今回のゲストは、トヨタ自動車株式会社 宣伝部の川本氏です。トヨタは最近、bBという若者向けの車を「トヨタのミュージックプレイヤー」として発表し話題を呼びましたが、このbBのプロモーションは従来とは異なり、Webを軸としたキャンペーンを展開したとのことです。トヨタという日本を代表するモノ作りの会社がWeb 2.0という新しいトレンドをどのように活用しているのか、A&P(アドバタイジング&プロモーション)の分野での事例を伺いました。
■ WebはAISASにまたがるメディア
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トヨタ自動車株式会社 宣伝部 企画室 メディアグループの川本慶人氏
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―まずは自己紹介をお願いできますか?
川本氏
2002年にトヨタに入社して以来、宣伝部におります。最初は広告制作を担当しておりましたが、2004年1月にメディアに関わる業務に異動し、現在では新聞、雑誌、Web、屋外広告のメディアプランニングを担当しております。
―テレビは担当外なのでしょうか?
川本氏
はい、テレビ、ラジオは別の担当がおります。
―トヨタにとってWebとはどのようなメディアなのでしょか?
川本氏
今、世の中の購買行動が、AIDMAからAISASへ、つまりAttention(注意喚起)、Interest(関心)、Desire(欲求)、Memory(商品を記憶)、Action(購買)から、Webが追加されることで、Attention(注意喚起)、Interest(関心)、Search(商品を検索)、Action(購買)、Share(クチコミとして共有)、という流れに変わってきていると言われております。
Webは、このAISASの全フェーズでその力を発揮できるメディアであると考えますが、これは、視聴者が能動的に接触できる要素が多いというWebの基本特性によるものではないでしょうか。
―同感です。
川本氏
そもそも自動車メーカーが広告キャンペーンを展開するタイミングとして、新型車発表の際が多いのですが、これまでは、テレビCMなど、認知に直接影響を与える媒体を中心に広告展開をしていくことが常とう手段でありました。bBの場合は、どうしたら多くの方にWebサイトにきていただけるか、ということを軸にキャンペーン構築をしたこと、またそのサイトの中心にサウンドブログを据えたことが新しい試みと考えております。
―普段と異なる広告のパターンを採択するときに、社内で反対意見はありませんでしたか?
川本氏
あまりなかったと思います。bBの場合は、20代の若手社員でプロジェクトチームを組み、若年層の方々にどうやってbBの魅力を伝えていくか、ということを必死に考えました。そのチームの中での私の役目は、メディアプランニングのサポートでした。当キャンペーンについて社内で説明する際に、上司の中で「俺たちに理解できない部分があってもいいじゃないか」という風潮があったように思います。
―具体的にbBのキャンペーン手法を説明いただけますか?
川本氏
20代の情報収集パターンを徹底的に調査した結果、広告メッセージよりも、友人、知人の意見や、クチコミなどを重視するといった傾向があることがわかりましたので、いかにクチコミを喚起できるか、ということを中心に考えました。
キーワードは、「日本初というインパクト」と「情報飢餓感」の2つです。
1つ目のインパクトという観点では、例えば、若年層の生活に欠かせない音楽をテーマとして、街頭やクラブでのプロモーションを実施したり、キャンペーン楽曲でマッシュアップという手法を活用したり工夫しました。マッシュアップは、最初は布袋寅泰さんとリップスライムさんの楽曲、続いて米米CLUBさんとHOMEMADE家族さんのそれを次々にテレビCMに乗せて放映し、これ何?と関心を持っていただくことを考えたわけです。
2つ目の情報飢餓感では、ティザー期のテレビCMの流し方を特殊なものとしました。5秒CMです。通常のCMは15秒、30秒といったものですが、今回は5秒の超短CMを、若年層の視聴帯に合致する深夜に流し、内容は「トヨタのミュージックプレイヤー発売」という文字とURLのみです。結果、「トヨタがiPodのような音楽プレイヤーを出すのか」といった憶測が流れたことや、話題を呼ぶきっかけになったという感触を持っております。
また、広告を見て関心を持っていただいた方が、何回もWebサイトに訪れていただけるよう、サウンドブログをサイトの中心に据えた、ということです。
―Webに人を集め、ブログなどでリピーターを作る、という手法ですね。
川本氏
bBの場合、テレビ、新聞、雑誌など、皆さんに見ていただける媒体での広告展開にとどまらず、先ほどもお話したように、局地的な屋外広告やクラブイベントを多く実施しました。これらの情報を随時アップでき、皆さんに見ていただけるサウンドブログは、今回のキャンペーンの核といえますね。
■ Webを核としたプロモーションに全面移行することは、今のところ考えていない
―ブログを活用したのはbBが初めてのケースですか?
