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「“ASPは使えない”という既成概念がコンペティター」セールスフォース宇陀社長
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本日のゲストは、株式会社セールスフォース・ドットコム代表取締役社長の宇陀栄次氏と、執行役員 製品・サービス・技術統括本部長を務める榎隆司氏です。
セールスフォースは、「The End of Software(ソフトウェアの終焉)」という過激なスローガンで有名です。その名の通りSFA(営業支援サービス)をASPで提供することによって伸びてきた企業です。パッケージソフトウェアの販売をせず、完全にインターネット経由でサービスとして提供するピュアなASP企業ですが、最近Web 2.0的なモデルとして知られるようになったSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)の代表企業と呼んだ方がいいかもしれません。
SaaSとこれまでのASPがどう違うのか、SaaSがなぜ衝撃的なのかを宇陀社長に伺いました。
■ ASPで企業の地域格差もなくしていく
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代表取締役社長の宇陀栄次氏
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―恒例ですが簡単に自己紹介をお願いできますか?
宇陀氏
私はIBMで20年ほどキャリアを積み、ジャンルでいうと金融、製品事業、社長室などの部門にいました。その後、孫さんと知り合ったことでソフトバンクに移り、2001年4月にはソフトバンクコマースの社長に就任しましたが、同時にYahoo!などを使った新ビジネスの立ち上げをまかされていました。その後、セールスフォースに移ったわけですが、孫さんは数年前から、ソフトウェアを箱で売ることはなくなるといっていましたね。先見の明があったと思います。
私自身IBMの最大規模級の事業を経験していたので、大企業のシステムを中小企業にどうやったら持ち込めるかを考えることはあまり意味がないと考えていました。それよりも個人の業務効率を向上させるしくみを、中小企業用にうまく切り替えてあげるほうが自然であろうと思っていたので、セールスフォースとの話はタイミングが良かったのでしょう。
―個人向けのしくみをスケールアップするのがセールスフォースのサービスということでしょうか?
宇陀氏
トヨタ、東京三菱銀行などのシステムをスケールダウンするより、個人サービスをスケールアップする方がいいとは思いませんか? Web 2.0にこじつけるわけではないですが、当社のシステムは、超大手向けだろうが、たった一人の企業向けだろうが、モノ自体は一緒です。多少のサービス内容の違いはあっても、基本的には人数に合わせた価格体系しか用意していません。大手は素晴らしいシステムを使えて、中小企業は安いパソコン上でしか動かないソフトを使えというのはおかしいでしょう? われわれはこれをデモクラタイジングと呼んでいます。われわれのサービスを通じて、企業システムの大小の差に加えて、地域格差もなくしていきます。首都圏と地方では使えるサービスに差別があったんです、これまでは。今後はなくなっていきます。中国でもどこでも同じシステムを使えるようになる。ただ、日本企業にとってはインフラが同じならサービスや製品の価格差をつけづらいので、リスクになるかもしれませんね。
―大企業のシステムをスケールダウンすることがよくないのはなぜでしょう?
宇陀氏
Webを使うサービスでは開発におけるパラダイムが大きく変わってきます。これまでは、誰かが考えた漠然としたアイデアをぎゅっとしぼりこんでいき、要件定義をしていた。でも、途中でおもいつく別のアイデアを足していくと、また要件定義し直すのでコストアップします。このやりかたで作ったシステムは、中小企業にとっては高くてしようがないでしょう。
また、大企業向けは機能が豊富すぎる。ケータイでも豊富なサービスがあって、使える人はとことん使えるけど、だめなひとは基本だけしか使えない。でも、ケータイの場合は追加サービスを使うのはユーザーの合意の元で、選択の自由がある。ところが大手のシステムはそういう自由度がないでしょう。
―なるほど。
宇陀氏
だからセールスフォースでは、すべての機能を提供しますが、基本的に利用人数でしか課金しない。完璧にパラダイムを変えたといえます。
ASPを利用するお客様の要求はバラエティにとんでいて、A社、B社で要求が違います。したがって、サービス内容の違いは基本的に無料にしたんですね。使う人は使ってくれ、値段を変えてないから、というわけです。するとユーザーはもっとうまく使おうとして知恵をだしてくる。ASPを使うと企業の利用環境がみんなおなじで、差別化ができない、という人もいますけど、それは間違いです。自動車でも操作する人によってスピードは違うではないですか。
■ ソフトウェアベンダーはもはや競合ではない
―現在ASP市場は拡張してきていると思いますが、従来型のソフトウェア会社とのコンペティションが激しくなっているとみていますか?
宇陀氏
まず、従前のパッケージソフトのベンダーはコンペティターとはみていません。パッケージ売りしている企業は競争相手ではないですね。今後継続して残るとは思いますが、基本的にはサービス提供者としてのわれわれがますます優位にたつと考えます。われわれは(ソフトのサービス提供という)新しいアプローチをしているんですね。それが評価されるかどうか、ASPなんて使えないよ、というような既成概念そのものがコンペティターといったほうがいいでしょう。システムを手元に持ちたいという既成概念を打ち破ることが最大の難敵です。
―勝てますか?
