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ニッチビジネスモデルでグローバルビジネスを目指す-エニグモ須田氏&田中氏
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本日のゲストは、Web 2.0的ベンチャーとしては初めての非テクノロジー企業、株式会社エニグモの創業者であり、共同最高経営責任者である須田将啓氏と 田中禎人氏です。同社はバイマ(BuyMa)という、一風変わったオンラインショッピングサービスを展開して話題になっています。
両氏は、広告代理店大手の博報堂出身であり、技術者ではありません。Webによるネットサービスの会社でありながら、現在社員にエンジニアがまったくいない、という非常に珍しい会社ですが、ビジネスモデルそのものにはWeb 2.0的なエッセンスをうまく取り入れて事業を進めている点、注目を浴びているベンチャーです。
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共同最高経営責任者の須田将啓氏
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共同最高経営責任者の田中禎人氏
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■ 男二人のクリスマスが創業のきっかけに
―まずは恒例の、自己紹介をお願いできますでしょうか。
須田氏
私は大学院でコンピュータサイエンスを専攻してはいましたが、なぜか(笑)博報堂のマーケティング部門に入社し、自動車会社、通信ベンチャーのブランド戦略やマーケティング戦略、商品開発などを担当していました。在職4年半で退職しました。
田中氏
私は、アパレル会社に就職して、外資のPR会社、それからMBAでアメリカに留学して、卒業後に博報堂というコースです。
―博報堂で異業種からの転職組は珍しいのでは?
田中氏
そうですね。中途社員は珍しくないですが、たいていは代理店からの転職ですね。で、須田と同じ部署に配属されて知り合ったというわけです。
―どのようなきっかけで一緒に事業をやろうと思ったのでしょうか。
須田氏
もともと一緒になにかやろうとしていたわけではないんですよ。ノリと年齢が近く、よく飲みに行く“飲み友達”の関係でした。きっかけは残業しているときに、田中がビジネスアイデアを思いついたと話しかけてきたことです。僕も負けず嫌いだったため、「自分もアイデアがある」と言って、お互い出し合い、最初のビジネスアイデアにたどり着きました。
最初はサイドビジネスでもいいかーという気分で軽いスタートでしたね。企画を詰めていくにつれ、壮大なプランになり、本腰を入れてやりたいと思うようになり、ここまで一緒にやってきた田中となら絶対うまくいくだろうと思い、独立に至ったという感じです。
―最初にアイデアを思いついたきっかけは?
須田氏
田中は半分アメリカ人みたいなもので。
―というと?
田中氏
いわゆる帰国子女なんです。
―なるほど。
須田氏
田中のアイデアは、彼が留学時代の体験に基づくもので、海外にいた日本人は帰国したあとでも海外にいたときによく使ったり食べたりしていた商品を取り寄せている人が多い、だから在外邦人をネットワーク化して取り寄せたらいいんじゃないか、というものだったんです。これがバイマにつながりました。
田中氏
須田とアイデアの話をしたのは、2002年12月25日です。クリスマスなのに男二人で残業してるときですね(笑)。創業するまでにビジネスモデルを精緻化する期間があって、2004年2月に創業に至りました。
まずは商品を海外から送ってもらうモデル、それが発展して、じゃあ国内でも遠隔地間ならできるじゃないか、と考えました。カメラ付きケータイを活用すればリアルタイムの買付けも可能になるし、と。そこから資金集めなどに奔走して、下準備に一年以上かかりました。
―創業の資金は?
須田氏
中小企業支援法を使って、資本金400万円で創業しました。友達からも出資を募りました。いまは資本金4億3205万円。ソニーコミュニケーションネットワーク、ジャフコ、オリックスキャピタル、ネットエイジキャピタルパートナーズ(NCP)、ニューフロンティアパートナーズ、などがメインの出資者です。
―NCPですか。とすると、feedpathとは縁戚ですね。
須田氏
feedpathにもNCPが投資してるんですか?
―取締役会にも入ってます(笑)。まあ、余談でした。
■ エニグモの由来とバイマの仕組み
―エニグモというのは変わった名前ですが、由来を教えてください。
田中氏
謎とかミステリーのような意味のエニグマからとりました。Webのビジネスなので、語尾をグマからグモ、つまりクモ(Webはクモの巣という意味)に変えてみたわけです。今の世の中が理解できないことであっても、先見の明を持って新しい価値やビジネスを世の中に送りだしていくという意志や、例えまわりにあいつら何やってるんだといわれても、自分たちのビジョンを信じてその実現に向けてがんばるという意気込みを込めてつけました。
―なるほど。バイマのビジネスモデルはドロップシッピングとは違うんですか?
