本日のゲストは、生活情報メディア「All About」の運営会社である、株式会社オールアバウト代表取締役社長兼CEOの江幡哲也氏です。
All Aboutは、今はやりのCGM(コンシューマジェネレイテッドメディア)と呼ばれる、消費者参加型のポータルサービスとは若干趣が違いますが、「個人消費者が持つこだわり」に焦点を絞った企業です。ガイドと呼ばれる、さまざまな分野の専門家を消費者側から集めて、テーマごとに専門情報サイトを運営することで巨大なトラフィックを生んでいます。
■ About.comのブランドライセンスを受けて起業
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代表取締役社長兼CEOの江幡哲也氏
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―まずは自己紹介をお願いできますか。
江幡氏
オールアバウトの社長をつとめております江幡と申します。私は昭和62年にリクルートに入社しました。働き始めてから20年になりますね。リクルート時代は、主に通信系の分野で5つばかりの新規事業立ち上げに携わりました。オールアバウトは2000年6月に、リクルートと米国のAbout.comとの合弁会社として設立した会社ですが、これがリクルートで立ち上げた6番目の事業ですね。立ち上げると同時にリクルートを辞して、この新会社の社長となりました。
―リクルートからの出向ではないのですね?
江幡氏
ええ。立ち上げ時期はリクルートからの人的支援を受けましたが、社員のほとんどはプロパーの採用です。その中で、身分の安定した出向者が社長を務めていてはベンチャーとして誰も納得しませんよ。
―耳が痛いです。他にはどんなプロジェクトを?
江幡氏
ネットについては、93年から関わっていますが、96年のキーマンズネットが知られていますかね。作ってから10周年になりますね、今年は。リクルートでの最後は経営企画室と次世代事業開発室に所属していたのですが、リクルートの中期事業戦略の策定、ネット事業の位置づけなどを行っていました。また、米国企業への投資や、合弁会社作りなど、戦略と実践を両方やったことがいい経験になっています。
いまの会社については、96年のキーマンズネット立ち上げが、いわゆるB2Bのメディアだったわけですが、B2C的なメディアの企画を同時に考えていたんです。でも96年当時は事業化できるための背景がまだ揃っていなくて、99年までずっと温めていました。たまたまその時期にAbout.comがNASDAQに上場したということを知りました。
―About.comとオールアバウトの関係は?
江幡氏
オールアバウトの事業企画自体は日本独自のものです。立ち上げ方としてジョイントベンチャー形式にしたほうが成功確率が高いということで、このやり方を選択しました。About.comは現在New York Timesに買収され、現在は弊社との資本関係は解消していますが、ライセンス関係は継続しています。
■ ネットが読者を賢くする
―99年まで企画を温めていたとおっしゃりましたが、いよいよ実現に踏み切った理由は?
