株式会社ミクシィは、言わずと知れた日本最大のSNS「mixi」を運営する企業です。SNSがWeb 2.0であるか?ということについては異論もあるかと思います。SNSはその規模の大小に関わらず、やはりクローズドなコミュニティだからです。筆者も、原則としてはSNSという事業モデルをWeb 2.0的である、とは考えていません。しかし、(2006年5月現在で会員400万人を超えたという)mixiほどの規模を持てば話は別です。Web 2.0における、Webの量的変化に大きく寄与し、老若男女を問わず、多くのユーザーをWebに参加させることになった原動力の一つとして、今回は株式会社ミクシィ代表取締役の笠原健治氏にお話を伺います。
■ mixi開設3週間で手応え
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ミクシィ代表取締役の笠原健治氏
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―まずは自己紹介をお願いいたします。
笠原氏
1997年11月、大学在学中にFind Job !という求人情報サイトの運営を開始しました。これが今のミクシィという会社の母体となります。これを1999年6月に法人化しまして、今年の2月に現在の社名になりました。
mixiというサービスを開始したのは、2004年2月です。現在は、Find Job !、mixiという2つのサービスを運営しています。
―自社開発ですよね。
笠原氏
ええ。どちらのサービスも自社内で開発しています。
―収益モデルを教えてください。
笠原氏
Find Job !の場合は、企業様の求人情報の掲載料などが収益の柱で、mixiの場合は、広告とオプション課金(mixiプレミアム)ですね。
―mixiの売上高等は公開していませんが、黒字と伺いました。
笠原氏
2005年の3月から単月黒字になり、それから赤字になったことはありません。通しても黒字です。
―いつ頃から事業としての手応えを感じたのでしょうか。
笠原氏
スタートして3週間くらいですね。
―早いですね(笑)。手応えの理由は?
笠原氏
ブログなどで、mixiのことが書かれているエントリが増えました。mixiはおもしろいよ、というコメントが多かったんです。mixiでは、開設当初から日記以外でも、RSSを利用してブログを選択できましたので、ブログユーザーの方にも使っていただいていました。
またPVも、開設当初から間違いじゃないかと思ったくらい多かったですね。ですから、登録しただけではなく、使っていただいているという実感は早くからありました。
―10万人に達したのはいつですか?
笠原氏
設立してから半年くらい、たしか2004年9月でした。
―当時はまだSNSという言葉はなかったですよね?
笠原氏
いえ、SNSという言葉はありました。ただし、SNSという言葉をご存知の方は非常に少なかったですね。ですから、サイト上には開設当時のCommunity Entertainmentという表現が残っていますが、徐々にみなさんが、SNSという表現になじんできたように思います。
■ mixiのキラーコンテンツは日記とコミュニティ
―他のSNSとの違いは?
笠原氏
現在は、総合カテゴリー的なSNSの機能はだいぶ似てきていますが、開設当初でいうと、日記、足あと、コミュニティ、でしょうか。
mixiをはじめたきっかけは、日本に留学していて、弊社の開発を担当してくれていたバタラ(現在のCTO)から聞きました。当時、彼の留学生仲間でFriendsterがはやっていたんですね。ネット上だけどリアルの要素がある、おもしろいサービスだと思いました。
ただ、最初の2,3日は友達の友達を探したりして楽しいのですが、しばらくすると、することがなくなる。それは、次にやることがないからなんですね。そこで思ったのは、使い続けるモチベーションとなるようなコミュニケーションの要素が必要ではないかと思いました。そこで、日記、コミュニティや、「人の往来感」を感じさせるような、足あと、最終ログイン時間などを実装したのです。
―いまやどのSNSも追随している機能ですね。実は僕は設立当初のGREEで、Macでの表示がうまくいかなくて、ちゃんとSafariに対応していたmixiのほうが気に入ってしまったという裏話があります(笑)。クロスブラウジングを特に意識していたのでしょうか。
笠原氏
多くの人に使ってもらうために、誰でも使えるようなサービスにしたかったんです。コミュニケーションのインフラにしたいと思っていましたので、ITリテラシーに関係なく、老若男女問わずに使えるようにしようとは思っていましたね。
―その上でのご苦労は?
