富士市役所の事例で学ぶ、“使える”シンクライアント環境の作り方

XenAppとProvisioning Serverの組み合わせで管理工数を大幅削減

サーバーが設置されている富士市消防防災庁舎

 富士市役所では、1400以上のPCを、システム開発担当者4名で管理している。利用ユーザーのスキルはさまざまで、教育やサポートの負担も大きくなるのが一般的だ。しかし、富士市役所 総務部 情報政策課 システム開発担当 主幹の深澤安伸氏は、「ほとんどトラブルもなく、ひまなくらいだ(笑)」と話す。

 というのも、これらはシトリックス・システムズ・ジャパン株式会社の「XenApp」を使ったシンクライアント環境で運用しているからだ。市役所職員のデスクトップにはシンクライアント端末だけが置かれ、デスクトップ環境をXenAppで集中管理することで、管理負担を大幅に軽減しているのだ。

 シンクライアントと聞くと、限られた用途で使えるものと思われがちだが、富士市役所での利用例をみると、その印象は大きく変わる。今回は、富士市役所で導入されているシンクライアントシステムを紹介する。


Provisioning Serverを組み合わせることで管理工数を大幅削減

富士市役所 総務部 情報政策課 システム開発担当 主幹の深澤安伸氏
富士市が導入したシステムの概要。2001年よりMetaFrame(現、XenApp)を導入しており、2008年にProvisioning Serverと組み合わせた新システムに全面刷新している

 富士市役所は、2001年10月にMetaFrame(現、XenApp)を導入。深澤氏は、「当時、富士市役所内でPCは各部署に一台程度しか用意されていなかった。そこで、一人一台のPCを配るのであれば、新しいことをやってみようとXenAppを採用した」と説明する。

 その後、規模が拡大するにつれて、順次環境も増加していった。「XenAppは便利だが、ユーザーにデスクトップ環境を公開すると、自由に操作できるため、時間がたてばたつほどシステムが不安定になりがちだった。また、XenAppが稼働するサーバーもその都度導入した結果、管理負担も増えていった。そのほか、Windows 2000 Serverを利用していたが、長時間稼働すればするほど、だんだんとゴミもふえ、なんとなく不安定になっていった。それも各サーバーごとに利用状況が異なるので、不安定なものとそうでないものといった差も出てきた」と、運用の結果、さまざまな課題が出ていたと指摘する。

 そこで、XenAppの利便性はそのままに、管理性能を向上させる方法として、ネットワークストレージからOSをサーバーに配信する「Citrix Provisioning Server」を併用するシステムにリプレースすることを決めたという。「従来は、物理サーバーに直接OSをインストールして運用していたため、時間がたてばたつほど不安定になっていった。そこで、Provisioning Serverで、毎日クリーンなOSイメージを配信して起動すれば、そういった問題は起きないのではと考え、XenAppを実行するWindows Server 2003 R2環境をProvisioning Serverで配信するシステムを構築した」(深澤氏)と、説明する。

 あわせて、XenAppで配信する環境も、デスクトップ用とアプリケーション用の2つに分離した。「職員が必ず使うようなアプリケーションは、デスクトップ環境にあらかじめインストールして配信し、特定の部署のみが使うようなアプリケーションのみ別レイヤーで配信することにした。こうすることで、自分のデスクトップにアクセスし、必要に応じて専用アプリケーションを利用するという環境を実現した」(深澤氏)と説明する。

 この結果、Provisioning Serverで配信するイメージは、デスクトップ用とアプリケーション用の2つだけと、非常にシンプルな構成を実現。深澤氏は、「この2つのイメージを保守するだけですむので、管理工数は大幅に削減できた。また、XenAppを稼働するサーバーは毎日一回リブートしているので、その都度、クリーンな環境を構築できている」と、従来の方式と比べて大幅に管理が容易になったと話す。

