サステナビリティは企業競争力を強化するか?-SAPの取り組みを見る


 サステナビリティに注目が集まっている。サステナビリティ(sustainability)は、持続可能性を意味する言葉で、企業に対して適用する場合、将来の社会や環境などを損なうことなく企業活動を持続できる可能性を現時点で保有していることを表すもの。CO2排出量の削減やCSR(企業の社会的責任)などと密接に重なっており、国内でもサステナビリティへの関心が高まっている。

 ビジネスアプリケーション大手のSAPも、自社で取り組んでいるほか、ソリューションという形で顧客企業のサステナビリティ支援を行っている。今回、独SAP AG バイスプレジデント、サステナビリティ コ・イノベーションのスヴェン・デネケン氏、およびSAPジャパン株式会社バイスプレジデント、インダストリー/ソリューション戦略本部 本部長の脇阪順雄氏に、サステナビリティに関する同社の取り組みなどを伺った。


法規制への順守がサステナビリティのきっかけに

独SAP AG バイスプレジデント、サステナビリティ コ・イノベーションのスヴェン・デネケン氏

―SAPではサステナビリティをどのように定義されていますか?

デネケン氏
 サステナビリティについて私たちは、「経済的・社会的・環境の、リスクと機会を統合的に管理することで、中長期的な収益性を向上可能」なものであると定義しています。企業がさらなる投資を行うには、収益性に結びついていなければなりません。また、サステナビリティには、経済的な価値、社会的な責任、環境保護、の3つが深くかかわっており、これらにはリスクと機会が存在しています。

 私の肩書にあるコ・イノベーションは、お客さまやパートナーからのフィードバックを製品やソリューションに反映するとともに、お客さまの支援サポートなどを行う役目を持っています。その活動の中で、昨年インタビューした企業が、「ビジネス状態は悪くない、お客さまとの関係も悪くない。それなのに株価が急落した」という話を受けました。聞いてみたところ、製品で使われている原材料に問題があったことが原因でした。問題のある原材料を使っていたことをいち早く把握し、すぐに対応できなかった場合、消費者がブログでコメントを書くことで企業にダメージを与えてしまうのです。

 企業にとって、サステナビリティを重視するということは、リソースの管理をうまく行い、自社ブランドを守り、法規制を順守するということでもあります。これらを実行すれば、おのずとビジネス機会が得られるということです。リスクには機会も存在するということです。


―とはいえ、昨年後半から悪化している経済環境下では、企業としては利益を重視しがちなのではないですか?

デネケン氏
 確かに、どの企業も投資に対して早急なリターンを求める傾向にあります。サスティナビリティに対しても同様です。実際、サステナビリティに投資している企業の多くは、法規制への対応という側面が強いのが現状です。例えばヨーロッパでは、製造時にどの程度CO2を排出したかを製品に明記しなければいけなくなります。これにより、消費者はCO2の排出量なども判断基準として製品を選ぶことになります。これは企業にとって大きなプレッシャーになります。


―法規制がサステナビリティを意識するきっかけになっているのですね。

デネケン氏
 そうした側面はありますが、CO2排出などは企業自身が自発的に取り組んでいる事柄です。重要なのは、サステナビリティは他社との差別化で有効だということです。法規制はもちろん、環境に対する意識の高まりや企業の社会的責任という面を消費者は強く意識しています。こうした消費者に対して、サステナビリティを重視することは大きなアピールポイントになります。


2020年にはSAP自身のCO2排出量を2000年レベルまで削減する

―SAP自体のサスティナビリティへの取り組み状況はどのようになっていますか?

SAPのサステナビリティへの取り組み

デネケン氏
 まず、CO2排出量を2020年に2000年と同等まで削減することを目標としています。2020年の企業レベルは、2000年と比べ倍近く拡大していますから、事実上CO2排出量を半減するという宣言といっていいでしょう。

 また、SAPは全世界に5万人の従業員がおりますが、それぞれが積極的に社会とのかかわりを持っています。そのほか、昨年サステナビリティレポートを発行しました。このレポートでは、われわれの目標や活動を掲載しており、ユーザーの声をWebで集めたり、意見交換したりできるようにしています。非常にオープンなコラボレーションプラットフォームになっています。

 そして非常に重要なのは、われわれの製品そのものです。お客さまがSAPの製品を使って排出するCO2を計算してみますと、SAPが排出しているCO2の1万倍にもなります。この数字はIT部門が排出する量であり、それ以外の部門でもCO2を排出しているわけですから、非常にインパクトがある数字といえます。

 こうした現実もあり、サステナビリティソリューションを開発しています。これを利用することで、ビジネスの複雑性を解消し、CO2排出量を削減するなど、お客さまのビジネス改善につなげていただければと考えています。


―サステナビリティソリューションですが、具体的にはどのようなものがありますか?

SAPのサステナビリティソリューションマップ

デネケン氏
 SAPでは、サステナビリティソリューションマップを用意し、お客さまの取り組みを支援しています。その中で多くの企業が利用しているのが、サステナビリティパフォーマンスプラットフォーム管理の分野です。レポートの作成や測定、リスク管理への適合状況を確認するものです。財務面でも重要ですし、次のレベルに向上するためにも、現状を的確に把握する必要があるからです。

 その次に重視されるのは、環境・安全・衛生の分野です。これらは1995年から提供している製品であり、新しいものではありませんが、サプライチェーンをどう統合するかという観点で非常に重要視されています。

 また、エネルギーと二酸化炭素にも関心が高まっています。すべての企業が関心を示している分野といっていいですね。


―すでにSAP製品を利用していないとサステナビリティ対応はできないものでしょうか?

デネケン氏
 そんなことはありません。SAPではBusinessObjectsなど解析ソリューションを提供しており、オンデマンドでの利用も可能です。また、サステナビリティパフォーマンス管理は、SAPを利用していない企業でも使えます。こうした分野から利用していただければとおもいます。


日本企業もサステナビリティに高い関心

―とはいえ、サステナビリティは追加投資であり、コスト負担が増えることを心配する企業も多いとおもいます。

脇阪氏
 さきほども説明しましたが、単純にコストが増える面だけみていては、正しい判断はできません。例えば、ハイブリッドカーのように環境にいい製品が売れるという傾向もあります。また、原材料になにを用いているのかを厳しくチェックする消費者も増えています。

 サステナビリティは、他社との差別化だけでなく、企業活動を継続する上で必要なものです。特に市場が拡大しない現在、小さな市場を取り合う際の選択肢になりうるものです。


―日本企業の間でもサステナビリティへの関心は高まっていますか?

脇阪氏
 非常に関心は高まっています。実際、RoHSといったヨーロッパの法規制に対応しなければいけない製造業などで需要が高まっています。

 とはいえ、どこから手をつければいいか悩まれている企業がほとんどなのが現状です。ですので、SAPジャパンでも新たにチームを編成し、メッセージを発信していく予定です。


―ありがとうございました。



(福浦 一広)

2009/6/19 00:00