江幡氏
1999年にブロードバンドの環境の広がりのとっかかりが見えた、ということが大きいですよ。情報が氾濫することが予測される中、これらの情報の波に翻弄されないで、楽してこだわりたいというニーズに応えるメディアを作る必要があると思ったのです。一方で、ブロードバンドが普及し始めて、多くの消費者がネットを利用しはじめました。そういった一般の消費者の中にも実はさまざまな分野における専門家がいらっしゃるわけで、この専門家に活躍の場を与えることができれば事業になると考えたわけです。
―現在のAll Aboutの事業構造を教えてください。
江幡氏
事業を、ファクト(事実)でいうと、まず昨期の売上は31.2億円で、ジャスダックにも上場しました。企業としては第二ステージにいますね。また、ユニークユーザーが1500万人を超えましたし、コンテンツを提供してくれるガイドは400人を超えました。1テーマひとりなので、コンテンツとしては435のテーマが現在存在しています。また、ガイド自身がオリジナルコンテンツを作っているのですが、それは5万本以上の記事になっています。
ガイドが作るテーマ別のコンテンツに加えて、さらにもうひとつ、ターゲット読者別にWebマガジンを展開しています。30代のキャリア女性向けや40代のビジネスマン向けなど、400人のガイドと、そこにあるコンテンツ、ユーザー基盤を活用することで、さまざまなメディアをスピーディに展開していくことが可能となっています。All About全体のターゲット層としては、35~40代、平均年齢では39才になっていますが、学歴が高めで、都市型、オトナです。その他、団塊と団塊ジュニアへもターゲットを増やしつつあります。
もうひとつの特徴としては、われわれが編集にこだわっている、ということです。われわれが何で儲けているか、というと、広告収益がほとんどなのですが、特に注力しているのは編集型広告(Editorial Ads)と呼ばれる手法です。広告主とタイアップした記事を広告として掲載するわけですが、一回作った記事のフォーマットは、常に標準化しています。今まで2000本くらいの編集タイアップ広告を作っていますが、フォーマットを作って標準化することを常に心がけています。制作者によってノウハウに偏りがあったり、できばえに違いがあってはならないですから、ナレッジを貯めて、それをターゲットに対して適切に訴求していくことが大事です。
―広告記事と本来の記事がユーザーを混乱させることはありませんか?
江幡氏
大前提は、ネットが読者を賢くする、ということです。広告で重要なことは、役に立つかどうかです。企業がなにか直接言ってもなかなか信用してもらうのは難しい。両者の間にはいって公正な記事広告をターゲットにお届けすることができれば、それは意味があります。記事を読みにきている読者が知りたい情報を広告にすることが、読者にとってもわれわれがお役に立てるということです。
―他には何か独自の広告商品はありますか?
江幡氏
そうですね。スポンサードサイト、といって、TVCMで言えば、番組提供のような商品も人気があります。400サイトのうち、企業のスポンサードサイトとして運用しているのは今50サイトほどあります。自分の会社の啓蒙サイトをAll About内に作ることができるサービスです。編集はわれわれにまかされています。テレビ番組のスポンサーと同じですね。企業サイトではなかなかできない、インターネット上の個人サイトをリンク集として集めてくることもできるので、企業サイトとはまた違った役割を持たせることができます。企業サイトと個人サイトのハブを作れる、といったらいいですかね。
■ ビジネスモデル的にはブログやSNSをベースにするには時期尚早だった創業期
―第二ステージを迎えた、とおっしゃりましたが、事業としての方向をどう作っていきますか?
江幡氏
内容の一つとして、広告事業以外も事業を展開しはじめています。「All Aboutスタイルストア」と「All Aboutプロファイル」の2つです。All Aboutスタイルストアは、こだわり消費でナンバーワンというビジョンに即した形でのオンラインショッピング事業で、その道のプロが目利きした商品を取り扱うネット上のセレクトストアです。消費者のちょっとしたこだわりに応えるために、商品を目利きする人のネットワーク作りや、ライフスタイルを提案する編集力にこだわることで、差別化を図っています。
価格で選ぶと楽天などがありますが、こだわりで選ぶと、All Aboutスタイルストアがある、というようにしていきたいです。モールではなく個店、ですね。
―ビジネスモデルを教えてください。
江幡氏
「All About スタイルストア」は、中間マージンをいただくわけですが、商品をいったんすべてAll Aboutが持つ方式です。在庫は持ちませんが。現在、二千数百種類の商品を持っています。ユニークユーザー1500万人のこだわりのための商品を扱っていきます。
All Aboutプロファイルは、建築家などの専門家のHPをAll About内に開設させる方法です。楽天の専門家版といってもいいですね。初期費5万円と月額2~3万円の代金をいただきます。現在は、住宅回りとお金回りのコンテンツから始めています。6カ月で200人の専門家がHPをAll About内にオープンしています。
3年間で2000~3000人の専門家をたてたいですね。
―ブログやSNSが、All Aboutの成長を阻害したりしませんか?