笠原氏
ちょっと違うかもしれませんけど、システム運営に関しては苦労の連続です。いま、だいたい2億PV/日ですが、1ページあたりのアクセスが非常に重いんです。ユーザーのページを表示するには、その人が誰かを瞬時に判別し、その人につながっている友人のデータを引っ張ってきて、さらにコメントを書いているかどうかなど、すべての情報を更新してから表示するわけですから、非常に重い処理です。この処理のレベルは世界的に見ても非常に高いといわれています。
―ご苦労は解消することがあるのでしょうか(笑)
笠原氏
ないと思います。サーバーの増強はもちろん、アプリやDBの調整は日々やっていることですね。
―SNSがだいぶ普及してきて、サービスも似てきています。mixiのキラーコンテンツとはなんでしょう?
笠原氏
キラーコンテンツですか…。開設当初から、さまざまな機能が追加されていますが、それでも日記とコミュニティに尽きると思います。日記は縦のコミュニケーションで、コミュニティは横。自分を中心に友人と縦につながり、趣味し好で集まるコミュニティによって横とコミュニケーションをとっているわけです。携帯電話に対応したのも非常に初期のころからですし、イベント機能やフォトアルバムなどの機能も追加してきましたが、それでも日記とコミュニティこそがmixiの核となるコンテンツといえるでしょうね。
■ 海外進出は考えはするも、いまだ検討せず
―MySpaceが上陸するらしいですが、意識しますか?
笠原氏
MySpaceに限らず、世界中のSNSは一通り見ています。SNSは、業界の中では有名になりましたが、今でもまったく聞いたことのない人がたくさんいます。新規参入のサービスが増え、SNSそのもののパイが広がればいいですね。良いところは吸収しようと思っていますが、強く意識しすぎないようにしたいし、お互い切磋琢磨(せっさたくま)してより良いサービスを提供できればと思っています。
―逆にmixiが海外に進出することは?
笠原氏
できればいいですね。でも英語にすればいいというモデルでもないので、一工夫も二工夫もいるだろうと思います。いまのところは特に準備はしていません。
―ユーザーが400万人を超えて、そろそろ国内市場の飽和はありませんか?
笠原氏
メッセンジャーやオークションなどのユーザー数から考えると、数百万ユーザーというのは一つの目安かもしれません。ただし可能性としては、もっと伸びるということも考えられると思います。運営側としては、ネット上のコミュニケーションツールとしてなるべく多くの人に使っていただきたいですし、SNSというサービスは多くの友人がいるほど楽しめるサービスだと思っています。今は15000人/日のペースです。
―同じSNSでも垂直型と呼ばれる、業務や地域特化型SNS、あるいは社内専用SNSが出始めていますが意識しますか?
笠原氏
mixiで手一杯なので。そこにリソースを割こうとはおもわないですね。
―複数SNSとのIDの乗り入れはどう思いますか? そうなると、非常にWeb 2.0的と思うんですが。
笠原氏
答えになっているかどうかはわかりませんが、まずmixiは、ユーザーがログインしないと見えないというサービスで、ログインした後も情報の見え方が違うというのが特徴なので、その2つを壊さないのであればやってみる価値はあると思います。逆にその特徴を曲げることはないですね。
■ ニーズからもシーズからもサービスを開発できること
―ブログとSNSとの違いをどう意識しますでしょうか?
笠原氏
ブログは不特定多数に対し、何か言いたいことを伝えるのに適していて、SNSは特定の人に対し、日常のおしゃべりのようなやりとりをするのに適していると思います。
―そのとおりと思います。その上でお聞きしますが、ブログそのもののように、Myページの不特定多数への公開機能をつけることはしないのでしょうか?
