本日のゲストは、エキサイト株式会社メディア本部Web戦略企画室の木下秀爾室長です。エキサイトが総合商社の伊藤忠商事の子会社であることはよく知られていますが、商社系列で上場にまでこぎつけたベンチャーはあまり見当たらず、数少ない成功例の一つと言えます。
■ 匿名から実名・半実名のSNSへ
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エキサイト株式会社メディア本部Web戦略企画室 室長の木下秀爾氏
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エキサイトネームカード
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―まず自己紹介をお願いできますか?
木下氏
私は新卒後、某ソフトウェア会社にSEとして就職した後、1999年4月にエキサイトに入社しました。もう7年以上エキサイトにいることになります。
現在はWeb戦略企画室の室長という職務になりますが、ブログ、エキサイトネームカード(http://namecard.excite.co.jp/)というオープンタイプのSNSなどのサービス展開を担当しています。
―オープンなSNSですか。
木下氏
ええ。エキサイトネームカードは、ネット上でのプロフィールをもって、活発に人となりを発表して交流してもらうというスタイルです。
それと、エキサイトは検索サービスも提供していますので、検索のリスティング事業もしています。サイボウズ、DION、@NetHomeなどのパートナー様に利用いただいております。その他、NTTレゾナントとの子会社でX-Listing(クロスリスティング)という検索連動型広告の会社も管轄下ですし、韓国OnNetの日本法人であるオンネットジャパンとの資本業務提携もしています。あるいは、トランスメディアGPとのSEM的なサービスやポイント事業もやっていますし、オウケイウェイブとも提携しています。いろいろ多岐にわたっていて、一言で説明づらいですね(笑)。
―もう少しエキサイトネームカードについてお伺いしましょう。
木下氏
日本のSNSはだいたい匿名でのサービスですが、ネームカードは、実名あるいは半実名(笑)でのサービスです。ネット上である程度責任を持って発言するユーザーに集まってもらうのが目的のサービスです。
人となりに責任を持っている、あるいは、社会的にある程度のポジションや影響力をもつ、つまりハブになるような人たちを集めたいと考えています。
エキサイトはそもそも自社からの情報発信サイトだったわけですが、クオリティの高いユーザーにCGM的に担保してもらう方向も考えています。われわれは広告営業力や企画編成のパッケージ力に長けていると自負しています。広告とコンテンツを結びつけてマネタイズすることで、事業を成長させていけると考えているわけです。
■ 半永久的なコンテンツでのタイアップを進めていく
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Last.fm
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―最近英国発の音楽SNSであるLast.fmとも提携しましたね。
木下氏
はい。Last.fm(http://lastfm.excite.co.jp/)は今年中をめどにラジオサービスも展開する予定です。
―御社が標榜しているMedia 2.0という考え方との関係は?
木下氏
なくはないと思いますけど、本来Media 2.0というのは記者さんというかメディアや、あるいは広告代理店向けのメッセージだと私は理解しています。ユーザーに向けてのメッセージはありません。
―なるほど。
木下氏
エキサイトイズムというWebマガジンがありますが、その中でAppleウィキという、いわばAppleプロダクトの博物館を作ったんですね。ユーザーの役に立つようなサービスをたくさん作っていくという動きの一環だと考えます。
事業的にも、従来のタイアップ系は、PVをどれだけ集めて広告を出してもらってお金に換える、タイアップが終わったらコンテンツを削除するという考え方ですが、われわれが志向する今後のタイアップは、大量の記事データを持つコンテンツを半永久的においておき、検索エンジンにインデックスさせたりトラックバックを受けたりして、トラフィックを少しずつ集めていく。そしてそれをマネタイズしていく、という考えに基づいています。これもWeb 2.0的なアプローチと思っています。
―ターゲットをどうとらえていますか?