川本氏
いえ、初めて使ったのは2005年10月で、ラクティスという新車の発表時です。開発責任者であるチーフエンジニアがブログを書いて公開しておりました。
―今後もこのようなキャンペーン手法を続けていくおつもりでしょうか?
川本氏
若年層に向けた広告では、同じような手法を使っていく可能性はあります。Webを広告キャンペーンの中でどう使っていくのかは、キャンペーンの方向性次第ですので、それさえ合えば、若年層向け以外の広告キャンペーンでも使っていくこともあると思います。皆さまのメディアとの接触状況や、今後のメディア環境をウォッチし、その時々に合ったWebの活用方法を考えていきたいですね。
―検索連動型広告などは活用されていますか?
川本氏
車の広告でも実施しておりますが、主に活用しているのは、関連事業の広告です。関連事業、特に車買取りのT-UPやレンタカーなどは、お客様が検索される際の目的や用途がある程度絞ることができますので、検索連動型広告に、比較的向いているのではないかと考えます。
■ Web 2.0とトヨタ
―Web 2.0の動きをどのように意識されているのでしょうか?
川本氏
広告の観点では、2つのことを意識しております。どちらも広告の費用対効果に関することです。
1つは、細分化というとらえ方です。マーケティング上の広告ターゲットに画一的なメッセージを発信するのではなく、Webの最新技術を活用することで、複数あるターゲット層それぞれに合致すると考えられるメッセージを、層ごとにきめ細かく発信していきたい、ということです。
2つ目は、情報波及効果です。これまでは基本的に、広告費に相当する露出量の確保、という考え方がありましたが、広告を視聴された方同士の情報交換などが期待できるブログやSNSなどのツールを活用し、投資を上回る情報波及をうまく図っていければと思っております。
効率と効果、という基本的な2つの観点から、Web 2.0の技術やツールを順次広告に活用し始めておりますし、また、今後のWeb 2.0の動向に期待を寄せております。車とWebは親和性が高いと思っておりますので。
―それはなぜですか?
川本氏
車はその商品特性から、商品を知っていただいてから、購入いただくまで、それなりの検討期間があると思っております。その過程の中に、Webでの情報接触、収集の機会が多くあるのではないかと。ですから、Webで提供する情報をきめ細かくしていくことや、より多くの情報がWeb上にあることは重要だと考えます。
また、Webの利用が活発になり、大きなメディアとして浸透していく中で、テレビやラジオ、新聞、雑誌といった昔からあるメディアとどう組み合わせていくのか、さらにそれぞれのメディアの特性を活かしながら、どう相乗効果を出していくか。これらは大きな課題と考えております。
そういう中でのトライアルとして、bBのキャンペーンがあったと考えております。
―確かにそのとおりですね。今後もぜひ、新しいプロモーション手法と、それに伴うWebの活用を示していただければと思います。今日はありがとうございました。
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小川 浩(おがわ ひろし) 株式会社サンブリッジ i-クリエイティブディレクター。
東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。
2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、現在サンブリッジにて起業準備中。
著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。 |
2007/01/23 00:00
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