江幡氏
弊社は2000年6月に創業して、2001年の2月15日にサービスインしました。そのころにはもうブログもSNSもアイデアとしてありましたし、先々日本でも流行し始めることは予想していました。しかし、ビジネスモデルの面からみると、自由に個人がジェネレートするメディアはまだ時期尚早と思っていました。個人側のリテラシーが追いついておらず、ビジネス化するのが難しいからです。ネットだから可能な、個人がメディアに参加する道は担保しつつも、ビジネスモデルをセットしやすいメディア構造をまずは作るべきと思ってAll Aboutを作っています。一般消費者から専門家を選別して、メディアに参加してもらうほうが良いと思ったのです。昨今ではブログやSNSが普及し、よいコンテンツを持つブログも増えてきたとは感じます。だから、今後はコンシューマからいい人をピックしていこうと思っています。ようやくそういう時期がきたかな、と。
■ 知的資産経営を進める
―Web 2.0の流れをどうみていますか?
江幡氏
われわれは、読者からの信頼性を保つことにこだわりをもっています。たとえば、人の手を介さず、ただユーザーがあげたコンテンツを機械的にランキングをつけるだけ、ということは、やらないと思います。読者に求められる方向は、信頼性プラス時短(めんどくささを解消する)です。そこは、何らかのマネジメントをして、メディア運用を進めることで、応えていきます。
あとはロングテールでどう儲けるかというモデルがよく話に出ますが、僕らはミドルやヘッドのほうでまだまだ収益を獲得できるし、その場所からでさえ、まだまだ完全に収益を出せてない状態だと思っています。テールはもちろんのこと、もっと効率的にミドルやヘッドから収益を出していけるはずです。
―テクノロジー側面について伺いたいのですが。
江幡氏
テクノロジーそのものを意識することは特段ないのですが、もともとCMSで構築しているサービスですから、たとえばCMSを強化して、コンテンツを生み出す人をどうマネジメントするかなど、テクノロジーを使って何をするのか、という部分を大事に考えています。
―mixiをどう思いますか?
江幡氏
mixiはSNSというよりは、マイポータルでしょう。一つの象徴的なありかたと思いますね。どっちかというと、インスパイアされるのは、CGMにマネジメントを加えることで、信頼性やビジネス側面を持ったメディアを構築しているケースです。たとえば、フォートラベルのような、カスタマーが作るコンテンツをマネジメントしてメディアとして展開しているところですね。フォートラベルは、体験記ブログにトラベル商品を差し込み、ちゃんとしたサイトに仕立てており、人が集まってできたコンテンツをビジネスにつなげています。われわれは、エントリーマネージメントと呼んでいるんですが、メディア企業としてのコンテンツを作るためのエントリーマネージメント、ユーザーとの関係を保つためのエントリーマネージメント、そしてビジネスをつくるうえでのエントリーマネージメント、そういう構造を大事にしていきたいですね。
―最後に、All Aboutを一言で呼ぶとどう表現しますか?
江幡氏
メディアカンパニー、ですね。旧来メディアの持つ利点とCGM的なものの良さを融合させた、第三のメディアです。われわれは編集ステップを構造化し、テンプレートを部品化する力があります。記事の編集力やナレッジマネージメントの考え方などを、知的資産として捉え、それを活用し、長期にわたって成長していける力を蓄えていく、知的資産経営を進めていく会社です。
―わかりました。お忙しいところを、今日はありがとうございました。
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小川 浩(おがわ ひろし) フィードパス株式会社 COO。1996年、デル、ゲートウェイの代理店としてマレーシアにて日系企業および在住邦人向けのPC通販ベンチャーを創業。1999年9月にアジアと日本をまたがるSNSを開始。その後日立製作所にてコラボレーションウェア「BOXER」を立ち上げたのち、ネットビジネス・プロデューサーとしてサイボウズにジョイン。ブロガーとして「Web2.0 BOOK」「ビジネスブログ」シリーズなどの著作がある。 |
2006/07/18 00:00
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