須田氏
ドロップシッピングとは、商品の幅が異なると思います。ドロップシッピングは、メーカーが選んだ商品の中から紹介するモデルです。だから、紹介される商品はある程度限定されます。
バイマは、Buying Market(買い付け市場)の略で、ユーザーがおすすめの商品を紹介して、買いたい人が現れたら、その商品をお店で買い付けて販売するモデルです。つまり、誰でも商品を買い付けしてお小遣いを稼げるわけです。ユーザーはバイヤーにもなれますし、それを購入するコンシューマーにもなれます。われわれはその仲介コミッションを頂きます。
バイヤーは、特定メーカーの商品を扱うのではなく、世の中で売っているすべての商品の中から、自分が売りたい、もしくは売ることができる商品をなんでもバイマで紹介できます。その点で、ドロップシッピングとは商品の幅が異なると思います。
また、梱包から配送はバイヤーが行います。同じTシャツでもサイズや柄が違うものが欲しい、というようなきめ細かいニーズにバイヤーは応えていきます。ヒューマンな対応も多く、その部分もドロップシッピングとは違いますね。
―決済方法は?
須田氏
われわれが売り手と買い手の間に入って決済を行います。
―バイヤーは注文を受けてから買いにいくわけですよね。つまり立て替えるわけですよね。
須田氏
はい。たとえば、Aさんが購入者で、Bさんがバイヤーで商品を出品するとします。Aさんが購入ボタンを押した段階でAさんのクレジットカードのショッピング枠から、商品代金分が仮押さえされます。それからBさんに注文を伝えます。Bさんは代金が仮押さえされているという安心感を持って、立て替えることができます。また、Aさんは、手元に商品が着いてから到着ボタンを押して、それがトリガーとなって仮押さえが本決済され、Bさんに振り込まれます。Aさんとしては、到着してから決済するという安心感を持って取引することができます。この決済方法によって、商品の持ち逃げやお金の持ち逃げを回避しています。
―到着しないとか商品が違うという時はどうなりますか?
須田氏
原則としてトラッキング付きで配送してもらっているので、客観的に届いているかどうかを判断することができます。商品の質やものの違いについては、ユーザー同士の話し合いにはなりますが、決済の間に入っているため、双方前向きに解決してもらっており、バイマが始まって以来1年4カ月で、大きなトラブルは一件もない状態です。
―そうですか。収入源は手数料と伺いましたが何パーセントですか。
須田氏
3%です。会費や、広告収入も考えてはいますが、いまはそれだけです。
―他の事業は何か進めているのでしょうか。
田中氏
プレスブログ(press@blog)というサービスをやっています。企業の新商品情報などをプレスリリースとしてブログを書いている方々に送り、ブロガーの判断のもとにブログに掲載してもらう、ブロガーを編集長とするというアイデアのビジネスです。アフィリエイトに似ていますが、コンセプトや使い方が違います。ブロガーに対しては原稿料をお支払いし、企業からは書かれたブログ数×掲載単価で掲載費をいただきます。
新しいシャンプーがでます、とりあげてください、ではなくて、どういう成分が入っていてどのような効果があるか、さらにはシャンプーを選ぶときのこだわりなど、どのような口コミを醸成したいかというプロモーション目的に合致するように、掲載条件を設定できるのが特徴です。商品であればそれを買いにいって実際に使った感想を、映画であれば試写会にちゃんといって、見てから書いてもらうという施策も可能です。案件ごとにそれに見合ったインセンティブを付与しているわけです。
―なるほど。
田中氏
バイマは個人が目利きやセンスだけで、誰もがバイヤーとして活躍できる。プレスブログは、誰もが編集長という書き手として活躍できる。個人をエンパワメントするというコンセプトは基本的に同じです。
リリースをみてブログを書いたら、その旨をわれわれに報告できるページを用意しています。掲載報告がCSVのリストとなり、それを集計スタッフが実際に読んで、中味をチェックしています。掲載条件を満たしているか、誹謗(ひぼう)中傷がないか、とか嘘がないか、というように。
■ 大きなビジネスにつながるバイマ
―今後の事業展開をどう進めるのでしょうか。
須田氏
バイマは薄利多売で、まだまだ長いスパンで見ないといけない投資段階です。その分、プレスブログが黒字化していて、うまく相殺してますね。全体としての黒字化は来年かな、と思っています。
バイマはニッチなビジネスモデルを、Webの力を借りて広大なエリアに拡大していこうというアイデアです。薄利多売なので、大手のECサイトはなかなか追随しようとは思わないらしいです(笑)。プレスブログはその点、すぐにまねされましたね。黒字化は早かったけど、大きなビジネスにつながるのはバイマだと思っています。
―いま会員はどのくらいですか?