宇陀氏
パラダイムは変わっていきますよ。たとえば、新生銀行やみずほグループも最近われわれのサービスを使い始めました。日本は保守的ですが、こういうエスタブリッシュな企業が事例として使い始めると、付和雷同的に広がっていくと考えています。逆な言い方をすると、日本人は新しいものに対する許容性は高いんです。クリスマス、バレンタイン、和洋中華などなど、海外のものに対し許容し、付加価値をつけるのはうまい。だから、ASP、最近ではSaaSという言い方をしますが、ソフトを買うのではなく、サービスを借りるという概念もちゃんと受け入れるでしょう。
―現在のシェアから比べて市場はどのくらい伸びると思いますか?
宇陀氏
われわれがイメージする現在のシェアは、市場全体の100分の1くらいですね。つまり、100倍くらい伸びると思っているわけです。企業が購入して資産計上したソフトウェアの総額と比べると、われわれが到達したシェアは10パーセントくらいになったかもしれませんが、実際に稼働して現役の道具として動いているソフトと比べるとその数倍になると思います。
―その見込みはなぜでしょう?
宇陀氏
企業が日々使うようなフロントエンドのシステムは変化することが前提ですよ。2年から3年かけて開発するシステムは必要ないんです。これについては絶対だろうと思う。
フォーメーションや戦略を数年変えない会社はつぶれます。バックオフィスのERPでさえしょっちゅう変わっていますが、法的な規制や商法上のルールがあるのでコロコロ変えることができないだけです。営業に関わるようなフロントエンドの最適なしくみはすぐに変わる。これに合わせるにはASPしかないでしょう。
■ SaaSはカスタマイズが自由、ASPとはそこが違う
―現在のセールスフォースのサービス内容を教えてください。
宇陀氏
SFAは営業フォーカス、CRM(顧客関係管理)はマーケットもサポートも含めた全体を管理するサービスです。われわれのサービスにはそれらに加えて今ではグループウェアもあるし、ワークフローもある。顧客のあるCIO(最高情報管理責任者)は、セールスフォースは完成度の高いフロントオフィスですね、と言ってくれました。
―そうすると、セールスフォースという社名が意味するSFAだけのサービスではないわけですね。
宇陀氏
セールスフォースという社名を否定したくないですけどね(笑)。OutlookやNotesなど、シーベルのようなCRMパッケージなどなど、それらの機能すべてがはいっているサービスに進化したといえますね。採用してくださっている企業からは、「ジェネレーションが違うソフトである」ともいわれています。そのお客様は、オフィスも移してビルも建てた。そのなかで、企業内のシステムも変えないと、という思いで、すべてを変えるしくみとしてわれわれを選んでくれたわけです。
また、どの企業でも、だいたい導入までの意思決定が速いんですが、その理由はセールスフォースのサービスが後でシステムを変えられるという点ですね。そこそこの状態でまず採用しても、あとでまたサービス内容を変えられる、という柔軟性があるからこそ、そのスピードを実現できるわけです。
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執行役員 製品・サービス・技術統括本部長の榎隆司氏
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―内容を変えられるというのは?
宇陀氏
その点については、当社のCTOである榎に振りましょう(笑)。
榎氏
サービス自体をカスタマイズできる、というのがSaaSとASPを分けるポイントになると思います。カスタマイズには2種類ありますが、ユーザーごとにグラフやスケジュールをみせたいなど、画面のパーソナライズをするという個人のカスタマイズがまず一つ。これは簡単ですね。もう一つは、契約している組織ごとにカスタマイズが可能であるということ。これはASPではなかなかできません。
管理するべき項目は会社ごとに違います。会社のランクごとや業種によっても異なります。会社としてカスタマイズしてあげる、というのがわれわれの強みであり、SaaSであるゆえんです。
宇陀氏
SAPもオラクルもマイクロソフトもでてきたわけで、SaaS市場の盛り上がりは最高にうれしいことですよ。
―それはなぜでしょう?
宇陀氏
メリルリンチは最近、SaaSをニッチからメインストリームになりつつあるという予測を発表しました。数兆円の市場になるという予測です。市場参入者が増えるということは、こうして注目を浴びるということです。説明コストが下がっていくから、こんなにうれしいことはありません。
■ 電気の作り方は気にせず、使い方を気にする時代
―ターゲット企業の層は中小企業、なのでしょうか。
宇陀氏
日米で若干ターゲットが違うんですけど、基本は中小企業向けのサービスと思っていいです。ただ、アメリカは中小ベンチャーに優秀な人が集まりやすくて、オピニオンリーダーであるベンチャーが採用してくれるケースが多いのですが、日本では逆で、大手企業に導入することで信用と認知度をあげるという戦略があてはまるでしょう。
―榎さんにお伺いしますが、セールスフォースの技術的な強みはなんでしょう?