木下氏
いわゆるF1M1層へのリーチになりますね。現行の利用ユーザーでいうと、ブログはほぼ半分は女性。全体でみても女性は多めですね。20~30代が中心です。
ブログはオンネットジャパンから提供してもらったものを、ローカライズしたんです。元々のオンネットのブログはクローズドな感じだったので、結果としてエキサイトのブログもそういう性格を持っているようです。だからユーザーは比較的身近な読者、たとえばリアルな友人などを対象にコミュニティを作る傾向があります。
ワンクリックでエキサイトブログ同士でリンク状態にできるので、エキサイトブロガー同士でのコミュニケーションが多くなっているといえます。こういうところが、女性に受ける理由かも知れません。また、画像の容量(500KB/枚、1GBまで、有料は無制限)もあるので、画像のアップに使われている傾向があるようです。
―開設数はどのくらいですか?
木下氏
通算の開設数は60万ですが、アクティブ率は50%くらいでしょう。アフィリエイトとアダルト系は禁止していますし、商業的に使われないようにしています。
―エキサイト=伊藤忠、という感じがあります。商社系列のベンチャーはあまり成功していませんが、エキサイトはその中でも珍しい成功例と思います。
木下氏
ありがとうございます。エキサイトは自分たちの経営判断と方針で動いていますが、とはいえ伊藤忠が持っているコンテンツは利用しているし、そのような商社的機能とのシナジーが出せればいいとは思っています。たとえばLast.fmは伊藤忠経由からも話があったし、実はわれわれ自身でも独自にコンタクトもしていたりしました。
―収益構造は?
木下氏
最新の決算で、広告47%、課金コンテンツ28%、ブロードバンド事業で8%、EC 8%、その他 9%。売上として94億円を計上しています。
■ 人となりが見える、プロフィールがみえるサービスを提供
―Web 2.0に対する認識は?
木下氏
Web 2.0的な潮流に合わせていきたいとは思っています。でも、ネットでやっていることは情報を発信して検索してコミュニケーションをとっていくということで、これは昔から変わってないと思います。とりあえずそのことを再認識して、技術の進化がサービス構築に追いついてきたので、盛り上がっているという感じなのではないでしょうか。
―具体的にはどのようなポイントに力点を置くのでしょうか。
木下氏
CGMでしょうね。ユーザーの方の力を借りながら、メディアを作ることです。それでいて広告主に満足していただくことを目指します。背景となるのは高いテクノロジーですが、われわれとしてはそれを全面に出すことはしません。
たとえばAjaxも使っていますが、それを声高にアピールもしません。必要に応じて使うだけです。われわれ自身の従来のやり方を踏襲して、新しい潮流と融合することによって媒体価値をあげていきます。Web 2.0的なテクノロジーに注力する会社は他にもたくさんあるので、われわれは別のやり方をとっていきたいと考えています。
―そのココロは?
木下氏
われわれとしては、とにかくユーザーの人となりが見えるような、プロフィールが見えるサービスを提供したいのです。
Web 2.0に表現されるサービスは難しく、われわれの利用者の身の丈に合わない気がしています。ワンクリックやツークリックで使える簡易的なサービスのほうが向いています。機能でのチキンレースには参加したくないというか、できるだけ難しいものをそぎ落とし、ユーザーの方にわかりやすいサービスを提供することを目指しています。パソコンを使うことが好きという人だけではなく、外でアクティブに動いている人たちにこそ、エキサイトを使ってほしいと思っています。
―わかりました。本日は長時間どうもありがとうございました。
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小川 浩(おがわ ひろし) フィードパス株式会社 COO。1996年、デル、ゲートウェイの代理店としてマレーシアにて日系企業および在住邦人向けのPC通販ベンチャーを創業。1999年9月にアジアと日本をまたがるSNSを開始。その後日立製作所にてコラボレーションウェア「BOXER」を立ち上げたのち、ネットビジネス・プロデューサーとしてサイボウズにジョイン。ブロガーとして「Web2.0 BOOK」「ビジネスブログ」シリーズなどの著作がある。 |
2006/10/06 00:00
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