田中氏
バイマの利用者が17万人。バイヤー登録者は5000人。国数は50カ国にわたっています。プレスブログの登録者は12万人です。バイマ利用者は毎月2万から3万人増えていくペースになっています。
須田氏
今後はケータイをもっと使ったリアルタイムなバイマを紹介していきたいですね。その場で売り買いできれば、手数料もちょっとで済む。わざわざ買いにいったら、その分の交通費や手間賃の分が商品に加わり高くなってしまう。とすると取引が決まらないです。ケータイを使ってすぐ売り買いできるならば、そういったことがなくなると思います。
リアルタイムなバイマができると渋谷の109のバーゲンなどで、都合が悪くていけない人とか遠くていけない人も、バイヤーが代わりに買い物してくれます。
―たしかに。
須田氏
ケータイを使えば、歩きながらバイヤーの視点になれます。今まで単なる消費者だった人が、売り手となって、面白い商品を発掘して、お小遣いを稼ぐ、という非常に面白い世界があると思ってます。
―事業化にあたってリスクは考えなかったですか?
須田氏
いろいろな局面がありますからね。仮にダメだったとしても、このメンバーならなんとでもなると思い、特にリスクがあるとは思わなかったですね。ネットが普及して浸透してきたというタイミングもよかったです。ユーザーがネットに慣れてきて、OLでも普通にネットを扱える。新しいネットビジネスを受け入れる素地ができてきたわけです。ユーザーの情報発信も簡単にできるようになりました。
田中氏
当時アツく話し合っていたことは、「流通をかえる」ということです。企業として商品を輸入したりすることはできるけど、市場が大きくなければ企業としては扱わない。市場が小さくても個人としてはニーズがあるわけです。そこを個人を流通として機能させることによって今まで流通に乗らなかったものでも購入ができるようになる。今で言うロングテールにつながるかなと。
―外国人バイヤーはいるのでしょうか?
須田氏
今は法律上の問題もあり、日本人だけです。今後は海外に広げたいですね。ビジネスモデル特許の国際出願もしていますし。
■ Web 2.0的ビジネスモデルで勝負
―社員数は?
田中氏
社員13人の会社です。3カ月前まで6人でした。うちは開発技術者がいないんですよ(笑)、営業、カスタマーサポートと、あとはクリエイティブ系だけです。開発はすべて外注しています。
―御社はビジネスモデルの会社、と言っていいですね。
須田氏
そうだと思います。世界中にネットワークができつつあるので、商品の流通だけではなく、サービスの横展開も考えていきたいとも思っています。ネットショップ、オークション、リアルのセレクトショップ、買い物代行などなど、さまざまなビジネスモデルがありますが、提供している価値はどことも違うと思います。だから、純粋な意味での競合は考えていないですね。考えてからビジネスモデルに1年くらいかけているし、作るのにも1年かけて実現したモデル。大手が同じことをやってきたらどうするかと思わないでもないですけど、今のところはどこもでてきていないです。CGMのように、うまくユーザー個人個人のニーズを拾い、ビジネスを作っていきたいですね。
―わかりました。ありがとうございました。
テクノロジー企業でない企業をWeb 2.0と呼ぶかどうかは意見が分かれるところかと思いますが、非常にニッチな事業機会をうまくネット上で実現しているところは、やはり2.0的でしょう。
プレスブログのモデルは、ブロガーとしては個人的に受け入れがたいところはありますが、早いタイミングで事業化を進める手腕は、並大抵ではないと思います。
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小川 浩(おがわ ひろし) フィードパス株式会社 COO。1996年、デル、ゲートウェイの代理店としてマレーシアにて日系企業および在住邦人向けのPC通販ベンチャーを創業。1999年9月にアジアと日本をまたがるSNSを開始。その後日立製作所にてコラボレーションウェア「BOXER」を立ち上げたのち、ネットビジネス・プロデューサーとしてサイボウズにジョイン。ブロガーとして「Web2.0 BOOK」「ビジネスブログ」シリーズなどの著作がある。 |
2006/06/30 09:00
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