榎氏
Web 2.0とはマッシュアップをつかって、外のインフラを使うことでもあります。実はわれわれもAppExchangeというサードパーティを巻き込むためのプラットフォームを提供し始めています。セールスフォースを使ってマッシュアップしてもらうわけです。
いままでは、アプリケーション系を売ってきたが、プラットフォーム自身をオンデマンドで提供しようと考えている、といえます。どこかと連携するだけのためにセールスフォースを使いたいという企業もでてきている。われわれはこのアプローチをWeb 3.0と呼んでいます。プラットフォームをオンデマンドに提供していることが3.0的、ということです。
アプリケーションのオンデマンド(SaaS)からプラットフォームのオンデマンドへ。ここまでできている企業はまだ他にないと思います。
宇陀氏
企業のシステムというと、ハードやソフトへの依存度が多かったんですが、個人の知恵やノウハウを具現化することがシステムの根幹なんです。それをやろうとすると、コストに跳ね返ってきたわけですけど、Webの進化によって、そういうことを気にしなくなってきた。
電気を原子力や水力で作っているかどうか、電気が交流か直流かなど、いまではまったく気にしないですよね。それよりは電気を何に使うのか、パソコンかエアコンか、デザインをどうしようかと意識し始めたわけです。
―その考えを僕はWeb 2.0のブラックボックス化と呼んでいます。しかし、電気そのものを作るサービス者は不安になりませんか?
宇陀氏
トラディショナルなSIerはSaaSやWeb 2.0を前にすると、仕事がなくなると大騒ぎするが、そんなことはないです。PCがでても大型汎用機の需要は増えているじゃないですか。たしかに、ハードの不整合をなくすのがインテグレーターかと言う会社は消えるかもしれないが、カルチャーやマネジメントの仕組みを変えていく手伝いをする人は今後も必要です。
―まとめに入りたいと思います。ASPからSaaSへと認識が移り、パッケージビジネスからサービスビジネスに移る時代ですが、さまざまな業界に影響があるとは思いますが、どのように予測しますか?
宇陀氏
ロングテールセオリーの代表は、Yahoo!オークションです。会員が600万人くらいいて、ひとり毎月280円払っている。月18億円ですよ。これはYahoo!の井上社長の名言なんですが、「月280円の事業に興味のある経営者はいないが、月18億円の利益に興味のない経営者は一人もいない」(笑)。ケータイもおなじモデルですが、いわゆるIT事業はそういうビジネスモデルにおいて遅れているんじゃないですかね。IT産業は技術革新は進んでいるが、産業構造において遅れている。知的集約型といっても労働集約型ですよ、実際には。システム納入前には徹夜徹夜で帳尻を合わせている。
こういう遅れているものが大きく変わっていくと思います。こんな遅れやむだな努力は、お客にとって何の価値もない。既に費用の説得ができなくなったと思います。
―たしかに。
宇陀氏
幅のある話ですが、2、3年でSaaS革命が起きますよ。パラダイムシフトが起きる。われわれのサービスを某自動車メーカーのCIOにもみせたところ、驚いていました。新しい項目を入れてサービスをカスタマイズすると、自社製のシステムならアルゴリズムに影響があるかもしれないので、簡単にはできない。社内システムを変えるのは1カ月かかるのに、セールスフォースは一瞬だ、これはどうしたことだ!と驚くわけです。そもそもネットのインターフェイスだから分かりやすい、操作マニュアルなどいらない、簡単なわけです。
―その革命に参加する企業をどう思いますか。マイクロソフトも参入しますね?
宇陀氏
マイクロソフトは、アプリケーションのオンデマンドはいけるでしょうけどね。
Googleのような無償サービスはどうかというと、この分野でSaaSでがんばっても大変ですよ。長年かさねたものは、プラットフォームに生きてくるわけで、われわれにはアドバンテージがある。
榎氏
それに、今後はアプリで競合しようとは思わないですね、支えているプラットフォームで勝負すると、コンペティターは入って来れないと思っています。
宇陀氏
うちのシステムは、5年間で19回も機能追加しましたよ、サービスを止めずに。基盤は最高の水準です。技術よりも経験によるノウハウが違います。技術は進めば進むほどユーザーの負荷を下げるが、それはこちら側にそういう負荷を持ってくる、ということです。その負荷を処理するための経験値がわれわれにはある、そういうことです。
―分かりました。今日は長い時間、ありがとうございました。
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小川 浩(おがわ ひろし) フィードパス株式会社 COO。1996年、デル、ゲートウェイの代理店としてマレーシアにて日系企業および在住邦人向けのPC通販ベンチャーを創業。1999年9月にアジアと日本をまたがるSNSを開始。その後日立製作所にてコラボレーションウェア「BOXER」を立ち上げたのち、ネットビジネス・プロデューサーとしてサイボウズにジョイン。ブロガーとして「Web2.0 BOOK」「ビジネスブログ」シリーズなどの著作がある。 |
2006/07/04 00:00
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