 なお、Provisioning Serverで複数台のサーバーをブートするため、サーバールーム内に高速ネットワーク環境を新たに構築。また、システムの二重化など、これまで不十分だった部分への投資もあわせて行ったという。「今回のシステム構築では、5年のリース契約を行ったが、結果的にクライアント1台あたり月9904円というコスト負担になった」(深澤氏)と、1万円以上かかっていた従来の構成よりも安く構築できていることもアピールした。


デスクトップ配信とアプリケーション配信を組み合わせた方式を採用Provisioning ServerでXenAppのブートイメージを各サーバーに配信。これにより常にマスターと同一のXenApp環境を構築できる5年リースで構築したシステムのコストは、1台あたり月1万円を切る程度

富士市役所のサーバールームXenApp環境は2つのラックに集約されているデスクトップ配信用のXenAppは、中央部にあるブレードサーバー(デュアルコアXeon×2、メモリ4GB)73台で運用。アプリケーション配信用のXenAppは、ラック左上にあるブレードサーバー(Pentium-M、メモリ2GB)19台で運用。デスクトップ配信用のXenAppサーバー1台で約25ユーザーのデスクトップを運用している

XenAppを選んだ理由は“使い勝手”の良さ

 富士市役所では以前よりXenAppを使っているが、リプレースの時点でマイクロソフト標準のターミナルサービスを選ぶという選択肢もあったはずだ。これについて、深澤氏は、「Windows Server 2008になり、TS RemoteAppなどアプリケーションの仮想化を標準で行えるようになっているものの、そうした機能はXenAppですでに実現していた。XenAppを選んだのは、Windows標準のターミナルサービスの機能に加えて、ファーム全体を管理する機能が優れていること、セッションの共有やアプリケーションのアクセスコントロールといった機能が用意されていることが大きな違い。また、ターミナルサービスに未対応のアプリケーションであってもXenAppで配信できる“分離環境”といった機能が選ぶポイントになった」と、基本機能に加えて、現場で役に立つ機能が用意されている点が決め手になったと述べた。

 「セッションの共有という機能はユーザーサポートで非常に役立っている。これはXenAppで配信しているデスクトップ環境を複数以上のユーザーで共有できる機能。使い方がわからなくなったユーザーのデスクトップを直接操作できるので、ユーザーにとっても管理者にとっても非常に役に立つ」(深澤氏)と説明。

 また、XenApp自体でマルチメディア性能が向上している点も高く評価している。「市役所内では、宅地情報を管理するために住宅地図のアプリケーションを利用したり、部門によっては3D CADアプリケーションも利用している。シンクライアントのイメージではこうした画像や3Dの再現性に疑問を持たれがちだが、実際にはストレスなく利用できている」(深澤氏)と、シンクライアントで苦手と思われている分野も問題なく使えているとした。


市役所内での利用状況。CADアプリケーションなどもストレスなく利用できるXenApp環境では外部メディアの利用は禁止されている。そのため、フロッピーディスクのやりとりなどは、各部署に1台設置されている通常のPCで行われる

将来はXenServerを併用した環境構築も

 XenAppとProvisioning Serverを組み合わせることで、大幅に管理工数を削減した深澤氏だが、将来のシステムに向け、XenServerにも関心を示している。「現在、デュアルコアXeonを2基搭載したブレードサーバーを利用しているが、これらは仮想サーバーに置き換えられるのではないかと考えている。XenServerを利用すれば、物理サーバーを段階的に導入しても問題は起こりづらく、XenMotionを利用した動的なマイグレーションも可能になる。システム更新時の作業負荷もさらに低減できるのではないか」と、仮想サーバーを併用するメリットを挙げた。

 最後に深澤氏は、「旧システムでは、XenAppを評価しながら段階的にサーバーを導入したため、結果的には管理負荷が大きくなってしまった。その反省を踏まえ、今回は同一サーバーで一度にリプレースを行った。同じようなシステムの構築を検討される方は、段階的にサーバーを増やすのではなく、一度にシステムを導入することをおすすめします」と、経験に基づいたアドバイスで締めくくった。



(福浦 一広)

2009/6/5 00:00