笠原氏
部分的にmixiの外に開いているサービスは「アリ」かもしれません。ただし、ユーザーの方の混乱につながらないよう、そのページに書かれたことは誰からも見えてしまうし、検索にも引っかかってしまう、というページ特性を理解してもらった上でという条件は必要ですが。ただ「それってブログと何が違うの?」ということになって、プラスアルファな価値を作るということにはつながらないと思いますので、今のところは考えていません。
SNSとブログのコミュニケーションは異なりますよね。さきほど申し上げたことと重複する部分もありますが、mixiのほうがより一層、友人、知人や肉親に対して情報発信しやすいと思いますし、ブログは主義主張を不特定多数に発信しやすいと思います。
―ブログのオープン性こそがWeb 2.0の特徴の一つであるとも思っていますが、mixiというサービスをご自身ではどうお考えでしょうか。
笠原氏
Web 2.0分析については、おもしろいと思って読んでいます。今の流れをまとめてあると思っていますし。自分でmixiがWeb 2.0的かどうかという判断は、他の人に任せているという感じです。あくまで結果だと思いますし、評価は自分たちでするものではないと思うんですね。議論の対象としていただけるのはいい、と思っていますけど。
ただ、言えることは、Web 2.0という議論が高まってきたせいが、Web上のいろいろな動きがどんどん早くなってきていて、新しいことに挑戦するという雰囲気が出てきたことはいいですよね。うちとしても新しいことに挑戦しようと思います。
―mixiを進化させるということ以外の事業を考えるということでしょうか。
笠原氏
今ある何かを守るためだけに、何かをしないという選択をすることはありません。前に進むためには破壊が必要なこともあると思います。おもしろいこと、ユーザーにとってメリットがあること、社会がよくなることについては、行動に移していきたいと思っています。
とはいえ、今の既存機能をよくすることがmixiとして最大のプライオリティであることは変わりありません。日記にしてもコミュニティにしても、まだまだやりたくてできないことは多いですから。どんどん改善してブラッシュアップしていきたいですね。
―仮定の話でいいんですが、どんなサービスを考えますか? もし、やるなら(笑)
笠原氏
もしやるなら、ですね? うーん。例えばmixiにはリリースしづらい機能であれば、別のサイトとして立ち上げていく可能性はありますね。でも、やはり既存機能の改善のほうがプライオリティが高いです。今考えていることでいえば、R&Dは必要ですね。mixiをやっていて、より高い技術力、企画力が必要になってきています。負荷分散などの精度を高めていくには、そのための研究チームも必要となってきています。サービス的な研究も侮れません。ニーズ(ユーザー側)からも、シーズ(技術開発現場側)からも、サービスを向上させたいですから。
―ニーズからもシーズからもサービスを、というのは韻を踏んでいてよい表現ですね。
笠原氏
新しいことをやるには、研究開発力が必要ですよね、やっぱり。組み合わせ(マッシュアップ)だけではだめだ、と思っています。独自の研究というか、まったくゼロからのことも始められるようにしたいですね。
―ミクシィという会社をどういう会社にしたいのでしょうか。
笠原氏
まだない、誰も見ていない、知らない、世の中にない、価値を生み出す会社。そういう会社にしていきたいです。
―わかりました。今日はありがとうございました。
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小川 浩(おがわ ひろし) フィードパス株式会社 COO。1996年、デル、ゲートウェイの代理店としてマレーシアにて日系企業および在住邦人向けのPC通販ベンチャーを創業。1999年9月にアジアと日本をまたがるSNSを開始。その後日立製作所にてコラボレーションウェア「BOXER」を立ち上げたのち、ネットビジネス・プロデューサーとしてサイボウズにジョイン。ブロガーとして「Web2.0 BOOK」「ビジネスブログ」シリーズなどの著作がある。 |
2006/05/30 00:00
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