今回のゲストは、ダイナミックパッケージという、ホテルと航空券の組み合わせ自由なパッケージツアーを武器に成長するオンライン旅行会社、グローバルトラベルオンライン株式会社の取締役副社長兼COO、後藤淳一氏です。
■ 鉄鋼のeコマースからWebの世界へ
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グローバルトラベルオンラインの取締役副社長兼COO、後藤淳一氏
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―まずは自己紹介をお願いします。
後藤氏
グローバルトラベルオンライン(以下、GTO)は、住友商事の100%子会社です。私も、社長の谷口も、住商からの出向です。私は入社以来ずっと鉄鋼部門におりましたが、2000年に異動して、鉄鋼流通のeマーケットプレースの運営にあたることになりました。2000年は、ちょうど米国で鉄の流通サイトや、eコマースなどがでてきた時期で、鉄鋼取引の主流が電子商取引に変わってくるという予測に、戦々恐々としたものです。実際にはそうはならなかったわけですが(苦笑)、なかなかそうは言えない状況でしたね、2003年に鉄鋼のeコマースからみなが撤退し始めるまでは。
むしろうまくいったのは、住商グレンジャーという、事業所や工場に軍手や電池、研磨剤などの間接資材を卸すネットストアで、いまではモノタロウ(MonotaRO)という名称に変わって東証マザーズに上場を果たしています。
―鉄のeマーケットプレースがなくなってからはどうされたのでしょうか?
後藤氏
鉄鋼に戻ろうとも思ったんですが、それよりも何年かで得た経験を利用して、何か新しいことをやってみたいと考えました。アイデアがあるならやってみてもいいという会社からのお墨付きをもらって、2004年に半年間くらいかけて、いろいろな案件を考えました。そこで目を付けたのが、ダイナミックパッケージという旅行プランの取り扱いです。
―ダイナミックパッケージとは簡単にいうとどのようなものですか?
後藤氏
航空券とホテルだけを組み合わせた割安な海外パック旅行を、インターネットで予約・購入できるサービスのことです。欧米では非常に盛んなモデルなのですが、日本では当社が始めるまで存在しなかったプランです。通常のパッケージと違うのは、この組み合わせを自分が好きなように変更し、プランを作り上げる事が24時間可能であるという点です。
2005年にシステム開発に着手しまして、航空券については航空会社へダイレクトに発注できるようにしました。ホテルは自分たちで仕入れてデータベースを作っています。このような旅行商品を募集型企画旅行というのですが、それを扱うための免許も取得しました。それから会社を作り、2005年7月に会社を3億円の資本金で立ち上げたわけです。
■ スタティックパッケージからダイナミックパッケージへ
―会社を立ち上げてから、すぐにダイナミックパッケージでの企画旅行を販売し始めたのですか?
後藤氏
いえ。いろいろと準備が必要だったので、実際に始めたのは2005年10月です。最初は取り扱える都市の数がわずか3都市にすぎなかったのです(笑)。現在は南米とアフリカを除く、世界の100都市を取り扱えるようになりました。
―ダイナミックパッケージという企画旅行商品にこだわる理由はなんですか?
後藤氏
旅行に慣れた人間は、パッケージではなく、好きなように旅程を作りたいんですよ。いわゆるパッケージツアーとは違う、自分だけの旅程がいいんです。しかし、さまざまなWebサイトでチケットやホテルなどをバラバラでとるのは面倒ですし、高くなる。なぜかというと、航空会社もホテルも、バラ売りについては安売りしていないからなんです。
―確かに。それをどうやって安くするんでしょうか。
後藤氏
まずは、航空券とホテルの宿泊だけを扱うようにして、一般のツアーにつきものの、現地空港からの送迎はなくしました。この送迎サービスがあると、リムジンバスやバスなどのルートに載っていないホテルは必然的に仕入れ対象から外れてしまいます。逆にいえば、送迎をやめればホテルの仕入れが自由にできるわけです。
あとは、当社は店舗も持たないしパンフレットも用意しません。人手を介さず、ネットから完全に自動で予約してもらいます。人間がやるのはお金をいただいたことを確認するだけです。eチケットなので、紙のチケットを渡す必要もありません。お客様にスムーズにチェックインしていただくだけです。これによって、他社よりもはるかに低コストで旅行を組むことができるわけです。
システムも柔軟に作ってあります。可能な限り選択肢を与えて、多様な航空会社を選ぶことができるようにしているし、ホテルもなるべくたくさん峻別(しゅんべつ)して表示しています。値差も結構あるので、値段をマトリックスで見られるようにしています。
―どのくらいの自由度があるのでしょう?
