわれわれ自身で盛り込みました。
―エンタープライズサーチは今後企業に普及していきますか?
紀平氏
もちろんです。GoogleがGSA(Google Search Appliance)という社内用の検索アプライアンスサーバーを発売していますし、最近ではオラクルもエンタープライズサーチ市場に進出しています。
企業内では情報は蓄積していますが、アプリ単位でしか探せないという問題に直面しています。DB内ならDBにクエリを投げるし、ネットでは検索エンジンを使う。それでは面倒くさいですよね。だからインターネットのように、企業に一つのフロントを作りたい、それがエンタープライズサーチのスタートなんです。
■ Web 2.0的エンタープライズアプリケーションをサーチがつなぐ
―GSAとはどう差別化しますか?
紀平氏
Webのサーチエンジンと定義が違うとおもっています。セキュリティとアクセス権限や、LDAPなどを継承できるか?ということです。GSAはサーチエンジンそのものではあっても、サーチソリューションではないと考えています。かゆいところに手が届くという感じではないと。カスタマイズもできないですしね。
―オープンソースの検索エンジンも増えてきました。NutchやNamazuなどとどう対抗しますか?
紀平氏
日本の企業ユーザーはOSSに責任持てないのではないでしょうか? 機能補完の速度や機能の向上とそれに付随するサポートの面でわれわれは優位に立てるとおもいます。
―オラクルはどうでしょう?
紀平氏
実はオラクルを歓迎しているんですよ。エンタープライズサーチの分野が広がることはいいことですから(笑)。オラクルのようなビッグネームが参入してくることで、サーチのベネフィットに気づく、説明コストが下がる。啓蒙活動から実ビジネスにいけるとおもっています。機能差ということはまだ比較対象できるステージにいないので明確には言えませんが、われわれのソリューションであれば、データベースを自由に選択にできます(笑)。
―エンタープライズサーチを普及させるための決め手をどう考えていますか?
紀平氏
企業ユーザーの間でも、Web 2.0的要素を企業内システムに使いたいという話をよく聞くようになりました。例えばイントラブログの活用などがそうです。ブログとサーチの組み合わせは、検索される側とする側の進化という意味で面白いとおもう。Wikiも試したいという声をよく聞きます。事例的にいうと、企業ユーザーはブログを使ったとして、ブログのエントリがCADやDBと連携するような内容であったり、ファイルサーバー上にあったりすると、探すのが大変なわけで、サーチエンジンを使って一つの情報として扱えるようになって、初めて本当に役立つ情報とすることができるんですね。だから、Web 2.0的なアプリがどんどん増えていくに従って、エンタープライズサーチが情報の伝達に介在していくだろうとおもいます。社内のインフラになっていく、ということです。
―なるほど。
紀平氏
今までの日本企業の投資はコスト削減型、と言えるかもしれません。でも、サーチエンジンはビジネス創出型の投資になるとおもうんですよ。インターネット上での情報検索と、社内での情報検索を同等にして、組織を超えて情報を横刺しにする新しい社内インフラ。それがサーチエンジンソリューションであるとおもっています。
―同感です。今日はありがとうございました。
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小川 浩(おがわ ひろし) フィードパス株式会社 COO。1996年、デル、ゲートウェイの代理店としてマレーシアにて日系企業および在住邦人向けのPC通販ベンチャーを創業。1999年9月にアジアと日本をまたがるSNSを開始。その後日立製作所にてコラボレーションウェア「BOXER」を立ち上げたのち、ネットビジネス・プロデューサーとしてサイボウズにジョイン。ブロガーとして「Web2.0 BOOK」「ビジネスブログ」シリーズなどの著作がある。 |
2006/04/25 00:00
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