後藤氏
何泊であろうが、それにあわせて航空券のレギュレーションをあわせますので、たとえば7泊でも、80泊でも可能です。部屋別の人数なども、子供の添い寝なども可能なように、選択できるようにしている。大人と子供あわせて、1名から9名までの対応です。
いままでの、自由度の少ないパッケージはスタティックパッケージと呼ばれています。これに対して動的に、自由にプランを組む事ができるので、ダイナミックパッケージという言葉が生まれたわけです。価格についても、日々変化する料金を動的にシステム化しているのが特徴です。
―Webもスタティック(静的)Webからダイナミック(動的)Webへの変化が、Webの2.0化と呼ばれています。社会全体がそのように動いている、ということですね。
■ インターネットは能動的なメディア。オンライン旅行サービスは成長し続ける
―競合他社はどういうところがありますか?
後藤氏
2006年2月に海外旅行のダイナミックパッケージを楽天トラベルがはじめていますが、そのくらいですね。大手の旅行会社もそのうちには、やりはじめるかもしれないですが。
―ダイナミックパッケージにこだわらない場合はどうでしょう?自由度を犠牲にしても安い方がいいというお客はいないのでしょうか?
後藤氏
プランの違いは別にして、同じ条件にした場合は当社のほうが2~3割総じて安いのです。なぜかというと、まず現地のホテルなどとダイレクトに契約しており、中間マージンを払っていないので、価格メリットがあるわけです。
また窓口も持たない会社ですから、大手旅行会社ほどのマージンを取らなくても十分儲かります。予定していた予算より料金が安いので、エコノミーからビジネスクラスにアップグレードしたり、予定を延ばしてもう1泊したりするようなお客様も増えました。
―客層はどのような感じですか?
後藤氏
平均して40歳。男女比は51:49、ほぼ均等です。女性は30代後半が多いですね。夜中に予約して来週海外にいく、というようなお客様が多いです。
―米国市場と比べて日本の市場はどのくらいの規模でしょうか。
後藤氏
米国の旅行市場は20兆円ほどですね。オンラインが占める割合はすでに50%ほどに達しています。Expedia、Travelocity、Orbitzが上位を占めています。日本は国内旅行が6兆円、国内が4兆円ほどです。そのうち、オンラインは5000~6000億円とみられています。米国に比べるとまだまだ小さいですが、それでも年率30%の伸びを示しています。
旅行者の数をみると、年間のべ1800万人ほどが海外旅行をしています。バブルのころは、みんなが年に1回ずつ海外に行くような勘定でしたが、最近は、行く人は年に10回以上行くけれど、行かない人はまったく行かない、というように明確に分かれてきたようです。特に若い人が行かなくなりましたね。ケータイとゲームにお金を使いすぎるせいだといいますけど。
―オンライン旅行サービスの市場が伸びていくなかで、競争が激化すると思いますが、GTOとしての見通しはどうでしょう?
後藤氏
インターネット自体は能動的な媒体です。自分で探す人に向いているメディアです。旅行会社の店頭に行って、いいパッケージがないかを探すような人とは、当社のユーザーは違っていると思っています。自分で行きたいところを考えて、好きな旅行のプランを組み立てていく、能動的なユーザーをどんどん増やしていくことで成長できると思っています。
また、システムも拡大して、ユーザビリティを良くした、旅行を楽しめる良いサイトを作りたいですね。それによって、ホテルとエアだけではなく、レンタカーやクルーズなどのオプションについても対応するようなシステムを作っていきたいと考えています。そういうことをやりながら、2008年には海外旅行の専門サイトとしては日本一を目指したいと思っています。
―わかりました。今日は長い時間、ありがとうございました。
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小川 浩(おがわ ひろし) フィードパス株式会社 COO。1996年、デル、ゲートウェイの代理店としてマレーシアにて日系企業および在住邦人向けのPC通販ベンチャーを創業。1999年9月にアジアと日本をまたがるSNSを開始。その後日立製作所にてコラボレーションウェア「BOXER」を立ち上げたのち、ネットビジネス・プロデューサーとしてサイボウズにジョイン。ブロガーとして「Web2.0 BOOK」「ビジネスブログ」シリーズなどの著作がある。 |
2006/12/26 00:01
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